ドリーム小説
Pain
【名】苦痛,苦悩;悲嘆;痛み
【動】苦痛を与える;苦しむ
たった1週間の間に何があったのか。
はその全てを話してくれた。
がもうすぐ身請けされること。
引き取られたら、きっともう会えないこと。
最高位の座を剥奪されたこと。
今日を入れて後3回しか会うことを許されていないこと。
そしてもう一つ。
自身の出生の秘密。
彼女の体を蝕む呪いが、いずれを死へと追いやろうとしていること。
淡々とした口調で全てを話し終えたの姿は。
ひどく痛々しかった。
椿姫 pain 2
が全てを話し終えるやいなや、セブルスは有無を言わさずを抱きしめた。
話をしている間は触れないで欲しいとは言った。
その理由がすぐにわかった。
抱きしめた小さな体は、どうしようもないほど震えていた。
きっと話をしているときに抱きしめられたりしたら、弱い自分を保てなかったのだろう。
話の最初から最後までずっと笑っていたを思い出して、この小さな少女の内に秘めら
れた強さにセブルスは改めて心を打たれた。
「」
「・・・ありがとう」
抱きしめた少女が弱弱しい声で感謝の言葉を告げる。
感謝される理由がわからず、セブルスは口を閉ざした。
「・・・礼を言われるようなことは」
「全部、黙って何も言わずに聞いてくれてありがとう」
安心したようにはホゥと溜め息を吐く。
「全て晒けだした惨めな私を、こうして抱きしめてくれてありがとう」
「だから礼など」
“いらない”と言おうとして視線を向けると、そこには変わらず笑うがいた。
ただその笑顔があまりにも痛々しくて。
「何が可笑しい?」
そう聞いても、は無邪気に笑う。
「だって、恋をしたら死んじゃう呪いだよ?そんなの、普通信じてもらえるわけ」
そう言ってはどこか自嘲気味に笑う。
その姿があまりにも痛々しくて、セブルスはそれ以上何も言わせまいとを抱きしめる
力を強めた。
「セブルス君、痛いよ」
「そんなふうに笑うな」
不意の真剣なセブルスの声に抗議するの口が閉じる。
「・・・・セブルス君」
「僕はを信じている」
「・・・・・」
「そんなふうに笑うな。そんな・・・何もかも諦めたような笑い方するな。には似合
わない」
夢中でそこまで告げてやっとが痛がっていることに気付き、セブルスは強めていた腕
の力を弱めた。
「すまない。つい自分を忘れて」
「・・・・・」
「・・・?」
俯いて何も言わない少女に、セブルスは優しく問いかける。
泣いているのかとそっと小さな肩に手を置くも、もう震えは伝わってこない。
「?」
もう一度名前を呼ぶと、こつんとセブルスの胸に頭を預けてきた。
綺麗な銀糸がふわりと揺れる。
「いいのかな・・・」
それは注意して聞かなければ聞き漏らしてしまいそうなほど小さな声。
「私・・・あらがっていいのかな。運命に」
誰に訊いているともわからない口調で、は呟く。
「神様が決めた運命に逆らったって、どうにもならないと思ってた」
それが自然の摂理なのだと。
捻じ曲げてはいけないものなのだと。
「素直に受け入れるしか、私にはできないと思ってた」
自分はそんな特別な存在じゃない。
神聖なんて言葉とは一番縁遠い存在だと思っていた。
“でも”
心の底から湧き上がるこの感情には逆らえない。
素直に受け入れたい。
「でもやっぱり私・・・・・私、生きたい」
小さな小さな叫び。
何度発してもすぐに消えていってしまう小さな叫び。
それでもその声は目の前の人には届くと信じていた。
「生きたいっ・・・・生きて、君と一緒にいたいよっ」
小さなの精一杯の叫びがセブルスの体を貫く。
の魂の叫び。
受け止めてやらなければとセブルスは自分に体を預ける少女を力いっぱい抱きしめた。
窓から注ぐ太陽の光が2人を包み込む。
暖かな橙の光は、2人の僅かながらの思い出を呼び起こす。
「“生きてさえいればまた会える”。この間・・・そう言ったっけね」
僅か1週間前の酒場での記憶を呼び起こす。
閉じた瞳の奥で、はあのときの立ち去っていくセブルスの背中を思い出していた。
その言葉に呼応するように、後ろから抱きしめたセブルスの腕に力が篭る。
「“迎えに行く”と僕は言った」
首筋にかかる彼の吐息に、は笑いながらもくすぐったそうに身をよじる。
逃げないように捕まえて、首筋にキスを落とす。
「どんなことが起ころうと、生きてさえいればいつかまた会える。私はそう思うよ」
「あぁ。僕もだ」
指に絡めた細い銀の糸がするりとセブルスの指の間を抜けていく。
何かを確かめ合うように、一つ一つ唱えていく。
「離れていても、私の心はいつも君の傍にいるよ」
「あぁ。僕だって同じだ」
彼の言葉、その一つ一つがの心を満たしていく。
ゆっくりと振り返れば、愛しいものを見つめる優しい黒い目とぶつかる。
言葉なんて要らない。
そっと重なる唇から互いの温度を分かち合う。
今以上の幸せなんかない。
このままこの幸せが続けばいいのに。
無理だとわかっていても願わずにはいられない。
「生きてさえいれば、離れていても君を傍に感じられる。でも・・・」
続きなんて言えやしない。
言葉にしてしまえば、たちまち恐怖に押し潰されてしまう。
「。こっちを向け」
が続けられない言葉は、だからセブルスが飲み込む。
腕での体を包み込む。
広げた心での心を包み込む。
重ねた唇での不安を飲み込む。
「死ぬなんて・・・絶対に言うなよ」
「やだな。言わないよ。私・・・生きたいもん」
無理矢理笑顔を作るも、深海のような深い青の瞳は揺れる。
不安の波はまたすぐに押し寄せてくる。
「望みを捨てるな。生きてくれ。僕が・・・・・僕が必ず助けるっ」
少女の小鳥のような細い指に絡めた手に力をこめる。
どんなことがあろうと決して解けぬよう、強く強く繋ぎあう。
その日から、セブルスは数分の暇さえあれば図書室に足を向けた。
朝も、昼も、夜も。
にかけられた呪いを解くため、広大な図書室に散らばる様々な呪いの書を読み漁った。
寝る間も惜しんで分厚い蔵書を読み漁った。
に残された時間がどれだけあるのかはわからない。
1冊の本を隅から隅まで読む。
解決策が見つからないまま無駄になった本が机に積み重なっていく。
冊数が増えれば増えるほど、セブルスの不安も増していく。
日が経てば経つほど、恐怖が膨れ上がっていく。
考えてはいけないのに、考えたくなどないのに、最悪の結末が脳裏をかすめ、その度に震
える奥歯をグッと噛み締める。
「・・・・・・畜生っ」
自分の非力さを呪う。
それでもその度に愛する少女のことを思い起こし、自分を奮い立たせた。
今もあの小さな少女は、震える体をかき抱いているに違いない。
押し潰されそうな恐怖に一人で耐えているに違いない。
「助けるっ・・・・・絶対に助けるっ」
何度も自分に言い聞かせる。
呪いをかけられた少女。
魔女に呪いをかけられた少女。
一人の男性を好きになると死ぬ呪い。
少女を助ける詩。
ふと、どこかで聞いたことがあると思った。
それほど昔でもない。
それはつい最近の記憶。
だが記憶違いだと思おうとした。
そんな少女たちが口にする御伽噺のような。
・・・・・・・・・・・・御伽噺のような。
「・・・・・・・・まさか」
そんなことありえるはずがない。
セブルスの脳がその非現実な考えを全否定する。
これだけ高等な呪いの書を読み漁っても見つけられなかった呪いが、まさかそんな本に。
セブルスの頭が否定する。
だが頭の隅に、微かな光が指す。
ありえないなんてことはありえない。
無駄足で終わるかもしれない。
糠喜びで終わるかもしれない。
それでも少しでも光があるならと、セブルスはもう一度図書室の奥へと足を向けた。
“ありえないなんてことはありえない”
図書室の奥の奥。
いつか見た古めかしい本はまるで少年の訪れを待っていたかのように。
静かに硬質な床に横たわっていた。
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