ドリーム小説
『どんなことがあっても・・・2人一緒ですよ』
あのとき唱えた呪文はこうも簡単に破られるものだったのだろうか
『ずっと・・・ずっと一緒にいてください』
そう約束したはずなのに
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <24> ■
床に薬学の書物が散らばった部屋のソファーにスネイプは頭を抱えて腰掛けていた。
全てを忘れたいと思った。が自分のことを忘れてしまったように。あらゆることを忘れてしまえば、こんな苦しい想いをしなくてすむのに。
「くそ・・・」
悪態をついたところで何かが変わるわけではない。それでも、いつもの冷静な自分でいられないことにすら苛立ちを覚えた。
たった数日前、この部屋で彼女と交わした約束がスネイプの胸を余計に苦しめ、そして切なくさせる。
一生をかけて守ってやろうと誓ったのだ
こんなにも早く失うわけにはいかない
それでも自分が何をすればいいのか、何ができるのかすらわからない
その夜、スネイプは夢を見た。
愛しい人が苦しんでいても夢は見るものなのだと冷静に思った。
夢の中に、幼い少女がいた。見覚えのある蒼い瞳にきれいな銀髪。そして面影のある顔立ちは、スネイプが愛する彼女だった。
少女は母親らしい女性に抱きすくめられていた。母親は泣いていた。
『嫌よ!は絶対外に出さないわ、・・・この家でずっと私と一緒にいるのよっ』
『アイリーン、いい加減にしないか』
『貴方はいいの!?この子が死んでしまってもいいのっ!?』
『ママ?・・・パパ?』
『君は気にしすぎなんだよ。こんな幼い子に、恋だなんだのなんてわかるわけがない。過剰に心配しすぎだ』
『そんなことわからないじゃないっ。絶対嫌よ・・・っ』
『いい加減にしないか!に友達の一人も作らせず、教育も受けさせないつもりか!?君の行動はを不幸にするだけだ!』
『じゃあどうすればいいっていうの!?』
『パパ、もういい・・・ママも、もういいよぉ。あたし、おうちにいる。・・・だからもうけんかしないでっ』
父親と母親はそれでも口論を続けていた。少女は泣きながら小さな手を伸ばし、彼らを止めようとする。
『あたし、・・・パパとママだけ好きでいるからっ。ほかのだれも好きにならないから、・・・だからけんかしないでっ』
銀色の髪の少女は、必死で彼らを止めようとする。自分のせいで言い争いの絶えない両親に、精一杯小さな手を伸ばした。
その必至な想いに、夢の世界を通してスネイプの胸も痛んだ。それは、今もまだ保健室で激痛に耐えている少女の心の叫びだった。どこかでスネイプの心と繋がってしまった少女の心の声だった。
――― Wednesday ―――
早朝、鶏も鳴かない時間帯にホグワーツに一台の馬なし馬車が到着した。中から2人の人物が降り、フィルチとミセス・ノリスが出迎えた。
年若い30代前半くらいの男女は、2人とも神妙な面持ちで荷物を持ってフィルチの後をついていった。客人は校長室へ通されるのが通常だったが、この2人についてはホグワーツ到着後すぐに保健室へと案内された。フィルチの案内があるとはいえ、校内を進む2人の足取りはここの地理を良く知ったもののそれだった。
冷たい廊下を進んだその先にある保健室の表示を見つけるや、フィルチの後ろを歩いていた女は彼を追い越し、駆け込むように保健室に足を踏み入れた。
突然の来訪者に、マダム・ポンフリーは怪訝な顔で女を見つめた。
「失礼。どちら様でしょうか」
「あの、は?」
「は?」
「・という生徒がこちらに」
女は焦った様子でマダムに問いかけていたが、何かを見つけてそれを凝視し、言葉を切った。そして、
「・・・っ!!」
大声で少女の名を呼ぶとマダムの横をすり抜け、黒い瞳から涙を流して少女が眠るベッドに駆けよった。女が何者であるかまだ把握できていないマダムは、勝手な行動を取る彼女を追いかけた。すぐにでも保健室を出て行ってもらおうと声をかけようとしたが、目を覚ましたの一言にマダムも困惑することになる。
「お母さん・・?お父さんも・・・」
起きるやいなや、ここホグワーツにいないはずの人物たちの顔を見て、は疲労の濃い目を何度も瞬かせた。痛む体をベッドから起こそうとして、だが駆けよってきた母に強く抱きしめられた。変わり果てた娘の姿に、女はとめどなく涙をこぼす。
「・・・っ。あぁ、・・・なんて姿に」
尚一層強くを抱きしめる母に、は眉尻を落とし哀しげに目を伏せた。自分を抱きしめてくれる母の背中に腕を回す。そして、ゆっくりとした足取りで近づいてくる男―――父の顔を見つめ、は唇を噛みしめた。
「」
「お父さん・・・」
「っ。・・・あぁ、・・・私たちの・・・っ」
「お母さん、・・・。お母さん、ごめんなさい。お母さんの、言ったとおりになっちゃった」
は母親の背中に当てていた腕をだらりと下げた。それはまるで「降参」と言っているかのようだった。母はの小さな頭を胸に抱き、絞り出すように言葉を紡いだ。
「だから私は反対したのよ・・・・、あなたを外に、ホグワーツに行かせることに・・・」
愛する娘の髪に頬寄せ、女は涙を流した。それは後悔の涙だった。を全てのものから守ろうと、母はをきつく抱きしめる。その苦しすぎるぐらいの抱擁に、は困ったように苦笑いした。それから、母の腕の中ではゆっくりと首を横に振った。
「お母さん、そんなこと言わないで。ほら、手紙にも書いたでしょ?私ね、友達がいっぱいできたの。それからね、・・・それから・・・」
は必至に言葉を続けようとした。だが、どうしても伝えたいことがどうやっても思い出せない。
「大切なことがあったんだけど、・・・・なんでかな。・・・忘れちゃった」
は母の腕の中で哀しげに笑った。一番伝えたいことが、思い出せない。悔しいはずなのに、その気持ちすらもう薄れ始めていた。
*
喧噪から遠く離れた校長室に客人たちは招かれた。校長と副校長、それからスリザリン寮監を前に、の両親は勧められたソファーに腰を下ろした。
「遠いところ、すまないの。久しぶりじゃな。アイリーン、それにエリック」
ダンブルドアが表情を和らげて挨拶すると、声をかけられた2人は軽く会釈した。
アイリーンと呼ばれた女性は艶のある黒髪を揺らしながら顔を上げた。美しい顔立ちは30を過ぎているとは思えぬほど若く見える。黒曜のような瞳は涙に濡れ、目尻が赤く染まっていたがそれすらも彼女の美しさを際だたせていた。
「ご無沙汰しております。ダンブルドア校長先生」
アイリーンは不安げな視線をダンブルドアに送った。それから、彼の横に立つマクゴナガルに体を向けた。
「お久しぶりです、マクゴナガル先生」
「ミス・・・いえ、ミセス・。元気そうでよかった」
「先生。どうぞあの頃と同じように、アイリーンと呼んでください」
アイリーンはぎこちなくも笑顔を作ってマクゴナガルに微笑んだ。マクゴナガルはアイリーンの気持ちを汲み、静かに頷くと今度はエリックへと視線を送った。
「エリック、あなたも。本当に何年ぶりでしょうか。変わりありませんか」
「はい。マクゴナガル先生こそあの頃からお変わりない。お元気そうで嬉しいです」
エリックと呼ばれた男はソファーから立ち上がり、マクゴナガルと両手を握り合って再会を喜んだ。焦げ茶の髪は柔らかな癖があり、色素の薄い茶色の瞳がとても暖かだった。マクゴナガルに勧められ、エリックは再びソファーに腰を下ろした。
「遠いところを、よく来てくれました」
「いえ、こちらこそ早く連絡をいただけてよかったです」
「話しには聞いていましたが、こんなことになるとは私たちも想像しておりませんでした」
マクゴナガルは自分の元教え子にあたる2人に辛そうな表情を向けた。重苦しい雰囲気が部屋に流れていた。
それをスネイプは少し離れたところから窺っていた。初めて相見えるの両親を前に、スネイプは何とも言えぬ心持ちでいた。そんな彼の心境を察してか、不意にダンブルドアがスネイプの肩を押した。
「(何を・・、)」
「紹介が遅れた。2人とも。こちら魔法薬学を担当しておる、の寮監でもあるスネイプ先生じゃ」
ダンブルドアに紹介されると、アイリーンはソファーに座ったままスネイプの方に体を向け深く一礼した。隣に座るエリックもそれについで頭を下げた。
「先生。このたびは、娘がご迷惑を」
「いえ・・・。心中お察しします」
「学校での娘は、どうでしょうか。きちんと学校生活を送れていますか」
憔悴するアイリーンに代わり、父であるエリックが問いかけた。穏やかな言葉遣いは、どこかの話し方に似ていた。
「ミス・は、大変優秀な生徒です。彼女を慕う者も多く、皆が彼女の不調を心配しています」
淡々と言葉を紡ぎながら、スネイプは複雑な想いでいた。目の前にいるのは恋人の両親なのだ。そんな彼らを前に、スネイプはいつものように社交辞令を済ませる。
スネイプの心中は穏やかではなかった。彼らはどう思うだろう。自分の娘が自分たちと変わらぬ年の男と恋に堕ちていると知ったら。認められるはずがない。静かな絶望にスネイプは目を細めた。
膝の上で組まれたアイリーンの手は微かに震えていた。エリックが彼女の肩を抱きしめる。
「アイリーン。どうか落ち着いて」
不安に押しつぶされそうなアイリーンの様子を察し、マクゴナガルが声をかける。アイリーンの瞳には涙が戻ってきていた。
「お願いします、・・先生方。どうかあの子を・・・っ」
両手で顔を覆い、アイリーンは堪えきれず涙を流した。エリックがそんな妻の頭を引き寄せ、言葉が続かない妻に代わり恩師に頭を下げた。
「私からも、お願いします。どうか、どうか娘を、・・・を助けてください。あの子の出生について、全てをお話します」
そうして語られるおとぎ話がある
物語の始まりは、14年前の冬まで遡る
14年前のその日、それはが生まれた日
その日外では、しんしんと白銀の雪が降り続いていた
←
BACK
→
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送