ドリーム小説
スネイプはベッドの横の椅子に腰掛けると、手のひらの中に包んだものを関心深く眺めるを見つめた。彼女はそれに夢中で、そばにいるスネイプには目もくれない。スネイプは深く息をした。
「」
「なぁに?」
名前を呼ぶと、は幼い子どものように返事をしてスネイプに顔を向けてきた。そのまま、スネイプはの顔をじっと見つめた。も目をそらすことなくスネイプを見続けた。名前を呼んだきり何も言ってこないスネイプに、は首をかしげる。
「プロフェッサー」
「ん?・・・あぁ」
「プロフェッサーは、何の先生なのですか?」
「・・・・・」
の質問事項に、スネイプは軽くショックを受けた。そうだ。この子は、自分に関するすべてを忘れてしまったのだ。自分がよく知る・とは違うのだ。そう思い知らされた。スネイプは一度瞼を伏せると、肩で息をしてゆっくりと顔を上げた。
「我輩は、・・・魔法薬学を教えている」
「薬学の先生なのですか。薬学は、私も一番好きな教科です」
「そうかね。それは光栄だ」
「プロフェッサー。あなたは、」
「。その、・・・なんだ。その呼び方は、我輩はあまり好きではないのだがな」
スネイプはそう言って苦笑いした。すると、は少し首をかしげて、
「プロフェッサー。あなたのお名前は?」
まるでままごとか何かのように名前をたずねてきた。スネイプはの顔をじっと見つめ、その蒼い瞳を見つめ、ゆっくりと名を名乗った。が聞き間違えることのないよう、ゆっくりと。
「我輩は、セブルス・スネイプという」
「スネイプ、・・先生?」
「あぁ。覚えてくれるかね」
スネイプは僅かな期待を抱いた。が自分を思い出してくれるのではと願った。だが、それは叶わぬ想いだった。はスネイプの名を初めて覚えた言葉としてしか認識してくれなかった。
「覚えました。スネイプ先生」
「・・・あぁ」
「魔法薬学のスネイプ先生」
は子どもが言葉を覚えるように、九官鳥か鸚鵡のように何度も繰り返し彼の名を呼んだ。
「スネイプ先生」
「なんだ」
がスネイプの名を呼ぶことに特に意味などないのだ。それはの言葉遊びに過ぎない。それでもに呼ばれたら、スネイプはそれに優しく返した。
「魔法薬学の先生」
「あぁ」
「セブルス・スネイプ先生」
「あぁ、・・・そうだ」
一つ一つ返事を返してくれるのが嬉しくて、スネイプを見つめるの顔が少しずつ笑顔に変わり始めた。何度も彼の名を呼ぶと、は椅子に腰掛けるスネイプへとにじり寄ってきた。
「スネイプ先生。良いものを見せてあげます」
は先程から両手で包んでいたものをスネイプに見せた。花開くように両手を広げると、手のひらの中身をスネイプの方へ寄せた。スネイプは椅子に座ったまま上半身を乗り出して中を覗いた。そして、の手のひらの中にあるのが自分が贈った銀のリングだと知ると、スネイプは驚きに目を大きくした。
「、・・・これは、」
「綺麗でしょう。これはの宝物なんです」
「・・・宝物、か」
「はい。これは、の『恋人』という人がくれたものなんです」
は喜々として話す。だが、の話の中に出てくる『恋人』という存在の曖昧さにスネイプは徐々に表情を失っていった。
「。・・・その『恋人』というのは一体誰のことだね」
「わかりません」
「・・・わからない、・・のか」
「はい。覚えてないのです。でも、は待っているんです。その人が迎えにきてくれるのを」
そう言って無邪気に笑うを前に、スネイプは苦笑いすら浮かべることができなかった。あるのは、ただの失望だけ。希望なんて、どこにもなかった。は、自分の目の前にいるのが自身の恋人であることにすら気付かず、まるで別の誰かを待っているかのようで。切なくて、悔しくて、スネイプは泣きたくなった。
俯いてしまったスネイプを、はきょとんとした顔で見つめていた。だが彼が生み出す哀しげな空気を感じ取り、もまたスネイプの悲壮感に感化され、肩を落とし唇を噛みしめた。
「スネイプ先生・・・?」
「・・・・・」
「スネイプ先生、泣かないでください」
は左手の中にリングを握りしめると、空いた右手で俯くスネイプの頭を撫でた。突然の彼女の行為にスネイプは驚き、ゆっくりと顔を上げた。自分を心配すると目があった。
「泣かないで、・・・・泣かないでください」
スネイプは泣いてなどいない。だが、から見たスネイプは泣いているように見えたのだろう。スネイプが顔を上げても構わず、は腕を伸ばしてスネイプの頭を撫でた。大の大人が子どもに頭を撫でられるなど、普段のスネイプだったら気恥ずかしくてすぐに止めさせただろう。だがスネイプは何も言わず、がしたいようにさせてやった。
「スネイプ先生」
「・・・なんだね」
「さみしいんですか?」
「・・・なに?」
「さみしい、って。スネイプ先生の心が泣いてます」
「・・・・・」
どうしてなのだろう。は自分のことを忘れ、今や赤の他人も同然なのに。それでも、スネイプの難解な心を敏く読み取ってくれる。そして、今の自分にできる精一杯の慰め方で癒してくれる。胸の奥が熱くなる。いたたまれなくなった。
「泣かないで、スネイプ先生。私がそばにいてあげます」
は心配そうな顔でスネイプの頭を撫で続けた。の言葉にスネイプは驚きに目を開く。そして、ゆっくりと瞼を下ろし、苦渋と哀しみに満ちた表情を浮かべた。
『そばにいてください』
それは自身がスネイプに求めたこと。の記憶が戻ったとは思えない。だからそれはきっと、にできる精一杯の優しさであり、誰かを愛する方法なのだろう。その人のそばにいることが、彼女にできる精一杯の愛情なのだろう。
今のにできる最上の愛を受け、スネイプは切なくてたまらなくなった。自分の頭を撫でてくれるの手を取り、その細い手を自分の頬に押し当てた。
「あぁ・・・・」
「スネイプ先生?」
「・・・、・・・・・・ずっと一緒にいてくれ」
―――君がどんな世界にいってしまったとしても、・・・我輩も必ず追いかけよう
その言葉を胸の中にしまいこむ。
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <26> ■
――― Friday ―――
が保健室に運ばれてから4日目。
の容態は変わることはなかった。食べた物はすべて吐き、栄養も満足に取れず、の体は異常な速さで衰えていった。体の衰弱と合わせて心の退化も始まり、今ではの振る舞いは4〜5歳児と変わらぬものになりつつあった。時折彼女の弱った体を激痛が襲い、保健室からは少女の悲鳴が途絶えることがない。せめて他の生徒たちに聞かれぬようにと保健室の周辺に防音の魔法が張られた。
アイリーンとエリックには個室が用意され、しばらくホグワーツに滞在することになった。だが娘の叫び声を聞く度にアイリーンはパニック状態となり、鎮静剤を与えられて個室で休むことが多かった。精神不安定に陥る母親に代わり、父であるエリックが毎日保健室を訪れた。
エリックと同じくらい足繁く、スネイプも保健室に通い続けた。授業のない時間はほとんど保健室に赴いていると、は次第にスネイプの来訪を心待ちするようになった。
「スネイプ先生、これ読んでください!」
スネイプが顔を見せるとは嬉しそうに本を掲げて読んでくれとせがんだ。スネイプは苦笑しながらも、仕方なく朗読してやる。はすっかりスネイプに心を許し、彼には頻繁に笑顔を見せるようになった。だが決して彼女の容態が良くなったわけではなく、他愛ないお喋りの途中では幾度となく咳をし、血を吐いた。
「・・・!」
スネイプは焦り、マダム・ポンフリーを呼びに行こうと背を向ける。だが、にローブを引っ張られ、スネイプは足を止めて後ろを振り返った。は片手で口を覆い、苦しげに肩で息をしていた。ひゅうひゅうと風を切るような音がの口から零れる。それでも、スネイプのローブを掴むの手はしっかりとしていた。
「スネイプ、・・先生・・っ」
荒い息を吐きながら、必至にスネイプに懇願する。スネイプは血を吐く少女を前に考えた。今すぐにマダムを呼んでくることが先決だと。だが、・・・
『そばに、・・いてください』
胸の奥に響く、彼女の声が聞こえた。スネイプは自分のローブを掴むの手を取ると、もう一度ベッドサイドの椅子に座り直した。
「わかった」
スネイプはの顔を見つめ、少しだけ唇を緩めて笑った。それだけでの苦しげな表情が緩んだ。
「我輩はここにいよう。少し眠りなさい」
スネイプはの頭を撫でてやり、衰弱した体をベッドに寝かせた。布団をかけてやると、はようやく落ち着いたのか、静かに寝息を立て始めた。疲れ切った寝顔を見つめ、スネイプはの唇の端についた僅かな血を指で拭ってやった。骨が浮き出るほど痩せてしまった細い手を握り、スネイプはゆっくりと目を閉じ、神ではない何かに祈った。
その姿を、保健室の扉の影から静かに見守る男がいた。
その日の昼食を終え、スネイプは僅かな昼休憩を利用してに会いに行こうと保健室へ向かっていた。その途中で、スネイプは思わぬ人物から声をかけられた。
「失礼、スネイプ先生」
陽の当たる明るい廊下で声をかけられ、スネイプは静かに後ろを振り返った。そこには、ゆったりとした足取りで歩いてくるエリックがいた。の父親であるエリックから声をかけられたのはこれが初めてだ。スネイプは僅かに緊張した。
「ミスター・・・・」
「あぁ、よかった。ようやく声をかけられた」
エリックはスネイプより少し低い背で、スネイプを僅かに見上げて表情を緩ませた。その笑い方がどこかに似ていて、スネイプの胸がまた軋みを上げる。
「我輩に何か御用で」
「えぇ。少し話をと思いまして」
エリックは柔らかく笑い、スネイプに時間がとれるかと訊ねた。スネイプはのところへ行くつもりでいたが、それをエリックは感じ取ったのか、「のところには、今は妻が行っています」と苦笑して告げた。そして二人は、近くのテラスへと足を向けた。
スネイプとエリックは庭の端にあるベンチに腰掛けた。遠くではしゃぐ生徒たちの声が聞こえる。隣に座るエリックは、一人穏やかな時間を噛みしめているようだった。それとは反対に、スネイプはの父親を横に、見た目には平静を装っていたが、内心ではあまり落ち着くことはできずにいた。沈黙が痛く、スネイプから声をかけた。
「その、ミス・も大変ですが、ミセス・はもうよろしいのですかな」
スネイプがアイリーンを見たのは、ホグワーツに来た最初の頃だけだ。の様子を知るや精神不安定となってしまったアイリーンはそれ以来個室で休むことが多くなり、スネイプもあまり会っていない。エリックはスネイプに首を向けると困ったように苦笑してみせた。
「えぇ、だいぶ良いようです。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません。娘のことのみならず、妻まで」
「心中お察しします。その、・・・あなたは大丈夫なのですかな」
スネイプはエリックを気遣った。だけでなくアイリーンのことまで気を回す若い父親に同情した。スネイプの気遣いに、エリックは目を細めて笑う。
「大丈夫です。お気遣いいただき光栄です」
「無理はしない方が良い。苦しさを隠しても、良い方には向きませんぞ」
スネイプは自分の方が若干年上であることもあり、少しばかりの助言をエリックを与えた。エリックは、静かに笑みを深くした。
「あなたは優しい方ですね。スネイプ先生、・・・いえスネイプ先輩」
「なに?」
懐かしい学生時代の呼ばれ方をされ、スネイプは不思議に眉をひそめた。するとエリックは楽しげに肩を揺する。
「ふふ。きっと覚えていない、・・・いえ、あなたが知るはずもないでしょうね。私と妻は、あなたの2つ下の学年に在籍していたんですよ。ただ、あなたはスリザリンで私たちはグリフィンドールだったから、接点はまったくありませんでしたが」
「なるほど。年が近いように感じてはいましたが」
「えぇ。あなたにとって私たちは敵寮の年下の後輩です。知るはずもない。ですが、私たちはあなたのことをよく知っています」
にっこりと笑うエリックに、スネイプは「何故?」という表情を浮かべる。するとエリックは、
「だって試験のたびに廊下に張り出された成績上位者一覧から、セブルス・スネイプさん、あなたの名前が消えたことはなかった」
そう言ってエリックはもう一度にっこりとスネイプに笑いかけた。「敵対寮の先輩ながら、こっそりと尊敬していました」と言われ、スネイプは何だかこそばゆく、わざとらしい咳払いをしてエリックから目をそらした。だが、決して悪い気はしなかった。
「しかし驚きました。私と妻はグリフィンドールだったもので、がスリザリンになったと手紙で知らせてきたときは妻と顔を見合わせて目を丸くしました」
「それほどはスリザリンらしくないということですな」
「あー・・・はい、その・・・正直に言えば、そう思いました。あの子の性格からしてハッフルパフになるものかと思っていたもので。気を悪くさせたならば謝ります」
「いや。正直、我輩もそう思います。は我が寮の気質をほとんど備えてはいない」
スリザリン生の特徴的とも言える狡猾さが、にはない。それなのに何故がスリザリンに選ばれたのか。皆が不思議に思っていた。
「そう。ずっと不思議に思っていたのですが・・・。がこんな状態になってホグワーツに来ることになり、ようやくその意味がわかりました」
がスリザリンに選ばれたのには意味がある。
「スネイプ先生」
それまでとは違う雰囲気で、エリックがゆっくりと噛みしめるようにスネイプの名を呼んだ。スネイプは反射的にエリックの方を向いた。目があったエリックは、まるですべてを悟っているかのように穏やかに微笑んでいた。
「聞いてくださいますか、先生。あなたには、知っておいてもらいたいことがあります」
そう切り出し、エリックはスネイプから視線を正面に移し、遠くを眺めながら話した。
「先生。実はには、学校に行けない理由もあの子の出生の秘密も、・・・それからこれからあの子に降りかかる呪われた運命のことも全て話をしてあるんです。あの子の10歳の誕生日に、―――学校に上がれる年齢になったときに話をしました」
エリックが語るの昔話を、スネイプは静かに聞いた。そのときそのときのの気持ちを考えながら。
「話をした日、あの子は一晩中大声で泣きじゃくりました。・・・無理もない、当たり前です。大人の私たちでさえ受け入れがたいというのに、まだ10の娘に理解できるわけがない。・・・ですが、あの子は次第に駄々もこねず、我が儘を言って泣きもしなくなりました」
その原因を、エリックは苦笑いを浮かべて語る。
「に降りかかった呪われた運命のことで私と妻が意見をぶつけ合い口喧嘩をするようになり、それを見ては子どもながらに感じたのでしょう。『自分が我が儘を言わず、この運命を受け入れてしまえば両親の諍いもなくなる』と。・・・情けない限りです。一番苦しんでいる娘に気を遣わせるなど」
エリックは背中を折り曲げ、苦しそうに笑う。スネイプはそれを黙って見つめた。エリックの気持ちは分かる。だが今はそれ以上に、幼い頃のの気持ちにスネイプは胸が締め付けられた。たった一人で呪いと立ち向かう、哀しい少女の物語に自然とスネイプの眉が寄る。
「呪われた運命と正面から向かい合い、はそれを受け入れながらも心の奥底では希望をもっていました。妻が家にいないとき、私と話していて一度だけ零したことがあるんです」
『ねぇ、お父さん。たとえ命が尽きるとわかっていても、大切な人と出会いその人を好きになれるなら、私はそうしたい。・・・そう言ったら、反対する?』
苦しみの中でも明るく笑って夢を語るの姿が、スネイプには容易に想像できた。閉じた瞼の裏に、小さな希望を胸に笑うを見つけた。
「外の世界に出て他人と触れ合うことが増えれば、自分にかけられた呪いが解放される危険性も大きくなる。・・・それでも、は自ら広い世界に飛び出すことを選んだ。出逢うべき、大切な人を探すために」
行ってきます、と。笑ってホグワーツに旅立っていったを想い、エリックは目を細める。そして、先程からずっと静かに話を聞いていてくれたスネイプの方へ体を向けた。
「スネイプ先生。あなたに感謝します」
突然感謝の言葉を告げられ、スネイプはしばしエリックと目を合わせていたが、徐々に耐えられなくなり自分から目をそらした。ここまでのエリックの話を聞いて、スネイプは察していた。エリックは、スネイプとがどんな関係にあるか何となくわかっているのだろう。だからの過去をスネイプに話したのだ。
「我輩は礼を言われるようなことは、」
「がスリザリンに選ばれた訳が、今なら分かります。『あなたがいるから』、ですね」
「・・・・・」
「あなたのを見つめる目を見て、すぐにわかりました。あれは生徒を見守る寮監の目ではない。あれは、」
スネイプは緊張に鼓動が少しずつ早くなるのを感じた。だがエリックはそんなスネイプを追いつめるどころか、逆にスネイプを落ち着かせるように静かに笑った。
「あなたの目は、大切な人を見守る目です」
「・・・・・」
「の手紙にあった、大切な人というのはあなたのことですね。スネイプ先生」
スネイプは何も答えられなかった。エリックはスネイプの沈黙を肯定と受け取り、肩を揺らした。
「やっぱり。私の勘も、まだまだ冴えているなぁ」
「ミスター・・・・。我輩は、どんな叱咤を受けることも覚悟できていますので」
軽蔑叱咤されることなど百も承知でいた。そのくらいの覚悟がなければ、あの娘を愛することなどできない。永遠を誓うことなどできない。スネイプは硬く目を閉じ、どんな罵声を浴びせられてもいいように眉を寄せて目を閉じた。だが、返ってきたのはスネイプの予想とは違う、暖かな声と温度だった。スネイプは膝の上で組んだ拳の上に人の手の温かさを感じ、驚きに目を開けた。
「・・・ミスター、」
「誰があなたを叱咤などするのですか?」
エリックと目があった。その眼差しは穏やかで、そしてスネイプの手を包むように置いた手は暖かだった。
「あの子は、ホグワーツに来られて本当によかったと、幸せだと手紙で言っていました。それは、あの子がずっと夢見て待ち望んでいた大切な人と―――あなたと巡り会えたからです」
スネイプの手を包むエリックの手に力が込められた。
「娘がこんなにも深く愛されていることを知り、嬉しく思わない親がどこにいるというのです」
笑うエリックの顔が、の笑顔と重なった。スネイプは彼女への愛しさと、娘を想う父親の愛に胸が軋んだ。そして、自分のへの愛を認めてくれるエリックに、ずっと胸の中に抱えていた大きな罪が許されたような気がした。
「を愛してくれて、・・・ありがとうございます―――セブルス・スネイプさん」
陽の光に、エリックの笑った顔と茶色い髪の毛がきらきらと光り、スネイプはあまりの眩しさにゆっくりと目を細めた。自分の手を握るエリックの手の力強さに、スネイプは少しだけ俯き、彼にわからないように唇を噛みしめた。
*
その日の夜、スネイプは久しぶりに大広間で食事を取った。があんな状態になってからというもの、彼女のそばに四六時中付き添い、食事もままならなかった。それでなくとも食欲などわかなかった。の体の異変に同調するように、スネイプ自身も体調が崩れていた。ほどではないが、食べても吐いてしまうこともあった。勝手な推測だが、が受けている呪詛の影響が、彼女と心を一つにした自分にも流れてきているのではないかとスネイプは考えた。もしそうだったとしても、それを気味が悪いとは想わない。彼女が受けている苦しみを共有できるなら、その方がいい。
食べたくもない野菜のソテーを口に運んでいたときだ。不味そうに食事を口にするスネイプの後ろを、食事を終えたダンブルドアが通りかかった。
「まるで嫌いなものを無理矢理食べさせられておる子どものような顔じゃな、セブルス」
豊かな白い髭を揺らし、大校長は茶々を入れる。スネイプは眉間に皺を寄せ、ちらりと背後を見ただけですぐに正面を向いた。
「くだらぬ戯れ言はお止めを・・・」
「ほっほっほ。好き嫌いはせぬようにな。ただでさえ悪い血色が、ますます悪くなるぞ?」
ダンブルドアは楽しげに笑って、スネイプの肩をぽんぽんと叩いて彼の後ろを通り過ぎていった。スネイプは何のために声をかけられたのかはわからないが、子ども扱いされたことは面白くなく、苦々しいため息を吐いた。だが、再び食事をとろうとして皿に視線を戻し、メインディッシュのロブスターのハサミに小さな紙切れが挟まれていることにギョッとした。先程まではなかったものだ。
「なに・・?」
引きつった顔で恐る恐る紙切れを指で挟み、しげしげと眺めていると、教師テーブルの下に降りたダンブルドアと目があった。ダンブルドアは、指に紙切れを挟んだスネイプに向かい、意味深な笑みを見せた。スネイプはうんざりした顔をする。ダンブルドアの「お茶目な悪戯」に付き合っているほど暇ではない。
「校長・・・。我輩は、」
「セブルス。中は見たかね?」
うんざり顔でダンブルドアを見下ろしていたスネイプは、ダンブルドアの眼鏡の奥の目が何かを伝えようとしていることに気づき、真顔になった。スネイプは視線を校長から紙切れに移すと、片手でかさりと紙切れを開いた。中には短いメモ書きで時刻と場所が書かれていた。待ち合わせの約束だった。スネイプは怪訝な顔でダンブルドアを見下ろす。だが、偉大なる魔法使いはすでにスネイプに背を向けていた。
「校長、これは・・・?」
「わしからではないぞ。だが、今の君の一番の助けとなってくれるじゃろう」
背中で伝え、ダンブルドアは片手を上げて去っていった。スネイプは静かにフォークを置くと、再び紙切れのメッセージをじっと眺めた。誰の筆跡かもわからない。信じろと言われたところで怪しいことこの上ない。だが、今の自分がにしてやれることを考えたら、できることは全てやってやりたい。スネイプは指先で摘んだ紙切れを閉じ、ローブの中に仕舞った。
『今夜0時00分。北塔にて待つ』
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