ドリーム小説
幸せとともに恐怖が心を蝕んでいく
闇は刻一刻と近づき私の精神を狂わせる
それでも貴方がそばにいてくれるなら
私は笑って私でいられる
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <20> ■
寒さも厳しくなる季節。降り積もる雪に生徒たちはわいわいと雪合戦などをして体を温める、その頃。
その態度と視線だけなら雪よりも冷たいスネイプ先生はというと、風邪をひいてベッドから起きあがれなくなっていた。
「38度9分。流行りの風邪ですね」
「・・・。ごほっ」
いつもの倍近く顔色を悪くして、スネイプはベッドの上でぐったりと横になっていた。は氷水に浸したタオルを緩めに絞ると、スネイプの額にのせた。心地よい冷たさにスネイプは目を閉じる。
「すまんな・・。体調管理はしていたつもりなのだが」
「・・・・」
「・・・なんだ、その間は」
「よくそんなことが言えますねぇ、スネイプ先生」
ベッド脇の椅子に腰掛け、は盛大にため息をつく。そんな彼女の様子にスネイプは文句を言いたげな顔をする。だが今日のは強かった。キッと眼差しをきつくすると―――若干頬を赤くしながらスネイプを睨みつけた。
「何が体調管理ですか。風邪を引くのは当たり前です。いつもほぼ、・・・裸で寝ているんですからっ」
やや赤くなった頬をぷくりと膨らませて、はプイッとそっぽを向く。何を思いだして赤くなっているのかと言えば、夜のスネイプのことだった。二人で愛し合った後、しっかり服を着て眠りにつくに対して、スネイプはほぼ裸で寝てしまうのだ。いつもが「風邪をひきますよ」と声を掛けるのだが、スネイプはうやむやにしてを抱きしめて「君が暖かいから十分だ」などと誤魔化して眠ってしまうのだ。この寒い季節にそんなことを続けているのだから、いつかこんな日が来るのではないかと思っていたが。幼い恋人に叱られて、スネイプは何も言い返せない。
「今日の授業は自習だと伝えておきますね」
「あぁ・・・」
「解熱剤を作りますね。薬品庫から材料をお借りします」
そう言っては椅子から立ち上がり踵を返した。だが、何だか前に進めない。くるりと振り向くと、スネイプがのローブを引っ張っていた。
「一人では危険だ。我輩は別に構わん・・」
低い声が、枯れて一層低くガラガラになってしまっている。は肩で息をして、自分のローブを掴む彼の手をゆっくりと外させた。
「大丈夫です。いつもお手伝いしているじゃありませんか。私のこと信じてください」
は困ったように笑うと、ナイトテーブルの引き出しから薬品庫の鍵を取り出した。
(・・・何が何でも作る気だな)
「では、先生はゆっくり寝ていてくださいね」
「・・・・・」
「はい?」
呼ばれて振り返れば、ベッドに横になっているはずのスネイプが上半身を起こしていた。
「先生、ちゃんと寝ていないと、」
が心配してスネイプの肩に手を置いた瞬間、スネイプに腕を引っ張られた。なんですか、と問う暇もなく、はいきなり唇を塞がれた。
「んぅ?!」
急に引っ張られて体勢が崩れ、はスネイプがいるベッドサイドに膝をついた。その足を、スネイプの熱で高くなった熱い手がするりと撫で上げる。室内の気温の低さとその手の熱さにの体は震えた。スネイプの右手ががっちりとの腰を支え、左手はするするとの足を撫でる。口付けは熱く、スネイプの吐く息の熱さには困惑する。だがそれよりも今はスネイプのわがままとも言える行動をやめさせたい。
「スネイプ先生・・、何ですかいきなりっ」
「人にうつすと治るというしな」
「迷信ですっ。あ、・・・ちょっ!」
慌てるの頭を引き寄せると、彼女が文句を言う前にスネイプはその口を塞いでしまう。唇を割り、触れるだけのキスから深いものへと変えていく。抗議の声も全て吸い込まれてしまう。このままではいつもと一緒だ。は眉尻を上げ、強硬手段に出た。
「も、・・・いい加減にしてください!!」
「っ!?」
はスネイプの痩せた両頬を摘むと、思いきり左右に引っ張った。肉がないため伸びはしないが、スネイプが痛そうに眉をしかめたので良しとする。スネイプの手が離れたのを機に、はベッドから身を離した。
「何をするんだね・・・」
「それはこちらの台詞です!何をお考えで?ご自分が風邪だってことわかってるんですか!」
は両手を腰に当てて怒りを露わにする。当のスネイプは、しれっとした顔でから顔を背けて受け流そうとする。そんなスネイプの態度に、は大きなため息をつく。
「早く風邪を治して元気になってもらわないと困ります」
それは本当の気持ちだった。はナイトテーブル上の鍵の束を取ると、「静かに寝ていてくださいね」とだけ言い残し、スネイプに背を向けた。そこにまたスネイプから声を掛けられる。は今度はやや警戒して、スネイプの手が届かない場所で振り向いた。
「何ですか?」
「しばしの別れのキスはくれんのかね」
スネイプの言葉に、は思わず目を真ん丸にしてしまった。だが、スネイプがにやにやとやけに楽しそうに笑っているのを見て、また何か企んでいるのだろうと察した。だから意地悪の気持ちを込めて、は満面の笑みで
「おあずけです」
きっぱりと言い切って、今度こそ部屋を出ていった。残されたスネイプは肩をすくめ、やや残念そうにベッドに横になるのだった。
薬品庫から必要な材料を調達したは、空き部屋で風邪薬の調合に取りかかった。せわしなく手を動かしながら、時折スネイプの容態を案じて。
(大丈夫かな。熱まだ上がりそうだったからなぁ)
早く仕上げようと、作業の手を早める。鍋をのぞき込み、中から沸き上がる蒸気に顔が火照る。水蒸気にしっとりと濡れる唇に、先程のスネイプのキスを思いだし、はやや赤い顔をふるふると横に振った。
「ごほっ・・・、こほっ」
蒸気を吸ったせいだろうか、何だか喉の奥が焼け付くように熱く感じる。今し方まで何でもなかったのに、噎せて咳が出始めた。
(・・・本当にうつったのかな?)
まぁ、病人と唇を合わせたのだからうつる可能性は十分にある。薬ができあがったら、とりあえず自分も飲んでおこうと考え、は鍋の中身をゆっくりとかき混ぜた。
その頃、本日の魔法薬学の授業が開かれるはずだった地下の教室では。
「スネイプが風邪ひいたぁー!?!?」
「うるさいわよ、ロン。静かにして!」
黒板に書かれた「自習」の文字がくねくねと巧みに踊っており、グリフィンドールの生徒たちは皆一様に舞い上がっていた。ロンとハリーも例外ではなく、2人の目はこれ以上ないほど輝いている。
「あの陰険根暗の万年病弱顔教師でも風邪なんてひくんだ」
「ま、スネイプも一応は人間だったってことか」
ロンはここぞとばかりに悪態をつき、ハリーは納得したような顔でうんうんと頷いている。ロンは意気揚々と薬学の教科書を鞄にしまっていたが、ふと一人の少女の不在に気付いた。
「あれ?ところでは?」
きょろきょろと辺りを見回すロンに、ハーマイオニーは自習していたペンを止めて答えた。
「スネイプの様子を見に行くって言って、行っちゃったわよ」
「なんでが!?」
「さぁ。助手だからじゃない?」
「え〜・・・。いいなぁ、に心配してもらえるなんて。・・・畜生、スネイプの野郎」
驚いたり羨ましがったり怒ったりとロンはころころと表情を変える。ハーマイオニーは呆れた顔でため息をついた。
「そんなに羨ましいなら、スネイプのところに行ってウイルスでももらってきたら」
「おぉ、そうか!・・・・・やっぱいい。スネイプのウイルスなんて、考えただけでおえーだぜ」
その「おえー」顔がかなり嵌っていて、ハリーとロンはしばらく「おえー」顔で遊び続けるのだった。少年二人のそのくだらないやり取りをため息をついて流しながら、ハーマイオニーは別のことを考えていた。の、スネイプへの献身すぎる行動にやや疑問を持っていた。
(、好きな人いるって言ってたけど・・・・・・・・まさかね)
一瞬頭に浮かんだ女の勘をハーマイオニーは、だが瞬時に笑ってかき消すのだった。
解熱剤を完成させ、は薬の入ったゴブレットを片手にスネイプの寝室に戻ってきた。スネイプが寝ていることを考え、起こさないようにゆっくりと忍び足で部屋に入る。薄暗い寝室に一歩足を踏み入れたところで、微かにだが寝息が聞こえてきた。
「先生、寝てるんですか?」
小さな声で囁くが、反応はない。本当に寝ているようだ。起こすのも悪いと思い、はナイトテーブルの上ににゴブレットを置いた。それからテーブルの上にあったメモ用紙にさらさらとメッセージを残すと、それをゴブレットの下に挟んだ。
「起きたら飲んでくださいね」
スネイプの額の上で生ぬるくなったタオルを取り払い、もう一度氷水に浸して元に戻した。それでもスネイプは眉をひそませただけで起きはしない。暗がりではっきりとは見えないが、息も荒く顔色も良くなかった。は心配そうな顔でスネイプに顔を近づけた。
今日が土曜日なら良かった。授業さえなければ、このままずっと傍にいられるのに。
このまま・・・ずっと一緒に
叶わぬ願いに、は目を細めて愛しげにスネイプを見下ろす。
「早く良くなってくださいね」
聞こえるか聞こえないかわからないぐらい小さな声で囁き、はゆっくりゆっくりと顔を近づけ、スネイプの唇に触れるだけのキスを落とした。先程スネイプが所望した別れの挨拶のキスだ。そっと唇を離し、は名残惜しい気持ちのまま来たときと同じように静かに部屋を出た。
*
静かにドアが閉まる音がする。軽い足音が遠ざかっていくのを聞きながら、スネイプはゆっくりと瞼を上げた。薄暗い自分の部屋の天井が見える。気分は良くはない。寒気はするし、喉も痛い。熱も高いと自分で感じる。だが、こころなしか顔が赤いのは熱のせいだけではないだろう。
が部屋に入ってきたときから起きていたが先程彼女を怒らせてしまったため、を心配させないためにも寝たふりをし続けていた。目を瞑っていて彼女の動きは見えずにいた。だから突然唇に熱いものを感じ、危うく目を開けそうになってしまった。予想外の彼女の行動に、年甲斐もなく鼓動が速くなってしまった。
今更ながらに思い出す。そういえば自分がに初めてキスしたときもこんな状況だった。が階段で事故を起こして自分が保健室に運び、寝ている彼女に・・・
(・・・我ながら恥ずかしいことをしたものだな)
思い出すと恥ずかしさから眩暈がする。ふとナイトテーブルに目を移せば、まだ湯気を出すゴブレットとその下に手紙があるのが目に入った。スネイプは上半身を起こし、ゴブレットを手に取った。鼻を近づければ、正しく精製された解熱剤の香りがした。舌で舐めるように一口だけ口にする。味も間違っていない。改めての技術の高さに感心させられる。ゴブレットを片手にちびちびと飲みながら、スネイプはもう一方の手でメモを掲げた。
『スネイプ先生
目が覚めたら解熱剤を飲んでゆっくり休んでください。無理して起きあがったりしないでくださいね。
それから明日の土曜日ですが、用があるのでホグズミードに行ってきます。一緒にいられなくてごめんなさい。
できるだけ早く帰ってきます。
』
急いで書いた文字はやや崩れてはいるが、彼女らしい綺麗な筆記体だった。人のことを第一に考える彼女が外せないというのだから大事なようなのだろう。一緒にいられない寂しさはあるが、仕方がないとスネイプは苦笑して解熱剤を飲みこんだ。眉をひそめるほど苦いはずの薬が、どんな魔法がかけられているのか、どういうわけか優しい甘さを感じた。
土曜日のホグズミードはたくさんの生徒たちでお祭りのような賑わいに溢れていた。空は久々の晴天。溶けきらない雪に太陽の光が反射して、地面がまるで水面のように輝いている。
はグリフィンドールの3人組とホグズミードに遊び兼買い物に来ていた。スリザリンの生徒はあまり外に出かけようとしないため、がホグズミードに来ることは滅多にない。
「、ここだよ!ハニーデュークスの砂糖羽ペンが最高でさぁ。他にナメクジゼリーってのもあるし。それから、」
ロンは久しぶりにと遊べるのが嬉しくて、意気揚々とを案内する。はロンに手を引っ張られ、慌てながらも嬉しい気持ちは同じだった。
「待ってよ、ロン。そんなに一度にわからないよ」
「早く早く!売り切れちゃうぜ」
ロンはごった返す菓子屋の中に割り込んでいき、もう姿が見えない。は苦笑して、近くの商品棚のお菓子を手にとって眺めた。自分用やスリザリンの友達用と品定めをする。それから、―――きっとお菓子なんて甘いものは好きじゃないだろうけど、病気のスネイプのことを考えた。無意識にため息が零れてしまう。
「なぁに、。ため息なんてついて」
「あ、ハーマイオニー。うぅん、何でもないよ」
はそう言って誤魔化すように笑って手を振るが、何でもないようには見えない。だって本人は気付いていないかもしれないが、の横顔はとても愁いに満ちていて、また無意識にため息をついている。
「何か考え事?相談ぐらいならのるわよ」
「うん・・・相談、ていうかね。あ、じゃぁハーマイオニー。この辺で食料雑貨店とか知らない?」
「グローセリー?あるけど。どうしたの、。料理でもするの?」
ハーマイオニーは首をかしげる。は辺りを見回し、あまり人がいないのを確認すると声の大きさを抑えた。
「えと、あのね。ちょっと、風邪ひいちゃった人がいて」
「ふーん。それで、が看病するのね」
「う、うん。まぁ、そんな感じかな」
「ねぇ、。それって、スネイプ先生?」
「へ!?」
ハーマイオニーは探るつもりで言ったわけではないのだが、の正直すぎる反応に、答えはあっさり出てしまった。頓狂な声を出してしまったはどう繕おうかと慌てるばかりで、鎌をかけたつもりのないハーマイオニーは予想外の答えにあんぐりと口を開ける。
「まさかとは思ったけど、・・・の好きな人ってスネイプ先生なのね?」
「えっ!えっと、・・・あの、・・・そのですね・・っ」
の素直すぎる反応に、「なんて正直な・・・」とハーマイオニーは開いた口がふさがらなかった。誤魔化すこともできず慌てるに、ハーマイオニーは思わず吹き出してしまった。何を言われるのかとは不安な表情をする。
「ハ、ハーマイオニー・・?」
「あはは。なに慌ててるのよ。おかしいわね、ったら」
「だって・・・」
慌てて隠そうとするのは当たり前だろう。だって、学校の先生が好きなんて、聞く人が聞いたらけっして良い顔はしない。しかもその相手が生徒の大半から嫌われているスネイプ先生なのだから。
「いいじゃない、別に誰を好きだって。まぁ確かに相手がスネイプ先生っていうのには驚いたけど」
「変かな・・・?」
「いいんじゃない?だってがすっごく幸せそうだから」
ハーマイオニーはそう言ってにっこりと笑った。それだけで、は救われる気がした。一人でもいい。自分の恋を認めてくれる人がいることが嬉しかった。そして今の自分が幸せそうだと言ってくれたことも。
「ありがとう、ハーマイオニー・・・」
「ん?何か言った?」
「うぅん。何でもないよ」
首をかしげるハーマイオニーに、は笑って首を横に振る。
はハーマイオニーの案内で近くの店で料理の材料を購入した。買うものだけ買うとは3人に案内され、三本の箒へと入った。中は相変わらず人でごった返していて、とりあえず4人は手近なテーブルに座った。
「は三本の箒に来たことないの?」
ハリーは買ってきたお菓子を整理しながらに問いかけた。
「うん。土曜はたいていスネイプ先生の手伝いしてるから、あんまりホグズミードに来ること自体ないなぁ」
「そっか。、偉いなぁ」
「それより、スネイプがのこと働かせすぎなんだよ」
「そんなことないわ。勉強にもなるし」
「・・・本当に偉いよ、君」
の純粋さにハリーとロンは改めて感心する。ロンはメニューボードを見てなんの料理を頼もうかハリーと相談し始めた。
「は何にする?バタービールは勿論頼むけど、それ以外で」
「うん、とは言っても私よくわからな・・・こほっ、ごほっ!」
「、風邪?」
突然咳き込んだにロンは心配そうに声をかける。は苦笑いしながら手を振って否定する。の隣に座るハーマイオニーはの方に身を乗り出し、こっそりと耳打ちした。
(スネイプ先生の風邪がうつったんじゃないの?)
(ハ、ハーマイオニー!)
顔を赤くするに、ハーマイオニーは視線を別の方に向けてにやにやしてみせた。
は「もう・・」と零しながら口元に手を当てた。だが確かに咳が出るようになったのはスネイプのところへ行ってからだ。うつっている可能性は高い。一応風邪薬は飲んだのだが、手遅れだったのかもしれない。
「あらぁ!あんたたち、いらっしゃい。注文は?バタービールでいいのかしら?」
しばらくして、ここの女主人のマダム・ロスメルタがオーダーを取りにやってきた。相変わらずの快活さで、腕まくりをし自慢の脚線美をしならせる。ハーマイオニーは笑顔でマダムの方に体を向けた。
「こんにちは、マダム。今日は新しい友達連れてきたのよ」
ハーマイオニーはそう言ってマダムにが見えるように体をずらした。はにっこりと笑って、マダムに挨拶する。
「はじめまして、マダム」
「はじめまして、可愛らしいお嬢ちゃん」
人なつこい笑顔の少女に、マダムは握手をしようと手をエプロンでごしごしと拭いた。そして手を差し出そうとして、・・・マダムの動きは止まった。
「マダム、どうかしたの?」
表情すら固まってしまったマダムの様子に、ハーマイオニーも声をかける。不意に口を閉ざしたマダムは、何かとんでもないものを見たような顔をしていた。マダムがじっと見つめる先にいるのは、だった。食い入るようにじっと見つめられ、は眼をパチクリさせながら問いかける。
「あの・・・何か?」
初めて見るマダムの顔にハーマイオニーたちも不思議そうにする。しばらくして、ようやくマダムの口が動いた。恐る恐るマダムはに問いかける。
「あんた、名は・・・?」
「私、ですか?あの、といいます」
「・・・。、・・・かい?」
「え・・・そうですけど、どうして私の名を?」
どうしてまだ名乗ってもいない自分の名前を知っているんだろう。は不思議に瞳を更に大きくして驚いた。の肯定に、マダムは衝撃を受けたように眉尻を落とし、大きな手で自分の口を覆った。ハリーとロンは顔を見合わせてマダムの様子を不思議がる。
マダムはをじっと見つめた。その目に、うっすらと涙をためて。
「あの、・・・ごめんなさいマダム。私、何か気に障るようなことを?」
「あぁ、・・・違う・・違うんだよ」
何かを酷く悲しんでいるような、憂いているようなマダムには気遣いの言葉をかける。マダムはこっそりと目尻の涙を拭うと、少し寂しそうに笑い手を振った。
「悪いね、お嬢ちゃん。取り乱したりして。・・いやね、あんたが昔の知り合いに似てたもんでね」
あまりにも懐かしくて、とマダムは笑う。マダムは4人の注文を受けると、カウンター向こうのウェイターに何かを告げてそのまま店の奥へと引っ込んでしまった。
バタービールのグラスを4つ運んできたウェイターは、今日はマダムの奢りだと言って笑顔でグラスを置いていった。ハリーたちは思わぬ幸運に喜んでいたが、はマダムのあの寂しそうな顔が忘れられなかった。
←
BACK
→
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送