ドリーム小説
Camellia
【名】椿、山茶花
椿姫 camellia 2
の先導で2人はホグズミード裏路地へと足を進める。
そこは表の明るく賑わう通りとは少し違う。
様々な店先には、今はまだ点灯していないネオン付き看板が多数並んでいる。
きっと夜になったら、ここは本当の姿を見せるのだろう。
道端には草花など一つもなく、浮浪者やボロボロの服を着た子供が時たま座っている。
立ち並ぶ店は、どちらかというと闇魔術よりのショップや低俗な客引寄せの店ばかり。
どことなく夜の闇横丁・ノクタ−ン横丁を思い出させる。
こんなところに植物関係の店があるとは思えない。
だがそんなセブルスの考えなど知らず、はどんどん路地奥へと進んでいく。
「。本当にこんなところにまともな店があるのか?」
さすがに不審に思ったセブルスが声をかける。
はそれに答えなかったが、ずっと歩き続けていた足を突然ピタッと止めた。
セブルスも足を止める。
が見ている方に目を向ける。
そこには、セブルスの知らない文字があった。
『百花楼』
全く読めない。
何かの本で見たことがあるくらいだ。
「・・・・・・東洋の店か?」
記憶の糸を手繰り寄せても、セブルスにはそれが東洋の文字であることくらいしかわからない。
は「さすが、セブルス」などと言っている。
「ヒャッカロウ・・・と読むらしい。俺にもよくわからん」
もう一度看板を見てみる。
『百花楼』の文字の周りに、花々や蔓の装飾が施されている。
見た目は植物関連のようだ。
「よっしゃ!入ろうぜぇ、セブルス」
は意気揚々と店の扉に手をかける。
だがセブルスはその手をつかみ、戸を開けるのを制した。
が不満げな顔を向ける。
そんな彼にはお構いなしに問い詰める。
「。ここは本当に植物関係の店なのか?」
セブルスの頭の中は不審感でいっぱいだった。
ここまで来る間に一軒一軒店をチェックしていたが、まともな店など一つもなかった。
特にさっき角を曲がってからは、右を向いても左を向いても並び立つのは・・・・
「ここは・・・・・風俗街ではないのか?」
真剣な目を向けるセブルスに、はへらへらといつものように笑う。
その目がセブルスの言葉を肯定している。
やはり彼に騙されたようだ。
セブルスは冷たい目でを見下ろす。
「悪いが、先に帰らせてもらう」
「無理だよ」
間髪いれずに帰ってきた彼の言葉に、セブルスは一瞬だけひるんだ。
は親指を立ててクイッとセブルスの後ろを指した。
チラッと後ろを振り返り・・・・・・が言わんとしていることを理解する。
さっき見た浮浪者や子供が集まってきている。
狙いは・・・・・・2人が持っている菓子や金品。
「今は店ん中に入った方が安全だぞ。こっちが反撃しようとすると、あいつら俺たちを殺しに来る」
まるでこの通りの常連であるかのように言う。
セブルスの知らないの姿だった。
「セブルス。いいから入っとけ」
はカラカラと音を立てて戸を開けた。
セブルスがもう一度後ろを向くと、無機質な目を携えて彼らが自分の方へ歩んできている。
合理的に考えれば、今は店の中に入った方が得策かもしれない。
風俗店に足を踏み込むなど、セブルスの頭の片隅にもなかったが、自分の身の安全と比べればまだましかもしれない。
不本意だが、セブルスはの後についで店内へと入った。
チャリッと金属の触れ合う音がした。
カウンターの上に何枚かの硬貨が置かれる。
「ロスメルタ。お代、ここに置いておくね」
少女は椅子から降りると、慣れた手つきでまくれあがったチャイナ服の裾を直す。
「。もう帰るのかい?」
グラスを洗っていたマダム・ロスメルタはの方へと顔を向ける。
は少し寂しげに微笑む。
「うん。外に出ても、あんまりやることないしね。遅くなる前にお店に戻るよ」
ごちそうさま、と言い残しては三本の箒を出た。
パタンとドアの閉まる無機質な音がする。
それでも、店内はそんな音を掻き消すように騒音が入り乱れる。
ロスメルタは彼女が座っていた席からグラスを引き寄せた。
グラスの淵に、薄っすらとピンクのルージュの痕が残っている。
それを洗い流すために、流しの水の中に浸す。
が座っていた席から、微かに桃の香りが漂ってきた。
妖しげな店、百花楼の中はなんとも妖しげな匂いを漂わせていた。
セブルスは怪訝な顔をするも、は何ともない顔をしている。
やはり彼はここに来たことがあるらしい。
「いらっしゃい。なんだ、また来たのか?」
正面のカウンターから、無骨な顔をした男が姿を現した。
東洋人のようだが、話すのは意外と綺麗なイギリス英語だ。
彼が声をかけたのはのようで、は男にやたらと笑顔を向けている。
「やぁ、マスター。この前もらった券、使わせてもらうよ!」
はポケットからクシャクシャの紙切れを取り出し、それを男に差し出した。
マスターらしき男はその券をマジマジと見た後、セブルスに視線を投げてよこした。
目が合ってしまった。
品定めされるような目で見られ、気分が悪い。
「・・・・・・もう一人はあんたか。自分から好んで来たってわけじゃなさそうだな」
「でも、マスター。2人は2人だろ?違反してねぇよ」
とマスターの言っていることが全くわからない。
それが余計セブルスを不快にさせる。
「!どういうことだ。説明しろ」
大変ご立腹のセブルスに、は苦笑しながら持っていた紙切れを渡した。
それをむしり取るように奪い、書かれていることを読む。
セブルスはそれで納得できた。
ここ百花楼は、セブルスの思ったとおりの場所・・・・売春宿。
の持っていた券はいわゆるタダ券の類のもの。
2人で店を訪れれば、1回限り無料になるというものだ。
セブルスは頭数合わせにされたわけだ。
を思いっきり睨みつけてやる。
だがはシャァシャァとしている。
「俺は一言も薬草があるなんて言ってねぇぞ。植物関係ってのも外れてない」
そんなことはセブルスにはもうどうでもいいことだった。
こんなところには用はない。
「おい!どこ行くんだよ、セブルス!」
踵を返して店を出て行こうとするセブルスをは必死に引き止める。
「放せ!僕はこんなところに興味などない。お前一人で楽しんでくればいいだろう?」
「2人じゃなきゃタダにならねぇんだよ!別にやってこいって言ってるわけじゃねぇだろ!?部屋入っておとなしくしてればいいじゃん!」
とんでもないことを言い立てながら、はセブルスの腕をつかむ。
すでに戸に手をかけていたセブルスは、後ろに引っ張られて少しよろけた。
「僕にそんな屈辱的なことをしてこいというのか!?いいから手を放せ!!」
セブルスが体勢を立て直そうとしたときだ。
カラカラという音とともに戸が開かれた。
戸にかけた方の手で体を支えているような状態だったため、セブルスは完全にバランスを崩すことになった。
ドサッという音を立てて売春宿の玄関前でセブルス・スネイプ転倒。
は「あちゃぁ」という顔をしている。
なんとも無様な姿に、セブルスの怒りの行き場は無差別にまき散らされる。
「ありゃ。ごめんなさい、お客さん。大丈夫?」
不意に透き通るような声がセブルスの頭上から降ってきた。
聞いている者を穏やかにさせるような、人のものとは思えないほど美しい声。
そこには、声と同じくらい美しく光る銀髪を携えた少女が立っていた。
セブルスの時間が止まる。
「あぁ。お帰り、椿。早かったな」
マスターを務める男が少女に声をかける。
それでやっとセブルスは自分が彼女に見とれていたことに気付いた。
セブルスに心配そうな、だが柔和な笑顔を向けていた少女がマスターの方に向き直る。
「うん。特にすることもないしね」
“椿”と呼ばれた少女は戸を静かに閉めて、カウンターの方へと向かう。
彼女が通り過ぎたとき、微かな桃の香りがセブルスの鼻をくすぐった。
椿は静かな動作で靴を脱ぐ。
彼女の着ている膝丈のチャイナ服の裾が広がり、白い太腿が大いに姿を現す。
セブルスの目はまたも無意識に、彼女の細かな動きを追っていた。
「若いお客さんだね?ホグワーツの人?」
だから彼女が話しかけてきたときも、何と返せばいいかわからなかった。
そうでなくとも普段から女子と話すことなどないセブルスには、こういうときの対処法など見当もつかない。
それまで黙っていたがお得意の笑顔で椿の相手をする。
「まぁね。そういう君も随分若いじゃん。俺たちと同じくらい?」
人懐っこい笑みで話をするを、今だけは羨ましいと思った。
のその問いに椿は苦笑して口を閉ざす。
彼女の代わりにマスターが厳しい顔を向けてきた。
「坊主。そういう話はこいつを買って、部屋に行ってからやれ」
マスターの横で椿は苦笑を続ける。
も仕方ないなという顔をする。
いつも通りの・だ。
だがセブルスだけは、そのやり取りについていけなかった。
買う?
何を?
その少女を?
誰が?
そこはセブルスの全く知らない世界だった。
マスターの男がカウンターの上に何かを置いた。
それは大き目のボードで、そこにはたくさんの・・・・・・少女の写真が載っていた。
彼女たちが、この店の商品なのだろう。
「おら。とっとと決めろ」
は紙袋を床に下ろし、ボードを眺めた。
だがその目をボードの上を彷徨うことなく、一点に集中している。
はニコニコ笑顔をマスターに向ける。
セブルスはの口からどんな言葉が紡ぎだされるのか、半ば真剣に待った。
今の自分が思い浮かぶ単語が出たらどうしよう。
そんなことを考えている自分に、セブルスは気付いていない。
「わかってるっしょ?俺は今日も桜ちゃんでよろしく!」
楽しそうには言う。
マスターはぶっきらぼうに「了解」と言うと、カウンターの奥に声をかけた。
しばらくして、一人の少女が姿を現した。
胸元に桜のコサージュを付けたその少女は、を見ると彼に笑顔を向けた。
「あぁ、さん!久しぶりだね!またあたしのこと指名してくれたの?」
は「あたりまえじゃん!」などと軽い口調で言い、笑顔を返す。
そんないつもと違う友人の様子を、セブルスは呆然と見ていた。
はセブルスの方を向くと、笑顔で言い切った。
「じゃぁな、セブルス!2時間後にここで会おう!」
それだけ言うと、は彼が指名した少女とともに店の奥へと入っていった。
自分の友人を別の世界の住人だと感じた瞬間だった。
「お客さーん。ホントに大丈夫?」
ぼぉっとしていたセブルスの耳に、またあの澄んだ声が届く。
その声で、セブルスはまだ自分が床に座り込んだままだったことに気付いた。
慌てたように立ち上がり、ローブについた埃をはらう。
「さっきはごめんなさい。誰かいるとは思わなかったから」
気遣いの言葉をかける少女に、今度はセブルスも言葉を返す。
「・・・・・・・・いや。気にしていない」
素っ気無く答えると、椿はまた柔らかい笑顔を向ける。
マスターがいい加減痺れを切らしていた。
「おい、そこの。さっさと決めてくれ。時間が減るぞ?」
とても客に対する対応とは思えない。
男の言葉に、セブルスは苦い顔をする。
もともとこんな場所に用はない。
「・・・・・悪いが、僕は遠慮させてもらう」
苦々しげに言い捨てると、セブルスはカウンターに背を向けた。
はここで会おうと言ったが、自分を騙した奴などどうでもよかった。
その静かな怒りに満ちた背中に、声がかかる。
「今、出ていかない方がいいよ。ホグワーツの先生がウロウロしてるの見たもん」
カウンターの方に向き直ると、椿はニコニコ笑顔をセブルスに向けていた。
その深い青の瞳と目が合う。
少女の忠告に、セブルスは呆然となる。
きっと生徒が立ち入っていないか見回りしているのだろう。
見つかったら、どのくらい減点されるかわかったものじゃない。
出ていけないと分かり、セブルスはその場に立ち竦む。
ホグワーツの制服を着た年頃の少年が、売春宿の玄関で2時間立ちっぱなしとは、はたから見たらこれ以上滑稽なことはない。
「ねぇ、君。私の相手しない?」
不意に聞こえた透き通った声は、セブルスに向けられたものだった。
セブルスの思考が全て止まった。
少女はセブルスのそばまで来ると、マスターに聞こえないよう小さな声で囁いた。
「別に何もしなくていいよ。部屋にいるだけでもいい。ずっとここにいるの、嫌じゃない?」
こんなところに用はなかったのだ。
無理を言ってでも断ればよかったのだ。
どうしてだかはわからない。
セブルスは自分に声をかけた少女と、店の奥へと入った。
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