ドリーム小説
Sky
【名】空、大空、天空;天国
椿姫 sky 4
私の中で誰かが囁く。
私自身にかせられた永遠の呪縛。
今、私の目の前には、こんなにも恋焦がれる人がいるのに。
彼と一緒になれたら、もう何もいらない。
彼が私を求めるように、私も彼だけが欲しい。
でもそれすら叶わない。
私にはそんな簡単なことすら許されない。
それでも私は彼が欲しい。
それに―――完全に叶わぬ願いでもない。
唯一つのものを賭せばいい。
それだけで私の願いは―――彼と一緒になりたいという願いは叶う。
ただ、失ったら最後、二度と戻らないもの。
『死にたくなければ・・・・・恋をしないことよ』
いつか誰かに言われた言葉。
誰に言われたのかも、いつ言われたのかも思い出せないけど。
捧げるものは一つだけ。
それすなわち、私のちっぽけな命。
凪いでいた風が再び吹き始めた。
の銀色の髪が風に乗って宙に浮く。
空高く広がる青の下、とセブルスはただ見つめ合っていた。
沈黙が重い。
『の全てが知りたい』
セブルスの言葉が重く重くのしかかる。
今更隠しても仕方のない感情。
は、確かにセブルス・スネイプを愛している。
そしてセブルスもまた、この少女を愛している。
それは、何度となく逢瀬を重ね、肌に触れ合い、キスをすることで、自然に生まれた感情。
そして恐らく、それを口に出さずとも2人が感じ取っている想い。
恐れることはない。
百花楼の外でこうして顔を合わせ、肌に触れ合い思ったこと。
それは百花楼の中で感じた想いと何ら変わらない。
―――自分はを愛している。
その変わらぬ想いに安堵する。
この感情が、売春宿の雰囲気が作り出すまやかしのものでないことに安堵する。
セブルスの言葉が受け止められないのか、は静かに彼の目を見つめ返していた。
ゆらゆらと揺れる深い青の目が、セブルスだけを映している。
それがたまらなく心地良い。
今だけだとしても、彼女の瞳の中には自分しかいない。
その純粋すぎて歪んだ想いが、少年の中に内在する独占欲に火をつける。
「・・・セブルス君?」
気が付くとは、目の前にいたはずの少年によって抱きしめられていた。
頬に当たる長めの黒髪がくすぐったいと思いながらも、その感触を心地よく思う。
の小さく軽い体ではセブルスの体重を支えることはできない。
セブルスに押し倒される形で、2人はその身を重ねて芝生の上に横たわった。
少年の獣のような熱い息が首筋にかかって、くすぐったさには身をよじる。
緩慢な動作で身を起こすと、セブルスは自分を見上げるの瞳を覗き込んだ。
感情の篭っていない、アンティークの人形のような瞳で見つめられる。
そこには、自分だけが映されている。
「。僕は君が好きだ」
微塵も臆さぬ、濁りのない目でを見つめる。
の返事を待つ前に、セブルスは自分の想いのままに体を動かしていた。
自分と同じスリザリンカラーのネクタイを緩め、ブラウスのボタンを上から2つだけ外しにかかる。
すぐに真っ白な肌が顔を出した。
日の光に当てられ、肌が透けて見えそうだ。
セブルスは、自分の喉が音を立てて唾液を嚥下するのを感じていた。
それでもはやる気持ちをなんとか抑え、少女の白い首筋にやわやわと手を這わせる。
上質の絹のような感触が返ってきた。
細い首筋に顔を近づけると、またあの甘い香りが漂ってきた。
毒のように甘い香りに酔いそうになる。
そう。これは何よりも強力で、人の命を奪う毒薬。
そんな毒に溺れてしまった自分は・・・・やはり異常なのかもしれない。
それでもこの気持ちは変わらない。
「君を僕だけのものにしたい」
首筋に押し付けた唇から、何よりも甘い味が伝わってきた。
―――好きだ。
一度も言われたことのない言葉。
は、体に電流が走ったような感覚を覚える。
体が痺れて動けない。
口の筋肉が機能しない。
それでも何か言わなければ。
彼の言葉に何か返さなければ。
そうだ。彼に言わなければならないことがある。
とても重要なこと。
そうだ。言わなきゃ。
なのに
どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう?
目頭が熱い。
私は、こんなにも弱かっただろうか?
もう数年前のことだけど・・・。
寒い冬の日、私はそれまでの百花楼の一番人気の娼婦を蹴落とし、NO.1の座に着いた。
体を売るという仕事を始めて、まだ数ヶ月のことだった。
その日は奇しくも私の12歳の誕生日で―――その日言われた数々のはなむけの言葉を、私は今でも覚えている。
『ここで生き残りたければ、恋なんかしないことよ。恋は女を・・・娼婦を駄目にするわ』
それまで首位の座を占めていた―――そして私にその地位を奪われた蓮姉さんの言葉だった。
『お前のその笑いが客受けする。その顔でもっと客から金を搾り取れ。特定の男に惚れたりするんじゃねぇぞ』
いつもの醜悪な笑みを浮かべ、私の部屋を少しだけ上物に変更してくれたマスターの言葉だった。
そして、一番忘れられない言葉がある。
『椿ちゃん。あなたは頭のいい子ね。今のあなたになら、全てを知ることもできるかもしれない。・・・・いえ、知らなければいけないことだわ。だから、しっかり聞いてね?』
『・・・さん?』
『椿ちゃん。約束して。絶対に男の人を好きになっては駄目よ?恋をしては駄目。いい?・・・・・あなたは・・・・12年前にね?―――――――――――――――――――――』
私をいつも心配してくれた、さんの言葉だった。
その日から、私は彼らの言葉に忠実に生きてきた。
殊更、さんの言葉は決して忘れずに生きてきた。
酷い職業だったけど、たまに優しいお客さんもいた。
私の体を心配してくれる人もいた。
娘のように可愛がってくれる人もいた。
それでも、誰も『その言葉』だけはくれなかった。
だから私も『その言葉』を使ったことはなかった。
不意に自分の頭上から小さな声が聞こえてきた。
「?」
「・・・・・・・・・・・・フッ・・・・ヒッ・ク・・・・っ!!」
嗚咽を漏らすまいとする、掠れた少女の声。
泣いている姿を見られまいと、両の手で目を覆い隠している。
だが止め処なくあふれる涙は否が応でもの頬を流れ落ち、地面に染みを作る。
自分の突然の行動が彼女を恐怖に陥れたと思ったのだろう。
もしかしたら凶暴な客のことを思い出させてしまったのかもしれない。
―――酷いことをしてしまった。
またも後悔の念に駆られる。
セブルスは身を起こすと、自分が肌蹴させた彼女の衣服を整えようと手を伸ばした。
ボタンを嵌めようと伸ばした手は、だが、によってつかまれることになる。
その細い手が微かに震えていることに気付き、自分がしたことを深く後悔する。
「・・・・・すまない。僕はどうかしていたよう」
「ありがとう」
セブルスの言葉をさえぎり、少女の震える声がその上に被さる。
何に対して礼を言われたのかわからない。
セブルスがしたことは、とても感謝されるようなことではないはず。
「・・・・・・?・・・どうした?」
心配げな顔で少女を覗き込もうとするも、は顔を覆っていて表情が読み取れない。
不意につかまれていた手に柔らかいものが押し当てられた気がした。
視線を下に向けると、の導きによってセブルスの手はの胸の上に置かれていた。
柔らかな感触が掌に広がる。
「・・・・
///
?」
泣かせてしまった罪から振りほどくのも気が引け、気恥ずかしいのを我慢してのやりたいようにさせる。
「感じる?私の鼓動。・・・・・・ドキドキが・・・収まらないの」
押し当てられた掌からは、早すぎるくらいの鼓動が伝わってくる。
はもう泣いてはいなかった。
その顔は今まで一度も見たことのない―――嬉しいような、苦しいような、辛いような―――だが、あまりにも美しすぎる表情だった。
揺るぎなかった深い青の瞳が、今は不安定なほど揺らめいている。
胸に押し付けていた少年の手を自分の頬に導き、その存在を確かめるように頬に押し当てる。
「冷たい手。セブルス君の手だ。・・・・・・気持ちいい」
が流した涙の跡が乾ききっておらず、セブルスの手を微かに濡らす。
本当に心地よさそうに、少女の顔には安堵感が満ち溢れている。
それだけでセブルスは罪悪感でいっぱいだった自分の胸が少しだけ安らいだ気がした。
頬に寄せていた手をそっと下ろし、は迷いのない瞳でセブルスを見つめる。
そこにいるのはセブルスの知っている。
だがそれはセブルスの見たことのない。
「セブルス君」
「・・・・・なんだ?」
「セブルス君」
「・・・・・どうした?」
名前を呼ぶと、返事が返ってくる。
その単純な反復作業が、今は何よりも嬉しい。
「ありがとう」
「・・・・・何がだ?」
「私・・・・・好きって言われたの、初めてだよ」
「・・・・そうか」
「でね?好きな人に好きって言われたのも初めてだよ」
「・・・・・・・・・・・・・?」
何かから解き放たれたように、晴れ晴れとした顔をする。
「セブルス君。君に伝えたいことがあるの」
目を細め、セブルスの全てを見通すように、愛しげに眺める。
それはあまりにも儚く、もろく、捕まえておかないと消えてしまいそうな存在。
―――ごめんなさい、さん。
―――約束、守れそうにないや。
―――でもいいよね?
―――生涯で一度くらい、我侭言ってもいいでしょ?
―――大丈夫。私の心は・・・・自由になれた。
唯一つ伝えておきたいことがある。
「私は君を愛してる。この世で唯一、君だけを愛してるよ」
一際強い風が吹き抜ける。
その風は少女の長い髪を舞い上がらせ、の表情を隠す。
―――でも私はもうすぐ死ぬわ。
言えない言葉を、極上の笑顔で覆い隠す。
それは、には至極簡単なこと。
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