ドリーム小説
Sky
【名】空、大空、天空;天国
椿姫 sky 2
久し振りとも言えず降り立ったホグズミード駅。
眩しいくらいの太陽の日差しに目を細め、セブルスは腕に抱えていたローブを羽織る。
すぐ後ろでは、列車の中で惰眠を貪っていたが欠伸をしている。
「あれだけ寝たのに、まだ寝たりないのか?」
呆れたようにため息をつくと、は目尻に涙を溜めて不満そうな顔をする。
「あのなぁ。俺は寝不足なの!知ってるだろ?昨夜だって」
の非難混じりの抗議に、セブルスは「あぁ。なるほど」という顔をする。
確かに昨夜、が深夜まで起きていたのを知っている。
「お前が断らないのが悪い。来る奴全ての相手をしていたら、寝られないのは当たり前だ」
「だって俺、売れっ子だもん!」
は邪気のない笑顔を向けてくる。
揺れる金髪に深い青の瞳の少年。
スリザリンらしからぬ笑顔は他寮の生徒でさえ魅了する。
・はホグワーツではそれなりに有名な少年だった。
だがそれはその容姿だけではない。
「女というものは、何故あんなに占いを好むんだ?」
「セブルスにはわかんねぇって。乙女の気持ちなんて」
楽しそうに笑うに、セブルスはわかりたくもないという顔を向ける。
・は、ホグワーツ一の占い師として生徒たちに人気だった。
生徒たちというよりも女生徒にと言った方が適切かもしれない。
に恋愛事情で占ってもらおうと常に予約が入り、自称フェミニストを気取るはその頼みを断れないでいた。
昨夜も多数の女の子の依頼を断りきれず、寝る間も惜しんで占術をしていた結果がこれである。
セブルスはあまり賛成できないが、占い学トップのその成績は少しばかり羨ましいと思っていた。
「セブルス、どうする?三本の箒にでも行くか?」
また一つ欠伸を噛み殺し、は大きく背伸びをする。
毎週土曜の彼らの路程は決まっている。
まず三本の箒へ行き、軽く何か飲む。
このときの代金は全てが払うことになっている。
セブルス宛に届く百花楼の無料券に便乗させてもらっている身分なので、はせめてものお礼として自分の奢りとしていた。
三本の箒を出たら、2人はハニーデュークスに向かい、もっぱらがお菓子を買い漁る。
それを持って百花楼に向かう。
これがいつもの2人の過ごし方。
「あぁ。何か飲んで、眠気を取ったらいい」
セブルスはローブを翻し、さっさと店に向かって足を進める。
出遅れたも足を速めて彼の後を追う。
「あぁー、いい天気だなぁ!」
頭の後ろで手を組んで呑気に笑う友人に、セブルスは口元を僅かに緩める。
今日も空は青く高く遠い。
部屋の天井をプカプカと白い雲が流れていく。
フッと白い雲が消えたかと思うと、煙管から生まれでた白煙がまた天井へと昇っていく。
「。椿はどこ行きやがった?」
口に咥えていた煙管を外し、マスターは深みのある声をに向ける。
「ロスメルタさんのお店ですよ。ほら、あの居酒屋さん」
洗いざらしのシーツを両手に抱え、はサラリと質問に答える。
マスターの舌打ちの音だけが響く。
「あんなところに行って、何が楽しいんだ?それより、今日は椿に早く帰るよう行ってあんだろうな?」
「・・・・・・・言ってあります。夕刻前には帰るよう」
マスターはやや不機嫌そうに言うと、煙管を灰皿に置き、カウンターの下から酒瓶を取り出した。
言うだけ無駄だと思ったが、は困惑気な顔をする。
「・・・・マスター。業務中ですよ」
そんなの注意を無視し、マスターはグラスに酒を注ぎだす。
「俺に指図するな。どうせこの時間来るのは、あの魔法学校のガキぐれぇだ。かまやしねぇよ」
透き通る焦げ茶の液体をグイッと飲み干す。
「今日はこの店にとっても、あいつにとっても大事な日だ。遅くなりました、なんて許されねぇぞ」
男は醜悪な笑みを浮かべ、またグラスに酒を注ぎ足す。
それを悲痛な目で見つめ、は店の奥へと入っていった。
絶対的に不可能だと分かっていても、彼女は願わずにはいられなかった。
―――。どうかこのまま帰ってこないで。
だがその想いが叶うはずはなかった。
三本の箒の扉を押し開けると、中からはいつもの喧騒と煙草の匂いが漂ってきた。
酔っ払った客が奥のテーブルで高笑いをし、近くのテーブルでは何やら商談のようなことをしている。
いつきても静寂とは程遠い店だなとセブルスはため息をつく。
店の女主人はテーブルの間をせかせかと歩き回っていた。
新たに入ってきた少年2人に、営業スマイルで声をかける。
「いらっしゃい!そこの学生さん2人!悪いけど空きテーブルがないんだ。カウンターでもいいかい?」
両手に3つずつジョッキを抱え、マダム・ロスメルタは快活な笑顔を向けてくる。
それにが応え、2人は珍しくカウンターに腰掛けた。
しばらくして戻ってきた女主人に、はバタービールを2つ注文した。
すぐにグラスに並々と注がれたバタービールが出され、セブルスは軽く口を付ける。
だが、いつも真っ先にグラスに手を出し、半分以上一気飲みするが、今日はグラスに手を添えただけで飲もうとしない。
「?気分でも悪いのか?」
不審に思ったセブルスが声をかける。
彼の方に向き直ったは、いつになく真剣な表情をしていた。
少なくとも、いつもセブルスをからかうときのいたずら顔や、百花楼で桜という少女に会うときの顔ではない。
「セブルスさぁ・・・・・・・今もあの“椿”って子を指名してんの?」
「・・・・・・なに・・・?」
の突然の言葉に―――その聞き慣れた名に、セブルスの鼓動が少しだけ速くなる。
「・・・・・・それがどうかしたか?お前だって、あの“桜”とかいう」
「桜ちゃんは“椿”って子とはランクが違うもん。桜ちゃんのお客は一般の人だよ」
ランク
一般人の客
セブルスの耳に聞き慣れない言葉が入ってくる。
「・・・・・・どういうことだ?」
焦りそうになる自分を抑え、セブルスは静かに問い詰める。
セブルスの葛藤を知ってか知らずか、はここに来てグラスに口を付けて話を中断させる。
はセブルスの苛立ちを増長させるのが上手い。
「!」
「前に言っただろう?あの店で椿って言ったら・・・最高ランクの娼婦だ。彼女の客は、それなりの人間だってことだよ」
資産家とか政治家とか役人とかね、とは呟く。
ちらりと盗み見たセブルスの顔は、いつもと変わらない土気色だった。
顔色からは彼の心中は図れない。
だが長年付き合ったにはわかる。
今、セブルスの頭の中が多少なりとも困惑しているのが。
「あの子にとり憑かれるなよ。何を言われたか知らないが、あの言葉も態度も、全ては客を取るために教え込まれたものなんだぞ?」
セブルスよりも世の現実を知るの言葉だからこそ、説得力がある。
の瞳が―――彼女と同じ深い青の瞳がセブルスを見つめる。
「あの子を本気で狙っているジジィだっているんだぞ。セブルス。一般人のお前がこれ以上関わるのは危険だぜ?」
どうしてか、セブルスはに見つめられているような錯覚を覚えた。
しばらくしても何も言わないセブルスをはいぶかしむ。
小さくため息を付くと、はカウンターに向き直った。
「それとも何か?お前、本気であの子が好きになっちゃったのか?」
の幾分からかい混じりの問いにも何も言わない。
いや、言えないでいた。
「セブルス?」
自分が彼女に恋しているなどと考えたこともない。
恋愛経験の足りないセブルスには「恋する」ことがこれでいいのかもわからない。
ただそれでも、想うことは一つ。
「・・・・・・わからない。この気持ちが何なのかわからないんだ。だが・・・・彼女には会いたい・・・」
細い手が冷たいグラスを握り締める。
セブルスは気付いていないだろうが、今の彼の顔は叶わぬ恋に苦しむ少年のものだ。
思わずは苦笑してしまう。
とことん恋に不器用な友人を持つと、なかなかに苦労する。
だがこんなにも一途に一人の少女を愛せることが、この上なく羨ましくもある。
「椿・・・ちゃんが羨ましいよ」
―――こんな“いい男”に惚れられてるなんてさ。
残ったバタービールを喉に傾ける友人を、セブルスはわけが分からないという顔で見ていた。
ちょうどそのときだった。
ざわついた店の扉がゆっくりと開いた。
目聡いロスメルタはそれに気付き、磨いていたグラスから顔を上げる。
「いらっしゃい!お客さん、カウンターで・・・・」
威勢のいい女主人の声が中途で途絶えた。
彼女は何かを呆然と見つめている。
だがそんな小さな日常の一コマは、店の喧騒の中に埋もれてしまう。
少年2人もそんなことには気付かずにいた。
「さぁてと、セブルス!ハニーデュークスにでも行くか!」
空のグラスをテーブルに置き、いまだわからないという顔をしているセブルスに楽しげに笑いかける。
勘定を払おうとポケットに手を突っ込むを、セブルスは複雑な顔で見ていた。
の動きが止まったのと、誰かがセブルスの肩を叩いたのはほぼ同時だった。
「セブルス君」
その透き通った声に、セブルスの心がざわつく。
――――――ありえない。
だが聴き間違えるはずがない。
会いたくて会いたくて、白昼夢にまで出てくる少女の声。
叩かれた肩側から、甘い桃の香りがする。
「・・・・・・・・・・・・?」
がいることも忘れ、セブルスは少女の真の名を呼んだ。
セブルスが突然聞き慣れない女の名を呼んだことにはいぶかしむ。
そんな彼を他所に、セブルスは半ば確信して後ろを振り返った。
彼の想像通りの人物がそこにいた。
「・・・・・・・・・・・・なのか?」
「セブルス君。会いにきちゃった」
いつもの。
変わらない笑顔を向ける彼女がいる。
ただその姿はセブルスを混乱させるには十分だった。
「・・・・どうしたんだ、その服・・!?というか・・・なぜここに・・・!?」
半ば混乱気味のセブルスを少女はいつもの笑顔で受け流す。
「落ち着いてよ、セブルス君。・・・・後で話してあげる」
落ちてきた髪を優雅に耳にかけると、漆黒のローブがふわりと揺れた。
が今着ているのはいつもの人目を誘うチャイナ服ではない。
漆黒のローブ、膝丈のスカート、真っ白なブラウスに締められたタイは緑と銀のストライプ。
それはセブルスと同じ、ホグワーツ校スリザリン寮の制服。
ローブの色とは対照的なの銀色の髪が際立って見える。
ふとローブの胸元の寮章の上にあの真っ赤な椿のコサージュがついているのに気付く。
店を離れても呪縛からは逃れられない―――そんな気がして、セブルスは目を逸らした。
「セブルス」
不意に名前を呼ばれ、が店を出る準備をしているのに気付く。
セブルスは慌てて自分も席を立ち上がった。
「セブルス。今日は俺一人で行くよ。金なら心配すんな」
「は?お、おい、!」
内心、の言葉は有り難かったが、それではいけないとセブルスは断ろうとした。
だがはわざわざあどけない笑顔を向け、「俺、お坊ちゃんだし?」と言ってセブルスの横を通り過ぎた。
の目との目が一度だけ交錯した。
同じ色の瞳同士が金属音を立ててかちあう。
少女の銀糸の髪と少年の黄金の髪が絡み合うように揺れ、だが触れ合うことなく遠ざかる。
店の扉に手をかけたを不意に透き通る声が呼び止めた。
「さん。桜ちゃんが会いたがってたよ」
振り返ると、そこには柔らかく微笑むがいた。
深い青の目が妖しく揺れる。
金髪の少年は満面の笑みを浮かべる。
「知ってる。じゃぁね、セブルス、椿ちゃん」
それだけ言うと、は静かに扉を閉めた。
木の軋む音が、いつもより優しく響き渡った。
残されたセブルスは今一状況が飲み込めないでいた。
そんな彼の心情を悟り、はセブルスのローブを引っ張る。
「いろいろ聞きたいことがあるんでしょ?とりあえず、ここ出ようか?」
笑顔で告げると、はセブルスの背中を押した。
「・・・・・。その・・・仕事はいいのか?」
が店から抜け出してきたと思ったのだろう。
セブルスは、あのマスターに後で何かされるのではないかという不安を覚えた。
だがそんな想いなどが笑顔で一蹴する。
「だぁいじょうぶ。今日はお休みの日なの。1日中セブルス君と一緒にいられるよ」
眩しいくらいの笑みを向けられ、押されるがままにセブルスは店を後にした。
トントンとテーブルを叩く音がして振り返ると、店の女主人が含みのある笑みでを見ていた。
「なんだい、?やっぱり好みだったんじゃないか」
意地悪な、だが嫌味のない笑い方でをからかう。
だがは「違うよ」と言うと、手を後ろに組んで扉に向かう。
後ろ手に扉を押し、ロスメルタにやや挑発的な笑みを向けた。
「言ったでしょ?また会えるような気がした・・・って。運命だよ」
扉の向こうには、眩しいくらいの青空が広がっていた。
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