ドリーム小説
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <16> ■
先日のことがあって以来、はスネイプを避け続けた。授業のときも最低限の接触で終わらせ、目を合わそうとすらしない。助手の仕事も休むことなくおこなったが、以前のような優しく暖かな空気は微塵も感じられなかった。あんなに傍にいたいと願っていたのに、今はスネイプと同じ部屋にいることに息苦しささえ感じる。
にも反省の余地はあった。スネイプが前々から、二人の関係が変わることを望んでいたのは知っていたのだから。だが、今ののはそれができなかった。
怖かったのだ。
傍にいられればいいと思った。キスや抱擁ももちろん好きだ。でも、強く抱きしめられ、深く触れ合うことで、自分が奈落へと堕ちていってしまうような気がした。
堕ちていくのが怖い。
でもそんな心とは裏腹に、彼に抱かれたいという正反対の想いもの中に芽生えていた。二人の自分が、せめぎ合う。
自分がわからない。
『深蒼の瞳は、内に魔を飼う女の特徴』
オリヴィアに言われたことを思い出し、は鏡の前で自分の胸元を掴む。水のように静かな外面とは裏腹に、自分の内側に巣くう魔物は、主人であるが油断すれば荒々しく暴れ狂おうとしている。
自分がわからず、そして怖かった。
こんなこと、ドラコにもハーマイオニーにも相談できない。自分がこんな醜い欲望を抱いていると知られれば、軽蔑されそうで怖かった。
だから、は選んだ。今、自分の話を何食わぬ平然とした顔で聞いてくれそうな、ただ一人の人物を。
橙色のランプが灯る薄暗い図書館に、オリヴィア・ローレンスはいた。一人で窓際の机に向かい、分厚い本を読んでいた。
遠目にオリヴィアの姿を確認したはいいものの、はこれからどうしようか迷っていた。スリザリンでは下級生が上級生に気安く声をかけることは許されていない。しかも相手がオリヴィアならば尚更だ。は、オリヴィアが気付いてくれるのを待つしかない。だが、そんな杞憂は必要なかった。
「何か私に御用かしら、お嬢さん」
オリヴィアは本の文字から顔をあげず、頬杖ついたままに声をかけてきた。
「あの、・、・・です」
「覚えているわ。癖なの。可愛らしい人を見ると、ついね」
オリヴィアは視線だけをに投げると、赤い唇を押し上げた。
「、と呼んでもいいかしら」
「はい。あの、・・・ローレンス先輩は、」
「オリヴィアで結構よ。姓よりも名の方が好きなの」
オリヴィアは、「座って」と可愛い後輩のために向かいの席を勧めた。は戸惑いながらも礼を告げて、向かいの席に座った。だが、オリヴィアから声をかけてもらって座ったものの、そこからどう切り出せばいいかわからなかった。は無意識に下を向く。そもそも、なぜこの人のところに来てしまったのかと、今更ながらに考えてしまう。
「。こちらをお向きなさい」
助け船を出したのはオリヴィアの方だった。は顔を上げる。そしてオリヴィアと目を合わせた。吸い込まれそうな、深い蒼だった。しばらく視線を合わせていると、オリヴィアは何かを読み取ったのか、柔らかく微笑んだ。
「恋人のことかしらね」
今の一瞬での心の中の全てを読んだようだった。この人は何でもわかってしまうのだろうか。は驚きながらも、ゆっくりと目を伏せて頷いた。
「いいわ。恋愛相談なら深いところまで答えられるわ。言ってごらんなさい」
オリヴィアに促されるものの、はしばらくじっとしていた。長い沈黙も、オリヴィアは呆れることなく、ため息一つ零すことなく待っていてくれた。オリヴィアの優しい沈黙に後押しされて、そしてはゆっくりと口を開いた。
「好きな人と触れ合うのが、・・・怖いんです」
言葉にすると、気持ちがはっきりする。
触れ合って、抱き合って、その延長線上にある奈落が怖い。
は悲しげな目をしていた。オリヴィアは、静かに微笑む。の幼さを可愛らしく思った。それは決して馬鹿にしているわけではなく、自分にもそんな幼い頃があったという憧憬の眼差しだった。
「セックスに至るような恋愛は、これが初めてなのねぇ」
「あ、あの・・・それどころか、私、恋愛するのすら、」
「まぁ。じゃぁ、初めて愛した人に、全てを捧げるのね」
「は・・はい。あの・・、変ですか?」
「何故?おかしくなんてないわ。素敵な恋じゃない」
オリヴィアはまるで自分のことのように嬉しそうに微笑む。は素直に嬉しかった。頬を赤くして、恥ずかしそうに眉をひそめて笑う。だが、そんな表情もすぐに悲しげなものに変わった。
「でも・・・、何故なんでしょうか。好きな人なのに、・・・触れられるのが怖いんです」
はスネイプに触れられてときのことを思い出していた。羽根のように軽やかだった気持ちが、突然重みを増して堕ちていく。あのまま心はどこまで堕ちていってしまうのだろう。暗い奈落の底には何があるのだろう。戻ってこれるのだろうか。様々な不安がを渦巻く。
「は、好きな人に抱かれたくないの?」
「え・・・?」
「触れられることが、全てを捧げるのが、嫌なの?」
いや、か。そう問われて、考えて、が出した答えはノーだった。はオリヴィアを見つめたまま首を横に振る。
むしろ逆なのだ。
彼に抱かれたい。
全て愛されたい。
(だったら、誰かに相談などせずにそのまま身を預けて抱かれてしまえばいいじゃない)
の中に巣くう悪魔が囁く。そして葛藤する。そんな単純な想いじゃないのだ、と。
耐えられなくなったは、俯いたままうっすらと涙を浮かべる。オリヴィアは、困ったように笑うと小さなため息をついた。
「あらあら。随分悩んでいるのねぇ」
「・・・はい」
「は、その人のことが大切なのねぇ。だから、2人の時間も大切に築いていきたいのね」
何も言えないに代わり、オリヴィアがの心の奥の言葉を語ってくれた。の目尻にたまっていた涙が音を立てずに落ちる。オリヴィアが席を立つのがわかった。俯いていると、オリヴィアが椅子の後ろからそっとを抱きしめてくれた。の小さな頭を、優しく包み込んでくれた。オリヴィアの金糸との銀糸が溶け合って、ランプの明かりにきらきらと輝きを増す。オリヴィアの身体は柔らかい匂いがした。ヴァニラのような、優しくて甘い香り。の心が少しずつほぐれていく。
「オリヴィアさん・・・」
「なぁに」
「・・・ありがとう、ございます」
「あらあら。お礼を言われるようなことは何もしていないのだけれど」
オリヴィアは、の髪に頬を寄せ微笑む。は彼女の胸の中で、静かに涙を落とした。
「ねぇ、。私がどんな罪で謹慎していたのは聞いたわね」
オリヴィアと隣り合わせに座り、その問いかけにはゆっくりと頷いてみせた。そして頷いてから気づく。オリヴィアの力ならきっと、が誰から秘密を聞いたかなんてすぐにわかるはず。パンジーにきつく口止めされていたことを思い出し、は居心地悪げにする。
「ふふ。秘密にしようとしても無駄よ。言ったでしょう、全て見えるの」
オリヴィアは不敵に微笑み、の柔らかな頬を指で突いた。「私の秘密をばらした子のことを咎めるつもりはないわ」そうオリヴィアが言ってくれたことにはほっとした。
「ねぇ、。私だってね。こんな愚かしいほど妖艶な姿に生まれるつもりはなかったのよ」
ランプに照らされたオリヴィアの横顔は、夕暮れを舞台にしたひとつの名画のように美しかった。
「父方の遠い祖先に夢魔の血を引く者がいるの。今までその血の欠片も表に出てこなかったから、誰もが忘れていたのに。どうしてかしらね。神様は意地悪だわ」
代を重ねるごとに薄められていたその血が、見事にオリヴィアに受け継がれた。
夢魔は時に人を惑わす。妖しげな力で男を誘惑する淫靡な妖精は、人に畏れられ、よく思われていない。オリヴィアはその血のせいで、幼い頃から偏見の目に晒されてきた。
「どんなに努力をしても、それらは全て夢魔の血の恩恵だと、その一言で片付けられてしまう。男性が私を誘えば、人は私を邪淫の化身だと陰口に花を咲かせる。まともな恋なんて、・・・したくともできなかった」
オリヴィアの悲しい恋物語。だけが静かな傍聴者となり、その語りを聞いていた。
「そんな私に、同情するでもなく憐れみを抱くでもなく、・・・彼は真っ直ぐに愛してくれたわ。私が夢魔の血を引くことを知っても変わらずに、私を認め、私を愛してくれた」
―――嬉しかった・・・
オリヴィアは遠くを見つめていた。微笑む蒼い瞳の中に、小さな雫を見つけた。はどう声をかけていいかわからず、開きかけた口を閉じる。
「ずっとこのままでいたかったのだけれど、・・・だめね、一度の気の緩みを神様は見逃してくれなかったのね。お腹にあの人の子どもがいるとわかり、私はそのことを彼に隠したわ」
「え・・・どうして、」
「彼はね、魔法省の上層部に勤めているの。スキャンダルは御法度。ホグワーツの女生徒を孕ませたなんて知れたら、クビだけじゃ済まされないわ」
オリヴィアは彼のために身を挺した。わずか16歳の少女の、たった一人の決断だった。は悲しげに眉を寄せる。
「そんなの・・・、悲しすぎます。オリヴィアさんが一人で責任を取る必要なんて、ないじゃないですか。先輩と好きな人の間にできた赤ちゃんなら、・・・」
が言いたいことはオリヴィアにもわかっていた。オリヴィアは優しく微笑む。
「は優しい子ね。そうね、私がその命を奪う権利はないわ。それに、そのことを反省しているなら、もう彼と抱き合わないのが一番いい」
「オリヴィアさん・・・」
「愚かだと思われても、構わない。でもね、私はまた彼を求めるわ。彼のために、・・・そして自分のために」
オリヴィアは隣に腰掛けると視線を合わせた。そして、そっとの頬に手を添えた。
「暖かい、でしょう」
オリヴィアの絹のような手は、ひだまりのように暖かだった。確かな温度がそこに存在した。
「人のエゴ、なのかもしれない。でも、それでもいいと思うの」
その温度は人の傲慢さが香る、でも確かな理由。
「人間はとても寂しい生き物だから、誰かと繋がっていないと孤独に死んでしまう。拒否されることも同じ。拒まれることで、自分がいらないものだと思ってしまう」
薄暗いランプの下で、オリヴィアは美しく輝いていた。儚げで、その目は本当に愛しい人を思っている。
も自然と、自分の一番大切な人を想っていた。
だがの中の大切な人は、今はとても悲しそうな目をしていた。に拒まれ、暗闇の中に消えていきそうなスネイプ。
それを思い出すとの胸がきしむ。どうしようもなく苦しくなる。
が苦しんでいるのを察し、オリヴィアは優しく微笑み、の両頬を包み込んだ。
「ねぇ、。大切な人を、抱きしめてあげて」
「オリヴィアさん・・、」
「いつも待っているだけでは、だめよ。彼はあなたを白闇の中から助けてくれたのでしょう。なら、」
オリヴィアは、の顔を引き寄せ、額に口付けた。
「今度は、あなたが彼を助けてあげて」
お願いね、とオリヴィアはと額を合わせた。彼女に口付けられた額が、優しい熱を帯びていた。
はオリヴィアに礼を告げ、椅子から立ち上がった。帰り際、微笑んでを見送るオリヴィアを、正面からじっと見据えて問いかけた。
「オリヴィアさん。あなたは、どうしてそんなに私を助けてくださるんですか?」
の言葉に、オリヴィアは何一つ動揺することなく優雅に微笑んだ。その台詞すら、オリヴィアは既に未来の中に見ていたかのように。それは時空を越えて全てを見通す、全知全能の魔女の笑みだった。
「。私には、もうずっと前からあなたに会うことが分かっていたの」
「え・・・、」
「私とあなたの出会いはね、運命の歯車の一つに過ぎないのよ。私がここに存在する理由も、私が生まれ持った能力も、全てはあなたのため」
オリヴィアの言葉は、を大きな渦潮の中に引きずり込む。はオリヴィアから視線をそらせず、その場に立ちつくしていた。
「私もあなたの恋人同様、あなたを助けるために生まれてきたの」
その言葉を聞いた瞬間、は心臓に鉛を流し込まれたような気がした。
この人は知っている。
が抱え続けるものを全て知っている。
鼓動が自然と速くなる。
「オリヴィア、さん・・・」
ランプの光を背中に受けて静かに木製の椅子に腰掛ける、オリヴィア・ローレンスという一枚の絵画。
静かに微笑む姿に、天国の白い天使の陰影はない。それは、禁忌の愛がために地獄に落とされた堕天使の娘。地獄に落とされても、それでもなお恋人を愛し続ける。
「あの、・・」
「またね。」
にそれ以上問いかけさせず、オリヴィアは微笑みながら手を振った。は仕方なくオリヴィアに背を向ける。訊きたいことは、まだ山ほどあった。だが、さよならと言われてしまったら仕方がない。は一歩二歩と歩み、だがやはりもう一つだけ訊きたい、と後ろを振り返った。
「あの、最後に一つだけ、」
そして、は口を開いたままその場に凍り付く。ほんの数秒前までオリヴィアが居たところに、もう誰も座っていなかった。椅子はご丁寧に机の中にしまわれ、彼女が読んでいた本も、何もかもがない。まるで最初からそこに誰もいなかったかのように。
ただ一つ。甘いヴァニラの香りだけが、の身体にまだ薄くまとわりついていた。
それからしばらく、変わらぬ日常が続いた。広いようで狭い校内で互いに顔を合わせることも、しばしば。スネイプとの必要以上の接触を避けていただったが、オリヴィアとのことがあってからしばらくして、彼女の様子に変化が生じた。
金曜の夜。生徒たちは明日のホグズミード行きを楽しみにしながら眠りにつく頃だ。部屋で勉強していたは、窓を叩く音に気づき、鍵を開けた。黒い梟がするりと入り込み、部屋の上空を旋回しての肩にとまった。誰の梟かは、よくわかっている。
「静かにね。パンジーが起きちゃうから」
小声で囁けば、持ち主に似て賢い梟は咽を震わせる。足についた手紙を取ると、は中を開いた。スネイプからの助手の依頼だった。は中を大して読まずに、手紙を机の上に置いた。そして、梟を窓辺に降ろした。梟は“いいのか?”と言う目を向ける。
「大丈夫。返事は、私が直接届けるわ」
が笑顔で体を撫でてやると梟は窓から飛び立っていった。梟の背を見送り、は窓を閉めるとローブを羽織った。足音を消しながら部屋を後にし、静かに寮を出た。行き慣れた、だが最近は重苦しい気持ちで向かっていた道を、今は少しだけ軽やかに歩いた。
あれから幾日経ったことだろう。もう数えてもいない。あの日から、愛しい少女はこの部屋を避け続けていた。助手としての仕事があると、沈痛な表情で赴き、仕事が終われば風のように去っていく。自分を避けているのがわかり、傍にいないでほしいという彼女の信号も受け取れた。
だがそれも仕方のないこと。スネイプは自分がしてしまったことに懺悔する。
彼女を欲望の捌け口だと思ったことは一度もない。だが、彼女が訪れる度に行為を強要しようとしていたことは確かだ。
そう思われても仕方がない。スネイプは机に浅く腰掛けると、大きなため息をこぼした。
―――彼女に会いたい・・・。
彼女の声が聞きたい。
彼女を抱きしめたい。
放った梟が、足に何もつけずに戻ってきた。いよいよ愛想をつかされたらしい。スネイプの肩にとまった梟は、主人の頬に身体をすり寄せて慰めた。
「すまなかった」
誰もいない部屋に、彼の静かな嘆きの声が響いた。
「反省してます?」
誰もいないはずの部屋なのに、返事が返ってきた。予測外のことに、スネイプは弾かれたように顔を上げる。室内に、扉の前にが寄りかかっていた。
「・・・、」
「ノックはしましたよ、一応」
は苦笑する。
なんだか懐かしかった。をこんな間近で見たのは、本当に久しぶりな気がした。
どちらも何も言わないまま、しばらく沈黙が流れた。スネイプにとって居心地のよい静寂ではなかった。スネイプが所在なさげなのを感じ取り、は苦笑して先に口を開いた。
「今日は、・・・仲直りをしに来ました」
は寄りかかっていた扉から背を離し、ゆっくりとスネイプに近づいた。彼の手の届かないところで、あえて歩みを止めて。スネイプを真っ直ぐに見上げる。
「離れてみて、わかりました」
は少しだけ憂いの残る笑みを浮かべてスネイプを見上げた。人の目をまじまじと見ることのないスネイプも、彼女の心をしかりと受けためたい、と目をそらすことはなかった。
「やっぱり、・・・。やっぱり、先生の傍にいたいです」
は恥ずかしそうに、気まずげに苦笑する。
「わがままばかり言って、ごめんなさい」
「君が、いつわがままを言ったのかね」
「酷いことを言ってしまいました。そうして自分から離れたのに、また傍にいてほしいなんて・・・、わがままですよね」
の笑みが悲しげなものに変わる。は瞼を伏せた。スネイプと一定の距離を置いたまま、後ろ手に手を組んで立ちつくす。
「そんな都合よくなんていかないって、わかっています。でも、・・・・あの・・・、」
後ろに組んだ手に力がこもる。は下を向いたまま、言葉が続かなくなってしまった。言いたいことはあるのに。頭の中でなら何度も言っているのに。
―――もう一度、・・・抱きしめてほしい
声に出さなければ、届くわけがない。唇を開き、閉じて、また開く。そんなことを繰り返してばかりのの耳に、優しい声が届いた。
『いつも待っているだけでは、だめよ』
オリヴィア・ローレンス。優しい堕天使の声が聞こえて、後押しされるようには顔を上げた。
ようやく伝える勇気がわいたのに、だがの決意は無駄に終わってしまった。優しく自分を包んでくれる、黒いローブ。を覆い隠すように、スネイプは強く彼女の身体を抱きしめた。
「スネイプ、先生・・」
「すまなかった」
スネイプのくぐもった声がローブ越しに聞こえた。は両方の目を見開く。頑固で冷徹なスネイプは絶対に謝ってなどくれないと思っていたから。だから、スネイプの苦しそうな声と、自分を抱きしめる腕の強さに、はスネイプの想いが痛いほど伝わってくるのがわかった。ゆっくりと両手を持ち上げ、彼のローブをきゅっと握りしめる。
「寂しかったです・・・、」
―――会いたくて、たまらなかった
は身体の力を抜いて、スネイプの胸に額を寄せた。スネイプの首に両腕を巻き付け、爪先を立てて背伸びをし、強く強くしがみついた。彼の首筋に鼻先を寄せる。懐かしい薬草の香りがした。
スネイプを驚かせたのは、の思いがけない行動だった。頬に触れる優しい熱。の方からキスをくれるなんて、今までなかったから、スネイプは思わず目を見開き、を見下ろす。
「な、・・なんですか」
「いや・・。そんな誘惑の仕方、誰に教わったのかと思ってな」
「誰って・・・。スネイプ先生以外にいるわけがないじゃないですか・・」
は頬を赤らめて恥ずかしそうにそっぽを向く。その頬に、スネイプはそっと口付けで返した。が驚いてスネイプの方を向く。スネイプはふっと表情を和らげ、唇に口付けようと顔を傾けた。だが、
「待ってください、」
は困ったような顔でそれを止めた。スネイプはまたしてもおあずけを喰らってしまい、またかねという顔をする。は慌てながらも、だがその顔はゆっくりと恥じらう少女の表情へと姿を変えていった。以前と違う彼女の様子にスネイプも気づく。
「何かね」
「・・あ・・あの、」
問いかけても、は両耳を赤くして言葉を躊躇う。目が泳ぎ、スネイプを真っ直ぐに見つめられない。口を開いては閉じて、また開いて。だが勇気をこめて、一度きゅっと唇を引き結ぶと、は小さな声で告げた。スネイプの目は、見つめられないまま。
「あの、・・・・・ここ、じゃなくて・・、」
全て言い切れず、後は察してくださいとは口を閉ざしてしまった。泣きそうな顔で耳を真っ赤にする彼女を見下ろし、スネイプはすぐに合点がいった。彼女の伝えたいことがわかると、スネイプは驚き、だがゆっくりと目を閉じて笑った。の身体を引き寄せ、強く抱きしめる。
「あ、あの・・・、」
「女に恥をかかせるようでは、男ではないな」
「・・・・っ」
「君が望むままに」
スネイプはの身体を軽々と抱き上げると、彼女の想いのまま、寝室へと足を向けた。伝わったことに、はホッとすると同時に恥ずかしさも急激に襲い、スネイプの胸に顔をうずめて隠した。
「少し、軽くなったな」
スネイプが短く詠唱すると、寝室の扉が自然に開いて、二人を導いて閉じた。スネイプは彼女をベッドの上に静かに降ろした。
「寂しくて、食なんて喉を通りませんでした」
彼女の強がりに、スネイプは肩を揺らして答える。彼女の身体をベッドに横たえさせ、真上から顔を見下ろした。ゆっくりと顔を近づけていく。は不安げに眉を寄せながらも、スネイプを受け入れようと堅く目を閉じた。スネイプは少し考え、軽く重ねる程度の口付けをおとした。
「」
「・・・はい」
「怖いのならば、我輩はやめても構わないが」
スネイプの声は、怖いくらい優しかった。ゆっくりと目を開ければ、自分を見下ろす心配そうなスネイプの顔があった。その目に見つめられて、痛いくらい胸が揺れ動く。不安は、あった。けれど、は彼を安心させるために、苦しいけれど笑顔を向けた。
答えは、決まっていた。は、首を横に振る。
「今夜は、・・・一緒にいさせてください」
ゆっくりと両手をもたげて、彼の首に手を回す。それを合図に、スネイプはそっとの唇に口付けた。重ねるだけの口付けが、深く、相手を愛するものに変わっていく。スネイプの指が彼女のタイを緩め、ブラウスのボタンを外していく。
二人の夜を、橙色の暖かな灯りだけが穏やかに見守っていた。
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