ドリーム小説
リング上のあなたがキラキラと輝くのが何よりも嬉しかった
リング上のあなたが人気者になっていくのが何よりも嬉しかった
07:恋人はインファイター?1
浪速のゴンタくんがジムに入門して苦節4ヶ月
いろいろありはしたが、千堂くんもついに念願のプロライセンスを取得した
「これでワイも正真正銘のプロボクサーやで!」
合格したその日の彼のはしゃぎようといったらなかった
ライセンスカードを頭上高く掲げてジム内を飛び回る様はまるで子供のよう
「どや、!写真も男前に撮れとるやろ?」
「はい。とっても強そうに写ってますね」
「あーん・・・?ちっちっちっ。あかん、間違うとる」
「え?」
「『強そう』やない。ほんまに強いんや」
「そこ重要やで。間違えんといてな」と千堂くんは得意げに人差し指なんか立てて力説する
相変わらず自信たっぷりなところは入門当初から変わっていない
変わったことといえば彼自身が少しだけ丸くなったこと
そして、この間の事件がきっかけかわからないが、彼と私の距離が少しだけ縮まったこと
「そうでしたね。千堂くんは日本一になるんでしたね」
「そや。ワイはいずれ日本の頂点に立つ男やで」
ワイより上には誰も立たせん
ライセンスカードを掲げながら千堂くんは犬歯を覗かせてニッと笑う
その自信ありげな笑い方は実に彼らしく、そんな彼を近くで見ているのが私の楽しみにもなっていた
そして彼の宣言通り、新人ボクサー千堂武士は破竹の勢いでその名をボクシング界に轟かせていった
KO勝利で幕を開けた鮮烈のデビュー戦
誰が名付けたのか、いつの間にかついた字(あざな)は『浪速のロッキー』。彼にぴったりだ
KO勝利するたびにボクシングマガジンに掲載され、あっという間に地元の有名人に
喧嘩で身に付けた破壊力のあるパンチや好戦的なボクシングスタイルが受け、いつしか気合いの入った応援団もできていた
そして新人王戦が終わった頃には・・・
「ただのゴンタクレだった小僧っこが、一躍大阪の星か」
「はー・・・できすぎですわ。まさか西日本新人王に、最優秀選手賞までもろうてくるとは」
「初めはどうなることかと思うたがな。お前の目に狂いはなかったっちゅーことやな、柳岡」
ジムの隅でサンドバッグを叩きまくっている彼を眺めながら会長さんと兄柳岡は談笑していた
わずか半年前までただの暴れ者だった彼が、今では西日本フェザー級新人王に輝いていた
そのことに会長さんをはじめ、多くの関係者が大満足していた
けれどそんな中、新人王を獲った当の本人ただ一人だけは満足できていないのだった
「なんや、ぜんっぜん物足りんわ。もっと強い奴はおらへんのか」
千堂武士は戦いに飢えていた
KO勝利には満足している。けれど彼はもっとハードなどつきあいを望んでいた
千堂くんのパンチ力に耐えられる者は西のルーキーの中にはいなかったのだ
「もっとごっつぅ強い奴とどつきあいがしたい」と駄々をこねる彼に、兄は「やかまし!」と拳骨をくれてやる日々
「粋がるなや、千堂。新人王言うてもワレはまだルーキーやで。上には上がまだまだおるさかいな」
「ならその上の奴とやらしてぇな。ワイは思いっきりこの拳を振るうてみたいんや」
彼は好戦的に笑って、メキリと音を立てて拳を握りこむ
血の気の多い教え子に兄は呆れながらも、だがハングリー精神旺盛な彼に嬉しさも隠せない
「ほんま、自信ばっかり天井知らずのルーキーやで。そういうことは全日本新人王になってから言えっちゅー話や」
兄は腰に両手を置いてため息をつく
そんな兄の隣で私は――自分もまた練習中なのだが――縄跳びのトレーニングを終え、くすくすと笑っていた
「まぁまぁお兄ちゃん。勝ち気で前向き、自信たっぷりなところが千堂くんの良いところでしょ?」
私はタオルで汗をふきながら兄を宥める
けれど兄は遠くでサンドバッグを叩きまくっている千堂くんを見てため息をつく
当の本人は「おらぁ!」とか「うらぁ!」とか叫びながらサンドバッグを揺らしている
「わかっとるわ。けどなぁ・・・」
「なにか心配?」
「なんつーかのぉ・・・。千堂のこと見とるとなんややたらとカッカしとって、発情期の雄猫見とるみたいで危なっかしくてなぁ」
「発じょ・・・、ってそんな」
「また溜まりに溜まったフラストレーション、喧嘩なんかで発散されでもしたらたまったもんやあらへんからな」
以前のようなことがまたあったら今度こそただではすまない
あのときはまだ練習生の身だったが、今は千堂くんも立派なプロボクサーだ。ライセンスを剥奪されかねない
随分と過剰に心配する兄だ。妹の私はまるで心配などしていないというのに
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。千堂くんはもう喧嘩しないよ」
「あん?なんでそんなん言えるんや」
「ん?・・・うーん。理由とかはうまく言葉にできないけど。けどきっと大丈夫、だと思う」
明確な理由なんてない
けれどもうそんな過剰な心配はいらない、そう私は確信していた
タオルを首に引っかけ、私はサンドバッグと向き合う彼を見つめる
*
なんや・・・随分と穏やかな優しい目で千堂のこと見るやんけ・・・
以前と何か違う妹の様子に、ワイは腕組みをしながら千堂とを交互に観察した
そしてふと頭をよぎる不安があった
まさか・・・。思わずワイはそれを口にしとった
「のぉ、」
「ん?」
「なに?」と振り向くに、ワイはやや眼を細めて尋問するような調子で問いかけた
「お前、・・・まさか千堂に惚れとるんか?」
「へ・・・?」
突然の兄の発言にの顔は思わずキョトンとする
けど何を訊かれたのかすぐに理解すると、タオルの両端を引っ張っりながら慌ておった
「な、なに言ってるのお兄ちゃん。なんで・・・っ?」
「なんや、やたらと千堂に肩入れしとるさかい、まさかと思ってな」
「そ、そんな・・・肩入れするのは当たり前でしょ。千堂くんはうちの看板ボクサーなんだからっ」
「信じてあげなくてどうするの」とは必死な様子で力説する
必死に正論を言うとるつもりやろうが、・・・の頬や耳が赤いのはなんでやろうな
トレーニングのせいやろか。はたまた・・・
「もぅ・・・、なに言ってるんだか!」
はプイッとそっぽを向いてワイに背を向けてしもうた
ワイもそれ以上つっこんで訊きはしなかったが、十分な手応えは感じ取ったわ
しかし、まさかのまさかやわ。ワイの大事な妹がな・・・
「なんで千堂やねん・・・」
「・・・?なにか言った?」
「・・・なんでもあらへん」
?を頭に浮かべるに、ワイはプラプラと手を振って応える
心なしか両肩が重いのは気のせいやないんやろうな・・・
*
びっくりした
まさか兄にあんなことを訊かれるとは思ってもみなかったから
(よかった・・・はっきりした答えを求められなくてっ)
私は兄に背を向け、ホッと胸を撫で下ろした
いきなり何を訊いてくるのだ!千堂くんに惚れているのかだって?彼のことが好きかだって?!
そんなこと訊かれたって困る!だって・・・だって・・・
(そんなの・・・わかんないよ)
今の私にははっきりとした答えなんてない
自分自身にもわからない
彼に対する自分の気持ちはひどく曖昧だ
ただ言えるのは、彼と――千堂くんと関われるのが今は楽しくて嬉しくてしかたないということだけ
それが一セコンド役としてなのか、それとも一人の女の子としてなのか
それはまだ私にもわからない
ジムの隅、サンドバッグを意気揚々と叩く彼をちらりと視界の隅に写し、私はゆっくりと目を伏せた
「好き」なのか、そうじゃないのか。恋心に気付くのって結構難しいですよね
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