ドリーム小説
夢だった
ずっと前から私の夢だったの
あなたにお礼が言いたい
私が今生きているのはあなたのおかげ
だからあなたを守るのが私の夢なの
スピカ 第二十三夜
試験2日目。
受験者用に与えられた個室の窓を開けると、土砂降りだった雨はさぁさぁと降る小雨に変
わっていた。
雲も薄く、このぶんだと今日の昼頃には太陽が顔を出しそう。
は窓辺に立って大きく伸びをした。
「もうすっかり緊張はしていないようですね」
不意に背中にかかった声に振り返ると、そこにはマクゴナガル先生が立っていた。
「おはようございます。おば様」
「えぇ、おはよう。よく眠れましたか?」
そう聞くマクゴナガル先生の方がむしろ眠そうだが、は肯定するように大きく頷
いた。
先生も満足そうに微笑む。
「いよいよ面接ですね。覚悟はよろしいですか?」
戦いに挑むような先生の問いかけに、はさっきよりも強い笑みで返す。
計ったかのように鳴る個室のドア。
がギュッと拳を握り締めた瞬間、審査員が彼女の名を呼んだ。
「よかった。晴れた」
談話室の窓から朝日が差し込む。
リーマスはカーテンを開けた瞬間入ってきた朝日に目を細めて微笑んだ。
その日、ホグワーツ一帯は朝から晴天だった。
とは言っても、前日の土砂降りのせいであたり一面水はけは悪くぬかるんではいたが。
土が緩んでいるところもあり、土砂崩れの危険性を考え生徒の外出はできるだけ控えるよ
うにとの注意が朝食の席でされた。
「ラッキ!クィディッチの練習も休みだね、こりゃ」
土壌の不整備もクィディッチの猛練習を中止にさせるとなると学年首席の口元を緩ませる。
「そんなこと言ってると練習させられるわよ、ジェームズ」
鼻歌混じりのジェームズを咎めるべくリリーは苦笑する。
だが当のジェームズはニコニコ顔。
「なぁに、そうしたら逃げるまでさ」
とてもグリフィンドールのヒーロー的選手とは思えぬ発言である。
ジェームズのおどけた様子に皆が笑っていると、寝惚け眼のシリウスが降りてきた。
「っす。あ〜俺が最後か?あ〜くそ。また朝飯食いっぱぐれた」
「遅いよ、シリウス。授業始まっちゃう」
注意するに、シリウスは盛大なあくびで答える。
「んなこと行ったてよぉ。眠くて眠くて」
そう言ってもう一度あくびをしたところでリーマスと目が合ってしまった。
自然な眼差しを向けるリーマスに対して、シリウスは何だか焦ったように顔を歪めるとふ
いっとそらしてしまった。
「おら、ピーター!!行くぞ!」
「え?えっ!?ちょっ、待ってよ、シリウス〜」
襟首を掴まれてズルズルと引きずられながら連れて行かれるピーターを皆は哀れみの目で
見送った。
「なぁに、シリウスはまだあのままなの?」
「素直じゃないからねぇ、パッドフットは」
我侭な息子に悩むように溜め息を吐くリリーに、ジェームズはにやりとした笑みで答える。
「やれやれ。シリウスのお守りも大変だね、リーマス」
「慣れるとそうでもないよ」
余裕の笑みで返すリーマスに、ジェームズも“さすが”の一言。
こうしていつも通りの一日が始まった。
重い空気が鎮座する。
一息吸い込むごとに、胸に1kgの錘がずしりと沈み込む。
ここは魔法省。
でも今は泥沼の底にいる気分。
“・君”
審査官に名前を呼ばれるたびに、の身体はまた一つ沼の底へと沈んでいく。
これが本当の試験。
実技とはまた違ったプレッシャーが押しかかる。
この重さに耐えられなければ、資格などもらえない。
“・君。君に2、3の質問をするよ”
「はい」
返事をするのが精一杯。
きちんと答えられるかわからない。
“まず君の身辺についてだ。お父上、・氏はボーバトンの講師だそう
だね”
「はい。占星術を教えています」
声が震えていないか、それが心配でしょうがない。
“ふむ。ミネルバ・マクゴナガル氏が伯母君ね。なるほど、君がこの試験を受けるのも納
得だね”
もしにいつも通りなら、ここで反論しているはずだった。
自分がこの試験を受けることと伯母とは何の関係もない、と。
だが今この場にはそんな余裕を持たせる雰囲気は微塵もなかった。
“・君。では聞こう、この書類の空欄になっている部分を。君のお
母上は何をなさっているのかな?”
どこかで予想していた問いが遂にやってきたなと思った。
緊張している割には頭はなぜかクールだった。
「・・・母は」
審査員が書き込む、カリカリという音だけが聞こえる。
思わず生唾を飲み込んでしまった。
今の音まで書き込まれたらどうしようなどと細かいことまで神経がいってしまう。
じっとりと汗ばむ掌が不快で、でも緊張していることを悟られたくなくてはじっ
と前を見据えていた。
無機質な審査官の目とはち合う。
冷たいその目に、の脳裏を一瞬であの嫌な目たちが横切っていく。
を異質な存在として見るあの無数の生徒の目が。
怖い、と純粋にの脳が悲鳴を上げる。
“君。答えたまえよ”
唇が震えるのが自分でわかった。
思わずぎゅっと目を瞑ってしまった。
答えなければ失格である。
なのにの脳が今この場にいることを拒絶する。
怖い。
怖い。
逃げたい。
目を閉じると闇。
光のないただの闇。
でも、の瞼のそのまた奥に、一筋の光が指した。
それはどんどん闇を扶植し、の心に何かを蘇らせる。
『僕はの味方だから』
暖かいお日様のような笑顔と、揺れる鳶色の髪。
その瞬間、の瞼はゆっくりと押し開かれた。
薄い青の瞳が、眼前にそびえる審査官たちを捕らえる。
“君。質問の答を”
無機質な男の問いかけにも、唇は滑らかに動いた。
「はい。母は現在、聖マンゴ魔法疾患傷害病院に入院しています」
淀みも躊躇いもない口調に、審査官の間にざわめきが、そしてすぐに沈黙が流れる。
“なるほど。では最後の質問だ、君。君は、なぜこの生物を対象に選んだの
かね?”
予想していた質問。
が最後まで恐れ、その回答を導き出せなかった質問。
でも今なら言える。
彼がそばにいてくれるから、何も怖くはなかった。
「はい。それは生まれてすぐに森に置き去りにされていた私を雪豹が拾い、育ててくれた
からです」
何も怖くはなかった。
ホグワーツの穏やかな一日が終わっていく。
夕日が地平線の下へと沈もうとしていた。
生徒たちは夕食をとりに大広間へと向かう。
大半の生徒が出て行ってしまった談話室に、リーマスは外出用のマントを手に持ち佇んで
いた。
空いた手に古ぼけた地図を持ち、それをクルクルとまとめてポケットに押し込む。
一つ大きく肩で息すると、談話室を出るべく足を向けた。
「どこ行くんだよ、夕食の時間だぜ」
不意に背中にかかる少年の声。
振り返るまでもない。
長年連れ立った友人の声を間違えるわけがない。
リーマスは首だけ回し、背後にいる少年を見つめ返した。
「この時間の外出は見つかるとやばいんじゃねぇの」
シリウスのぶっきらぼうな言い方に、だがリーマスは平然と答える。
「シリウスには関係ないだろ?」
抑揚のない答に、シリウスの眉間に皺が寄る。
「あぁ、そうだな。俺には全く関係ねぇな。邪魔して悪かった」
つっけんどんな言い方で、シリウスがひどく機嫌が悪くなってしまったのがわかる。
リーマスはシリウスのことは全てお見通しだった。
思わずフッと笑いが漏れる。
「なに笑ってんだよ?」
機嫌の悪さに拍車をかけてしまったらしく、シリウスの声に少々怒気が混じる。
だがリーマスは飄々としていた。
まるで勝ち誇ったような笑みを向ける。
「シリウス。そろそろ素直になってもいいんじゃないかい?」
全てを見透かすような笑みに、シリウスの顔が微かに赤く染まる。
それ以上シリウスが言い返してくることもなく、リーマスは無言で談話室を後にした。
ホグワーツを後にしたリーマスは、隠し持っていた忍びの地図を広げ、人に会わないよう
にしてただひたすら丘を目指した。
悪戯4人組で見つけた、ホグワーツで一番高い丘。
ホグワーツで一番空に近い場所。
学校から少し離れたその場所に着いたときにはもう日は落ちて辺りは真っ暗になっていた。
辿り着いた丘は、前日の豪雨で足場が悪く、石の性質のせいか、ところどころ脆くなって
いる。
忍びの地図の呪文を解除し、代わりに杖先に光を集める。
それでもゆっくり歩かなければ足を踏み外しそうだった。
丘の先端まで歩いていき、そしてふと上を向く。
日が落ちたばかりの空は、まだ一等星だけがかろうじて見えるほどだった。
「早く来すぎた。スピカは、真夜中だった」
誰に言うでもなくリーマスは呟く。
だが真夜中近くに外に出ようものなら、勘のいいジェームズに見つかってしまう。
だからリーマスはこの時間を選んだ。
フゥッと吐いた息が白く、天に登って消えていく。
「。・・・何しているのだろう」
無意識に出たその名に、リーマスは自分で自分の口を抑える。
「なんで・・・・彼女の名が出るんだ」
自問自答する。
風のない冬の空の下、リーマスはゆっくりと目を瞑ってみる。
瞼の裏に浮かんだのは、出会ったばかりの頃のだった。
あの頃はまだ赤の他人で、彼女は誰に対しても一枚壁を張っていた。
それが少しずつ笑顔がこぼれるようになって、リーマスは自分と彼女の距離が近くなって
いったことをゆっくりと思い出していた。
こんなにも一人の女の子に執着したことはない。
リーマス自身、認めなくてはならない部分が存在していた。
「早く・・・帰っておいでよ」
ゆっくりと目を開き、もう一度空を見て一歩後ろへ下がった。
そのときだった。
低い低い、地響きのような音がリーマスの耳に届いた。
平らな地面が確かに揺れていた。
地震だろうか、と考え、リーマスはもう一歩後ろへ下がった。
「え」
それがリーマスが自覚する最後の行動となった。
気が付くとリーマスの足元は崩れ、地に足の着かない彼の体がはるか下の闇の中へと吸い
込まれていった。
闇の中に吸い込まれながら、リーマスは徐々に遠くなる天だけを仰ぎ見ていた。
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おいおいおいおい。
どーなるんだ、これ。
何かいろいろ謎が解け始めましたよ。
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