ドリーム小説
答えが見つからない
彼の想いに応えたいのに
どこを探しても答えが見つからない
無数に広がる真理の扉の
一体どこに私が探す答えは隠れているのだろう
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <15> ■
いつものように賑やかな大広間。
大勢の生徒たちが夕食をとる広間に、その日突然スリザリン生の時を告げる声が響き渡った。
「オリヴィア様がお帰りになったぞ!」
その瞬間、賑わっていた大広間中に一瞬で静寂が流れた。教師席にまで緊張が走る。そして一拍おいた後、大広間全体にどよめきが走った。スリザリン生だけは互いに顔を見合わせ、嬉々とした表情を浮かべている。他寮の生徒たちは怪訝な顔をし、職員席のトレローニーに至っては恐ろしいものを見たように顔を青ざめさせていた。
(オリヴィア・ローレンスが帰ってきたって?)
(うそぉ・・・、あの魔女が?)
(ふん。今更どの面下げて戻ってきたっていうんだ)
ひそひそと囁く他寮生の声に、明るさは感じられなかった。渦巻くのは冷笑や嘲笑、そして蔑視ばかり。スリザリンだけが祝い事のように騒いでいた。それまで食事をしていたスリザリン生全員が席を立ち、寮へと向かったのを見て教師も唖然としている。
「、あなたも行きましょう。新人はオリヴィア様にご挨拶しないと」
「え?え、ちょっとパンジー・・っ?」
パンジーが食事中のの手を引く。何がなんだかわからないは、引っ張られて足をもつれさせながら彼女の後をついていくしかなかった。
スリザリン寮の談話室の一角。そこだけが異様な雰囲気に包まれていた。そこには、一人の少女が優雅にソファーに腰掛けていた。いや、少女というほどの無邪気さはなく、それは成熟した魅力的な大人の女に近かった。独特の雰囲気を醸し出す少女は、黄金の柔らかな長い巻き髪を纏い、桜貝のような滑らかな爪を携えた手で豊かな髪を後ろに払った。瞳の色は、と同じ深い青。
「オリヴィア様!」
「お帰りなさい、ローレンス先輩!」
談話室に入って来る生徒がみな声をかけ、オリヴィアはそれに答えるように優雅に微笑んだ。まるでそこだけ別世界のようだった。は、オリヴィアの横に立つドラコが頬をピンク色に染めているのに気付いた。
あのドラコまでもが傾倒するオリヴィア・ローレンスとは、一体どんな人なのだろう。
は少なからず興味を抱いた。は自分でも気付かないうちに、遠くからオリヴィアの瞳をじっと見つめていた。それに、彼女は気づいた。
「あら」
(わ・・・目が合っちゃった、)
「珍しい瞳の子が入ったのね。1年生?」
オリヴィアは時の流れに逆らうように、ひどくゆったりと話をする少女だった。声を掛けられ、は緊張する。優雅に目を細めて微笑むオリヴィアの姿は、とても17歳の少女には見えない。妖艶で、見えない力に引き寄せられるかのような錯覚を覚える。
自分と同じ、その蒼い目をそらせない。言葉も出なかった。
「い、いえ!4年生です。今年からの転入生で、」
何も言わないの代わりに、パンジーが慌てて答えた。パンジーは、ぼぉっとしているの脇腹を肘で突つく。
(ほら、。自己紹介!)
(う、うん)
パンジーに背中を押されてはオリヴィアのソファーの前に進み出た。
「あの・・、はじめまして。・と申します」
「はじめまして、可愛いお嬢さん。もっと近くにいらっしゃい。あなたの瞳が見たいの」
手招きされて、はおずおずとオリヴィアに近寄った。オリヴィアはくすりと笑うと、の手を優しく引いた。オリヴィアはの顔を両手で挟み、更に自分の方へと引き寄せた。まるでキスされるような錯覚におちいり、の胸はドキリと高鳴った。
「まぁ、私と同じね。深蒼の瞳は、内に魔を飼う女の特徴」
「え?」
突然すぎて、何を言われたのかよくわからなかった。は、じっとオリヴィアの目を見続ける。そらそうとしても何かの力が働き、全くそらせない。自分の中の全てを覗かれているようだった。過去も、現在も、未来も、の全てを。まるで本物の蛇に見つめられているような気がしては身震いした。それが伝わり、オリヴィアはやっとを解放した。
「ねぇ。あなたと2人で話がしたいわ。こちらへいらっしゃい」
オリヴィアはゆったりと立ち上がると、の手を引いて奥の部屋へと歩いていった。
「監督生さん。部屋をお借りするわよ」
「え、えぇ。どうぞっ」
取り残された者たちは2人の背を静かに見送り、扉が閉まるや「どういうことだ?」とざわめき出すのだった。
*
「さて、と」
部屋に連れて行かれ、扉が閉まるやオリヴィアは手近のベッドに腰掛けた。呆然と立ちつくすを見上げると、オリヴィアは目を細めて笑いかけた。
「ごめんなさいね、突然」
「いえ・・。あの、私に何か、」
「えぇ。あなたと2人だけで話がしたかったの。あなたのこと。恋人との関係のことで」
「え・・、」
いきなり虚をつくオリヴィアの言葉にの心臓が跳ね上がった。動揺を悟られまいと平静を保とうとするの心も、オリヴィアは読んでいた。妖艶な笑みを浮かべてを直視する。
「素直ねぇ。隠そうとしても、あなたの目は本当に真っ直ぐに真実を語ってくれるのね」
自分と同じ色の瞳を細めて、オリヴィアはくすくすと笑う。全てを見透かされるようで怖いと思った。
「あなたみたいな純真無垢な子が、どうしてスリザリンに入ったのかしらね」
「え?」
「穢れることを恐れる聖女には不似合いな寮だと思うけれど」
「穢れ・・って、・・あの、」
何について言われているのか、は合点がいかなかった。ただ、ありふれた日常の中では決して言われないことに戸惑いを隠せなかった。
「スリザリンは狡猾でしたたか。それは所属する生徒も教師もみな同じ。生徒もそう。男は望む女を手に入れようと強欲に手段を選ばず、女はいとも簡単に快楽に身を堕とす。聖書に描かれる蛇の特徴をまざまざと受け継いだ、魔の生き物の集合体なのに。何故かしらね。あなただけ、可笑しいくらい毛色が違うのね」
―――そう感じたことはない?
オリヴィアにそう問いかけられ、は立ちつくす。複雑な表情を浮かべて。
「それは、・・・私がスリザリンにいてはいけない、ということなのでしょうか」
「いいえ。いいえ、違うわ。そういう意味で言ったのではないのよ」
「・・・」
「あらあら。不安させてしまったのなら謝るわ。ごめんなさいね。選んだ言葉が悪かったわ」
「いえ、違うんですっ。そうじゃなくて・・・、あの、私こそごめんなさい」
スリザリンの誰もが傾倒するオリヴィアに謝罪させてしまったことが、何だかとても重罪のように感じた。は慌てて両手を振る。オリヴィアは、のそんな仕草さえも可愛らしいと微笑んだ。
「私が伝えたかったことはね」
「はい・・」
「スリザリンに選ばれるはずのない純真無垢な心の持ち主であるあなたがこの寮に選ばれたことの、真意」
「真意・・・」
「えぇ、そう。まぁ、いいわ。この話題はまたこの次にしましょう。話を戻しましょうか」
オリヴィアはにっこりと微笑んで、話を中座させた。も深く切り込むことはなかった。おそらくはそれ以上訊いても、きっとオリヴィアは微笑むだけで何も答えてくれないような気がしたから。
オリヴィアはベッドの上で長い足を組み、立ちつくすを見上げた。
「私が話したかったのは、あなたと恋人のこと」
そう言われ、は蒼い瞳を大きく見開いてオリヴィアを見下ろした。自分が彼と付き合っていることなど、誰にも話したことはない。スネイプが誰かに言ったとも思えない。それなのにオリヴィアは、に恋人がいることも、その相手が誰なのかも知っているようだった。
「恋人と、あまりうまくいっていないのね」
「あの、・・・何故そんなことがわかるんですか。一体、私のことを誰に訊かれたんですか」
「誰にも訊いてなんていないわ。勝手に見えてしまうのよ」
「見える・・・?」
は信じられないという目でオリヴィアを見つめた。オリヴィアは後ろに両手をついて余裕の笑みを浮かべている。は、ドラコたちが話していたことを思い出していた。
「あの、・・・本当に見えるんですか。過去も、未来も・・」
「えぇ。疑うのも無理はないけれど。こんな力があるから、スリザリンの子たちは私を女神か何かのように崇めてくれるのね。それ以外の人々は、畏怖の目で私を見るわ。まぁ、そちらが正常なのでしょうけれど」
オリヴィアは品のある猫のようににんまりと笑ってみせる。他人の目を気にしない、自由気ままな獣のように。
「だから、あなたが今とても悩んでいるのがわかるの。恋人のことで」
「・・・・」
「当たっているかしら」
「・・・違う、とは言えません」
「正直ね。素直な子は好きよ」
オリヴィアは、肩を揺らして笑う。逆には、頬を赤らめた。オリヴィアの前では、隠し事などできないと思えた。おそらく、が悩んでいることも事細かにわかっているのだろう。は恥ずかしい気持ちをこらえて、オリヴィアの瞳を見返した。
「相手は、あなたのことを待っているのね。そんなに堪えさせて、男の欲を抑えつけてどうするつもり?」
オリヴィアの隠さぬ言葉に、は唇を噛みしめて頬を赤らめた。それでもオリヴィアの口は遠慮することなく、を追いつめる。
「ふーん。あなたが焦らしていつまでも身体を許さないから、相手は悶々とした日々を送っているのね」
「・・・・っ」
信じられないことを、彼女はさらりと言ってのける。は恥ずかしさに泣きそうな顔になっていく。オリヴィアの目を見つめていると、鼓動が早まった。苦しいのに、それなのに目をそらせない。
「穢れを知らないお嬢さん。互いの身体を重ね合う快楽はお嫌いかしら」
「や・・・、あの、ごめんなさいっ。失礼しますっ」
の幼い心はもう耐え切れなかった。はオリヴィアに向けて慌てて一礼すると、足早に部屋を去っていった。
「あらあら、本当に可愛らしいこと」
背後で柔和に囁く彼女の声がした。
*
監督生の部屋から真っ赤な顔で駆け出してきた自分を、皆が興味深々で見つめてくるのがわかったが、はそのまま自室へ駆け込んだ。その日の夜、寝間着に着替えてベッドに入り込むと、はしばらくパンジーと話をした。オリヴィア・ローレンスのことについて、は知りたかった。
「オリヴィア様?えー。簡単には説明できないわねぇ」
ナイトテーブルのオレンジ色のランプに照らされたパンジーの顔は少し困っていた。
「成績優秀でスポーツ万能でしょう?それから、・・・あーもう何て言ったらいいのかしら!入学したときから交際を申し込まれること星の数ほど、女性としても憧れの存在で。とにかく、オリヴィア様は女神のような方なのよ」
「うーん・・・。わかるような、わからないような」
「わかろうとしても無駄よ、。言ったでしょう。簡単には説明できないような素晴らしい方なの!」
説明が苦手なパンジーは、話せば話すほど眉をつり上げていくばかり。は「うーん・・・」と唸り、わからずにいたことをついには問いかけた。
「そんな素晴らしい方が、一体今までどこで何をしていたの?こんな中途半端な時期にいきなり登校されるなんて」
「・・・・・」
の質問は最もだ。だが、パンジーは気まずげな顔でから顔をそらしてしまった。そして、の方をちらちらと何度も見て顔を窺うと、小さな声で囁くように答えた。
「・・・、私が言ったってこと、誰にもばらしちゃダメよ。特にスリザリン生になんて絶対ダメよ」
何度も念を押され、は目をきょとんとさせながらも頷いた。
「オリヴィア様はね、・・去年からずっと謹慎なさっていたのよ」
「え・・・、ホグワーツにも、謹慎なんて処罰があるの?」
規則破りや学園生活に不釣り合いなことがあれば、教師によって寮ごとに減点されるのがホグワーツのルール。それが謹慎となれば、減点だけでは足りないようなことをしたということだ。はにわかに興味を抱く。だが、パンジーの表情は厳しいままだった。
「こんなこと、私が言っていいかわからないけれど・・・」
パンジーは何度も口ごもりながら、にオリヴィアの秘密を教えた。
灰色の空から、ちらちらと雪が降っていた。イギリスは、まだまだ寒い冬が続いている。
は廊下に立ちつくし、舞い落ちる雪を見つめて白い息を吐いた。真っ白なものを見つめていると、心が浄化されるようだ。ぼぉっと雪を見つめながら、は昨日会ったばかりのオリヴィア・ローレンスという少女のことを考えていた。
昨夜寝る前に聞いたパンジーの話は、少なからずにショックを与えていた。
『オリヴィア様はね、去年の今頃に、・・・その、・・妊娠されているのが分かって、謹慎処罰を受けたのよ』
ホグズミードの宿から、ホグワーツ生ではない見知らぬ男性と2人で出てくるところを教師に見つかり、オリヴィアの身体のことが発覚したのだという。前代未聞のことに、校内ではオリヴィア・ローレンスは停学が退学かと話題になった。教師も他寮の生徒も、皆が彼女を軽蔑の目で見つめた。
―――子供の分際で
―――はしたないことこの上ない
―――なんと汚らわしい
誰も彼女の味方をする者はいなかった。授業中も食事中も、廊下を歩いていても、彼女を見る人々はみなひそひそと耳打ち話をし続けた。そんなことが続いたある日、夕食時の大広間で。もちろんその日も小さな囁き声は絶えなかった。それにうんざりしたオリヴィアは、ため息とともにフォークを置いて立ち上がると、明瞭な美しい声で大広間中に聞こえるように言い放ったという。
『言いたいことがあるのでしたら、こそこそなさらないで私の前で堂々と仰ればよろしいのに』
静まりかえる大広間。誰もがオリヴィアを見つめていた。そんな状況でも、彼女は「困った方々たち」と嘆くようにため息をついてみせた。
『ひそひそと私のことを中傷される方こそ、陰でお熱いセックスをされているのでしょうね。ご自分の罪を隠すために、私を隠れ蓑にする。なんと狡猾でしたたか。本当に、・・・人間らしくて愚かなことこの上ないですわ』
そしてオリヴィアは大広間を見渡し、・・・生徒や職員の中から数人に目をつけ、微笑とともに熱い視線を送った。オリヴィアと視線を合わせられた者たちは、みな一様にびくりと身体を震わせていた。まるで、オリヴィアに言われたことが当たっているかのように、心の中の隠し事を見透かされたかのように。
呆然とする教師陣を尻目に、オリヴィアは長く豊かな髪をなびかせて颯爽と学校を去っていった。校長の計らいで退学は免れ、彼女は一年間の謹慎処分とされた。
は蒼い瞳を衝撃に揺らめかせ、毛布で顔の半分を覆い隠しながらパンジーに問いかけた。
『ねぇ、パンジー。ローレンス先輩の、・・・その・・、赤ちゃんは、』
『馬鹿ね、。察しなさいよ。・・・産めるわけないでしょう』
『・・・それじゃ、』
『仕方がないのよ。あぁするしかなかったのよ・・・』
パンジーも言いにくそうにそれだけを告げると、「おやすみ」とに背を向けて毛布を被ってしまった。の頭の中で、パンジーの言葉はいつまでも響きわたった。は悲しげに瞳を伏せるとベッドの中で小さく丸まり、夢を見ないようにきつく目を閉じた。
ゆっくりと目を開けると、そこは橙色のランプに照らされたスネイプの部屋で。は、自分がスネイプの手伝いを終えてお茶をするために来ていることをゆっくりと思い出していった。
「随分と眠そうだが。大丈夫かね」
「あ、はい。すみません、ぼぉっとしていました」
「夕べは騒がしくて眠れなかったのかね」
「え?」
「帰ってきたらしいな。あの、占術の魔女が」
「ローレンス先輩ですか?はい。寮内がお祭りのようです」
「だろうな。ローレンスがいなかったこの一年が、異様に静かに感じた」
スネイプは何を思いだしたのか、肩を揺らして静かに笑う。スネイプの口調はいつもと変わりなく、態度にもおかしなところはなかった。はそのことにホッとする。何気ない態度と会話を装ってはいたが、の中では幾ばくかの不安があった。最後にスネイプと2人になったとき、彼を拒んでしまったことと、彼が見せた表情を忘れられるはずがない。
「ローレンス先輩ってすごい方ですね。目を見つめるだけで、その人の全てが見えてしまうらしいですよ」
「あぁ。占術に関して言えば、我々でも敵わないかもしれんな。才能とは怖いものだ」
「でも、それだけじゃないんですよね。先輩自身がとても大人で、なんだか不思議な人です。先輩の近くにいる男の人は、みんな魅了されているというか。男性は、ローレンス先輩のような女性がお好みなんでしょうか?」
「まぁ、人それぞれであろう。少なくとも、我輩の好みではない」
「そうですか。では、先生のお好みの方は、」
他意などない。は何気なく問いかけただけだった。他愛ないおしゃべりのつもりで笑ってスネイプの方を振り向いた。振り向こうとした。だがそれは叶わなかった。
「・・あ・・っ」
「、」
スネイプの両腕がを捕らえ、彼女の細い身体を背中から抱きしめた。予期せぬ抱擁にの身体は跳ね上がる。
「せ、先生?!」
スネイプはをきつく抱きしめる。彼女の首筋に顔をうずめ、彼女の香りを思いきり吸い込む。スネイプの吐息に、はふるりと身体を震わせた。自分の意思とは関係なく、身体が熱くなっていくのがわかる。心地よい熱の中に、だがは素直に溺れることはできなかった。堕ちていくことへの恐怖が、じわじわと蘇ってきたから。
「先生、スネイプ先生・・・は、放してくださいっ」
「何故だ」
「何故って・・・、あの」
「一体いつまで待たせるつもりかね」
はうまく答えることができず、口ごもる。迷い戸惑う彼女の身体に、スネイプは手を差し伸べる。
「え・・っ。あ、あの、」
スネイプの指が、器用にタイを解いてブラウスのボタンを外していく。は頬を赤らめて身体を捻った。だが、スネイプのもう一方の手ががっちりとを拘束していて身動きがとれない。じたばたしていると、スネイプの手がするりとの首元からブラウスの中へと入り込んできた。がさついた五指が、彼女の柔らかな肌をまさぐる。下着の中に蛇のようにするりと入り込み、彼女の幼い乳房を包むように掴んだ。感じたことのない感触に、の身体がびくりと跳ねる。いろんな意味で大きなショックが彼女を襲った。
「い、いや・・・やだ、やめてっ。冗談はやめてください!」
「冗談で、こんなことができると思うか」
「いやだ・・・先生、・・スネイプ先生っ!」
抵抗を強めるの体はどうしようもないほど震えていた。だが、どんなに足掻いてもスネイプの拘束は外れはしない。大人の男性との力の差をまざまざと見せつけられ、は恐怖した。
「・・」
「・・・っ」
いつもなら優しいと感じる声に、今は恐れすら感じた。スネイプの身体は、貪欲にを求めた。の身体だけを。
―――そんなの・・・いや。こんなの・・・・・っ
は歯を食いしばり、渾身の力で足掻いた。油断していたスネイプの拘束が僅かに緩まり、の両手が解放された。振り払って解いた手で、は思いきりスネイプの頬を張った。乾いた音が室内に響き、スネイプは我に返る。自分の目の前に立つ少女を見つめ、そしてスネイプは息をのんだ。
は泣いていた。蒼い瞳から大粒の涙を流して泣いていた。乱れた衣服の前を合わせ、きつくブラウスを掴む手は震えていた。それはまるで陵辱されかのような姿に、スネイプは罪悪感に打ちひしがれた。背中を冷たい汗が流れるのを感じ、今更ながらに後悔の念に襲われた。涙を拭ってやりたいと差し出した手は、だがによって払われた。
「触らないでください・・・、」
怯えた蒼い瞳は、全力でスネイプを拒む。綺麗な眉は悲しげに落とされ、怒りと哀しみを交えた両の目はただただスネイプを睨むように見つめていた。の心に負わせた傷の深さを知る。
「・・・酷いです・・・こんなの・・・、」
一緒にいられればよかったはずの想いが捻じ曲がっていく。こんな形で壊されるとは思ってもみなかった。スネイプはさっきから何も言わない。沈黙が酷く心に響いた。涙が後から後から流れる。
「こんなの・・・、こんなの嫌ですっ。私は先生の欲望の捌け口じゃない、のに・・・っ、」
はローブで衣服を隠すと部屋を飛び出した。暗くて寒い廊下をひたすら走った。廊下の外には、白い雪がちらちらと降っていた。真っ白なものが心を浄化してくれるというのなら、今すぐ雪の中に飛び込んでしまいたい。こぼれる涙をそのままに、は冷たい廊下を真っ直ぐに走り抜けた。
←
BACK
→
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送