ドリーム小説
スピカ 第十八夜
リーマスの後について訪れた場所には建物があった。
そこは曇りの日や夜にでも見たら、すぐにでも逃げたくなるようなボロ屋敷だった。
だが今は屋根にかかった雪が太陽に反射して、むしろ美しいくらい。
屋敷の前に着くとは口を開いた。
「リーマス。ここが何か?」
そう言うと、リーマスは雪を踏みしめてゆっくりと振り向いた。
楽しそうに笑っている。
「。後ろ、向いてみて」
リーマスの言葉を不思議に思いながらは言われたとおり後ろを振り返る。
重い雪を踏みしめながら。
そして驚きに目を見開いた。
「・・・・・す・・ごい」
感動で言葉が途切れる。
2人の目の前には雪に覆われた真っ白な街が広がっていた。
ところどころ点々と黒いのはホグワーツの生徒。
カラフルな店の屋根に雪がかぶっており、まるで砂糖かけのお菓子のよう。
その白銀の世界が絶妙な太陽の光の角度で湖の水面のように光り輝いている。
「本当にすごいわ。綺麗。・・・いえ、そうじゃなくて・・・・あぁ、いい言葉が見つからない」
悔しそうに眉をひそめて、だが楽しそうに笑うを見てリーマスも微笑む。
「すごいだろ?去年皆で見つけたんだ」
少しだけ誇らしげに言って、少年は少女に眼を向けた。
の銀色の髪にも光が降り注ぎ、これ以上ないほど輝いていた。
白い肌は雪に溶け込みそうで、感動に輝く蒼の瞳に思わず目が吸い寄せられる。
リーマスの視線を感じ、は横を向く。
彼がこれ以上ないくらい柔らかく笑っていた。
「なら、素直に感動してくれると思った」
その笑顔に、の頬はまた真っ赤になってしまった。
雪を払った柵に身を寄りかからせ、2人はしばらく話をした。
どういう経緯か、話は将来のことになっていた。
聞いたことのないリーマスの夢にの興味が湧く。
「僕さ。教師になりたいんだ」
意外、とも取れなくないその名には軽く相槌を打つ。
だが正直その職業はリーマスに似合っていると思った。
「誰か尊敬している方でも?」
「うん。ダンブルドア校長。彼には本当に感謝している」
どこか遠くを見るように、過去を見るように目を細める。
偉大なる魔法使いは、不可能だと言われていた“学校に通う”というリーマスの夢を叶えてくれた。
彼の身体のことを知って、不憫に思ってくれた。
たとえ同情でも、リーマスはこの上なくダンブルドアに感謝していた。
そしていつからかリーマスは思っていた。
自分も彼と同じ職について、子供たちに分け隔てなく接したいと。
に彼の決意が伝わったのだろう。
ニッコリと微笑む。
「リーマスは、きっと素敵な教師になるわ」
「そうかな?」
「えぇ。私が保証する」
苦笑するリーマス。
だがには確かな根拠があった。
あなたには人の闇を取り払う力がある。
だって私の心を救ってくれたもの。
誰も気づかなかった私の心を、闇から救い出してくれた。
あなたの言葉に、行動にどれだけ救われたか。
きっと一番わかっていないのはあなたなのでしょうけれど。
「ありがとう」
「え?」
突然お礼を言われて、リーマスは不思議な顔をする。
「?」
「本当に・・・・・ありがとう」
そう言うの蒼い瞳は微かに揺らいでいた。
太陽の光に輝く雪のきらめきが彼女の瞳に映し出される。
その瞳がじっとリーマスを見つめている。
遠いと思っていた瞳は割と近くて、気が付くとその中に自分がいることが見て取れるほど彼女はそばに来
ていた。
少し手を伸ばせば容易に彼女の髪に触れられる。
思わず上がりかけた腕をリーマスは慌てて下ろした。
音もなく近づいてくるの顔に、リーマスは思わず目を細める。
2人の白い息が交錯する。
が少しだけ背伸びをしてリーマスの腕にしがみつき、リーマスがゆっくりとの肩に手を
置いた。
ぱさぱさと小さな音がして、屋敷の窓枠から少量の雪が落ちた。
2人の唇が重なることはなかった。
はスッと目を閉じると、ゆっくりとした動作でリーマスから離れた。
「ごめんなさい」
重ならなかった唇がそっと開いて言葉を紡ぐ。
ほんの少しだけの言葉が震えていた。
見ると、の頬はこれ以上ないほど真っ赤になっていた。
は恥ずかしさで見ていないが、リーマスの頬も微かに赤い。
おかしな空気が流れる。
「帰りましょう、リーマス」
不意に声をかけられ、リーマスはの方を向く。
彼女はリーマスの方を向いていたけれど、決して目を合わそうとはしなかった。
そのことに少しだけホッとし、リーマスは返事を返す。
「・・・そうだね」
その顔は、どこか寂しげに笑っていた。
駅についてもなんとなくきまずい雰囲気が流れていた。
来るときに感じた特急の中での楽しくも短く感じられた時間は、帰りには重苦しくとても
長いものになっていた。
ホグワーツへ着くと、2人は素っ気無く別れを告げて自寮へと向かった。
は早く彼の前から消えたいのでいっぱいで、足早に歩く。
そんな彼女の後ろ姿をリーマスが見つめていることにも気付かずに。
はフラフラする足取りで部屋に戻り、ベッドに倒れた。
どうしようもなく赤い顔を隠すために。
(・・・・・・・・何・・してるのかしら、私)
自分の行動を思い出してみる。
(・・・・・恥ずかしすぎて・・・何も言えない)
無意識に涙が流れてきた。
よりにもよって、リーマスにキスしようとするとは。
(リーマスは笑っていたけど・・・・きっと軽蔑しているに違いない)
マイナスなことばかりが頭に浮かぶ。
瞼にちらつく鳶色を振り払おうと頭を振る。
の頭の中で誰かが警告音を鳴らした。
ダメだ。
リーマスを好きになっちゃだめだ。
またあのときの苦しみが蘇ってくる。
スネイプ君を諦めたときのような苦しい想いはしたくない。
あのときはリーマスが私を見つけて救ってくれたけど。
今度はきっと誰もいない。
だめだ。
リーマスを好きになっちゃだめだ。
拳にグッと力を入れ、少年のことを忘れようとする。
それでも波のように押し寄せるのは彼の笑顔。
忘れられない言葉。
近づいた顔、間近に感じた彼の吐息。
忘れようとすればするほど強くなる想い。
胸が苦しくて、何だか出かけた疲れもあってかはフッと力を抜くことにした。
このまま一人うずくまって力んでいるわけにもいかない。
はだるそうに重い体を起こすと、顔を洗いに洗面台へと向かった。
これから夕食に行かなくてはならない。
事件というのは、関わりある人の知らないところで起こるもの。
それも、ありふれた日常に溶け込むように自然に起こる。
なんでもない、いつも通りの夕食。
も席について、一人静かに夕食をとっていた。
スリザリンの席の端の方の誰も座っていない席。
着席したとき、数人の生徒がの方を向いたが特に気にはしなかった。
気を抜くと考えてしまうのは“彼”のこと、ホグズミードでのこと。
少しばかり気を引き締めていた。
そのせいか、は自分に向けられる幾ばくかの視線に気が付かない。
気を引き締めていたことが凶となってか、は口に運ぼうとしていたパンを床に落
としてしまう。
「あ」
(何してるのよ、まったく)
フゥと小さく溜め息を吐く。
しっかりしなければ、と落ちてダメになったパンを拾い上げた。
“勿体ないことをしたな”と肩を落とし、皿の横にパンを置いた。
そのとき、不意に声をかけられた。
スリザリンテーブルの真向かいの青いテーブル。
そこにはレイブンクローの生徒が座っている。
「それ食うんだろ?」
あまりにも自然に話しかけるように言われて、名前を言われなければは自分のこ
とだと思わなかっただろう。
顔を上げると、レイブンクローの数人の男子生徒が無機質な表情でを見ていた。
ついでに彼らの周りの生徒もを見ていた。
「あの・・・」
いまいち理解できないに別の男子生徒が言う。
「その落ちたパン。食うんだろ?」
はっきりと言われ、聴き間違えることはない。
その言葉に、は怪訝な顔をする。
からかわれているのだと思った。
「いいえ」
静かに毅然と答え、は再び食事に戻った。
ああいう者とは関わらない方がいい。
だが冷たくあしらったことが、彼らには余計面白いことだったらしい。
「人間のメシはうまいだろ?さん」
瞬間、彼らの言葉を聞くことができた生徒たちが食事の手を止めた。
寮関係なく、の周りだけが静かになる。
気持ちが悪いと思った。
すぐにでもこの場を離れたいと思った。
「・・・・お先に失礼しますわ」
膝上のナフキンを机に置き、はローブを翻し大広間を出た。
振り返らなくとも、さっきまでいた付近の生徒たちの目が自分に突き刺さっているのを感
じた。
握り締めたの掌は、汗でぐっしょりと濡れていた。
翌日のホグワーツもいつも通りの朝を・・・・・迎えてはいなった。
起こった事態に気付かぬ教師陣のために校内は生徒たちの声でざわついていた。
そんな騒ぎに気付かぬ少女が一人、朝の身支度を終えて寮を出て大広間へと向かっていた。
だが少女は何かおかしなことに気付いていた。
寮の部屋で起き、談話室に出たときから気付いていた。
自分へ向けられる、周りの人間の猜疑、畏怖、嫌悪の目に。
誰も自分に声をかけようとしない。
それどころか、廊下を歩けばそこにいた生徒が自分を避けるようによけていく。
何かがおかしいと気付いた。
昨夜の夕食から何かがおかしいと。
でもわからない。
だって突然周りが変わってしまったから。
一体何が起きているのか。
誰か教えてほしい。
誰か。
「・・・・・・・・え・・・・・?」
それは不意に目に付いた、壁の貼り紙が教えてくれた。
『捨てられっ子・は、森でメスの雪豹に育てられた子供』
ただ私の前にまた闇が降ってきたのだけはわかった。
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キス寸止めなんて初めてだよ。
そしてまた真魚の悪い癖。
オリジナル街道まっしぐらだよ♪
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