ドリーム小説
Maple
【名】楓;糖蜜色
椿姫 maple 5.5
それは清々しく晴れた秋の午後。
外で元気に駆け回る生徒とは裏腹に、ひたすら屋内を好む者もいた。
見上げた天井は、最近通い詰める楼閣とは違ってとても冷ややかだった。
さっきまで自分の目には参考書が映っていたはずなのに。
それでやっとセブルスは自分が居眠りをしていたことに気が付いた。
のそりと起き上がると、ベッド下に参考書が落ちているのが目に入った。
「おはよ。セブルス」
とても聞き覚えのある声がした。
反対側に目を向けると案の定、ベッドに寝そべったがニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「・・・悪趣味だな。いつから見ていた?」
「あれ?王子様、ご機嫌斜め?」
「・・・誰がだ?」
「お前。セブルス王子」
聞き慣れない、耳障りでかつ自分には似合わない単語にセブルスは眉間の皺を寄せて抗議
する。
その顔に、は余計に楽しそうに笑う。
スリザリンには似つかわしくない無垢な少年の笑顔を向けながら、は自分の手の中に
ある本を掲げて見せた。
『フェアリーテール』
自分には似合わない、だがには似合いそうな寓話集にセブルスは興味なさそうに顔を
背けた。
「少しくらい興味持てよな。参考書ばっか読んでたら、石頭になるぞ」
「結構だ。お前こそ教科書の序章くらい読んだらどうだ?」
痛いところをつかれたらしく、は唇を尖らせてつまらなそうな顔をする。
それでもすぐに手中の本へと目を戻し、ペラリとページをめくる。
セブルスは落としてしまった参考書を拾い上げページを開き、再びそれに目を通し始めた。
だがさっきまでの集中力は得られず、隣でまた立てられたパラリという音に視線だけを向
ける。
不謹慎だとは思う。
だが、の金髪がランプで光って白銀に輝くのを。
の細い指がページをめくってその文字の羅列を深い青の眼が追うのを見ていると。
どうしても彼女を思い出してしまう。
彼女もこうして柔らかいベッドの上で本を読むのが好きだった。
「・・・・・・・どんな話なんだ?」
「は?」
参考書に没頭しているのだとばかり思っていた友人に声をかけられ、は何とも間抜け
な声を出してしまった。
顔だけをぐるりとセブルスの方へ向けると、参考書に付箋をはさみ、の方に顔を向け
ているセブルスと目が合った。
「『フェアリーテール』。・・・どんな話なんだ?」
「・・・・どしたの?セブルス?」
まさか本当に興味を持つとは思っていなかったため、は複雑な顔をする。
セブルスはこんなつまらない書物を読む自分をからかっているのだろうか。
だがセブルスの顔はをからかっているものではない。
セブルスは本当にの読む本に興味を覚えた。
以前の彼なら想像すらできないことだ。
セブルス・スネイプが勉学以外の本に興味を持つなど。
ホグワーツでの幼馴染ともいえるにはわかっていた。
セブルス・スネイプが、彼の本質が、何らかの変化を迎えたことを。
そしてそれは・・・・・自分がホグズミードに誘ったあのときからだということに。
「・・・・・オーケー。ただし俺も全部読んでないからさ。教えられるのはこのページま
でな。お楽しみは取っておかなきゃ」
楽しそうに口端を上げるに同意するように、セブルスはと同じようにベッドに寝
そべった。
の手が古めかしい本のページをパラパラとめくっていく。
『さぁ。甘くもの悲しいおとぎの世界へ』
『フェアリー・テール』
昔々 悲しい運命を背負った王女様がいました
王女様は生まれたときに悪い魔女によって呪いをかけられてしまったのです
魔女は言いました
もし王女様が一人の男性を好きになったら
王女様は呪いによって死ぬだろう
王様と王妃様は王女様を離れた塔に住まわせました
ただし年に一度の誕生日だけは外に出ることが許されました
王女様はとても美しい少女に成長しました
王女様は14歳の誕生日に森の湖で遊んでいました
そのときです 突然木の陰から誰かが現れました
それは隣の国の王子様でした
狩りの途中で道に迷ってしまったのです
2人は一瞬で恋に落ちました
王様はこのことを知りすぐに2人を引き離しました
しかし時すでに遅く 王女様に魔女の呪いがかかっていました
王女様はどんどん弱っていきました
このままでは王女様は死んでしまいます
そこで王様は隣国から占術師を召還しました
占術師は言いました
王女様を助けられるのは王子様だけだと
そしてある新月の晩に占術師は歌を詠みました
『日が沈み 月が昇る
火が灯り 水が流れる
木が萌え そして金色の実をつける
土に埋めよ また日は昇る』
王子様は歌を頼りに王女様を助ける旅に出ました
王子様が持っていったのは一振りの剣と一粒の石のみ
それはずっと前に王女様から受け取った宝物
それはとてもとても過酷な旅でした
待ち受ける魔女の罠を潜り抜け
たったの5日で王子様は身も心も傷ついていました
果てしなく広い荒野に打ち捨てられ
王子様は絶望に目を閉ざしました
王子様は夢を見ました
それは淡く懐かしくも愛する人の夢
夢の中で王女様は言いました
「はい。ここまで」
「・・・・・どうしてお前はそういう中途半端なところで終わらせるんだ?」
「最初に言ったっしょ?俺も全部読んでないの。後はお楽しみ」
「・・・・・・」
納得いくようないかないようなことを言われ、セブルスは苦い顔をする。
はそんな彼の顔を見て、ひどく楽しそうな笑みで返す。
意地悪な幼馴染だと思った。
こういうところだけはスリザリンなのだな、と。
話の続きを聞くのをあきらめ、セブルスはもう一度ベッドに横たわった。
スプリングが利いてギシリと音を立てる。
不謹慎だとは思う。
それでも何気ないその音で、あの場所を、あの部屋を、彼女を思い出してしまった自分を
軽く叱咤する。
何も思い出がそれだけではあるまいに。
(・・・・・どうしているだろうか)
ふと思い出してみる。
最後に会ったのはまだ最近。
わずか4日前のホグズミード。
自分と同じ格好をした彼女と村を歩き、互いの胸のうちをさらけ出し、わかれた。
(・・・・・)
目を閉じる。
瞼の裏には鮮明に思い出される彼女の姿。
夜の月のように光る銀髪とぬけるような白い肌は黒いローブにとても映え、柔らかく笑う
青の瞳は深海を思い出させる。
人を惹きつけてやまない容姿を持って生まれたのに。
生まれた場所さえ違えば。
もっと高貴な家にでも生まれてさえいれば。
一国を治める者のもとに生まれてでもいれば。
彼女が王女だと言っても誰も疑いはしないだろう。
(その前に・・・の生まれなど聞いたこともないがな)
目を閉じたことが、浅い眠りを呼び起こす。
このまま少し眠ってしまおうかなどと考える。
落ちゆく脳に、聞き覚えのある単語が飛び込んできた。
「王子」
ゆっくりと目を開ける。
顔を横に向けると、楽しそうに笑うが視界に入った。
「・・・なんだ?」
本を音読しているのかと思ったが、それは次に出たの言葉で否定される。
それはひどく自分に似合わない単語だった。
「セブルス王子」
「・・・・・やめろ。気色悪い」
が笑った。
青い眼を細めて笑った。
「おぉ!王子は大層ご機嫌麗しくないご様子」
「・・・・・」
変に演技くさい身振りで手を空中へ掲げ、はコロコロと表情を変える。
一人楽しそうな友人についていけず、セブルスは目を閉じて溜め息を漏らす。
が静かに笑った気がした。
「ねぇ、セブルス王子」
「・・・・・・なんだ?王子」
疲れた口調で、それでも少しだけ相手に合わせてやって返事を返す。
またが笑った気がした。
「椿姫を迎えにいかないのかい?」
彼女は君を待ってるよ。
彼女は今も泣いてるよ。
早く迎えにいってあげて、王子様。
それは清々しく晴れた秋の午後。
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