ドリーム小説
ココロもカラダも
すべて貴方と繋がっていたいと思うのはわがままでしょうか
たとえ傲慢だと言われようと
私はずっと貴方と一緒にいたい
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <23> ■
夢であって欲しいと願った。
やっと幸せにしてやれたと思っていた。
これからもっと幸せにしてやるつもりだった。
そのための「約束」もした。
それなのに何故、彼女ばかりが・・・・・
――― Tuesday ―――
「ドラコっ、・・・がっ!を、・・を助けてっ!!」
「落ち着け、パーキンソンっ。下手に動かすなっ!」
ドラコはパンジーの悲鳴を聞きつけ女子寮に駆け込んだ。だが、部屋に入るなり視界に飛び込んできたその凄惨な光景に吐き気を覚えて顔をしかめた。は自分で吐いたと思われる大量の血で真っ白なシーツと体を真っ赤に染めてベッドの上に横たわっていた。どこからか流れ込む風に銀色の髪が揺れているが、彼女自身はピクリとも動かない。死んでいるのかとすら思われた。
「おい、マルフォイ君。何があった!?」
パンジーの悲鳴を聞いた監督生が遅れて部屋に入ってきた。彼もまた・の姿を見て驚愕の表情を浮かべた。
「、・・・なのか?一体何があったんだ?!」
問い詰められるような問いかけに、パンジーは首を横に振るばかりで言葉が出ない。役に立たないパンジーに監督生は早々に見切りをつけ、の傍に駆け寄ると手首をとり脈を測った。
「・・・弱いがまだ無事だ。だれかっ、マダム・ポンフリーのところへ!」
監督生の一言で、下級生らが寮を飛び出していった。ドラコは次々と指示を出す監督生の声を聞きながら、動かないをただ見守っていた。泣き崩れる女子たちの声が聞こえる。後から後から部屋に入ってくる寮生らの驚きの声が聞こえる。喧噪に包まれる部屋に、ドラコは背を向けた。野次馬たちの間を縫って寮を抜け出す。そして廊下を一目散に駆けた。今のの状態を一番に知らせなければいけない人がいた。
*
時間を少し遡る。
真夜中の2時。動物たちも皆寝静まる時間帯に、おかしなことに目を覚ましてしまった者がいた。何かに呼ばれたような気がしてベッドから体を起こし、初めに感じたのは吐き気だった。
「ごほっ・・・っぐ、」
の看病のおかげで風邪はもうすっかり治っていた。熱もなく体調も悪くない。それなのに何故か吐き気がこみ上げ、よろよろとした足取りで洗面台に辿り着くとシンクに嘔吐した。何か別の病気の前触れなのかと不安にさせられる。とにかく明日マダム・ポンフリーのところにでも行ってみるとしようと、スネイプは口元を拭ってベッドに戻った。
重たいため息を一つついて目を閉じると、瞼の向こうに浮かんだのは恋人の顔だった。彼女には、・・・このことは黙っておこうと思った。話せばきっとのことだから心配するだろう。無駄に不安にさせることはない。
そうしてベッドの横になったが、結局その晩スネイプは何度も起き上がることになった。吐き気に目が覚め、ただ嘔吐するだけ。しまいには吐くものすらなく、酸に満ちた胃液を吐き出した。こんなことがいつまで続くのかと嫌気を感じながら、苦痛に満ちた夜は過ぎた。
そして、そんな苦痛以上の苦しみを知ったのは、翌日の朝のことだった。身支度をととのえ朝食の席へ出向こうとした矢先、スリザリン寮生のドラコ・マルフォイが慌てた様子で研究室へやってきたのだ。彼がここを訪れるのは本当に珍しい。全速力で走ってきたらしいドラコは肩で息をしながらも、必至にスネイプに伝えたいことを途切れ途切れに口にした。
「スネイプ先生、・・・っ。が・・!」
ドラコの知らせで、スネイプはすぐさま保健室に駆けつけた。室内には大勢の人々がいて、普段とは違う物々しい雰囲気に包まれていた。マダム・ポンフリーはせわしなく駆け回り、奥のベッドの周りにはスリザリンの監督生と数人の生徒が立ちつくしていた。彼らに囲まれるようにしてベッドの上で上半身を起こす者がいた。銀色の長い髪が人々の間から垣間見えた。の姿を確認し、スネイプは早足でベッドに近づいた。
「ミス・、」
普段よりも幾分か焦りのみえる声で彼女の名を呼ぶ。ベッドの近づくにつれ、その凄惨な光景が視界に入ってきた。彼女の顔のところどころに赤黒い液体が付着していた。ドラコから話は聞いている。それはおそらく自身が吐き出した血だ。保健室に連れてこられてからも吐いたのだろう。ベッドの白いシーツも所々に赤黒い染みが付着していた。
「・・・、」
人目さえなければ、今すぐに手を取って抱きしめたかった。それを我慢して、スネイプはあくまで寮監として平静を保ってに声をかけた。は酷く虚ろな目でスネイプを見上げてきた。蒼い瞳は茫洋としていて、どこを見ているのかはっきりしなかった。スネイプが再度の名を呼んだ。の、血で汚れた唇が薄く開いた。
「・・・だれ?」
ゆっくりと時間をかけて紡ぎ出された言葉に、その場の全員が耳を疑った。が冗談など言う子ではないということは皆が知っていたから、スネイプを見るの目が本当に「この人は何者なのか」と問いかけているのが伝わってきた。自分のことを眉をしかめて見上げてくるに、スネイプもまた眉をひそめた。
「何を言っているのだ・・・」
の言葉が信じられず、スネイプは呆然とする。放心状態のスネイプに気遣ってマダムが声をかけた。
「スネイプ先生。恐らく激しい吐血などによる一時的な記憶喪失だと思いますので、少し時間をおけば大丈夫でしょう」
だから今は彼女のことをそっとしておくようマダムは言う。だが、スネイプはその言葉を信じることができなかった。それは、が言葉を発すれば発するほど不信感はつのっていった。
「ねぇ。ドラコは?ハーマイオニーはどこ?皆に会いたい。ハリーとロンも連れてきて」
これが本当にあの・だというのか。まるで10歳に満たない幼子のように拙い喋り方をする。らしくない我が儘な言動に、周囲の仲間たちも顔を見合わせて顔をしかめる。
その間もずっとは彼女の友人たちを求めた。寮を関係なく、彼女の親しい友人たちの名を呼んだ。それを傍で聞いていたスネイプは、の口から一人また一人と友人の名が飛び出すごとに表情を険しくしていった。何故友人たちの名前が出てくるのに、目の前にいる自分の名は出てこないのだと苛立ちすら覚えた。
「パンジーは?フレッドとジョージは?なんで、・・・なんで皆いないのっ?!」
「。我輩は誰だ、・・・・名前を言ってみろ」
スネイプはに掴みかかるような勢いで問いかけた。後ろでマダムが「病人ですよ!」と叫んでいても構わずの両腕を掴んだ。スネイプがに触れた瞬間、は子どもが何かに怯えるように顔をしかめた。動けないベッドの中で後ずさろうとする。
「いやっ!知らない、あなた誰!?近寄らないでっ」
「・・・・・!」
ひたすら非難の声を上げては暴れる。スネイプの手から逃れようとするの姿に、自分に投げつけられた拒絶の言葉に、スネイプは胸に鉛を流し込まれたような感覚に陥った。
一体彼女に何があった
だれが彼女をこんなふうにした
が半ば半狂乱になって友人たちの名前を呼ぶので、彼女の希望通り名前を呼ばれた者たちが次々と保健室に呼ばれた。グリフィンドールの3人組をはじめ、フレッドやジョージ、ドラコたちがやってきた。は彼らの姿を見つけると、迷子になった子どもが母親を見つけたかのように涙を流して彼らに順に抱きついた。彼女の様子を見た者たちは皆言葉を失った。それぐらいは平常と違っていた。情緒不安定なの様子に、皆黙って彼女のしたいようにさせた。
血の匂いに混じって、のカラダから微かに桃の香りが漂った。それはまるで死の香りにすら感じられた。
*
事態は深刻なものととらえられた。
保健室に校長であるダンブルドアとマクゴナガルが呼ばれた。の姿を見たマクゴナガルは驚愕し口元を手で覆った。ダンブルドアは全てを察したかのように眼鏡の奥の目を細めてを見つめた。それからゆっくりと肩で息をつき、
「ミネルバ。すぐに家に連絡を」
静かな口調でマクゴナガルに指示を出した。マクゴナガルは静かに頷くと、言われたことを実行すべく足早に保健室を出ていった。その後に、ダンブルドアは重苦しい表情を浮かべたまま、マダム・ポンフリーに「頼んだぞ」と一言だけ言うと、保健室を後にした。
ベッドの上のは変わらず、自分を囲む友人たちに狂ったように声をかけ続けていた。少しでも彼らが離れようものなら、「なんで行っちゃうの!?」と、服の袖を掴んで放さない。そんな様子を少し離れたところから見守っていたスネイプは、一つの想いを胸にに背を向けると、足早に保健室を後にした。
偉大な魔法使いは何かを知っている・・・
スネイプはそう直感し、ダンブルドアの後を追った。
「校長、お待ちを」
スネイプはダンブルドアの背中に声をかけた。ダンブルドアは足を止め、ゆっくりと振り返った。偉大な老魔法使いの瞳は、どこか悲しげだった。それがスネイプを余計に不安にさせる。
「何の用じゃ」
ダンブルドアはスネイプの気持ちを知ってか知らずか、―――いや、きっと知っていて、それでも何も知らぬ振りをした。ダンブルドアに言いたいことや訊きたいことはあまりにもたくさんあった。ありすぎた。
に何があったのか。の何を知っているのか。は何故あのような状態になってしまったのか。何故は自分のことばかり忘れてしまったのか。どうすればは元に戻るのか。いやそれ以前には果たして元に戻りえるのか。
「校長・・・」
「何の用かね、セブルス」
訊きたいことはたくさんあった。その全てを問いただしたかった。だがそれらの言葉を差し置いて真っ先に口をついて出たのは、スネイプ自身にすら信じられない言葉だった。
Please.....
『彼女を助けてください』
恥や外聞などどうでもいい。苦悶の表情を浮かべて切望するスネイプに、ダンブルドアは哀しげな色の瞳をゆっくりと閉じ、そしてスネイプに背を向けた。ゆっくりと歩き出す魔法使いの背をもはや追いかけることもできず、スネイプは歯を食いしばり胸の苦しみに耐えるしかなかった。
の生家、家に連絡はすぐにいった。そしての母親からの返事がその日の内に届いた。の両親は、手紙を出すのとほぼ同時に家を出てホグワーツに向かったという。雪で道中が難儀ではあるが、早くて明日の朝にはホグワーツに着くとのこと。
の全てを知る者たちがやってくる。物語の謎が解き明かされるのも時間の問題となった。
その間、スネイプは必至に考えた。自分にできることは何かないのか。は全力で自分を拒むが、それでもいい。拒まれてもいいから、彼女のために何かしたかった。
彼女に会いたい一心で、スネイプは保健室に向かった。保健室に近づくと、外の廊下にまで彼女の悲鳴が零れ満ち溢れていた。
「いやぁぁっ!!やだぁっ・・・、放してよぉ・・っ!!」
聞き覚えのある声だが、そこに以前の彼女のような穏やかさは微塵も感じられなかった。いつも快活に笑っていたあの声が、今はただ苦痛に叫び声をあげるばかり。
「痛い痛い痛い、・・・痛いよ・・っ!!うぅ・・、苦しいよぉ・・・っ!!」
「ゴイル、そっちを抑えろっ。暴れるな、!」
「放してよぉ、ドラコ・・・っ。もういやだよ・・・・!!」
ドラコの護衛とも言えるスリザリンの男子生徒が、数人がかりでをベッドに抑えつけていた。何をしているのかとスネイプは目を疑った。だがよく見れば、が横たわるベッドの周りには、まるで獣が争ったかのように長い銀髪が散らばっていた。少年らが抑えるの腕には幾本もの蚯蚓腫れや引っかき傷がついている。誰が彼女を傷つけたのか。それは、自身の爪先が赤いのを見れば答えは明確であった。苦しさに耐えきれず、自傷行為に走ったのだろう。
「ドラコ、放してっ。もう、・・・もう耐えられないよっ!!」
「駄目だ・・・!、我慢しろ!」
抑えつけるドラコの顔もまた、と同じくらい苦しげだった。愛する少女が自分自身を傷つける姿など見たくもなく、またそれを止めるためにこうして拘束しなければいけない。ドラコの苦しみはスネイプにもよくわかった。泣きわめいていたの顔が、苦渋に歪んだ。次の瞬間には、気味の悪い音を立ててまた大量の血を吐き出した。
「!?」
「げほっ・・・、もういやだよ・・・っ。助けて、・・・・・だれか助けてよぉ・・・っ!」
こんなに弱さを曝け出す彼女を誰も見たことがない。日だまりのように優しく柔らかく微笑む彼女は、それでも心に折れない芯が通っていた。それが、今はこんなにも心が退化している。見ていられなかった。
だが、目をそらすことは彼女を見捨てるのと同じこと。スネイプは喧噪が続くベッドにゆっくりと足を進めた。
「」
声をかけると、ドラコに両腕を掴まれたままがスネイプを見上げてきた。スネイプを視界にとらえると、は苦しげな顔を尚一層歪めた。それだけで自分が拒絶された気がした。
「。本当に、我輩が誰かわからないのか」
スネイプの問いに、はしばらく答えなかった。スネイプはじっとの答えを待ち続けた。スネイプの気持ちが痛いほど分かるドラコは、を抑えながらもつらくて床に視線を落とす。掴んでいたの腕から力が抜け、ドラコは手を放した。はベッドの上にぺたりと座り込んだまま、スネイプを見上げて首を横に振った。
「わからない・・・。あなたのこと、本当にわからない」
「・・・・・」
「ただ、あなたが近くにいると苦しいのが余計苦しくなるんです。だから、お願いです・・・」
は泣きそうな顔でスネイプを見上げて告げた。
「そばに、来ないでください」
「・・・・・」
スネイプは、を見下ろしたまま体の横に置いた拳を強く握りしめた。そんな言葉を、の口から聞きたくなどなかった。震えるほどきつく握りしめ、奥歯を噛みしめ、スネイプはゆっくりと両眼を閉じた。
「・・・・・そうか」
絞り出すようにそう一言だけ言い、スネイプはローブを翻し彼女に背を向けた。
「スネイプ先生・・!」
「マルフォイ。すまないが、を看ていてくれ」
背を向けたままドラコに短く頼み、スネイプは出口に足を進めた。出入り口でマダム・ポンフリーと入れ替わりになった。マダムはスネイプに声をかけようとして、だがその怒りとも苦しみともとれる苦渋に満ちた表情に開いた口を閉じた。声をかけてきたのはスネイプの方だった。
「マダム。の容態は、・・・・・彼女の体は後どのくらい」
静かに絞り出した声は苦しそうで、マダムはスネイプがどれほどのことを心配しているのかを察した。考え、「大丈夫ですよ」と気休めの言葉をかけるのをやめた。スネイプにだけ聞こえるように声を潜める。
「今の状態が続けば、後1週間もつかどうかわかりません・・・」
残酷な告知が耳の奥に鳴り響く。スネイプは背を向けていてマダムからは表情がわからなかった。ただ、その黒い背中は微かに震えていた。
「スネイプ先生、・・」
「失礼」
マダムに何も言わせず、スネイプは足早に保健室を離れていった。現実から逃げるように、けっして振り返ることもなく。
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