ドリーム小説
私がどんなに心で強く願っても
あなたには伝わらないこの想い
あなたに知ってほしいから
私の想いは言葉となりあなたに届く
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <6> ■
12月中旬。この時期には、男子生徒たちがせわしなく動き出す。それは12月25日のクリスマスダンスパーティーのため。4年生以上の男子生徒は、パートナー探しに躍起になっていた。と同時に、話題の中心には、必ず一人の人物の名前が挙がっていた。
・は誰とダンスパーティーに行くのか?
実際、彼女を誘おうと男子たちが騒がしかった時期もあったが、1週間前となった今ではその喧騒もなくなっていた。その原因は1つ。パーティー2週間前という早い時期に、ドラコ・マルフォイによって彼女が奪われたからだ。
「僕は君としか行かないつもりだ。断ってもが僕と行く気になるまで誘うからな」
人で溢れかえるスリザリン寮内での大告白は、一時期有名となっていた。はドラコの迫力に圧されながらも、誘ってくれたことに感謝してそれにOKした。ただ、ほんの少し未練はあった。
ドラコからダンスに誘われる数時間前のこと。はスネイプの研究室で助手として明日の授業で使う材料の下準備を手伝っていた。この作業には慣れたものの、スネイプが近くにいるときの胸の高鳴りにはまだ慣れなかった。それも何だか、前より大きくなっているような気もした。だからといって、の作業に支障が出ることはなかったが。
「先生、これはこちらの薬の方がよろしいのでは?」
の的確な提案に、スネイプはしばらく考え、
「あぁ。だがそれは4年生が扱うには早すぎる。今回は代用としてこちらを使う」
適切かつ単調な受け答えに、は「はい」と返事をして言われたようにした。
「よく気が付く。君は優秀で助かる」
「恐縮です」
スネイプのさりげない褒め言葉が嬉しかった。の頬はほんのりと赤く染まった。
下準備も終わりに差し掛かった頃、スネイプから意外な話題が持ち上がった。
「そういえばもうすぐだったな。君も4年生だ。参加するのであろう?」
「パーティーですか?はい。一昨日、気の早い母からドレスが届いたんです」
「準備は早めにしておいた方がよい。当日に何があるかわからんのだからな」
「そうですね。でも、パーティーに行くにしても私なんかのことを誘ってくれる方がいるのでしょうか?」
は試験管を目の高さで振りながら話をした。片手間にそんなことを言う彼女に、拍子抜かれたのはスネイプの方だった。
「大勢いると思うがね」
「え?」
試験管を振るの手が止まった。はスネイプを見た。スネイプは自分の作業に集中していた。そんなふうに言われるとは思っていなかったから、はまた顔を赤くした。
「そんなことありません・・・。あの、先生は参加なさらないんですか?」
何気なさを装ってが問いかけると、作業するスネイプの眉間に皴が寄った。
「なぜ我輩が参加せねばならないのかね」
実に面倒くさそうな答えが返ってきた。よくよく考えれば、スネイプがそんなおちゃらけた行事を好むはずがないと容易に想像できたことだ。だが、はどことなくがっかりした。
「我輩がパーティーに参加して、何かメリットでも?」
スネイプは頻繁に、その言葉を口にした。よくよく利己的な性格だとは思った。作業を続けながらぶっきらぼうに話すスネイプに、も冗談半分に言葉を返した。
「いえ。メリットはありませんが。ただ、もしも誰も私のことを誘ってくれなかったら、先生のパートナーにしていただけないかなぁと思っただけです」
なんてね、とはスネイプに見えないようにくすくすと笑った。馬鹿なことを言っていないで早く作業を終わらせろと言われると思っていたら、スネイプのテーブルからガラスが割れる音が聞こえてきた。
「・・・・」
「先生?!だ、大丈夫ですか?」
は自分の作業を中断すると、スネイプの方へと駆けつけた。スネイプが持っていた試験管はテーブルの上に落とされ粉々に割れ、中身が辺りに散らばっていた。
「怪我はされていないですか?」
「あぁ・・・。大丈夫だ。すまない」
が心配そうな顔で見上げてくるのが分かった。スネイプはに背を向けると、一息ついて杖を振り、壊れたガラスを元に戻した。
「(我を忘れるとは。まだまだだな)」
まさかの発言に手を滑らせたなんて、絶対に知られたくないと思った。スネイプはわざとらしく咳をし、に作業を続行するように告げた。は心配そうにちらちらと何度もスネイプを振り返った。スネイプも平静を装い、自分の作業に戻った。しばらく沈黙が続き、ようやく先程と同じ空気に戻ったところで、スネイプは口を開いた。
「パーティー後、時間はあるかね」
「はい?」
スネイプはの顔を見ないようにして声をかけた。目を見たら、おそらくは言うことはできないだろうと思ったからだ。だけが、スネイプの横顔を見つめていた。
「パーティー後、暇があれば訪ねてきたまえ。お望みならば、相手をしてやらんこともない」
「え・・?・・・・・えぇぇ!?」
冗談で言ったつもりのことが現実になってしまった。の顔は熟したトマトのように真っ赤になってしまった。手にしていた試験管もあやうく取り落とすところだった。はわたわたと慌てながら、スネイプの横顔を見つめた。
「嫌ならば来なければいいだけだ」
「い、いえ!絶対来ます!約束ですよ、先生」
は半ば興奮しながらスネイプに返事をした。スネイプはずっと無表情だったが、顔色はいつもより良くなっているようだった。不意に訪れた幸運には胸を躍らせ、あまり期待していなかったパーティーの日を待ちわびた。
スネイプの手伝いを終え、は軽い足取りでスリザリン寮へと戻った。そして、その日の夜のことだった。ドラコがのことを強引にパーティーに誘い、断る理由のないがドラコのパートナーの席についたのは。
ダンスパーティーも3日後に迫った日のこと。中庭のテラスでグリフィンドールのおなじみのメンバー、ハリー、ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージたちはお茶をしていた。太陽は出ているが、冬の風は冷たかった。全員の前には、湯気を立てる紅茶が並んでおり、見た目は暖かだったが、皆の顔はどことなく寂しそうだった。
「最近、・・・と話してないね」
「正確には、話したくても話せないだけどね」
ロンが零した愚痴に、ハリーが合いの手を入れた。がドラコとパーティーに行くという噂は、瞬時に校内に広まった。だが、それでも勇気ある男子生徒がをダンスに誘うという事態が起こり、はそれ以来ドラコとその取り巻きに終始守られる(というかつきまとわれる)状態になってしまったのだ。おかげで他寮の生徒はに近づくことすらできないでいた。
「マルフォイの野郎。どこまで汚いんだ」
と話せないがため、禁断症状に似た状態の4人の少年の不穏なオーラに、ハーマイオニーはちょっと引いた。ロンが「に会いたいよぉ」と子どものように嘆いたときだった。
「私がどうかした?」
ロンの後ろにひょっこりと現れたのは、渦中の人物・だった。
「「「「!!!」」」」
「久しぶりだね、皆」
最近ご無沙汰の彼女の笑顔に、少年たちの顔に俄に花が咲いた。なんて単純、とハーマイオニーは呆れた。
「、どうやってここへ?マルフォイの奴らに付きまとわれているんだろ?」
一番に会いたがっていたロンが我先にと声をかけた。は、ぺろりと舌を出して笑った。
「えへへ。トイレに行ってくるって言って抜け出してきちゃった」
「「ほぉほぉ。スリザリンの姫は意外とおてんば、・・と」」
双子は何やら怪しげなメモ帳(帳)に書き込みを始めた。そして4人の男子は、チャンスとばかりに聞きたかったことをに問いかけた。
「「「「、やっぱりマルフォイとパーティーに行くの!?」」」」
突然迫ってきた少年たちの迫力に、流石のも苦笑いでちょっと引いた。だが、正直に「うん」と肯定した。それを見て、少年諸君は全員がっかりと首をうなだれた。
「、あいつに無理矢理誘われたんだろ?」
「嫌なら行くことないよ」
「「そうそう!何なら俺たちと行く?」」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める4人に、は「待って待って、」と困ってしまった。その様子を放っておくハーマイオニーではなかった。
「あなたたち!!が怯えてるじゃない、やめなさいよ!!」
見かねたハーマイオニーの一喝によって、少年たちは耳の垂れた子犬のようになってしまった。グリフィンドールの(未来の)女王の姿を見た気がした。
「まったく、男たちときたら。のことも考えなさいよね。は優しいから断りきれなかったのよね?だって女の子なんだから本当はパーティーは好きな人と行きたいに決まってるじゃない」
「え」
「「「「え?・・・え、って何?!」」」」
ハーマイオニーにずばりと指摘され、思わず素が出てしまったは、慌てて口を手で覆ったが時既に遅し。耳聡く反応する少年たちの視線はに釘付けだった。中でも特に、ロンは真っ青な顔をしていた。
「、・・・好きな人いるの?」
「そんな。嘘でしょう、姫。は!まさか、マルフォイの野郎か!」
「ぬぅぅ・・・許せん、マルフォイ。我等の姫君を独り占めとは。今すぐ八つ裂きに、」
「ち、違うわ。待ってフレッド、ジョージ。ロンも、そんなんじゃないから」
は慌てて両手を振るも、顔も両耳も真っ赤になっていた。みんなになんと言ったらいいのかわからなかった。
好きな人がいる?
そんなのはっきりとわからない。
なら好きな人はいないの?
それもわからない。絶対に違うとは言えない。
は形の良い眉を歪めて悩んだ。そんな様子を見ていたハーマイオニーは、何か感じるものがあった。
「。ちょっと場所を変えましょうか」
「え?う、うん」
ハーマイオニーに手を引かれる形で、は席を立った。残された4人は羨ましそうな目でハーマイオニーを見た。
「ずるいぞ、ハーマイオニー!」
「そうだそうだ。我等の姫君を、」
「いーの!ここからは女の子同士のお茶会よ。あなたたち、ついて来ちゃダメよ」
まるで調教師のようにハーマイオニーはぴしりと少年たちに言って聞かせた。双子にぶーぶー言われながら、ハーマイオニーはを連れて図書室へと向かった。
ハーマイオニーに導かれ、は図書室の一番奥の席に連れて行かれた。都合のいいことに周りには誰もいなかった。
「この席、マダム・ピンスからも見えない絶好の位置なの」
得意げな顔のハーマイオニーに促され、は席についた。気持ちは、もうだいぶ落ち着いていた。
「で、どうしたの?」
場所を変え、のために相談に応じてくれる、優しく笑うハーマイオニーは本当の姉のようだった。だからも、落ち着いて言葉を選んで話をすることができた。は若干俯き加減で、テーブルの木目を見つめながらハーマイオニーに問いかけた。
「あのさ、・・・ハーマイオニーは今好きな人、いるの?」
「え?」
「ほら。さっきハーマイオニー、パーティーは好きな人と行きたいって言ったよね?」
「あぁ。そうね、確かに言ったわね」
「それって、好きな人がいるってことなんじゃないの?」
はテーブルから顔を上げ、ハーマイオニーを見つめた。の顔は真剣そのものだった。ハーマイオニーはしばし考えこみ、いい答えを探し出そうと頭を回転させた。
「うぅ〜ん・・・、。確かにさっきはそう言ったけれど、でもそれは言わば女の子の夢みたいなものでしょう。ほら、王子様願望っていうのかしら?おとぎ話みたいな」
「そういうものなの?・・・え。じゃあ、」
「えぇ。私は別に今恋人や好きな人がいるわけじゃないわ」
「そうなんだ・・・」
ハーマイオニーの言葉に、は複雑な顔をした。ほっとしたような、余計わからなくて不安というような、迷いのある表情だった。の瞳は迷い、揺れていた。ハーマイオニーは、「あぁ、もしかして」と唇の両端を軽くあげた。
「は今、好きな人がいるのね?」
「え!?」
突然の問いかけ。いや、それはに好きな人がいることをほとんど確信した上での確認に近かった。の反応の良さに、ハーマイオニーは「そうなのね」と優しく笑った。のことだから、図星をついてやれば焦ってわたわたして真っ赤になるだろうと思っていた。だがは、頬こそほんのり染まっているものの、妙に落ち着いた様子でテーブルの一点を見つめていた。
「違うの?」
「うぅん・・・。わからないの。この気持ちが何なのか」
は、まるで焦っているようだった。答えが出ないことにヤキモキしているようだった。
「私、好きってよくわからないの。こんなの、感じたことない・・・。でも、その人の近くにいると胸が痛くなるの。苦しくて息がつまるのに・・・それなのに、その人の傍にいたいと思うの。これ、何なの、ハーマイオニー?」
話せば話すほど、の眉は不安に形を変えていった。もはや泣き出しそうなを見て、ハーマイオニーはあらあらと肩をすくめて苦笑した。
「ねぇ、。私のこと好き?」
「え?なに、突然」
「答えて。私のこと、好き?ハリーやロン、フレッド、ジョージは?」
「何言ってるの。みんな大好きよ」
「あ、そう。ちなみに、マルフォイは好き?」
ハーマイオニーは何か確認するように問いかけた。の反応を逃さず見つめた。はきょとんとしながら、
「ドラコ?ドラコも好きよ」
「そう・・・」
平然と言ってのけたの様子に、ハーマイオニーの予想は外れた。これ以上他の名前を順番に言ってもきりがないと思った。ハーマイオニーは最後にひとつ、
「じゃぁ、。あなたの胸が苦しくなる、その人のことは好き?」
にっこりと笑って問いかけると、は急に悲しそうな顔でうつむいてしまった。
「・・・わかんない」
「(自覚症状がないのね。困ったわね)」
ハーマイオニーは苦笑して、小さなため息をついた。不安な顔で見つめてくるを安心させるように、ハーマイオニーはの両手を優しく握った。
「。私はあなたじゃないからその気持ちが何なのか、答えを出すことはできないわ。でもね、その痛みを否定してはだめよ」
「え・・」
「受け入れてあげて。その時が来れば、その気持ちが何なのか、それこそ一瞬でわかるわ」
「本当に?」
「えぇ。ただね、その想いは、あなたが期待するようなものじゃないかもしれない。もしかしたら、憧れや尊敬かもしれない。でも、好きじゃないとも言い切れないわ」
「難しいな・・」
「大丈夫。7年生のテストに受かるなら、すぐに理解できるわ。いい?大切なのは、その想いを否定しないことよ」
「否定しない・・・。うん」
は、ハーマイオニーの言葉のひとつひとつを噛みしめるように頷いた。ハーマイオニーの手に包まれ、は自分の拳に力を込めた。
「そしてもし好きだと気付いたら、その気持ちを大切にしてあげて。人を好きになるって、自分だけのことじゃないの。大切な人なら、相手のことも考えてあげて」
長い高説を終え、「ね?」とハーマイオニーは優しく微笑み、から手を放した。の小さな拳は、大切なものを包むように力が込められていた。解決はしていないけれど、ハーマイオニーのおかげでの気持ちはしばしの安定を取り戻した。緊張が解けたのか、の目頭はじわじわと熱くなったきた。悲しいわけでもないのに、の瞳からはたはたと大粒の涙がこぼれおちた。
「あらあら、大丈夫?」
ハーマイオニーはの頭を優しく撫でてやった。
「ありがと、ハーマイオニー。・・・大好きだよ」
小さな声でそれだけ呟くと、はハーマイオニーの胸にしがみつき、彼女にぎゅっと抱きついた。
「私もが大好きよ。泣き虫のあまえんぼさん」
が泣きやむまで、ハーマイオニーはずっと彼女の頭を撫でてやった。図書室の隅で、2人の少女はしばらく姉妹のように身を寄せ合った。
はひとしきり泣くと、ハーマイオニーにお礼を言って寮に戻ることにした。
「じゃぁね、。パーティの準備で困ることがあったらいつでも言ってね」
「うん、ありがとう。・・・あ、ハーマイオニー!」
「ん?」
図書室の前の廊下で別れ、反対方向へ進んでいたハーマイオニーをは呼び止めた。振り返るハーマイオニーに、「最後にもう一つだけ」と、は問いかけた。息を吸って、勇気を振り絞って、もう一つだけ、
「ねぇ、ハーマイオニー。恋をしちゃいけない女の子って、いると思う?」
決して大きな声ではないのに、の言葉は風に乗ってすぅっとハーマイオニーの胸に入ってきた。どんな難題かと思えば、とハーマイオニーは構えていたのに。
「なんだ、そんなこと」
それなら、絶対的な自信を持って答えられるわ、とハーマイオニーは笑って言った。
「そんな女の子、いないわ。恋をするのは自由、人を愛するのは自由だもの」
迷いのない答えをに告げると、ハーマイオニーは少年たちが待つテラスへと戻っていった。
は、頼りがいのある姉の背中をずっと見送った。ハーマイオニーの姿が見えなくなるまでそこに立ち、は小さな声でハーマイオニーに感謝の言葉を贈った。
「ありがとう・・・、私の存在を認めてくれて」
の心に無数に存在していた小さな亀裂が、溶けてなくなるように姿を消していった。
スリザリン寮に戻ると、ドラコはやはりご立腹だった。当たり前だ。はこっそりと姿を消したのだから。が談話室に入ってくるのを見て、ドラコは綺麗な眉を両方つり上げた。だが、の両目が真っ赤になっているのに気づくや、ドラコの顔は驚きに変わった。
「ど、どうしたんだ!?誰に泣かされた!僕が仕返ししてやる、」
ドラコの慌てぶりに、は困ったように笑うと、彼をなだめた。
「平気よ、何でもないわ。それよりドラコ。ダンスパーティー楽しみね」
は満面の笑みをドラコに向けた。今までとどこか違う、それはスリザリンらしくない生き生きとした笑顔だった。今までだって十分に綺麗で可愛らしかったが、一段と美しく見えた。不覚にもその笑顔に見とれてしまい動けなくなってしまったドラコであった。
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