ドリーム小説
Sky
【名】空、大空、天空;天国
椿姫 sky 1
初めて会ったのは、売春宿の玄関先。
再会したのは、情事の残り香の漂う部屋。
決して平凡な出会い方ではなかった。
少女は少年の純粋さに惹かれ、
少年は少女の闇に惹かれた。
互いに求め合うものは違ったが、それでも2人は強く惹かれあった。
これも運命と言えるのだろうか?
愛に不器用な少年と、愛を恐れる少女が、手探りで愛を掴み取ろうとしている。
それがすぐ近くにあるとも知らずに。
図書館の窓からは、遠くまで広がる青い空が見える。
真っ青なキャンバスには、ふわふわとした綿菓子のような雲が浮いている。
入り口から少し奥まった席にセブルスは座っていた。
目の前に広げた参考書とひたすら睨めっこを続ける。
休日が来る前に、1週間分のレポートを仕上げなければならない。
晴れ晴れしい気持ちで彼女に会いたい。
そんな気持ちから始めた行為は別の面でも効力を発揮し、最近のセブルスのレポート提出の早さに教師陣は舌を巻いていた。
単調だったセブルス・スネイプの日常に突如舞い込んできたという名の小石。
静かな水面に投げられた小石は、凪いでいた水面に波紋を広げていく。
と偶然の出会いを遂げてから、もう1ヶ月が経つ。
あれからというもの、ホグズミード週末になる度にセブルスは百花楼を訪れた。
一介の学生に毎週そんなことをする金があるのか疑問に思うところだが、セブルスはまだ一度も金を払っていない。
毎週のように白銀の梟が無料券を送ってきていたから。
差出人は依然として不明。
が内緒で送ってきているのかもしれないと思ったが、
「セブルス君ってお坊ちゃん?私、結構高いんだよ?」
という彼女の発言によって、その考えは打ち消された。
一体誰が、何のために。
考えても考えてもわからない。
ただ利用できるものは利用させてもらうだけだ。
自分は週末に売春宿に通い、同じ年の娼婦の少女とキスをし、所有印を付け合い、抱き合って眠り、互いの体に触れ合う。
そんな日常を過ごしている。
なんて甘美で稚拙、奇異で純粋。
これが異常なことだとはわかっている。
それでも、今日も空は青く、高く、どこまでも広がる。
同じ空の下。
人の欲望渦巻く巨大な鳥籠。
そこから見える空も、青く高く遠い。
窓の縁に寄りかかり、は1枚の金貨をもてあそぶ。
金貨は弾かれて、ピーンッと甲高い音を奏でる。
「今日も晴れ」
の透き通った声が部屋に響き渡る。
「昨日も晴れ」
「どうしたの?椿ちゃん。随分楽しそうじゃない?」
ベッドメーキングをしていたは、少女の独り言に笑みを漏らす。
「楽しいよ?だって明日は・・・・。ね?」
ニィッと白い歯を見せ、何かを待ち焦がれるように目を輝かせる。
は「なるほどね」と納得し、どこか遠くを見つめるを見た。
はきっと気付いていないのだろう。
今、自身が年相応の少女のように笑っていることに。
いつも笑ってはいるが、16歳とは思えないほどどこか悲観的なが、“明日”が来ることを待ち望んでいる。
親同然で育ててきたには、娘のような存在のの心の変化に喜ばずにはいられない。
―――この子だって、本当は学校へ通って、友達や恋人を作って、幸せに暮らす権利があるのだから。
「さん」
不意に呼びかけられ、はに見つめられていたことに気付く。
止まっていた手を再び動かし、は笑いかける。
「なぁに?」
「・・・・・・・お願いがあるんだけど・・・・いいかな?」
の指はもう金貨を弾いていない。
変わらぬ笑顔をに向ける。
はの言葉を聞き逃さぬよう、耳に神経を集中させる。
の口が紡いだ言葉は、には予想外のものだった。
「・・・え・・?椿ちゃん・・・でも・・お金が・・・・」
はベッド脇のサイドテーブルの引き出しに手をかけ、小さな声で呪文を唱えた。
カチャンという音を立てて、引き出しの鍵が開く。
中からは、金属の擦れ合う音が響いてくる。
「これ。使っていいから」
は引き出しに手を入れると、中のもの一握り分をに渡した。
鈍く光る、大量のガリオン金貨。
「・・・・椿ちゃん?でも・・・これは・・・」
が使うことを許されている、数少ないお小遣い。
娼婦たちは、僅かな小遣いで好きなものを買うため、大切に貯金している。
だがは悪戯っ子のような笑みを向ける。
「いいの。私のお金だもん。ね?お願い」
は早く早くとを捲くし立てる。
は最後にもう一度だけ念を押したが、のお願いは全く揺るがないので諦めることにした。
「・・・・わかったわ。今日中じゃないとまずいのね?」
「うん!明日、着て行きたいから。よろしくね、さん」
満面の笑みを浮かべ、はを見送った。
閉じた扉に、しばらく手を振っていた。
静かになった部屋に一人になり、は再び窓の縁に座り込む。
暖かい日の光がガラスを通してに注ぎ込む。
その穏やかな陽光を浴びながら、少女は胸元のボタンを2、3外す。
日に焼けていない真っ白な肌が姿を現す。
自分の胸に視線を落とし、空色の下着を少しだけ下にずらすと、そこには小さな赤い鬱血の花が咲いていた。
「・・・・・よかった。まだ付いてる」
その印を確認し、は愛しそうに微笑む。
そっとそこに指を這わせた。
最初に付けられた印はもう消えてしまったが、印が消える頃に彼は訪れて、また新しい印を付けてくれる。
出合った頃は頬に触れるだけで拒絶されていたのに、今では互いの体に印を刻むまでになった。
そしてその印の位置も、次第に下へと降りてきている。
だがにとってそれは不快なものではなかった。
彼は知らないが、彼の冷たい手で触れられ、薄い唇でなぞられる度に、の体は歓喜で打ち震えていた。
決定的なことなど何もしていないのに、彼に触れられるだけでの中心は濡れてしまう。
他の客ではありえないことだった。
彼の存在は何だろう?
兄弟―――ではないと思う。彼に保護感は抱かない。
友達―――ここに引き篭もっているにはわからないが、普通、友達と体に触れ合ったりするものなのか?
客―――そう考えるのが妥当だろうが―――それはの中の何かが全面に否定する。
彼に金で買って欲しくない。
では彼の存在は何だろう?
コンコン!!
突然扉がノックされ、は慌てて衣服の乱れを直す。
業務用の平静さを装い、透き通る声で扉の向こうに声をかける。
「はい。開いてますぉ」
が窓辺から降りるのと同時に、扉が開かれた。
そこには一人の男性―――装いから考えれば、紳士とも言える中年の男が立っていた。
とてもこんな場所には似つかわしくない男は柔和な笑みをに―――椿に向ける。
「やぁ、椿。久しぶりだね」
世の女性が聞き惚れそうなほど美しいアルト声で挨拶する。
その声に、その姿に、の笑顔が一瞬で凍りつく。
微動だにできない。
背中を冷たい汗すら流れない。
の変化に気付かない男は、部屋に入り、優雅な仕草で扉を閉める。
変わらない穏やかな笑顔をに向ける。
男は着ている高級そうなコートと帽子を取り、ベッドに投げ出す。
「ここのところ仕事が忙しくてね。構ってやれなくてすまなかったね」
どんなに穏やかな笑顔を向けようと、どんなに紳士的に振舞おうと、この男の目的は結局他の男と一緒。
日の光で、は凍りついた笑顔を解し、無理矢理自然な笑顔を向ける。
印がついているであろう胸元をギュッと握り締めた。
声が震えないよう、いつもの自分を保てるよう、薄布の下の赤い印にすがる。
「いらっしゃい。さん」
窓の外には、清々しいくらいの青い空が広がっている。
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