ドリーム小説


そうして二人は二日間の念入りなシミュレーションを繰り返し、いよいよ本番当日を迎えた

「本日の課題は『促進薬』の調合です。手順は教科書64ページに書かれているとおり。それでは皆さん、注意事項をしっかりと読み、いつものペアで課題に取り組んでください」

ニコレッタ先生の指示が終わると生徒たちは一斉に動き始めた



■♂□   っ ち が っ ち ! ?  □♀■   交換ですよ 4



セブルスも落ち着いた所作で立ち上がり実験器具を用意し始めた

「僕が器具を設置する。は教卓から材料をとってきてくれ」

この二日間でセブルスは自然と彼女を名前で呼べるようになっていた
に指示を出して自分はちゃっちゃと器具を設置し始める
けれど、声をかけた彼女が動く気配がない。不審に思いセブルスが横を見ると・・・

「・・・‥っ」(ガッチガチ)
「・・・緊張しているのか?」

椅子に座ったまま微動だにしないがいた
机の上に開かれたノートを凝視し、まるで呪いの呪文を唱えるように手順をブツブツと呟いている
どうやら完全に周りが見えなくなっているようだ

・・・大丈夫か?」
「う、うん・・・‥。だ、だ・・・大丈夫・・・っ」
「・・・」

緊張のあまりどもりまくっている
さすがのセブルスも不安げな表情だ

「だ、大丈夫、大丈夫・・・だと思うんだけどさ。でも今更だけど・・・失敗したら50点減点なんだよね」
「そうだな」
「そうだなって・・・、なんでセブはそんなに落ち着いていられるの?」

は顔いっぱいに不安の色を浮かべてセブルスを見上げた
この二日間彼に教わってみっちりと練習を重ねはしたが、いざ本番となるとプレッシャーがかかる
けれどセブルスはを見下ろすと、彼女のそんな不安を蹴散らすように飄々と言ってのけた

「なぜって、僕がサポート役につくんだぞ」
「う、うん・・・それはそうだけど」
「ならば、調合に失敗するなんてありえないな」
「お・・・・・おぉう」

その自信は一体どこからやってくるのだろうか
口数少ない彼にしては珍しい自信満々の宣言にの不安が少しずつ晴れていく
そして何よりの心を揺さぶったのは・・・

(セブ・・・笑ってる・・・)

彼は自分で気付いているのだろうか。いや、無意識かもしれない
けれど「大丈夫だ」とを見下ろす彼の唇は右側が微かにあがって笑みをつくっていた
どこか皮肉っぽい笑い方があまりにも彼らしくて似合っている
自然と勇気がわいてくる。は不安げだった表情を引き締めた

「うん・・・。私も頑張る!」

セブルスに助けてもらったこの二日間を無駄にはしない
は勢いよく立ち上がると急いで材料を取りに向かった


*


ニコレッタ先生が見回りをする中、生徒たちは各々のテーブルで調合を続けていた
材料の選別に苦労する者、調合の順番を間違えて鍋の中がおかしな色になる者、各テーブルからは様々な声があがっている

「せ、先生ー!!鍋から変な煙が・・・っ!」
「きゃあっ。泡まで溢れてきたわ・・・!」
「落ち着いて、鍋に触らないで。少し離れておいでなさい」

ニコレッタ先生は悲鳴があがったテーブルに近づくと、静かに杖を構えて呪文を唱えた

『エバネスコ―――消えよ』

先生の杖から放たれた光が鍋にぶつかると、次の瞬間には鍋は一瞬で消え去っていた
先生は腰に手をおいてため息をつく

「入れる分量が間違っていたのでしょう。材料は1グラム多くても少なくてもダメです。初めからやり直しなさい」

先生に叱られた生徒たちは肩を落とし、新しい鍋を取りに向かう
そんな様子を見ながら鍋をかき回していたは、不意に先生と視線が合いドキリとした
ニコレッタ先生の足がたちの方に向く

(わ・・・どうしよう・・・っ)

魔法薬学の授業で先生に褒められたことのないは不安ばかりが募る
カツコツと音を立ててやってきた先生は、けれどがかき回す鍋の中を見て厳しい表情を和らげた

「まぁ。ミス
「は、はひ・・・っ」
「よくできているじゃありませんか」
「・・・・・。へ?」
「液体の色も匂いも問題なし。撹拌の仕方も完璧ですよ」
「ホントですか・・・!」

先生に笑顔で褒められ、の顔には笑みが広がる

(やった、やった!)

嬉しさのあまり、思わず鍋を掻き回す両手に力が入ってしまった
大きく動かした肘がテーブルの端に置かれていた試験管に当たってしまい、ぐらりと傾いた

「あっ!」

が声を発するのとほぼ同時に試験管は床に落ち、パリンッと音を立てて割れてしまった
一瞬前まで笑顔だったの表情が不安なものに早変わり

「どうしよう・・・っ」

は急いで片付けようと、しゃがみこんで割れた試験管に素手で触れた

、触るな!」
「え?あ・・・痛っ!」

セブルスが気付いて注意したときには遅く、破片を集めていたの指先は鋭いガラス片で切れてしまっていた
彼女の指先から流れる血がポタポタと床に落ち斑点模様をつくる

「いたぁ・・・あー、やっちゃった」
「割れたガラス片を素手で集める奴がいるか」
「あはは・・・ごめん」
「ミス、傷は大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。ちょっと切っただけなので。授業もこのまま続けられます」

心配する先生には笑って応えた
ニコレッタ先生は杖を振って割れた試験管を元に戻しながらに言った

「そうですか。ですが授業が終わったら必ず保健室で傷を看てもらいなさいね」
「はい」

返事をするとはとりあえず流しで手を洗い血を落とした
かき混ぜ途中だった鍋に戻り、再び棒を回す
セブルスは最後に入れる薬草を手にのもとへ。そして一生懸命調合をする彼女に声をかけた

「代わるぞ」
「んー・・・大丈夫!あとそれを入れたら終わりでしょう?私がやるよ」
「だがな」
「平気。最後までやらせて」

傷を気遣って声をかけるセブルスに、は笑って返した

「私いっつもセブに任せてばっかりだったでしょう?だから、今回は私が最後までやりたいの」
・・」
「調合ってちゃんとやれば面白いのね。セブのおかげで魔法薬学が少し好きになれそうだよ」

ありがとう!元気な笑顔でお礼を言われ、いつも顔色悪いセブルスの肌の色が少しだけ血色良くなった

「・・・別に、僕は少し教えただけだ。後はの努力だろう」
「えへへ・・・そう言ってもらえると嬉しいな。ありがと、セブ」
「そ、そんなに何度も礼を言わなくていい・・・。もういいから、さっさと終わらせろ」
「うん!」

が笑顔を見せれば見せるほど、どんどんセブルスの顔は血色良くなっていった
セブルスも自覚があるらしく、から顔をそらして残りの薬草を彼女に渡した
セブルスの気持ちの変化になど気付かないは「?」を浮かべながら薬草を受けとると、かき混ぜ棒の手を止めてそれらを鍋の中に投入した

「これでラスト!完成!」

が意気揚々と声をあげる
その次の瞬間だった
誰にも予想できない大きな事故―――この物語の始まりともなる事故は起こったのだった





  





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