ドリーム小説
Love
【名】愛,愛情;好き;恋,恋人;無得点
【動】愛する;恋する;喜ぶ
愛してる
愛してる
愛してる
またいつか逢う日まで
椿姫 Love
目が覚めると、そこは三本の箒だった。
瞼が重くて重くて仕方がない。
ゆっくりと開いた視界に飛び込んできたのは、いつもと変わらない賑やかな居酒屋の風景。
セブルスは回らない頭を軽く振って、意識をしっかりと取り戻した。
首を巡らすとそこは三本の箒のカウンターで、セブルスの前には汗をかいたグラスが置かれ
ていた。
いつ店に入ったのだろうか。
知らないうちに眠ってしまったのだろうか。
が一緒にいたはずなのに、よく思い出せない。
セブルスは不思議な感覚に戸惑っていた。
何だか記憶の一部がすっぽりと抜け落ちてしまっているような、そんな気分だった。
まるでこの国の有名な童話に登場する御伽の国に迷い込んでしまったような。
不思議の国の少女に連れられ、奇妙な冒険をしていたような。
でも懐中時計を持った三月兎はどこにもいない。
傲慢で人の首を刎ねるのが趣味の女王もいない。
奇妙な笑いで人を見下す猫もいない。
自分の勘違いなのか。
それでも、おぼろげに思い出されるそれはとても大切なものだった気がする。
「寝不足がたたったか・・・・・」
再び揺れ始めた視界。
視覚を取り戻そうと、セブルスは重い瞼にそっと指を添えた。
長いとも短いともいえない睫がすっと指に触れる。
葉の上をすべる雫が落ちるように、テーブルにポタリとひとつ雨粒が落ちた。
「・・・な・・に・?」
そっと添えた指先に触れる熱い感触。
目の前がゆらゆらと揺れる。
店の灯りが視界を橙色に染める。
ただ一筋の涙が頬を濡らしていた。
どうして自分は泣いているのか。
その意味もわからず。
涙を拭うことすらできず、セブルスはただただ頬を濡らし続けた。
遠くで汽笛が鳴っている
魔法が解ける
いるべき場所へ帰らなければ
少年が店から消えて扉が閉まる音が遠くで聞こえる。
ざわめく店内の喧騒がそんな小さな音を掻き消してしまう。
誰も気に留めない、そんな木の軋む音を耳に、女主人は目の前のカウンター席に座る女性に
声をかけた。
差し出されたグラスには手を付けず、女性はじっとグラスの中の液体に見入っている。
「これで、よかったんですか?」
いつも威勢のいいロスメルタの声が、今はどこなく寂しそうだった。
相変わらずじっとグラスを見つめたまま、はゆっくりと頷いた。
「えぇ。これがあの娘の・・・最後の願いだから」
の声に反応するように、グラスの氷がからりと音を立てる。
『セブルス君の中にある、私と百花楼の記憶を消してあげて』
それが少女がに託した最後の願い。
「彼が寂しくないように・・・と」
登りつめた丘の木の下で、2人はつがいの鳥のように寄り添っていた。
逝ってしまった銀の鳥を放さんと、抱きとめたまま動かない黒の鳥。
動かない鳥を捕まえるのを至極簡単で。
その2人の世界を包むように、は忘却の言葉を紡いだ。
そしてこの店に一人出向くよう、呪文を重ねた。
これでよかったのかは、誰にもわからない。
儚い物語のページを全て破ってしまったような、そんな後味の悪さが残る。
それを飲み込むように、は静かにグラスに口を付けた。
溶けて小さくなった氷が口の中でなくなっていく。
冷たい氷に、少女の酷薄な笑顔が思い出された。
人知れずこの世から去っていった少女の想いは、どこへ向かうのだろう。
今もどこかを彷徨いつづけているのだろうか。
その行き着く先を、今はまだ、誰も知らない。
は椅子にかけたローブを手に取り、ゆっくりと袖を通した。
足元に置いていたボストンバックを手に持ち、カウンターに数枚のコインを置く。
「どちらへ?」
問いかけるロスメルタに、はゆっくりと視線を合わせた。
その目はとても穏やかで、今はもういない銀色の少女の笑みに似ていた。
「そうね。東洋は・・・今頃暖かいのかしら」
ポツリと呟かれた言葉にロスメルタは首を傾げる。
大してよく知らない大陸の記憶を無理矢理引っ張り出した。
「同じ北半球なら、冬支度・・かもしれませんね」
ロスメルタの曖昧な答えには口元の笑みを薄くする。
悲壮感漂う横顔は、やはりあの少女に似ていた。
「椿・・・咲いているかもしれないわね」
の口から漏れた冬の花の名前にロスメルタの目が少しだけ大きくなる。
それに気付いてか、は柔らかな笑顔を向けた。
「おいで。」
呼ぶ声に反応して、止まり木で休んでいた白い梟がの腕に舞い降りる。
梟を腕に従え、は静かに振り返った。
「じゃぁね。ロスメルタ」
店の明かりがの表情を半分隠してしまう。
でも、何故かロスメルタにはが笑っている気がした。
「はい。お達者で・・・さん」
ロスメルタの言葉に返事を返すように、がひとつ羽を広げた。
喧騒に混じって木の扉の軋む音がする。
一瞬だけ外の冷たい空気が入り込む。
扉は寂しそうに軋んで、静かに閉じた。
ありふれた日常が続く。
季節が変わり、月日が流れてもそれは変わらなかった。
卒業までの2年間は、信じられないほど早く過ぎていった。
あの晴れた土曜日。
ホグズミードから帰ってきたセブルスに待っていたのは、・の突然の
転校の知らせだった。
ホグワーツの玄関先で友人から知らされ、セブルスの迷走していた意識が一気に戻ってきた。
そんなことは一言も聞いていないと驚愕するセブルスが部屋に戻れば、そこにの姿はな
かった。
彼だけではない。
5年をともにした少年が生活していた形跡すらなくなっていた。
全ての荷物がない。
彼を思い起こさせるものは全てなくなっていた。
まるで、最初から・などいなかったかのように。
それでもセブルスの中には確かにの記憶があった。
スリザリンには似合わない明るい笑顔も。
先読みのできない突飛な行動も。
そんな少年だったからかもしれない。
突然のことにもかかわらず、セブルスはなぜか落ち着いていられた。
「お前のことだ、どうせまた・・・そのうち突然姿を現すのだろう?」
誰もいなくなってしまった机に向けて声をかけても、返ってくるのは静寂ばかり。
金髪の少年の幻影すら見えることはない。
セブルスはゆっくりと机に背を向けると、静かに部屋を出た。
卒業後、何かに吸い寄せられるように闇の陣営へと落ちた。
新しい日常は、真紅の血だまりの中に身を浸すものだった。
数年後には闇から光の陣営へとその身を移し、偉大な魔法使いに付き従うことになる。
魔法薬学の教鞭を執り続けて、一体何度の季節の移り変わりを見てきたことか。
学生時代を懐かしむ暇もなく、月日は流れていく。
抜け落ちていたパズルのピースは埋まることなく、次第に記憶から消えていってしまった。
ざわめく大広間。
ホグワーツでの新しい年が始まろうとしている。
今年も多くの新入生が大広間でその顔に緊張の色を浮かべて立っている。
組分け帽子に告げられるままに、これから7年間身を置く寮へと駆けていく姿を教師たちも
優しげな眼差しで見守っていた。
大広間の最前列に並べられた教師席。
その左方では、興味深い噂話が繰り広げられていた。
「お聞きになりました?スプラウト先生」
「えぇ、えぇ。何でもあの東洋研究で名高い名家のお嬢さんが編入されるとか」
「いえ、分家らしいですがね。それでもきっとその血筋は受け継いでおられるんでしょうな」
「是非私の寮へ迎えたいですわ」
賑わう大広間で楽しげに交わされる談話。
だが、そんな教師2人のおしゃべりを至極つまらなそうに耳に入れる者もいた。
「ねぇ、そうでしょう?スネイプ先生」
いきなり話を振られた痩身黒髪の教授は、眉間の皺を一つ増やして目を閉じた。
「・・・そうですかな。あまり期待しすぎるのもどうかと思いますが」
素っ気無い言葉で話を切り、スネイプ先生はひとつ息を吐く。
オブラートで包んだ言葉の裏側では、だがしっかりと“4年から編入とは大層なことだ”と皮
肉を思い浮かべていた。
たかだか一人の生徒が一体どの程度のものなのだと興味なさ気に肘を突く。
相変わらず賑やかな、ともすればうるさい生徒たちの喧騒にまた眉間に皺が寄ってしまう。
ようやくダンブルドア校長が手を叩き、食事の号を告げようと手を開いた。
待ち望む生徒たちとは裏腹に、スネイプ先生は宴など早く終わらせて部屋に戻りたいと正直
に思った。
そのときだった。
「お待ちください、校長!」
ざわめく大広間の扉を開け放って、不在だったマクゴナガル女史が現れた。
教師の目も生徒の目も全てが囁きあうダンブルドア校長とマクゴナガル先生へと向けられる。
しばらくして校長は嬉しそうに微笑み、マクゴナガル先生は正面へと向き直った。
「校長先生のお許しが出ました。さぁ、お入りなさい」
先生のその言葉に、今度は大広間中の視線が正面へと向く。
そこにはいつの間にか一人の少女が静かに佇んでいた。
小さな少女が大広間に足を踏み入れた瞬間、風が一陣。
瞬く間に大広間中に広がっていく歓声。
きらめく銀糸をなびかせ、真摯な深蒼の眼差しを携え、一輪の花は舞い降りた。
「・!!」
全てを包むように微笑む少女。
少女がスリザリンに組み分けられ、またも大広間が揺れる。
少女が席に着き、不意に顔を上げた。
わけもわからずざわつく胸の奥。
一筋の汗が頬を伝う。
声が聞こえた気がした。
聞いたことなどないはずなのに。
それはどうしてか懐かしく。
やっと会えた
あなたですね
『生まれ変わったら、君に逢いにいくよ』
運命の扉が再び開かれる
邂逅
今度こそ幸せになれますように
あなたのそばにいられますように
あなたに会うために生まれてきました
あなたと恋するために生まれてきました
END
BACK
DREAM
長く続いておりました、『椿姫』。これにて閉幕とさせていただきます。
前作『魔女の条件』で散りばめられていた謎が明かされたかと思います。
2つの作品はこのように繋がっていました。
いろいろ話したりないのですが、詳しいことは総合後書きで。
その前に、最後に明かされず残された謎。桜と少年についてはまた後ほど
番外として解き明かしたいと思っております。
気長に待ってやってくださいませ。
ここまで読んで下さった方々へ。
本当にありがとうございました。
CamelliaからLoveまで通して演じてくれた ・とセブルス少年に今一度盛大な拍手をお願いいたします。
それでは皆様。また舞台でお会いできる日まで。
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