ドリーム小説
白い獣
白銀の、月の光に輝く獣
彼女は今でも
元気でしょうか
スピカ 第十九夜
教師陣が騒ぎに気付いて、学校中に何百枚と貼られた貼り紙が取り除かれたのは、それか
らわずか数分後だった。
・を中傷した貼り紙に一番腹を立てたのはマクゴナガル先生だった。
貼り紙を見たときの先生は、今までで一番怖かった。
「一体誰ですか!!このような嘘の貼り紙を学校中に貼り付けたのは!?悪戯にも程があ
ります!!」
激昂するマクゴナガル先生が杖を一振りすると壁中に貼られた貼り紙が一瞬で燃え去った。
生徒のざわめきが一層大きくなる。
「いつまでここにいるのです!!早く大広間に行って食事を!!」
いつもの冷静なマクゴナガル先生とは思えない大声に、生徒たちはまだ不審な視線を一人
の少女に向けながらも渋々大広間へと向かう。
マクゴナガル先生は、一人呆然と佇む少女へと駆け寄った。
「Miss.」
心配そうな先生の言葉にも何の反応も見せず、焦点の合わない目を宙に漂わせる。
「Miss.、しっかりなさい」
先生がの肩を掴んで揺することで、ようやくの意識が戻った。
「あ・・・・ミ・・ルバ・おば様・・」
ショックのためか、上手く発音できていない。
「おば・様・・・・。雪豹・・・ママが・・」
その少女の姿に先生は眉間に皺を寄せると、の顔を両手で包み込んだ。
「しっかり・・・しっかりなさい!あなたは誰です!?・でしょう!」
しっかりと視線を合わせると、はハッと正気に戻り、今にも泣きそうな顔をした。
「あ・・・ミネ・・マクゴナガル先生・・」
マクゴナガルに対する呼称の言いかえに気付いた。
そのことにマクゴナガル先生は幾らかホッとし、から手を解放する。
「・・・すみません。貼り紙を見て・・・頭が真っ白になってしまって」
「大丈夫です。貼り紙は全て燃やしました」
まだ不安そうなに、先生はできるだけ強い笑顔を向ける。
「でも・・・もう噂が広まってしまっているかも」
「気にしてはいけません。そのような噂、幾日か立てば、誰かの悪戯として忘れ去られる
でしょう」
安心させるように説くと、も薄い笑みを漏らした。
「さぁ。あなたも大広間へ。朝食をとらねば」
「・・・・・」
正直行きたくないと思った。
だが駄々をこねても仕方がないので、は小さく頷くと重い足取りで大広間へと入
っていった。
それから、その日一日中、は学校中の生徒たちの視線を浴び続けた。
それはどんな汚い罵倒を浴びせられるよりもの心に傷を残した。
じろじろと忌みの目で見られるくらいなら、昨夜の夕食のときのようにネチネチと言われ
た方がまだましだ。
思えば、昨夜のあのレイブンクローの少年はすでにの中傷貼り紙のことを知って
いたのだろう。
一体誰が、いつの間に。
は一日中重い足を引きずって歩いた。
折角の日曜だというのに、全く気が休まらない。
校内で一番落ち着ける図書館も、今は行っても稀有の目に当てられるだけだ。
その日一日中は自室に閉じこもっていた。
を避けるように部屋には誰もいなかった。
静かな部屋で思い浮かべることは唯一つ。
鳶色髪の少年のこと。
きっとリーマスもこの噂を知っている。
彼はどう思っているのだろう。
噂を信じているのだろうか。
自分のことを他の生徒と同じ目で見るのだろうか。
それだけが気になった。
明日からまた普通に授業が始まる。
合同授業だってある。
ホグズミードでのこともあるし、もし無視されたり拒否されたりしたら。
そう思うと胸に釘を打たれるような痛みを覚えるのだ。
今は一人で耐えるしかなかった。
蜂の巣を突付いたように騒々しい一日が終わり、リーマスやグリフィンドールのメンバー
は談話室で今日の一番の話題について話をしていた。
もちろんそれは朝から噂されている彼女のこと。
「ゆ、ゆ・・雪・豹。あ、やっぱり。幻の生物だ」
教科書の目次を目で追っていたピーターが雪豹の項目をぶつぶつと読み上げる。
「ピーター。それ去年習ったぞ」
「へ・・・」
優雅にソファーに足を組んで座るジェームズにビシッと指摘され、ピーターはキョロキョ
ロと視線を泳がせながら教科書で顔を隠してしまった。
何をしなくても学年首位のジェームズには誰も頭が上がらない。
教科書で顔を隠すピーターに紅茶のカップを渡し、リリーはジェームズの横に腰掛ける。
どことなく悲しげな顔を浮かべていた。
「それにしても・・・ひどい噂ね。さんが可哀想だわ」
「ホントだよ!あんなこと、一体誰がっ!?」
は顔を真っ赤にさせ、まるで自分のことのように憤慨する。
彼女のそんなところが、一般生徒に人気の理由の一つである。
「女の子に対してすることじゃないよ!ね、リーマスもそう思うでしょ!?」
勢いつけて質問を投げかけるも、当のリーマスは虚ろな目で宙を眺めていた。
「リーマス!」
「え・・ぁ・・・そうだね」
どこかを見ながらぼぉっとしていたリーマスは咄嗟に生返事で返す。
リーマスは今日一日、のことを思い出して感慨に耽っていた。
偶然遠目に見かけたが、を避けるようにする生徒たち。
それはなんと同寮のスリザリンの生徒もがそうであった。
声をかけようにも、の方が他人からの接触を避けるかのように人の多いところを
回避するので、今日はほとんど彼女を見かけることは無かった。
図書館も彼女の方が時間をずらしたのか、入れ違いになってしまった。
どう声をかけたらいいか、具体的には考えていない。
だがリーマスは、こういうときこそと話がしたいと思った。
ホグズミードでのきまずい思い出もあるが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
明日こそちゃんと話しかけようと、そう考えていたときだった。
リーマスの斜向かいにどっかりと犬のように腰掛けていたシリウスが、何かを嘲笑うかの
ような呼気を吐き出した。
「すげぇな、やっぱりスリザリンは。親が獣なんてのもありか」
頭の後ろに手を組み、まるで感心するかのようにそう告げる。
「シリウス!なんてこと言うのよ!!」
シリウスらしくない侮蔑混じりの発言に、正義感に溢れるが抗議する。
「さんに失礼じゃない!」
「いーんだよ、あんなツンッとした女。これでちっとは刺々しさもなくな」
シリウスが何かに勝ち誇ったかのように言葉を吐き出していたが、それを遮るように少年
の声が重なった。
「黙れよ、シリウス」
どすの利いた声に一瞬談話室がシーンと静まり返った。
まさかそんな言葉が、一番言いそうにない少年の口から飛び出すとは思わなかったのだ
ろう。
「シリウス。彼女を侮辱することは僕が許さない」
まるで狼のような鋭く光るリーマスの眼光に、シリウスは少しだけ押されながらも自分も
負けじとギッと睨み返した。
「なんでお前がんなこと言うんだよ、リーマス」
バチッと火花が垣間見えそうな2人の間に誰も介入できない。
「君にならわかるはずだろう」
一触即発かと思われたが、リーマスはスッと立ち上がるとそのまま談話室を出るべく扉へ
と向かった。
「おい、リーマス!!」
その後を追うようにして、シリウスは扉の前まで辿り着いたリーマスの腕を掴んだ。
振り返ったリーマスの目はいまだかつて無いほど怒気を含み、そしてそれと同じくらい悲
しそうだった。
「真偽の分からない彼女の噂をするなら、代わりに僕を嘲笑えばいい。自信を持って言お
うか。僕は」
掴まれていない方の手でシリウスの手を解き、小さく呟く。
それはシリウスにしか聞こえないほどか細い声で。
「人間じゃない」
パタリと乾いた音を立てて、談話室の扉が閉まった。
冬の乾いた空気が、その悲しげな音をいつまでも部屋に響かせた。
疲れた。
心も体も疲れた。
一人談話室のソファーにうずくまり、は暖炉の火を見つめていた。
パチパチと燃える火種が妙に美しく、そして怖い。
「・・・・・疲れたわ」
声に出してみると疲れが余計に体を覆う。
は何かから身を守るように毛布の中に丸めた体を押し込む。
不意に上から声がかかった。
「何をしている?」
変声期を終えた低い少年の声。
聞き覚えのある声に、は半ば安心して上を向いた。
「スネイプ君」
「もう就寝時間だ。何をしている、」
そういう彼は何をしているのだと問い返したかったがあえて聞かず、は薄く笑っ
て見せた。
「獣が同じ部屋で寝ていたらルームメイトが落ち着かないわ。今夜はここで寝るつもりよ」
自傷のような言葉に、セブルスの眉間に皺が刻まれる。
「・・・そう言われたのか?」
セブルスの問に、は小さく首を横に振る。
「皆の心がそう言っているわ。言ったでしょ?観察眼は鋭い方なの」
壊れそうな笑みを浮かべる。
いつかの恋人を見ているようで、セブルスはどこか居たたまれない気持ちになる。
「らしくないな」
階段上に立ったままの彼は、手すりに寄りかかりながらそう言った。
の返事がないのを気にせず、セブルスは言う。
「君はいつだって、堂々と前を向いていたと思ったが」
意外な彼のその言葉にの目は大きく見開かれる。
だがすぐに瞳は細くなり、力の篭らない言葉が紡ぎ出された。
「そう、でもないわ。現にこうして、私は逃げている」
細い体をキュッと丸め、膝を両手で抱え込む。
今日は精一杯虚勢を張ることで何とか乗り切れたが、明日からはどうなるか分からない。
目を閉じて寝れば、否が応でも明日が来てしまう。
そんな小さなことが今はとてつもなく怖かった。
ギシリと階段の木枠が音を立てた。
「あれは本当のことなのか?」
率直過ぎる、あまりにもセブルスらしい問いかけには思わず小さく笑った。
「何が可笑しい?」
笑ったことが気に入らないのか、セブルスはやや不機嫌な声を出す。
「ごめんなさい。だってスネイプ君があまりにも堂々と聞くから」
誰一人聞きたくても言ってこなかったことを。
しばし笑っていただが、不意に微笑みだけを顔に張り付かせ停止した。
「本当、だと言ったら?」
イエスともノーとも取れない返答をされ、セブルスは困惑気な表情をする。
暖炉の炎を受けて、見下ろしたの瞳が赤く光る。
素直に獣のようだと思った。
どう返答しようか考えていたセブルスに、の独り言のような言葉がかかった。
「ねぇ、スネイプ君」
声をかけてきた少女の方に目を向ける。
薄い氷のような笑みを浮かべて、少女はそこにいた。
「ヒトは、愚かだと思わない?」
突然すぎて意味が分からない。
またも困惑するセブルスのことは気にせず、は一人ポツリポツリと言葉を漏らす。
「どうして自分と違ったモノを恐れ、忌み嫌うのかしら」
どこか遠くを見つめる。
「受け入れては、くれないのかしら」
の目には、暖炉の火も、セブルスも映っていないと思った。
返答できずに立ったままのセブルスに、は薄く微笑みかける。
それからしばらくしてセブルスは自室へと戻っていった。
の言葉には一言も返せず、に促されるがままに戻っていった。
また一人、暖炉の火を見つめる。
誰かが“捨てられっ子”と叫ぶ。
それはの脳内に響き渡る。
また別の誰かが“捨てられっ子”と叫ぶ。
色素の薄い青の目を瞼でゆっくりと覆い隠す。
「愚かなのは、私だわ」
の小さな声は、暖炉の薪がはぜる音にかき消される。
「そうでしょう?・・・・・ママ」
閉じた瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
頬を伝って流れた涙が床に落ち、パンッと乾いた音を立てた。
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どぅはー!久々のアップップー。
悲劇的な展開。どうなるやら。
しかし長いな・・・。
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