ドリーム小説
Sky
【名】空、大空、天空;天国
椿姫 sky 3
いつものようにハニーデュークスで大量に菓子を買い込み、は百花楼の扉を押した。
いつものようにマスターは苦々しい顔でを迎える。
だが一人であることに気付くと、今度は醜悪な笑みを浮かべた。
2人でないため無料券が使えない―――金が取れると踏んだのだろう。
「おう、坊主。今日はあいつはいねぇのか?」
笑いを抑えられないのか、マスターの喉が震えている。
は構わずにあどけない笑みを返してやった。
「今日は俺一人さ。券は使えないんだろう?」
わざわざ先手を打ってやると、男の片眉がピクッと吊り上った。
「・・・・・わかってんじゃねぇか。金はあるんだろうな?」
醜悪な笑みを投げつける男に、少年は美麗な笑みで金を差し出す。
それは“桜”を相手するには余りある金額だった。
投げ出されたガリオン金貨に男は楽しそうに笑う。
「桜!!客だ、早くしろ!」
上機嫌のマスターに、は不敵な笑みを向ける。
「わかってんじゃん、マスター」
その笑みは、奥の部屋から桜が出てくると同時に消えうせていた。
三本の箒を出て、セブルスとはどこに向かうでもなく歩いていた。
歩きながらも質問を投げかけるセブルスに、は一つ一つ丁寧に言葉を返す。
「休みの日があるなんて・・・知らなかった」
セブルスの中には、娼婦に自由はなく一生鳥籠の中で生きるという固定観念があった。
だがその考えはあながち間違ってはいない。
「休みはね、1ヶ月に1度だけ、百花楼でも特定の女の子にしか与えられないの。・・・・その」
「ランクの高い者・・・か?」
言いにくそうにするの言葉を代弁してやると、少しだけ驚いたような顔を見せる。
だが肯定するように、悲しげな笑顔で頷いた。
「今、百花楼で休みをもらえるのは・・・私と蘭ちゃんと蓮姉さんだけかな?」
娼婦仲間だろうか。
は少しだけ楽しそうに花の名を告げる。
「その服はどうしたんだ?スリザリンじゃないか?」
セブルスは揺れる緑と銀のストライプのネクタイを見つめる。
「自分で買ったんだ。へぇ・・・スリザリンって言うんだ?よくわかんないから、さんに『セブルス君と同じ奴』って頼んだの」
あっけらかんと言い放つ。
「何度も三本の箒で見かけてたんだ、ホグワーツの学生さんのこと。私も一度でいいから着てみたかった」
そのときが見せた笑顔はとても儚いもので、セブルスの瞳に強く焼きついた。
同じ年の少女が制服に身を包んで楽しげに買い物する姿は、の目にはどう映ったのだろう?
感情を表に出さないでも、嫉妬や羨望の念を抱いたのだろうか?
以前に感じた自分と彼女との世界の違いを、またも実感させられた気がした。
またそれとは別に、は不安で仕方がなかった。
いつも着ている仕事の服―――明らかに男を引き寄せるための露出の多い服を着てセブルスと歩けば、絶対的に彼が怪しまれる。
自分のせいで彼に迷惑をかけることはしたくなかった。
「似合うかな?」
幾らか不安げに眉を下げ、歩みを止めたはローブの裾を翻す。
灰褐色のスカートからは真っ白な長い足が伸び、漆黒のローブにはの銀色の髪がよく映える。
胸に飾った椿の花がやや目立つが、その姿は他のホグワーツの生徒と何ら変わらない。
ふとセブルスは、横を通り過ぎた男子生徒がチラッとを一瞥したのに気付いた。
どうしてか無性に苛立つ自分を不思議に思った。
返事を待つに不敵な笑みで答える。
「あぁ、よく似合っている。スリザリンは気高き者が入る寮なんだ」
それを聞いたの顔がほんのりとピンク色に染まったのをセブルスは見逃さない。
あの建物の中では気付かなかったが、日の下のの肌は病的なほど白い。
桃色に染まった頬が彼女を年相応の少女のように見せる。
そんなの姿を、少し離れたところに立つ女生徒の集団が見ているのにセブルスは気付く。
―――見せ物じゃない。彼女を気安く見るな。
そう言ってやりたいのを、セブルスは口の中で噛み殺す。
もちろん周りの人間が、が何をしている人間か知っているわけではない。
それに今日のはいつもの魅惑的なチャイナドレスでもない。
それなのにいつも以上に人目を引くのは・・・・。
そんなことを考えていたセブルスの腕を、は突然引っ張った。
「セブルス君、あれあれ!」
まるで子供がおもちゃ屋を見つけたかのように、は零れそうな笑顔で何かを指差す。
細い指の先には、生徒でごった返した菓子店があった。
「ハニーデュークス?」
「行こう、セブルス君!」
「お、おい!」
セブルスの言葉など聞かず、ぐいぐいと腕を引っ張る。
いつもの波のない穏やかな海のような姿はどこにも見受けられない。
今のは、セブルスと同じ、ホグワーツに通う16歳の女の子そのものだった。
彼女のこんな笑顔は見たことがない。
驕り高ぶりでもいい。
それでもセブルスは、今だけと同じ目線になれたと感じた。
滅多に見ることのないセブルス・スネイプの慌てぶりと、彼の腕を引く見たことのない少女に、周囲の好奇の目が集中したことを彼らは知らない。
狭い部屋の中心に置かれた大きなベッド。
真っ白なシーツの上には、所狭しと菓子が散らばっている。
そんな菓子の中心に、少年と少女は向かい合って座っていた。
「ほら。だんだん星が重なってくだろ?これが“凶”。そんで、木星がずれた瞬間が“破局”」
金髪の少年は目の前に置いた「魔法で動く天球」の中を指差し、金髪の少女に説明する。
「そっか。あたし、金星がずれた瞬間だと思ってた。だから上手くいかなかったのね?」
楽しそうに天球を眺め、そんな少女の姿をが見つめる。
「占術って奥が深いのね?でも面白いよ、さん」
が買ってきた菓子を片手に、桜は可愛らしい笑顔を彼に向ける。
いつからだったか、は自分の得意分野の占術を桜に教えるようになった。
占術は得手・不得手がある。
才能のないものはとことんやっても無駄である。
だが桜は占術の才能に長けている方だった。
占いに興味を示した桜に、は占術の心得を取得させた。
それからというもの、は百花楼に来る度に桜にレクチャーした。
だがもちろんの目的はそれだけではない。
「桜ちゃんは飲み込みが早いからね。教える方も面白いよ」
は天球を横に押しのけると、少女に飛びついた。
「さん!」
2人はそのままベッドに倒れ、は怯んだ桜の唇に軽く口付ける。
それだけで桜の頬はほんのりと色付く。
は楽しそうに笑い、桜の―――自分と同じ色の瞳を覗き込む。
そこには確かに・の姿が映っている。
「・・・さん
///
?」
微かに身じろぐ桜を捕まえ、今度は深く口付ける。
舌で口内を探ると、控えめながらも少女も自分の舌を絡ませてきた。
「・・・・ん・・・・・ふっ・・・」
それでも苦しげに漏れた声に、は名残惜しげに唇を放す。
2人の唾液が糸を引いて、だがすぐにプツリと切れた。
扇情的に濡れた少女の唇を舐め上げ、は満足気に微笑む。
「キス、また上手くなったね?やっぱり桜ちゃんは飲み込みが早いよ」
も男でお客なので、やることはやる。
だが強要はせず、桜が嫌がるときはしないと決めていた。
そんな彼の気遣いだったが、桜はいまだ一度も「嫌だ」と言ったことはない。
それは仕事上言うわけにもいかないということもあったが、それ以前に桜はが嫌いではなかった。
いや、好きと言っても過言ではない。
その気持ちを知ってか知らずか、は桜しか指名しなくなった。
叶うはずはないとわかっていても、少女はひっそりと恋していた。
が桜から2度目の唇を奪ったときだった。
階下からやたらと慌しい声が聞こえてきた。
折角の甘い時間を邪魔された気がして、は少し不機嫌になる。
「なんか、うるさいね?何?」
不機嫌な声を投げかけながらもしっかりと体を弄りに来る手に翻弄されながら、桜は口を開く。
「ん・・・なんか、今日・・・・・椿ちゃんのお客さんが・・・ぁ・・・来るって、マスターが・・・」
「椿ちゃんの?」
しっかりした声で返事を返しながらも、の手は桜を感じさせることをやめない。
桜も飛びそうになる思考を必死に呼び戻し、なんとか返事を返す。
「うん。・・・・・すごい大事な話がある・・・って!やぁぁ・・・さんっ
///
!!」
の動きについていけない桜の口から嬌声が漏れ、目には涙が浮かぶ。
「“や”じゃないでしょ?“や”じゃ」
「・・・あ・・・・はぁ・・・
///
」
頬を紅潮させ、瞳をトロンとさせる彼女の様子に、は一人ほくそ笑む。
そんな2人を傍目に、かちりと音を立てて横倒しになった天球は星を動かしている。
オートモードに入った天球が現在の星の周りを指し示す。
天球は静かに“狂”を映し出していた。
カラカラと開かれた戸口に1人の男が立っていた。
全身を高級そうな服で包み、その体からは常人には手の出せない香水の香りを漂わせている。
男は優雅に戸をくぐり、カウンターに構えた男に迎えられた。
醜悪な笑みを顔に浮かべた男は、ゴマすりと言う言葉がよく当てはまるほど両手をこすり合わせている。
そんな人間にも、入ってきた男は柔和な笑みを向ける。
「やぁ、マスター。すまないね、昨日来たばかりなのに無理を言って」
物腰柔らかに、売春宿のマスターにまで気遣いの言葉をかける男に、店の主人はひたすらへこへこする。
「何をおっしゃるんですかぁ。お待ちしておりやしたよ。おい、!!」
腰を低くしていたかと思ったら、急に威圧的な声でを呼びつけた。
奥から出てきた初老の女性にも、男は挨拶を欠かさない。
「やぁ、。変わりないかい?」
男の姿を見た瞬間、は少しだけ顔を強張らせたが、それに気付いたものはいなかった。
は穏やかに笑う男に、同じような笑顔を向ける。
「えぇ。皆、元気にしておりますわ。・・・様」
「それはよかった。昨日の様子で、椿も異常がないようだしね」
「・・・・・・えぇ。それはもう・・・」
の言葉に、と呼ばれた男は満足そうに頷く。
この男がを評価する理由は一つ。
が椿の世話をしているからにすぎない。
「さぁ、マスター。椿が帰るまで、細かな話をまとめようか?」
氏は優雅にコートを脱ぎ、当たり前のようにに渡す。
ひたすらゴマをするマスターは、カウンターの扉を開くと氏を中へと勧める。
「流石は様。話が早い!どうぞ、こちらへ」
「あぁ、ありがとう」
案内された方に向かおうとして、氏は歩みを止める。
マスターが伸ばした手の向こうから、大勢の少女がのことを見つめていた。
それぞれ違った花飾りを胸に挿す少女たちは、を好奇や畏怖の目で見つめる。
どこからか、小さなつぶやきも聞こえてくる。
―――あの人じゃない?
―――椿ちゃんのお客だよぉ。
―――いいなぁ、椿ちゃん。
―――今日で決まりでしょ?
若い娘たちの好奇の視線を受けながら、は崩れぬ笑顔で彼女らの前を通り過ぎた。
ただ、その口元に刻まれた笑みがひどく残虐性を帯びたものに気付くものはいなかった。
太陽も南中高度を大きく越え、薄い雲の隙間から日の光を降り注ぐ。
ホグズミード村の外れの小高い丘にとセブルスは座っていた。
そこからは、それほど大きくもないホグズミードが一望できた。
ハニーデュークスでお菓子を買い漁り、ゾンコのいたずら専門店でもらった試供品をワクワクしながら試して、声をかけてきた露天商からサービスだと言われてリングをもらって・・・・・。
はさっきから笑顔を絶やさない。
だがそれは百花楼にいるときの酷薄な笑みではない。
言うなれば、セブルスの嫌いなグリフィンドールの生徒が楽しそうにしているときの笑顔。
普段なら、彼らの笑顔など吐き気を呼び起こすだけだが、の楽しそうな笑顔はセブルスに安息をもたらす。
が年相応に笑ってくれて嬉しい。
それが正直な気持ちだった。
「・・・・・ホグズミードにこんな場所があったなんて知らなかった」
「・・・・・あぁ。僕しか知らない・・・・気に入りの場所だ」
半ば感動したように、は草の上にコロンと寝転ぶ。
セブルスも彼女の横に腰を下ろす。
青々と繁る葉の向こうに、青い空が広がる。
「空が・・・・・こんなに青く高いものだなんて・・・・」
いつも鳥籠の天井ばかり見ているには、この青は少し眩しく、同時に羨ましくもある。
「・・・・・・・・綺麗すぎて・・・・怖いよ」
ポツリと漏らした言葉がセブルスの胸をチクチクと刺激する。
儚げに笑うは、目を離したら今にも消えてしまいそうで、そのことがセブルスに恐怖を覚えさせる。
不意にの澄んだ青の目が曇ったのが見て取れた。
「・・・・・・・・どうした?」
少しだけ愁いを帯びた瞳は、それでも空を崇め続ける。
少女は、まるで空をつかむかのように腕を虚空へと伸ばす。
「・・・・・・この空の下なら・・・・少しは私の心も綺麗になれるかな?」
その手は何をつかむでもなく、伸ばされたまま止まる。
―――こんなに穢れた私でも・・・・彼と同じように、青い空を見る権利があるのなら。
「・・・・・僕は・・・・は綺麗だと思うが?」
何気なく口にした少年の言葉に、少女の目は驚愕に見開かれる。
だがそれもすぐに元に戻り、またあの儚げな目をする。
くすりと苦笑するのがわかった。
「汚いよ、私は。本当は、セブルス君が私なんかに触れちゃいけないんだよ?」
―――私の穢れが、あなたを侵食してしまう。
そう言って目を閉じたの顔に、葉の影が模様を作る。
伸ばしていた手を横に降ろし、大の字になる。
不意に吹いた風が銀の髪をなびかせ、セブルスは「まるで蜘蛛の糸のようだ」などと思ってしまった。
純白に輝く少女の肌が眩しくて―――――。
「・・・・・・・セブルス君・・・・?」
不意にの頬を冷たい感触が走る。
そっと目を開けると、セブルスの細い指がの頬を撫でていた。
振り払うことなく彼のしたいようにさせる。
「・・・・・・私なんかに触っちゃいけないんだよ?」
だが口に出した言葉とは裏腹に、その心地よさに酔いそうになる。
それを必死に抑え、もう一度同じ言葉を吐く。
それでも、セブルスがその手をどけることはなかった。
―――たとえるなら、生き血の流れる大理石・・・いや、金剛石。
滑らかで冷たいはずの彼女の肌は、ほんのりと暖かみを帯びている。
触れているだけで、心が落ち着く。
「こんなにも暖かく、心地良いものの・・・どこが汚いというんだ?」
本当に分からないという顔での顔を上から覗き込む。
あまりにも純粋すぎるその問いに、思わずはその身を起こし、声を荒げた。
それは、今までの亡羊としていた、つかめない雲のような彼女ではなかった。
初めての笑顔以外の顔を見た気がした。
「だって!セブルス君は本当の私を知らないから!」
「あぁ、知らん。・・・・が話さないからな」
少年の声も、いつもより少しだけ低いトーンに変わる。
互いの見たことのない姿に、2人はしばし見つめあう。
凪いでいた風が、2人の間を吹きぬけた。
少女の銀糸が風に揺れる。
「僕は・・・・・の全てが知りたい。の全てを手に入れたい。叶わぬ願いでも・・・このまま一生自分のそばに置いて、誰にも見せたくないと思っている」
―――たとえそれが、狂気の沙汰だとわかっていても。
「に触れた全ての男が許せない。さっきも・・・を物欲しそうに眺める男たちにいらついた。こんな僕こそ・・・・・汚いのではないか?」
その漆黒の目がの瞳を射抜く。
深い深い、どこまでも続く闇の色が、の心を掴んで放さない。
この瞳に―――この人に溺れたい、捕まっていたい―――愛されたい。
それでも、の中の誰かが囁く。
―――あなたは、恋をしてはいけない少女でしょう?
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