ドリーム小説
スピカ 第二十夜
一週間の始まりの日は、今までで一番最悪だった。
授業が始まり、部屋に閉じこもるわけにもいかず、否が応でも外に出るしかない。
一分一秒過ぎるたびにの神経は磨り減っていった。
授業の席ではの周りだけが空席で、ペアでやる授業も全て一人でやるか教師と組
んでやることになった。
教師の目を盗むようにして囁かれるへの心無い嘲りの言葉。
その日の授業で一番ひどかったのは魔法生物飼育学だった。
見慣れない生物の世話の仕方が講義され、実際にその生物を使って実習をするというもの。
教師の目がから離れた隙を狙って、男子生徒たちが小さな笑い声を漏らし出す。
「せんせぇ〜。俺、この生物の飼育がしてみたいでぇす」
小さな声で教師には聞こえないように気味の悪い猫撫で声で囁きながらを指差す。
その行動にの胸は痛み、また別の生徒がそれに言葉を重ねる。
「ん〜とてもいいことですが、あれは野生育ちなので取り扱いには十分注意してください
ねぇ」
わざと教師の真似をするように言い、おもしろそうに笑う。
それを聞いていた女生徒たちもクスクスと含み笑いを漏らす。
そんな彼らからの中傷をは一日中、ただただ受け流し無視していた。
そんな彼女の毅然とした行動が気に入らないのか、いちいち突っかかってくる生徒もいた。
廊下ですれ違いざまに吐き捨てるように言って逃げていく者もいた。
「スリザリンのくせにリーマス君に媚売ったりするからこうなるのよ」
その日言われた中で一番嫌な言葉だった。
言ったのは恐らくリーマスに好意を寄せる生徒だろう。
タイの色からしてレイブンクロー。
「動物のくせに。生意気」
何のためらいも無く、機械的に吐かれた言葉がの心を侵食する。
なんと稚拙で残酷な言葉。
その日の夕食の席には行く気になれなかった。
どうせほんの些細なミスで、また人間扱いされないに決まっている。
そう考えるだけで満足に食事も喉を通らない。
はホグワーツの屋上に備え付けられた梟小屋に佇んでいた。
天井の高いそこには、何百羽という梟たちが羽を休めている。
の姿を確認して、一羽の白梟が舞い降りてきた。
バサリと大きく羽ばたいての肩にとまる。
「・・・ねぇ、」
小さな声で名前を呼ぶと、白梟が首をかしげた。
幼いときからずっと一緒にいた白梟は、の言葉どころか心さえも如実に読み取る。
兄弟と言っても過言ではない。
いつもそばにいてくれた存在だから、は臆せず弱音を吐くことができた。
「私・・・・・・私、人間だよね?」
言うと同時に、ぽたりと大粒の涙が落ちる。
声を出さず、ただ涙を流すを見て、白梟はホォと一鳴きすると慰めるように主人
の体に擦り寄った。
その羽の暖かさだけが、の傷をほんの少しだけ癒してくれる。
暖炉の火が煌々と燃える部屋に女性教諭が一人。
たくさんの書棚が並ぶ部屋に女性教諭が一人。
だが話す声は二人分。
マクゴナガル先生は煌々と燃える暖炉の火に向かって話しかけていた。
「そうですか。まさか・・・そんなことになっているとは」
「えぇ。厳戒な監視がされた夜に、いったい誰がどうやって」
マクゴナガル先生は、暖炉の火の中に浮かぶ一つの顔と話していた。
それは短い銀髪の髪を携えた中年の男性。
暖炉の火に当てられても、男の目は青く澄んでいた。
流暢な英語の端々に現れるフランス訛りが、男がフランス語を操ることを表している。
「それで・・・の様子は」
「今はまだ不確定な噂で済んでいますが、それでも彼女の精神面は弱っています。動揺も
激しいです」
「実技の試験は確か」
「・・・明後日です」
二人の間に重い空気が流れる。
炎の中で揺れる男の顔がつらそうに歪む。
「。には私がついていきますから心配しないで」
まるで実の娘を心配するかのように、マクゴナガル先生は強い笑みを浮かべる。
その顔に男もいくらか安心そうに頷く。
だがそれもすぐに元の沈痛な表情に戻ってしまう。
再び重い空気が流れる。
「義姉さん」
パチパチと薪がはぜる音に混じって、男は言葉を発した。
マクゴナガル先生が顔を上げると、彫りの深い、だが情に満ちた男の顔と目が合った。
真剣な表情で男はゆっくりと口を開く。
「は・・・笑っていますか?」
パキッと軽い音を立てて小枝が破裂した。
マクゴナガル先生は苦しげに呟く義弟にどう答えていいかわからない。
言うに言えず、口を開けたはいいが言葉を発せない先生に男は悲しそうに話す。
「あれは母というものをよく知らずに育った子です。私も仕事で、いつも義姉さんのとこ
ろや乳母に任せっきりで。今となっては、不憫な思いをさせてしまったと」
バキッと音がして一番大きな薪が二つに折れた。
それと同時に、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
「誰か来たようです。、また連絡します」
ばさりとローブを翻し、マクゴナガル先生は扉へと歩みを進めた。
はゆっくりと目を閉じ、術を解いて交信を絶とうとした。
「」
不意に声をかけられ、は細く目を開ける。
力強く微笑むミネルバがそこにいた。
「あなたの娘はちゃんと笑えていますよ」
彼女のその言葉には満足げに薄く微笑む。
その薄い氷のような笑みは、マクゴナガル先生がよく知る少女にそっくりだった。
炎がゆらりと大きく揺れ、男の顔がスッと暖炉から消えた。
開いた戸から最初に見えたのは、疲労の濃い少女の顔だった。
「こんばんわ、ミネルバおば様」
下から見上げてくる青の瞳は微かに赤く、泣いていたことを顕著に表していた。
その痛々しい姿を包み込むように先生は微笑むと、を部屋へと導きいれた。
明後日に迎える運命の日を前に、の最終調整が始まった。
夕食後の図書室。
仲間たちと夕食を済ませ、リーマスはいつもの時間にそこを訪れた。
に会えるかもしれないという期待もあったが、それとは別にシリウスと険悪なム
ードになってしまったため談話室に居づらいという理由もあった。
リーマスは図書室に着くと、いつもの場所に目を向けた。
そこに彼女はいない。誰もいない。
だが一番奥のテーブルにはいつもないものが置かれていた。
それを視界に入れたリーマスの目が見開かれる。
図書室の中で最も日が当たる場所、彼女が好きな場所、彼女とリーマスが座る場所。
そのテーブルに、花が活けられた花瓶が置いてあった。
誰かがたまたま置いた物ではない。
明らかに故意で置かれたものだ。
リーマスは胸の奥がむかつくような感覚に襲われる。
その陰湿で惨い行為に、リーマスは怒り暴走する気持ちを必死で抑えた。
辺りに座る生徒は、その花瓶を見るたびに小さく嘲笑の声を漏らす。
“ちょっとやだ。何あれぇ”
“あそこって、いつも彼女が座る場所でしょ?”
“縁起悪ぅ”
ひそひそと話し声が聞こえる。
だがリーマスはそんな声には何の反応も見せず、何の迷いも無く花瓶が置かれた席へと進
んだ。
少しずつ近づくたびに、活けられた花のきつい香りが鼻つく。
周りに誰もいないその席に着いたとき、微かに図書室がざわついた。
だがそんなことにも全く気にせず、リーマスはその花瓶を持ち上げた。
本当なら窓から落として捨ててやりたいのを必死に押さえ、窓際の棚へと戻した。
そして何食わぬ顔で席に着き、持っていた本を開いた。
相変わらずざわつく室内。
そんなざわめきの中、数人の少女がリーマスに声をかけてきた。
「リ、リーマス君」
見るとレイブンクローの少女がリーマスの目の前に立っていた。
合同授業で何度か見た生徒だ。
「僕に何か?」
あくまで冷静に、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて答える。
それだけで少女たちの頬は赤くなった。
もじもじと何か言いたげにしていたが、リーマスは不意にある芳香に気づいた。
少女たちの制服から香る微かな香り。
「あ、あの。ここ、座ってもいいかしら?」
窓際に置いた花瓶の花と同じ香り。
しばしの時間を要して呟くと、少女たちはリーマスからの笑顔つきの返答を待った。
優しいリーマスは笑顔で席を勧めると思ったのだろう。
だが返ってきたのはさっきとは種類の違ったリーマスの笑顔だった。
「だめ」
口調は軽いが、明らかに怒気を含んだ声。
リーマスの周りの空気が微かに重くなった。
「ここに座っていい女の子はもう決まっているんだ。それは君たちじゃない」
笑っているのになぜか恐ろしい。
空気が重くて息苦しい。
まるで、まるで恐ろしい獣と対峙しているかのように。
少女たちは自分の体が震えるのがわかった。
「それから、今度花瓶持ってこの席に近づいたら僕が許さないから。覚えといて」
それだけはき捨てるように言うと、リーマスはもう少女たちに関心がないといわんばかり
に目を背けた。
リーマスが発した予想外の言葉に、少女たちは顔を真っ赤にさせて図書室を走り去った。
浅はかな策略がばれ、羞恥からか涙目の少女もいた。
だが今のリーマスにそんな女の武器は全く効かない。
幾ばくかの復讐を遂げ、リーマスの怒りは少しだけ軽くなっていた。
不意に顔を上げると、さっきからこっちをちらちらと見ていた生徒たちが一斉に目をそら
した。
そのあわってっぷりにリーマスは口元だけで薄く笑う。
今、この場の勝者は明らかにリーマスだった。
いつでも戻っておいで。
君がいつでも安心してここにいられるよう。
ここは僕が守るよ。
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リーマスこえー!!
真っ黒リーマスこえー!!
情なし。あぁ無情。
レ・ミゼラブル。
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