ドリーム小説
Pain
【名】苦痛,苦悩;悲嘆;痛み
【動】苦痛を与える;苦しむ
私たちは猫。
大きな2匹の猫。
高貴な黒猫と寂しい白猫。
体を摺り寄せて、喉を鳴らして。
互いの爪で相手を傷つけぬよう、指を絡ませて。
唇を押し付けあって、ぬくもりを分かち合う。
“好き”と言う代わりにひたすら鳴いて。
鳴いて。
鳴いて。
泣いて。
あなたを忘れないように。
うわごとのようにあなたの名前ばかりを呼び続ける。
椿姫 pain 4
真っ白なシーツに包まれて眠りに落ちて。
目が覚めると、目の前に愛しい少年の寝顔があった。
一週間寝る間も惜しんで本を読み漁ったからか、はたまた情事の後のせいか、セブルスの
顔には疲労の色が濃い。
余程疲れが溜まっていたのだろう。
いつも他人の気配に敏感なセブルスが一向に目を覚まさない。
「起きないでね・・・?」
自分を抱きしめる細くもしっかりした腕から抜け出て、額にかかる彼の黒髪を払って一つ
口付けを落とした。
「きゃっ・・セブルス君っ」
セブルスは微かに身じろぎするもそれでも目を覚まさず、腕の中から抜け出たをもう
一度閉じ込める。
それが無意識の行動である証拠に、セブルスの口からは規則的な寝息が聞こえてくる。
まるで独占欲の強い子どものようでは口元を緩める。
眠りに落ちたときに繋いだ手もそのままで、一向に離してくれる様子もない。
彼に縛られているという事実に安堵し、は体の力を抜いた。
薄くも自分よりも強い胸板に頬を寄せ、セブルスの鼓動に耳を傾ける。
トクトクという規則的な音が心地いい。
生きている。
ただただ生きている。
そんなあなたのそばにいることが嬉しい。
「愛してる」
聞いていないとわかっていても言葉にせずにはいられない。
言葉にしないと破裂してしまいそうな想い。
「ずっと・・・一緒にいたいよ」
ただそれだけなのに。
それ以上は望まないのに。
どうして許されないの。
桜にはあぁ言ったけど。
一番わかっていないのは自分だ。
「傍にいたい・・・・・離れたくない」
言葉が雫となっての頬を伝う。
静かに一筋、雨がの頬を、セブルスの胸を濡らす。
留まれる時間も残り僅かになり、は手早く身支度を整え始めた。
シャツのボタンが一番上一つ残して止められたのを確認して桜はの首にネクタイを巻
きつける。
「なんか僕よりタイ結ぶの上手くなっちゃったね、桜ちゃん」
「そうかなぁ?」
口ではそう言いつつもに褒められたことが嬉しくて桜の頬は桃色に染まる。
それでもテキパキと手を動かし、緑と銀のストライプのタイを綺麗に結び上げた。
「はい、できあがりです」
「ありがと。桜ちゃん、いいお嫁さんになるよ」
お礼にとは桜の頬にキスを落とす。
だが桜からは何の反応も返ってこない。
いつもならくすぐったそうに身を捩るのに。
「桜ちゃん?」
不思議に思って桜の顔を覗きこむ。
自分より低いところに位置する小さな顔は、とても悲しげだった。
「桜ちゃん?」
「・・・・・誰の?」
耳をそばだててやっと聞こえるくらいの小さな呟き。
それでもは聞き逃さなかった。
そして桜の呟きが意味することも瞬時に理解する。
今にも泣きそうな少女の姿に、は思わず桜を胸の中に抱きしめていた。
強い腕の中に抱かれながら、桜は自分の呟きを後悔していた。
何を言っているのだろう。
自惚れてはいけない。
自分の身分を忘れてはならない。
自分は男に体を売って生き繋ぐ、矮小な存在なのだ。
「ごめんなさい・・・・・ごめんなさい、さ」
「俺が知ってる奴なんだけど」
小さな謝罪の言葉を遮るように放たれたの言葉。
腕の力を少し緩められ、桜はそっと上を見上げる。
いつものようににんまりと笑うと目が合った。
「・・・さん?」
「家の次男坊とかどう?ちょっと風来坊だけどそれなりにいい男よ。金
髪碧眼。あ。あと占いが得意」
それが誰を意味するか。
桜には一人しかわからない。
自然と桜の頬を涙が伝った。
「・・・ばか」
冗談だとしても、それは桜にとっても幸せをもたらす言葉以外の何でもない。
「どうせ俺バカだもん」
「きゃっ!」
ふてくされたようなの言葉が聞こえるやいなや、そのまま勢いつけてベッドに沈み込
まされた。
「んっ・・・」
塞がれた唇の隙間から漏れる声に、もう悲壮感は混じっていなかった。
ただそれとは真逆の想いに満ちた涙が流れるばかりで。
「ねぇ、桜ちゃん」
不意に離された唇に空気が触れ、冷たいと桜は思った。
自分を見下ろす青の瞳が妖しく光る。
吸い込まれそうな、操られてしまいそうな魔性の瞳。
「俺のお願い・・・一個だけ聞いてくんない?」
さらりと落ちた髪も自分と同じ黄金。
肯定の頷きをするより早く、桜の唇は再び塞がれた。
セブルスとが階下に降りていくと、そこにと桜はいなかった。
マスターが相変わらずの仏頂面でが先に帰ったことを教えてくれた。
「相変わらず勝手な奴だ」
「そんなこといいながら、いつも一緒にいるじゃない?」
セブルスが本気で怒っていないことを見透かすようには薄く微笑む。
セブルスも観念したように苦笑を返した。
マスターに見えないように、セブルスはそっとの手を握る。
細く青白い少女の手を、傷つけないようにそっと包み込む。
もセブルスにしか聞こえないくらいの声で囁いた。
「あと一回・・・・・来てくれる?」
見つめる先には笑顔があるが声には若干の憂いが帯びている。
の不安を少しでも消し去ってやりたいとセブルスは空いている手をも細い手に添えた。
「当たり前だ。きっと拒まれたとしても来るだろうな」
そう言って左の薬指を緩く撫でる。
ふとよぎる暖かさにの頬が自然と綻ぶ。
「待ってる・・・」
どちらからともなく離された手。
絡まりあった指先が解かれていく。
最後まで触れ合っていた指先のぬくもりが薄れていく。
そして静かに百花楼の扉は閉まった。
一週間後に再びこの扉が開くことを願って、は静かに背を向けた。
また独りの一週間が始まる。
気を引き締めて顔を上げると目の前には浮遊する白煙の渦。
「こほっ」
小さく咳をすると白煙は霧散して消えていく。
チラリとカウンターに目を向けると無骨な男が一人宙に視線を泳がせて煙管を咥えていた。
「椿よぉ」
「・・・・・」
「あと・・・一回だな」
通り過ぎようとするに不意に言葉がかかる。
思わず足を止めた。
そのままその場に立ち尽くす。
プカリとまた白煙が吐き出された。
「・・・・・わかっています」
「十日後には様に身請けされることもか?」
「・・・・・・・・・・はい」
「あぁ。ならいい」
決して望んでいない返事。
感情を押し殺して器械人形のように頷く。
早くこの場を立ち去りたい。
でもの足はなぜか動かない。
「ごほっ・・・・ぅっ」
煙は消えていったのになぜか咳が出た。
乾燥しているからだろうか、喉が痛いと感じた。
そんなに気にした様子もなく、マスターはまた煙を吐く。
「行っていいぞ、椿」
マスターの言葉に、の金縛りが解ける。
ただの忠告だったのか。
自分の飼い主に一つ丁寧にお辞儀をすると、は静かに部屋へと戻っていった。
残された男はカウンターに肘をつき、また煙を吐き出した。
霊体のようにフワフワと天上目指して昇って行くそれを眺め、男は静かに目を閉じた。
遠くで階段の木が軋む音がする。
扉が同じように軋みを帯びて開く音がする。
世界に蓋をするようにパタリと閉じる音がする。
男はゆっくりと咥えていた煙管を外した。
暴言と煙ばかり吐き出される口が、ゆっくりと動く。
「・」
紡ぎ出された言葉が霞みの如く消えていく。
痛いくらいの沈黙が流れる。
「見てんのか?椛よぉ」
誰に言うでもなく空に吐き出される言葉。
黄昏前の百花楼に沈黙が流れる。
「にあの男と坊主を会わせたのは・・・おめぇなのか?」
沈黙。
沈黙。
「そんなにの幸が憎いか?」
沈黙。
誰も答えやしない。
「どんだけを・・・・・楓を苦しませれば気が済むんだろうなぁ、おめぇは」
煙管をぶつける音が沈黙を打ち砕く。
どこかで、誰かが、笑った気がした。
店を出るとが壁に寄りかかっていた。
瞑想するように目を閉じているに、セブルスは溜め息を漏らす。
「何をしている、」
単調なリズムで声をかけると、はゆっくりと目を開けた。
揺れる波のような青の瞳。
たった今別れたばかりの少女と同じ色の瞳に、セブルスの胸が微かに軋む。
「待ちくたびれたぞ、セブルス」
「こんなところでぼぉっとするな。浮浪者に狙われると言ったのはお前だぞ」
視線だけを辺りに巡らすとボロボロの衣服を着た子どもの群れが2人に目を向けていた。
ローブを翻し、セブルスとは足早に裏街を抜け出した。
表の街に出ても、しばらく2人は無言で歩き続けた。
高かった太陽がだいぶ西の空へ傾いていた。
2人の少年の影を長く伸ばす。
凪いでいた風が2人の間を吹きぬけた。
そのうちがふと口を開いた。
「なんかさぁ、セブルス。お前・・・桃の匂いしねぇか?」
「は?」
突然すぎる友人の言葉にセブルスは顔をしかめた。
「だから、桃。ちょっとだけだけど」
そう言われてセブルスは自分の腕を鼻先に近づけた。
「・・・・・」
が言っていることは間違いではなかった。
ほんの少しだがセブルスの鼻腔をくすぐる果実の香り。
どこかで嗅いだことのある香り。
何も言わないセブルスには察しがついたのだろう。
一人ニヤニヤ笑いを浮かべる。
「誰かさんの残り香かね」
「・・・うるさい」
セブルスが渋い顔をすればするほどは楽しげに笑う。
「マルフォイさんなんかに気付かれたらうるせぇぞぉ」
「・・・・・」
気付かれたときのことを予想し、セブルスの顔は更に渋くなる。
はケラケラと笑う。
「黙っててやるさ。だからさ、ちょっと付き合えよ」
「・・・またか。お前に付き合うとろくなことがない」
「え〜?んなことねぇだろ」
憎まれ口を叩きながらもセブルスの足はの後についていく。
そのままは手近な宝石商へと入ろうとした。
店先で止まってふとセブルスの方を振り向く。
セブルスとは違う、輝くような金髪が揺れる。
太陽の光を受けたそれは、僅かに銀色に見えた。
青い瞳が細められる。
似ているはずなどないのに。
「俺は楽しいけどなぁ、お前といると」
スリザリンらしからぬ無邪気な笑顔。
自分には一生できないであろう太陽のような笑顔。
「そうか」
「おぅ!楽しい学校生活だ。お前に会えてよかった」
それだけ告げては店に足を踏み入れた。
何気ない言葉に、セブルスの心がどくりと脈打ったことも知らずに。
の姿が愛しい少女にかぶる。
無邪気すぎる彼の言葉が、いつまでもセブルスの頭の中をリフレインする。
畳んだ洗濯物を抱えては部屋の前に立ち止まった。
ノックをしようと手を持ち上げた瞬間、中から咳のような音が漏れ聞こえた。
「椿ちゃん?風邪引いたの?」
小さくノックをした後、は控えめに扉を開けた。
部屋にはが一人。
いつもの窓際に腰掛けて、口元に手を当てていた。
「さん。・・・ん。なんか・・・喉熱くて」
そう言っては2,3度咳をする。
「気分はどう?何か欲しいものある?」
心配そうに表情を崩すに、は柔らかな笑顔で丁重に断った。
「ちょっと気持ち悪いし・・・今はいいよ。ありがと、さん」
「そう?何かあれば呼んでね。今夜はもうベッドについた方がいいわ」
の忠告には笑顔で手を振り答える。
に気を使ってか、開けられたときと同じように扉は控えめな音を立てて閉じられた。
の足音が徐々に遠ざかっていく。
途中誰かと話をしていたようだが、聞きなれた足音はゆっくりと階下へと進んで消えてい
った。
それを確認してはどさりとベッドに倒れこんだ。
重力に逆らう余裕もないほど勢い良く倒れ、スプリングがギシギシと軋む。
「ごほっ・・・・・・熱・・」
細い喉に手を当てると、焼けた石のような熱さが伝わってくる。
「だるい・なぁ・・・・・げほっ」
何か飲みたいと思うも、水を取りに行くことすらつらいと体が言う。
部屋を照らす灯りすら太陽のように眩しくてゆっくりと目を閉じた。
瞼の奥で光と影がマーブル模様を作り出す。
それに引きずられるように頭が割れそうなほど痛み出す。
また一つ咳をすると、今度は吐き気も込み上げてきた。
ベッドに顔をうずめて息を殺す。
(苦しい・・・)
最早声にならない悲鳴をあげ、は必死に苦痛を抑えようとする。
風邪なんかじゃないと私の中のわたしが言う。
こんな苦しみかつて経験したことはないけれど。
自分の体は普通じゃないとわたしが言う。
この苦しみは消えないのだと誰かが叫ぶ。
再び扉をノックする音が聞こえて、は緩慢な動作で視線だけを扉に向けた。
「だれ・・?」
必死に絞り出した声は乾燥してガラガラにしわがれていた。
ゆっくりとした音を立てて扉が開く。
「椿ちゃん・・・いる?」
視界の端に微かに薄紅色の花が見えた。
花の主はベッドに倒れこむを見て小さな悲鳴を上げた。
「やっ・・・椿ちゃんっ、大丈夫っ!?」
聞きなれた少女の声が耳に入ってくる。
「桜・・・ちゃん?」
咳き込みながらなんとか少女の名前を呼ぶ。
だがそれが精一杯で、はそのまま視線を伏せた。
桜がの傍に駆け寄ってくるのが足音でわかる。
ギシリと音がしたのはきっと桜がベッドに寄りかかったからだろう。
桜の心配そうな声が聞こえるが、もうその一つ一つを理解して返事をするのもつらい。
は目を閉じ、桜に悪いとは思ったが今は一人にして欲しいと言おうと口を開いた。
焼け付く喉に空気が流れ込む。
ひりひりと喉に痛みが走る。
紡ぎ出そうとした言葉は遮られた。
が口を開くより早く、の耳に新たな声が聞こえてきた。
『苦しかろう?』
桜の声とは違うその声に、また誰かが入ってきたのかと思った。
だが扉が開く音はしなかった。
その声はのすぐ耳元から聞こえてきた。
まだ何とか正気を保つ脳が、声の主がすぐ横にいることを知らせた。
でも自分の横にいるのは自分と同じくらいの歳の少女だけ。
これが少女の声であるはずがない。
こんな。
こんな、何十年も声を発していないようなしわがれた老婆の声が。
『苦しかろう?早く楽になりたいだろう?』
声の主と目が合ってしまった。
桜の青い瞳が妖しく光る。
の頭が否定する。
これは桜じゃないと。
だがそれ以上のことに頭が回らない。
『案ずるな。一週間でその苦しみとも別れられる』
それが何を意味するのか。
にはわかってしまった。
勘のいい自分を本の少しだけ恨めしく思う。
そして同時にわかってしまったこと。
今目の前にいる未知の者が何であるか。
自分の生い立ちを聞かされたときのことを思い出す。
聞いたその瞬間から忘れようとしたその存在。
忘れてしまえばいい。
忘れてしまえばきっと何事もなく終えられる。
こんな未知の存在を目の当たりにすることなく人生を過ごせる。
そう思い続けてきた。
運命になんか逆らえない。
時が来たら自分は未知の存在に怯え、負けるのだろう。
そう思い続けてきた。
でも出会ってしまった。
彼に出会ってしまった。
強い彼に出会って自分は変わった。
変われた。
もう流されたりしない。
運命に流されたりしない。
あらがってみせる。
それがどんな存在であろうと。
「私は・・・・・あなたの呪いになんか、負けたり・・しないから」
一つ言葉を紡ぐたびに、喉を針で刺されたような痛みが走った。
の強い視線を受けて、それは薄く笑った気がした。
『好きなだけあらがえ、娘よ』
脳の奥に響き渡る妨害電波のような声。
壊れたオルゴールのような声。
『最早試練を与えるまでもない。お前の涙の結晶はとっくに流れてしまっている』
不敵に笑うそれに、はただただ眼光をぶつけた。
嘲笑うようなそれの言葉に、だが最早言い返す気力はほとんど残っていなかった。
睨む先には妖しく光る青の瞳。
『直にお前の中の大切な者の記憶も消えていく』
流れるような旋律での耳に届く。
残酷な言葉。
信じたくない言葉。
驚愕に見開かれたの瞳をそれは楽しげに見返す。
『もう十分に幸せな時間を過ごしたのだろう?ならばもう忘れろ』
の中の何かが弾けた。
風も吹かぬ室内で、の白銀の髪がざわりと浮き上がる。
震える細い手を力いっぱい握り締める。
忘れる?
誰を?
何を?
彼を?
彼と過ごした時間を?
全てなくなってしまうの?
(嘘・・・・そんなの・・・嘘、だよ)
声にならない想いを胸の中で幾度も反芻する。
『お前は助からない。お前の王子様も助けに来ない。お前は生まれてから死ぬまで独り。
・・・・・そういう運命だ』
魔女が笑う。
少女の想いが弾け飛ぶ。
全てを振り払うかのように首を仰け反らせて叫んだ。
白銀の糸が揺れる。
瞳に浮いた涙が数滴宙に散った。
「そんなの・・・そんなの嘘だよっ」
想いを全てぶつける。
少女の全身全霊の叫びに答えるかのように、2人の背後にそびえる窓ガラスが粉々に割れ散
った。
夜の街のネオンを受けて破片がキラキラと光り輝いて舞い落ちる。
いつもが腰掛けていたお気に入りの窓辺。
彼の訪れを薄いガラス越しに待ち侘びていた。
全てが崩れていく。
全てが。
その音を聞きつけて廊下を荒々しく走り誰かが部屋に近づいてきた。
手早く2度ノック音が聞こえて勢い良く扉は開かれた。
「どうかしたのっ!?」
騒音に血相を変えて飛び込んできたの目に映った壮絶な光景。
倒れ付す白銀の少女にの瞳が見開かれる。
「っ!!」
呼ぶことは禁止されていたのに、咄嗟に出てしまった少女の名。
の呼びかけに2人の少女は同時に振り向いた。
の名しか呼んでいないのに、なぜか桜も振り向いた。
まるで自分のことのように振り向いた。
双方、自分を呼んだを見つめる。
ベッドに横たわる白銀の娘。
その娘の横に立つ黄金の娘。
2人は同じ色の瞳を携えていた。
自分を見つめる4つの青い瞳にの背中を汗が伝う。
黄金の娘がにたりと笑った。
桜の笑い方じゃない。
あの時見た、赤子の笑い方。
は自分の奥歯がカチカチと音を立てるのを止めることができないでいた。
「・・・さんっ」
「っ・・っ!!」
それでも白銀の娘が手を差し伸べているのを見ては正気に戻った。
急いでベッドに駆けつけを抱き起こす。
細い髪が汗だくの額に張り付き、瞳の輝きが薄れていた。
軽い体を抱いてベッドにしっかりと寝かせた。
その瞬間、後ろで何かが倒れる音がしては振り向いた。
「さ、桜ちゃんっ!!」
黄金の髪を床に散らして桜はぐったりと倒れこんでいた。
全く動かない2人の少女を前に、は階下に救助を求める。
そしてひたすらの名を呼び続けた。
NEXT
BACK
DREAM
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送