ドリーム小説
スピカ 第二十二夜
運命の日がやってきた。
天が何かを伝えるかのごとく、その日は朝から雨が降っていた。
は半ば緊張した面持ちで制服に腕を通し、マクゴナガル先生を待つべくホグワー
ツの入り口で待っていた。
外出用のマントに身を包み、小旅行のバッグを手に持つを行き交う生徒たちは不
思議な目で見ている。
中にはやはりというか格好のネタだとばかりに嫌味を言う奴もいた。
「あれ、さん。森へ里帰りですか?それとも人じゃないから放校とか?」
楽しそうに下卑た笑みを浮かべる男子生徒を、だがは今までとは違う強い目で見
返していた。
いつもの沈んだような彼女とは違うのが分かり、言った本人の方が少し押されている。
「な、なんだよ、その目は・・・」
「っだよ!獣のくせに生意気だぞ!?」
「お黙りなさいっ!!」
意気込んで叫んだ少年たちの肩が飛び上がるくらいの怒声が突然に廊下に響き渡った。
「何という暴言を!!恥を知りなさい!レイブンクローから10点」
「マクゴナガル先生。私は平気です」
減点を突き出そうとしていたマクゴナガル先生を、はあくまで穏やかに制した。
無理矢理作られたものではない、以前のような笑顔で返され、マクゴナガル先生も口を閉
じる。
「・・・Miss.」
「平気です。参りましょう」
たった半日で何があったのかはわからない。
それでもに少しでも笑顔と冷静さが戻ったことに先生は安堵し、2人はホグワー
ツを後にした。
寸でのところで減点を免れた生徒たちは、グリフィンドール寮監とスリザリンの生徒が2
人でどこへ行くのかわからぬまま、ただ呆然とその場に立っていた。
いつも通りの朝。
何も変わらぬはずなのに、リーマスは何か言葉にできない胸騒ぎを感じていた。
そしてそれは大広間に行くことで確信に変わる。
大広間に入るなりスリザリン席に目を向けるリーマス。
そして席にがいないことに気付く。
たまたま今日だけいないだけだとか、少し遅れてやってくるとかいった予想は、周りの生
徒の嫌な噂で薄らいでいく。
放校になったとか、森に帰ったとか、気がふれたとか嫌な噂ばかりが立つ。
「・・・・」
昨日会って言いたかったことを伝え、彼女の笑顔を見ることもできたが、やはりそんな噂
ばかりでは気になる。
何かが胸につっかえているような感じがして朝食など喉を通らない。
手にしたフォークをカチャリとテーブルに戻したときだった。
朝の梟便が大広間の天井を埋め尽くし始めた。
様々な色彩の梟たちが主人の下へと手紙やらを届けている、見慣れたいつもの光景。
だがそのとき、その中の一羽、真っ白な梟がリーマスのもとへ飛んできたのだ。
リーマスの梟ではないそれは、彼の目の前の空いた皿に手紙を落とすと優雅に羽を広げて
空へと戻っていった。
(・・・誰からだろう)
表には何も書かれていない。
そっと裏返してみて、リーマスの目が右下の文字に釘付けになった。
“Happy days!!”
とても見覚えのある筆跡で書かれた、記憶に新しい台詞。
いつか自分がどこかで使った言葉。
それだけで差出人が誰なのかわかってしまった。
リーマスはばつが悪そうな顔をする。
「・・・なんだ。ばれてたのか」
図書室で彼女にかけた魔法。
自分がやったと彼女にばらした記憶はない。
彼女の不敵な笑みが頭に浮かんで、リーマスは思わず苦笑した。
『リーマス。あなたにだけは知らせたくて、あなたを信用して手紙を書きます。今私は用
事で魔法省にいます。2日経ったら学校に戻るわ。もう私の場所はないかもしれないけれ
ど。それでも、リーマス。あなたがくれた言葉にとても勇気が湧きました。あなたに本
当に感謝しているの。
ねぇ、リーマス。乙女座のスピカという星を知っているかしら。明日の深夜はスピカが
一番輝くの。私が一番好きな星よ。もし覚えていてくれたらあなただけでも窓から見て
下さい。
P.S.帰ってきたら、あなたに伝えたいことがあるの。ホグズミードで言えなかったこと。
だから、どうか私の帰りを待っていて欲しい。
・』
朝から降っていた雨は次第に雨脚を強め、昼過ぎに魔法省に着いたときには土砂降りにな
っていた。
試験会場への長く厳かな廊下を歩きながら、は星が見えないことに少しばかり落
胆していた。
「どうかしましたか?」
何だか元気のないを見て、マクゴナガル先生が声をかける。
「いえ。雨のせいで少し憂鬱に」
あからさまにがっかりしたようにおどけた表情をすると、がリラックスしている
ことを悟った先生が安堵の笑みで返してきた。
「そうですね。ですが、私たちが帰る日には止むそうです。晴れ晴れとした気持ちで帰り
ましょう」
いつもは励ましてくれた先生の強い眼差しに後押しされ、は無言の笑顔
で会場の扉をくぐった。
図書室の馴染みの席から見えるのは、全てを流してしまいそうな勢いで降る雨。
土砂崩れがおきるのではと危惧しながら、リーマスは本のページをパラリとめくった。
魔法のために本の中でちかちかと光る一等星スピカ。
「“乙女座のα星スピカは、豊穣の女神デメテルであるとされている。その清純で澄んだ青
白色が、まさに女神にふさわしい。また、まわりに目立つ星がないため、無防備な乙女を
も連想させたのかもしれない”、か」
本の言葉を抜粋し詠唱してみると、それがとても彼女に似つかわしいものであることに気
付いた。
「青白色の女神・・か」
「天文学の予習?」
ぼぉっとしていたところに声をかけられ、リーマスは思わずびくりと肩を震わせた。
そんな彼を見てケラケラと笑うのは、見知った友人であった。
「。びっくりさせないでくれよ」
「あら。リーマスが勝手に驚いたんじゃない。なに?また勉強?」
そう言ってページを覗き込む。
「スピカかぁ。綺麗な星よね。まだ季節じゃないけど」
「、星詳しいのかい?」
感心したようなリーマスに、は少し鼻高々になる。
「まぁねぇ。これでも一応女の子だし。星占いとかはまったときがあってさ」
なるほどと納得し、リーマスはチラリとの背後の席に視線だけ向けた。
何やらダークなオーラが自分に向かって発せられている。
「乙女座はそもそも春の星座だしね。今の時期スピカが見れるのは、ほんとに真夜中だけ
じゃない?」
「真夜中、ね」
いい情報が手に入ったとリーマスは内心笑みを浮かべる。
もっと話を聞きたかったが、こうしている間もの背後のオーラは黒く強いものになっ
ていた。
思わずリーマスは噴出してしまう。
「リーマス?」
「。早くセブルスのところに戻ってあげなよ。また僕が睨み殺される」
もう限界とリーマスはお腹を抱えて笑いをかみ殺した。
スッと後ろを振り返ってセブルスがすごい目で自分たちを見ていることに気付き、は
“あちゃ”と舌を出す。
「あは。愛されてるね、」
「リ、リーマス!」
リーマスの言葉に頬を赤くし、はセブルスの方へと足を向けた。
あぁ楽しいと、目の縁についた涙を拭い去るリーマス。
開かれた星の本を閉じたところでの声がかかった。
「ねぇリーマス。知ってる?」
は占い好きの夢を語るような少女の口調で語る。
「スピカを象徴する女神デメテルはね、自分の娘を本当に愛していたの。娘がいなくなっ
てしまったときも、女神の仕事を忘れて大地が枯れてしまうのにも気付かないで娘を探し
続けるの。真の母親星だと思わない?」
そう言っては軽い足取りで恋人の下へと戻っていった。
の短い星座講座を聞いたリーマスは、頭の奥に引っかかっていた一つの単語が引き出
されるのを感じていた。
涙に濡れる瞳で、少女はどこか遠くを見るように、だが確かにそれを口走った。
“Mamma”
思い出すは懐かしい記憶。
確かに彼女は言っていた。
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