ドリーム小説
Kiss
【名】キス、接吻;接触;愛の言葉
【動】キスする;接触する
椿姫 kiss 2
あんなに快活に笑っていたのに、彼女の顔からそれは一瞬で消え去った。
確かに笑うなとは言ったが、こうも感情の起伏が激しいとかえって戸惑う。
自分はそんなにきつい言い方をしただろうか。
セブルスはチラッと椿の顔を盗み見た。
それはなんとも表現しにくい顔だった。
口元だけで笑っているのだが、恐らく心は笑っていない。
椿の触れられたくない部分に触れてしまったのかもしれない。
「・・・・・・・大丈夫か?」
気遣わしげに声をかけると、少女はまた元の笑顔に戻った。
「ん!なんでもないよ。あっ!紅茶。淹れ直すね」
それ以上何か言われるのを自分から拒んだのだろう。
セブルスもそれ以上、椿の心に入ってはいけないような気がした。
住む世界の違う2人には、どうしても共有できない部分がある。
椿は立ち上がると、セブルスがこぼした紅茶を片付けて、新しいものを淹れ直した。
セブルスがそれに口を付けたのを見て、椿は嬉しそうに笑う。
これからの長い時間をどう過ごすのか、セブルスは真剣に考えていた。
そしてふと気付く。
自分が、部屋に入ってきたときほど緊張していないことに。
自分はまだこの少女と少し口をきいただけなのに。
こうして客を安心させるのも業務用の技なのだろうかと思った。
「セブルス君は年いくつ?」
そんな他愛無い話が続く。
「16だ。・・・・・椿は?」
なんとなく名前を呼ぶのをためらわれる。
椿はそんなことを気にすることもなく、「一緒だよ」と言う。
それはセブルスを驚かせるには十分だった。
「・・・・・・・・16・・・なのか?」
「うん。もうすぐ17歳」
あどけない笑顔を向ける椿を、思わず凝視してしまう。
幼いなとは思っていたが、まさか自分と同じ年だとは思わなかったのだろう。
自分は魔法学校に通って、毎日勉強をする日々―――それが一般的な生活なのだろうが、自分と同じ年の少女は、学校にも行かず、普通とは程遠い生活をしている。
不思議な感覚に襲われる。
だがそれは同情とかいう安っぽい感情ではない。
それが何という感情なのか、セブルスが気付くのはもっと後になる。
それからも2人は他愛無い日常の話をした。
椿の願いで、ホグワーツでの生活、寮での生活、授業のこと、セブルス自身のこと・・・様々なことを話した。
それはセブルスにとっては何の変哲もない極一般的なこと。
大広間の天井は空を映し出すとか。
食事中に大量の梟が飛んでくるとか。
時間になると廊下の階段が動くとか。
学校内を幽霊が飛んでいるとか。
6年もホグワーツで過ごす彼にとっては何ら面白いことではない。
それでも椿は、セブルスの話の中の小さなことにも敏感に反応し、目を輝かせる。
その度にセブルスの心はホワッと暖かくなり・・・・・同時にチクチクと痛んだ。
この巨大な鳥籠の中で暮らす少女に見つめられる度に、少年の心は軋みを上げた。
あっという間に2時間は過ぎ去った。
セブルスは脱いでいたローブを羽織り、帰る準備をする。
そのときローブのポケットから何かが落ちた。
ハニーデュークスのマークの入った四角い箱。
行きがけにに渡されたチョコレートだ。
椿は箱を拾い上げ、楽しそうに笑う。
「ハニーデュークスのチョコだ!セブルス君、これ好きなの?」
目を輝かせているところからして、椿は甘いもの好きのようだ。
菓子の苦手なセブルスはそれを否定する。
どうせ持っていても自分では食べないのだ。
「・・・・・好きならやる。僕は甘いものは苦手だ」
ならばなぜ持っているのだとは言われなかった。
椿は嬉しそうに笑って箱を抱きかかる。
「ありがとう!チョコってあんまり買ってもらえないんだ。大事に食べるね!」
美容のために菓子は控えられているらしい。
そんなことまで制限されている少女を、セブルスはますます遠い存在に感じた。
時間ぴったりとなる。
セブルスは部屋のドアの前に立った。
長く短い2時間だったと、意味不明なことを考える。
もうここに来ることもないのだろうか。
ふとそんなことを考える自分がいた。
自分がここを訪れて、この少女に出会い、同じ時間を共有したのは全くの偶然なのだ。
偶然が2度続くことはない。
「セブルス君」
今日、何度目かの椿の呼びかけに、セブルスも慣れたように顔を向ける。
そこにはずっと笑顔を崩さない椿がいる。
業務的な見送りをするのだろう。
どこからか風が吹き込んだのか、椿の髪がサラリと揺れた。
胸元の赤い椿のコサージュを覆い隠す。
チョコレートのお礼を言われるのかと思った。
だが、彼女の口から出たのは全く違う言葉だった。
少女は笑顔で告げる。
「私のこと、“椿”って呼ばないで」
セブルスの薄い唇に、少女の柔らかな唇が重なった。
それは一瞬の出来事。
それは永遠のような感触。
微かに香る桃の香が、夢ではないことをセブルスに知らせる。
そのとき少女が囁いた言葉がセブルスの耳の奥でこだまする。
『。私の本当の名前。次からはそう呼んで』
セブルスが少女を花の名で呼ぶことはもうなかった。
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