ドリーム小説
もうこの想いを止める枷はない
あなたに触れて
あなたを感じていたい
このとめどない想いに溺れるのは怖いけれど
もう少しだけこのままでいさせて
■ 魔女の条件 〜The Love of the Maiden〜 <14> ■
好きな人に触れたい
それは誰もが思うことで、もちろんも例外ではない。キスして抱き合ってお互いの存在を確かめたい。もう2人の間を妨げるものはないのだから、空白だった時間を埋め合わせるためにも思う存分相手にすがればいい。だが、にはそれが簡単にはできないでいた。
「先生。お茶が入りましたよ」
「あぁ、すまんな」
スネイプはが入れてくれた紅茶を受け取ってカップに口を付けた。2人が晴れて恋人同士になってから、は助手がない日でも度々スネイプの部屋を訪れるようになっていた。お茶やお菓子をご馳走になったり、他愛無い話をしたり、2人は穏やかな日々を送っていた。
頻繁に会うようになって、はスネイプの様々な面に気付いたりもした。甘すぎるお菓子を好まないことや、几帳面なように見えて実は机の中はぐちゃぐちゃだったりするところとか。それから、他の生徒には見せられない一面も。
「」
「はい。なんですか?」
ソファーに座るスネイプに手招きされた。近づくと、は腕を引っ張られて彼の胸の中にすっぽりと収められてしまった。そんなふうに、スネイプはを背中から抱きしめるのを好んだ。スネイプの体温を背中に感じて、の鼓動は速まる。
「な、なんですか、急に」
「嫌かね。我輩はこうしていたいのだが」
その一言での耳はいつも真っ赤に染まった。恋愛経験値の差は埋めようがない。ちょっとした触れ合いであたふたするを、スネイプはいつもどっしりと構えて受け止めていた。だが、恥ずかしさに慌てながらも時々は思うのだ。
(先生って、・・・意外と寂しがり屋かも)
などと想像してはそれをかわいく思い、ばれないように小さく笑う。だって、以前のよそよそしくて人と馴れ合うことを極端に避けるセブルス・スネイプはどこへ行ってしまったというのか。といるとき、スネイプは必ず彼女にじゃれついてくるのだから。さすがに大人だけあって、人がいるところでは付き合っている素振りなど絶対見せず、ましては不要に触れてくることもない。でも2人になるといつもこうなのだ。
そのギャップにようやく慣れてきたというのに。が慣れてくると、スネイプはまるで試練のようにハードルを上げてを翻弄する。恋愛慣れしていないに早く追いついてほしいと、スネイプはまるで焦っているようにも見えた。スネイプはを抱きしめる腕に力を入れる。
「」
彼女の耳元に唇を寄せ、息を吹きかけるようにそっと名前を呼んだ。息のくすぐったさと、想像を絶する彼の声の甘さには身震いし、身体を熱くさせる。
「なん、ですか?」
後ろから抱きしめているから表情は見えないが、その声だけで彼女のスイッチが入ったことを悟り、スネイプは意地の悪い笑みを浮かべる。頬に口付けてやれば、は驚いたように顔をこちらに向けてくる。間をおかずに、眼をパチクリさせる少女の唇を奪った。
にキスすると、初めはいつも緊張に身体が強張る。だがそれもすぐに解け、ゆっくりと身体の力を抜いてスネイプに身を預けてくる。今ではもう、スネイプのキスに合わせられるようになっていた。気持ちよさそうに目を閉じてスネイプのキスに応えるを、スネイプは目を細めて見つめた。ゆっくりと、だが確実に大人の道を歩み出した恋人の様子に、スネイプの悪戯心に火がつく。
「ん・・・、?!」
静かなキスに突然の変化。は両目を大きく見開き、スネイプを見つめた。
「え・・あの、」
「初めてかね?」
にやりと笑うスネイプに、は顔を真っ赤にして静かに頷いた。は自分の唇をそっと指でなぞる。キスの合間、緩んでいた唇の隙間から突然入り込んできた柔らかな感触がまだ残っている。こんなキスは知らない。でも、恋人が仲を深めていくキスだということは知っている。スネイプが、今以上の関係を自分に望んでいるのだということもわかる。
大人のキスひとつで頬を染める彼女が可愛くて、スネイプはもっといじめたくなってしまった。彼女の顎に手をかけ、自分の方に顔を向かせる。目が合うと、彼女は何かを察知したらしく顔を真っ赤にして慌て始めた。
「あ、あの・・・あのですね、」
「いいから。目を瞑っていろ」
スネイプはの下唇をぺろりと舐め上げると、優しく口付けた。は恥ずかしさに両目を固く閉じた。身体に力が入ってしまい、唇をきつくひき結ぶ彼女に、
「力を抜きたまえ」
スネイプはそっと告げて、彼女の唇をまた舐めた。そして舌での唇を割ると、綺麗な歯列を舌先で撫でた。開けろと言われているのが分かり、はゆっくりと身体の力を抜いて、そしてそっと唇を開いた。スネイプの舌がするりと入ってきて、を誘う。はおずおずとそれに応えた。慣れないことにびくびくと自分を差し出せば、後は大人のスネイプが手を引いてくれた。そして彼に身を任せ、はゆっくりと深海へと落ちていく。
その日の夜。
はベッドの中で丸くなって眠れぬ夜を過ごしていた。眠ろうと目を瞑ると、昼間のあのキスを思い出してしまうのだ。
正直あんなキスをされるとは思ってもみなかった。今でもはっきりと思い出せる、口の中に残る彼の感触。それを思い出すだけで胸が熱くなり、体がふるりと震えた。恋人なんだから自然なことだし、彼が望むことに応えたいと思った。でもどうしてだろう。それがとても背徳的なことのような気がして、自分が堕ちていくことの恐ろしさには不安になるのだ。
きっと彼はこれ以上のことを望んでいるのだろう。ただ、全てを受け入れるにはの心はまだ幼すぎた。
その日の夜。
スネイプは自室のデスクでたまった仕事を片付けながら、時折甘いため息をついていた。抱いていた彼女のぬくもりが腕に残っている。何度も抱きかかえたことのある身体は華奢で、少し力を入れれば壊れてしまいそうなほどで。自分の腕の中で熱を上げ、少しずつ大人の女へと成長していく彼女を見ていると、自分が抑えられず、今日に至っては急な行動に出てしまった。
彼女は自分を拒むことはしない。スネイプの望むとおりに応えるだろう。だが、まだ未成熟な体と心がバランスを保ってついてこれるかどうか、それが心配だった。そんなスネイプの心配をよそに、自身は自覚があるのかないのか、スネイプの行為に想像以上の妖艶な反応を見せるから、いくら大人なスネイプもそろそろ理性が利かなくなりそうだった。
「さて、な。あんな子供に、大丈夫かね」
革張りの椅子に背を預け、スネイプは天井を仰ぐ。細すぎる体は、あれ以上の行為に耐えられるのか。恋愛経験のない幼い心はついてこれるのか。彼女が壊れなければいいが。そんなことを考えている自分にはたと気付き、スネイプははぁとため息をつく。
(これはもう、病気だな)
薄暗い部屋には、不似合いな甘い香りがほのかに漂っていた。桃に似た香りは、彼女の残り香。スネイプはゆっくりと目を閉じて、その中に彼女の存在を感じた。
安穏とした日常が続いていた。平和すぎるほどの平和。だが穏やかな日常に、ある日突然亀裂は生じた。
が授業を終えて寮に戻ると、そこはいつもと雰囲気が違っていた。簡単に言えば、みんなが焦っていた。それは困っている焦りではなく、待ちきれないという焦りだった。普段荘厳として静寂に包まれるスリザリン寮がいつになくざわついていた。
「、やっと戻ってきたか」
「ドラコ、どうしたの。何かあったの?」
ひとり雰囲気の中に入っていけないに、ドラコは聞いてくれといわんばかりに目を輝かせて彼女の肩を強くつかんだ。
「彼女が帰ってくるんだ!」
「ちょ、ちょっとドラコ、痛いよ。誰?彼女って」
「え?・・あぁそうか、は知らないのか」
ドラコは「そうかそうか」と納得し、そして得意げな顔で告げた。
「オリヴィア・ローレンス先輩さ。スリザリンの女王の帰還だ」
「だ、だから誰?」
名前を聞いても、にはちっとも凄さが伝わらなかった。だがドラコは嬉しそうな顔でクラッブとゴイルの方へ行ってしまった。「トレローニーのババァの顔が見物だぜ!」とはしゃぎながら。結局がわかったのは渦中の人物の名前だけだった。
その日の夕食の場に、ちょっとした変化があった。いつも「俗世の邪気がどうのこうの」と北塔に引き籠もっている占い学のトレローニーが、珍しく夕食の場に姿を現したのだ。生徒たちは物珍しげに彼女をちらちらと見た。まだ占い学をとっていない低学年の子たちは、初めて見る先生に尚更興味津々だ。
「珍しいね、トレローニー先生がここにいるのって」
「ふん。トレローニーの奴、オリヴィア先輩が来たら自分の立場が弱くなるからな。皆に存在をアピールしようって魂胆に違いないさ」
ドラコが嫌な笑い方でトレローニーを斜に見つめた。はドラコの言葉の意味がさっぱりわからないでいた。
「ねぇ、ドラコ。そのオリヴィアさんって、どういう方なの?」
「っ。オ、オリヴィアさんだなんて・・・!駄目だ、そんな呼び方」
「え?・・えぇ?」
「いいか。彼女を呼ぶときはこうだ。ローレンス先輩、オリヴィア先輩、もしくはオリヴィア様だ」
「えぇ?」
「スリザリンの暗黙の了解だ。彼女を馴れ馴れしく呼ぶことは許されない。なぜなら、・・・彼女は占術の女神なのだからな」
ドラコが目をきらきらさせながら語って聞かせた。オリヴィア・ローレンスは、占いの神に愛された申し子だと語り継がれているようだった。彼女の占術は得意という単純な言葉では評価できない。なぜなら、彼女が告げたことはすべて真実になる。オリヴィア・ローレンスの目には、絶対的な過去と未来の映像が見えているのだと言う。それはもう、当たる当たらないの領域ではなかった。
そうなると、トレローニーのように「紅茶の影がどうのこうの」だの「木星が動いた動かない」という曖昧な占いをスリザリンの生徒が信じるはずもなく、トレローニーが怯える理由がにはよく分かった。
「お会いすればその素晴らしさがすぐにわかるさ。彼女はスリザリンの女神なんだ」
「すごい人だということは伝わったわ」
だが、まだ会ったことのないには、オリヴィア・ローレンスという人物も半信半疑で曖昧な存在でしかなかった。
は、ふと教師席の端の方に視線を向けた。スネイプは食事中だったが、顔を上げて目が合った瞬間、は気付かれないようにふっと微笑んだ。スネイプは気づいているようだったが、視線をわざとそらし、一つ大きく咳払いするのが見えた。それがスネイプの照れ隠しだと知っているは、満足げに小さく笑った。
次の日も次の日も、スリザリンの談話室は不在のオリヴィア・ローレンスの話でもちきりだった。その話題についていけないは、女子寮の机に向かい、明日の授業の予習をしていた。すると、見慣れた梟が空を舞い、こちらに飛んでくるのが見えた。は微笑み、そっと窓を開けてやった。
「ご苦労様。いつもありがとね」
大きな梟は風のように部屋に入ると、の手元に手紙を落とした。机の上に着地した梟の背中を優しく撫でてやると、梟は嬉しそうに一鳴きして再び窓から出て行った。手紙はスネイプからの助手の依頼だった。はローブを取ると、にぎやかな談話室をそっとぬけて、寮を後にした。
指示された教室に到着した途端、はいきなり不安に駆られた。教室の扉は薄く開いていて、中からもくもくと煙が出ていたからだ。
「せ、先生!何かあったのですか!?」
まさか調合事故か何かが、とは手で口を押さえて慌てて中へ入った。室内にはいつもの黒いローブを纏ったスネイプがいて、彼の前にあるビーカーから煙がもくもくと湧き出ていた。
「先生!」
「!ちょ、ちょっと待ちたまえ!」
珍しく慌てるスネイプに構わず、は不安に駆られながらスネイプのもとへと駆けよった。慌てるスネイプはが来るのを止めようにも、両手にフラスコやら試験管やらを持っていて身動きがとれず、顔ばかりが焦っていた。は何が問題なのかと必死に原因を突き止めようと、テーブル上にくまなく視線を巡らせた。調合の状態も、ビーカーと周りの資料も、全てに目を通して、そして、
「・・・あれ・・?」
「・・・・・・」
は目を点にした。成績の良いは、そのおかしな状況にすぐに気付くことができた。スネイプだけが、「まずい」という顔をしていた。はゆっくりと首を動かし、スネイプを見上げた。すると、スネイプは気まずげにさっと顔を背けてしまった。それで十分に確証が持てた。は笑いそうなのを堪えて、真顔を維持しながらスネイプに問いかけた。
「先生。ここ、調合間違えられましたね?」
「・・・・・・・・」
「これって、先生がよくおっしゃっている、1年生がよく間違える、」
「皆まで言うな」
から目をそらしてばつの悪そうな顔をする彼を見て、は噴出す。それは言うなれば、三つ星レストランのシェフが、砂糖と塩を間違えてメインディッシュを作ってしまったようなものだった。
「あははは!き、貴重なシーンを見てしまいました。これはもう、」
はそれはもう満面の笑みでにっこりと笑い、スネイプに告げた。
「セブルス・スネイプ、10点減点!」
「・・・・・」
楽しそうに笑うに、スネイプは最早ぐぅの音も出なかった。
は楽しげに笑いながら、スネイプが散らかしたテーブルを手際よく片付け始めた。カチャカチャと器具をいじるを背に、スネイプは聞こえないようにため息をついた。スネイプらしからぬ失態だった。こんな初歩的なミス、いつもの彼なら絶対にしない。が失敗の理由を問いかけてくることがなくてよかったとスネイプは思った。まさか頭の中でのことばかり考えていて、次に入れる材料の手順を間違えたなど、口が裂けても言えないから。
2人で失敗の後片付けをして、再び作業をやり直した。はスネイプの弱みを握ったとばかりに得意な顔をする。
「ミスター・スネイプ。君はそこで調合を間違えたのかね?」
「・・・・・・」
いつものスネイプの口調で、失敗した生徒を叱るようにはスネイプに問いかけて遊ぶ。仏頂面のスネイプの横顔をのぞき込み、は肩を揺らしておかしそうに笑う。そんな他愛ないやり取りこそが、今のにとって、恋愛に不慣れな幼い彼女にとっては最も幸せな時間だった。
全ての準備が終わり、はぽんっと手を叩いた。お茶の用意をしようと、部屋の隅に備え付けのティーセットの方へ足を向けた。だが不意にスネイプに手を引かれ、は彼を振り返ろうとした。だがそれも叶わなかった。
「」
(・・・わ・・っ)
不意打ちの抱擁に、は身体を強張らせる。上昇していく身体の熱。後ろから抱きしめられることには慣れたが、耳元で囁かれる甘くて低い声にはの身体はなかなか慣れないでいた。
「ス、スネイプ先生・・・」
「・・・・・」
「あの・・・、これではお茶がいれられませんが」
「茶などよい。代わりなら・・・、ここにある」
スネイプの声がの鼓膜を揺らし、彼女の身体に甘い痺れが走る。スネイプの長い指がの顎を右に向かせ、熱く貪るように彼女に口付けた。彼女の細い身体をきつく抱きしめ、彼女の全てを食らいつくすかのように唇を奪う。
こんなスネイプは知らなかった。は甘い幻惑の中に、微かな恐れを感じた。
「まだ慣れないのかね」
「慣れって、・・・そ、そんな簡単に、」
「早く追いついてきたまえ。いつまでもこれでは、我輩がもたんよ」
「え・・?あ、・・あのっ」
慌てるの言葉をさえぎるようにスネイプは再び唇を塞ぐ。そして、ただのキスは次第に熱を帯び、深くなっていく。覚えたてのキスにの思考は薄れ、快楽の渦に溺れそうになる。幼い彼女の心はそれを恐れ、必死に理性を保とうと繋ぎ止めていた。
の身体を抱きしめていたスネイプの手が、不意に動きを見せた。左手がゆっくりと下へ降りていき、地を這う蛇のように彼女の左足をするりと撫でた。の表情に驚きと困惑が混じる。
「や・・っ、」
無意識に出た拒絶の言葉。は自分でも意識せず、スネイプの手の上に自分の手を置いてそれ以上の動きを拒んでいた。スネイプは訝しみ、彼女の横顔をのぞき込む。は、耳を真っ赤にして今にも泣きそうな顔をしていた。
「・・、」
「あの・・、お願いです。ちょっと、・・・待ってください」
は床を見つめて荒い息を整えると、自分の胸元を強く掴んで自分を落ち着けた。スネイプに申し訳ないと思いながらも、は彼の視線から顔をそらした。スネイプのことだから、きっとまた苦笑いして「悪かった」と頭を叩いてくれると思った。けれど、
「後どれほど待てばいいのかね」
「え・・?」
スネイプの声は事務的でひどく淡々としていた。聞いたことのないスネイプの声に、は反射的に彼の方へと顔を向けてしまった。そして後悔する。スネイプは、見たことのない不機嫌な顔をしていた。スネイプの黒い瞳をのぞき込むと、彼の心が流れてくるようだった。スネイプは、に触れたいと望んでいる。それはあまりにも純粋で素直な願望だった。2人の間にある見えない壁を壊し、ひとつになりたいと望んでいる。それを拒まれたスネイプの心情が読めないではなかった。ただ今は、何と答えていいのかわからなかった。
結局そのまま気まずい沈黙が流れ続け、スネイプがため息をついてを手放し、は何も言わずに彼の元を去った。
その日の夜。
はベッドの中で丸くなって再び眠れぬ夜を過ごしていた。眠ろうと目を瞑ると、スネイプのあの表情を思い出してしまうのだ。本当のことを言えば、だって彼に触れてほしいと思っている。キスして欲しい、抱きしめて欲しい、それ以上のことも。でも、彼との距離をゼロにするにはの心も体も幼く、その解決法を見出すことはできなかった。
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