ドリーム小説
Destiny
【名】運命,宿命;天,神意
私たちの出逢いはきっと偶然なんかじゃない
あなたを三本の箒で見かけたときから感じていたの
運命だと信じたい
私はあなたに会うために生まれてきたのだと
椿姫 destiny 4
目が眩むような太陽の光と空の青さ。
大地を滑り優しく頬を撫でる風。
木の葉のざわめきと鳥のさえずりが聞こえる。
静かに動く世界。
これは夢の中じゃない。
これが夢であるはずがない。
なぜならそこには。
見上げる先には、愛しい少女がいる。
出逢ったときと同じ淡色の中華服に身を包み、光る銀糸をそっと流す。
あのときと同じように、ホグズミードを背負って立つ彼女の姿がそこにあった。
「おかえり・・・セブルス君」
眩しい太陽の光に照らされて、は出逢った頃と変わらない笑顔を向ける。
痩せてしまった小さなカラダがあまりにも痛々しい。
塔に匿われた病弱なお姫様は、酷くご不満のよう。
「遅いよ、王子様。迎えに来てくれないから・・・来ちゃったよ」
そう言って、むくれたように頬を膨らませる。
何もかも変わらない。
どんなことがあろうと。
出逢った頃と変わらないその儚い姿に、セブルスは目を細める。
「呼びかけてくれたのは・・・君なんだな」
夢の中で聞こえた声。
その声に、自分は現実に帰ってこれた。
それでも一度は逃げてしまったことに罪悪感を覚え、セブルスはと目が合わせられない
でいた。
それでも、チクチクと痛む胸を包むように、透き通った声が聞こえてきた。
「呼んでたよ。いつだって・・・君のこと、呼んでた」
その言葉に顔を上げれば、壊れそうな青いガラスの瞳がセブルスを見つめていた。
その姿が、夢の中の少女を思い起こさせる。
透き通って霞みの如く消えてしまうのではないかと不安になる。
思わずの頬に手を伸ばした。
そっと触れれば、低くも心地いい体温を感じられ、安堵する。
溢れ出しそうな想いで胸がいっぱいになる。
「帰ってこれて、よかった・・・」
その青い瞳から目をそらさず、本当の想いを告げる。
「あのまま夢の中にいたら、きっと後悔していた」
セブルスの言葉のひとつひとつに、は嬉しそうに目を細める。
自分の頬に添えられたセブルスの手の上に、そっと自分の手を添える。
「ありがとう・・・・・」
零れ落ちた言葉に、は微笑みながらゆっくりと目を閉じる。
「私も・・・・帰ってきてくれて、ありがとう」
手を繋いで、芝の上に隣り合って座った。
目の前に悠然とそびえるホグズミードの街。
こうして二人で眺めるのは二度目。
そしてきっとこれが最後になることを、もセブルスも理解していた。
「ねぇ、セブルス君」
不意に名を呼ばれてセブルスは隣に顔を向けた。
そこには、寂しげな瞳で真っ直ぐ前を向いたままのがいた。
「どうした、?」
柔らかに呼び返せば、の瞳の中の寂しさは一層大きくなる。
繋げたの細い手に僅かに力が篭る。
「私ね・・・最後まで戦えなかった」
そう告げるの口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
それは完全に敗北を受け入れた者の顔だった。
「私、結構頑張ったんだよ?苦しいときもあったけど、でも負けたくなかったから」
真っ直ぐ前を向いたままのその姿が傍目にはとても凛々しく、そして美しく思えた。
“負けたくなかった”と告げたとき一瞬だけの瞳に力が込められたのをセブルスは見逃
さなかった。
だがそれも一瞬で、少女の瞳に前以上の陰がさす。
「でも私の抵抗なんて小さなもので・・・一度、セブルス君の記憶を全部消されちゃったの。
何もかも全部」
そう言って、ようやくはセブルスの方へと顔を向けた。
真正面から見たの瞳は蒼く、その奥は光のない深海のようだった。
「セブルス君の名前も。黒い髪や目も。眉間の皺とかも」
そう言ってはセブルスの眉間を小突く。
小突かれた眉間に、より一層皺を凝縮させるセブルスを見ては笑う。
「負けたくなんてなかった。それでもね、どうしても・・・君を忘れたくなかったの」
の言葉に反応するように、心地いい風が2人の間を駆け抜けていった。
ざぁっと全てを流すように吹く風に、痩せてしまった彼女の体が連れ去られてしまうのでな
いかと不安になる。
不安で仕方なくて、セブルスは繋いだ手に力を込めた。
そしてその指に、皮膚とは違う冷たい硬質な感触を覚え、セブルスは目を向けた。
繋いだの左手の薬指に、見覚えのある銀色の輪があった。
セブルスが見ているものにも気付き、照れたように僅かに頬を朱に染める。
「ちゃんと届いたんだな」
小鳥のように細い指を取り、そっと撫でる。
「ありがとう。これだけが支えだったの」
の目が愛しそうにリングを見つめ、細められる。
「記憶をなくしていたはずなのに、遠くにいるセブルス君の存在が近くに感じられたよ」
が本当に嬉しそうに笑うから。
が本当に大切そうにリングに触れるから。
それだけで嬉しい。
彼女が愛しいとセブルスは思った。
リングがその指に嵌められていることも嬉しさに拍車をかける。
「。何故薬指に嵌めたんだ?」
がその意味を知っているかどうかは定かではない。
彼女の答えは、ある意味セブルスの予想通りだった。
「あ、これはさんが。ここにしなさいって」
当たっていた自分の勘に、セブルスは細く笑う。
「その指に嵌めることの真意を知っているか?」
僅かに残る悪戯心からに問うと、小さな顔を数度横に振る。
楽しそうなセブルスにの好奇心も疼く。
教えてほしいとせがむ瞳に見つめられ、セブルスは握った手の指に力を込めた。
「僕が一生の傍にいるという意味だ」
誓いの指輪に秘められた心意。
それは少女の心を満たすには十分なもので。
蒼い瞳の奥が滲むには十分な理由で。
これ以上ない幸せ。
それでも、真意を知ってしまったからこそ湧き上がる寂しさもある。
「ありがと・・・・・・ごめんね、セブルス君」
「・・・なぜ謝るんだ」
少女の顔には嬉しさが映っているのに、滲む瞳の色には寂しさが見える。
の謝罪の意味がわからず、セブルスは不安になる。
自分を見つめるセブルスの肩に額を押し付け、は何度もその言葉を紡いだ。
「・・・ごめんね・・・ごめん」
あなたを置いて行ってしまう私を許してください
心地いい風が吹く。
澄んだ青い空の下。
輝く太陽の光と生い茂る木の葉の影が2人に降り注ぐ。
繋いだ手の平が熱い。
冷たいの体温が心地いい。
「前、ホグワーツのこと話してくれたよね」
「そう言えばそんな話もしたな」
「12月には、ダンスパーティーがあるんでしょ?」
「よく覚えているな」
「いいなぁ。綺麗なドレス着て、ワルツにのって踊るなんて」
「そうか?人も多くてうるさいだけだと思うが」
「セブルス君は踊らないの?」
「・・・なぜ僕が出なければならないんだ」
「嫌い?私は興味あるなぁ」
「・・・が出るなら、出てもいい」
「本当?」
が嬉しそうに笑うから
「あぁ。約束しよう」
「約束ね」
吹き抜ける風の音に耳を澄ませる。
揺する木の葉の音が耳に付く。
木の葉の影から差し込む光に目を細める。
目の前が白く霞む。
太陽の光の白さも。
繁る葉の緑も。
横にいる君の髪の黒さも。
白に包まれていく。
「魔法の授業にも出てみたいなぁ。魔法薬学って面白いの?」
「あぁ。僕の得意教科だ」
「じゃぁ、いつか教えてよ」
「難易度の高い教科だぞ?」
「いっぱい勉強するよ。君がびっくりするくらいね」
「本当か?」
「うん」
「では、そのときは僕の助手くらいにはしてやろう」
「本当に?」
「あぁ。しっかり勉強してもらおうか」
セブルス君のそばにいられるなら
「約束だよ?」
「約束だ」
ゆらゆらと落ちてくる緑の葉が、まるで舞い散る雪のように白い。
愛しい君の姿に霞がかかる。
ただ。
ただ、君が薄っすらと微笑んでいるのだけはわかるよ。
ざわめく木の葉の音のみが聞こえてくる。
人の声がしない静寂さに小さな不安が襲う。
眠ってしまったのかと思い、セブルスはへと目を向けた。
だがの蒼い瞳は、真っ直ぐ前を向いていた。
遠く彼方を見ているような澄んだ瞳。
だがそれはまるで時が止まったかのように微塵も動きを見せない。
静かな丘に、少女の小さな声が聞こえる。
「セブルス君・・・」
セブルスの名を呼び、は繋がった手に残り僅かな力を込める。
セブルスがの名を呼ぼうとしたとき、の空いた方の手がゆっくりと動いた。
真っ直ぐ前を向いたまま、は細い腕を前へと伸ばす。
「・・・?」
セブルスの声にの伸びた手がぴくりと反応する。
「そこに・・・いるよね?」
小さく震えるの手が、まるで夢遊病者のように宙を彷徨う。
彷徨う腕と動かないの瞳に、セブルスの胸がドクンと震える。
「・・・・・目が・・」
「・・・もう・・・ほとんど見えてないの」
瞳の深い蒼色が徐々に薄くなっていく。
僅かに動いたの顔は、だがセブルスには向けられない。
穏やかだったの顔に恐怖が入り混じる。
「セブルス君・・・・・どこ?」
彷徨うの手が、必死に愛しい者を探す。
セブルスは震える細い彼女の手を掴み、きつく握りしめた。
「よかった・・・セブルス君、ちゃんといるよね?」
の心が安堵するのが伝わってくる。
「あぁ、ここにいる。のすぐそばにいる」
自分が焦れば、きっと余計にを不安がらせる。
速すぎる鼓動を必死に隠し、セブルスは繋がった手に思い切り力を込める。
の薄くなった蒼の瞳がセブルスを捉える。
「伝えたいことがあるの。だから・・・だから、ちゃんと聞いててね?」
陽の光に輝く銀色の髪が風に揺れる。
薄く微笑む彼女の姿が。
綺麗で。
儚くて。
流れる風よ
この想いを届けて
「私は、君を忘れたりしない」
降り注ぐ光よ
この想いを照らし出して
「生まれ変わったら、君に逢いにいくよ。だから」
私の最後のお願いです
どうか届けて
神様
「私を、見失わないで」
他には何もいらないから
「僕が、を見つけてみせる」
きつく繋がった両手
離さないで
「絶対ね?」
「約束する」
「絶対だよ?」
「誓うさ」
風に揺れる銀色の糸
純白の瞳が揺れる
「」
出逢ったときから変わらない
君の全てが愛しい
君を
「君を愛してる」
君を想い続ける
「私も・・・・・セブルス君を愛してるよ」
砕けそうな笑顔
零れ落ちる涙
溢れる想い
どうか時よ止まって
私たちだけを置いていって
「・・・?」
呼ぶ声に、雫は一層零れ落ちる。
震える唇が必死に言葉を紡ぐ。
「セブルス君の声が・・うまく・・・聞こえない」
ざわめく風の音も。
揺すられる木の葉の音も。
さえずる鳥の声も。
愛しい者の声も。
繋いだ片方の手を放し、セブルスはそっとその頬に添えた。
白く冷たい頬。
涙で銀色の髪が頬にはりつく。
ひとつ瞬きをすれば、長い睫にパンッと雫が弾ける。
「愛してる」
指先で拭う涙は熱く
透き通る雨が頬を伝う
「愛してる」
聞こえているかはわからない。
それでも言わずにはいられない。
溢れる想い。
言葉では伝えきれない。
「」
この声は届いているのだろうか。
そっと頬を撫でれば、はゆっくりと首を横に振る。
澄んだ瞳から大粒の涙が零れる。
「」
「セブルス君」
「愛してる」
「セブルス・・君」
「愛してる」
「・・セブル・ス・・・」
“聞こえなくても、ちゃんと伝わってるよ”
ゆっくりと重なる唇
誓いの口付けは、冷たく、暖かで
このまま時が止まってしまえばいいのに
2人だけをここに残して
永遠にここにいたい
離れていく唇
夢が覚めていく
世界が音を立てて動き出す
銀色の糸たちが寂しげに揺れる
僕の体に落ちた
そっと抱きしめた
彼女の軽いカラダ
壊れないように
そっと抱きしめた
「」
銀色の糸が風に踊る
「」
綺麗
君だけが
この世界で
何よりも
「・・・」
返事は返ってこなかった
もう二度と、返ってくることはなかった
街が、世界が、君が、霞んでいく
熱を失っていく小さなカラダに、ぽたりと一つ、雫が落ちた
NEXT
BACK
DREAM
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送