ドリーム小説
『ならその喧嘩、私が買います・・・っ!』
千堂くんの喧嘩を止めるために思わず言ってしまった一言だったが
それがまさか、事態を望まぬ方へと導いてしまうことになろうとはそのときは思いもしなかった
05:ボクサーの御法度2
不良少年の喧嘩を買ってしまったはくるりと千堂くんに背を向け、相手3人組と向かい合った
彼らは158pの私よりもずっと背が高い
しかもお決まりの短ラン&リーゼントで、どぎつい眼差しでこちらを見据えてくる
そんな3人と対峙し、私はバクバク言う心臓を拳でトントンと軽く叩いて自分を落ち着けた
「おい、こら!ワレ、待てや!!」
「・・・」
後ろで止める千堂くんの声も聞かず、スッと音のない動作で構えをとった
兄柳岡に教わった、教科書通りのファイティングポーズ
会長さんも「隙のない美しい構えやわ」と褒めてくれた構え
不良少年たちの細く剃られた眉がぴくりとはね上がるのを見逃さない
「お?なんや、えぇ構えしとるやないか」
「姉ちゃん、あんたが相手か」
「女やからって手加減せぇへんで?」
「・・・っ」
突然喧嘩相手が千堂くんから私に変わっでも、彼らは別段気にしていないようだった
むしろ見るからにひ弱そうな私を見て、彼らの表情はどこか下心ありげなものに変わった
それはどうやら千堂くんも感じ取ったらしい
「おぉ、何考えとんねんワレ!下がっとれや、ワイに任せぇ」
「だめです・・・、千堂さんは手出しちゃっ!」
「あぁ!?」
たぶん私が女だから少しは心配してくれての発言だろう
けれど私は退くつもりはなかった
「なんや、痴話喧嘩かいな・・・来ぃへんならこっちから行くで!?」
「・・・――っ!」
相手の靴が地を蹴った音が聞こえた
その音と相手の動きに即座に反応してみせる
男が打ってきた右ストレートを、私は足のステップだけで紙一重で避けてみせた
「あ・・・?」
男は細い眉を寄せて怪訝な顔をする
けれどまぐれだと思ったらしく、気を取り直して立て続けに2発3発4発と拳を突き出してきた
けれど、ただの喧嘩パンチなんて私は難なく避けることができる
「何やってんねん、お前!一発も当たっとらんやんけ!!」
「ちっ・・・、黙っとれや!!んなことわかっとるがな・・・っ」
何発繰り出そうとも、私は一発たりとも当たってあげるつもりはなかった
トントントンとリズムに乗り、得意のアウトボクシングで男の拳を紙一重で回避してみせる
回避、回避、また回避・・・その繰り返し
私は喧嘩は買ったけれど、反撃するつもりはもとよりなかった
プロではないけれど、私だって何年も練習を積んだボクサーだ
喧嘩に拳は使わない
けれど、そのことがかえって不良少年たちの燗に障るようで
「くそ・・・っ!!なんやねん、貴様喧嘩買うなんぞ言うて威勢ばっかりで・・・、・・・かかってこんかいっ!!」
「そ、そんなの私の勝手です・・・っ!」
「ぐ・・・っ、畜生!!」
攻撃しない私に不良少年たちは苛立ちまくりだ
けれどそのせいで動きが単純になり、私には敵のパンチが余計に見やすくなっていた
*
不良ども3人の攻撃と、見た目か弱そうなアイツの鉄壁のディフェンス
そんな普通じゃない光景をワイは少し離れたところからボケッと見つめていた
(な、なんやねんアイツ・・・めっちゃディフェンス巧いやんけ・・・)
ワイの視線はさっきからアイツ一人に釘付けになっとる
腕力ならワイの方が遥かに上や
けど、悔しいが足のステップだけなら入門2ヶ月のワイよりはアイツの方がずっと上やった
意外すぎる一面を見せつけられたわ
本音を言えばごっつ悔しい
けど・・・なんやろな。それとは別に好奇心くすぐられるような、ワクワクした気持ちにもなった
「こ・・のアマぁ・・・っ!!いい加減にしやがれ!!」
一際ドスの利いた声が聞こえるや、ザッと地面を蹴る音が耳に届いた
相手の右足が浮き上がってくるのが見える
どうやら当たらないパンチに見切りをつけ、足技に打って出たようや
「ボクシングなんぞに付き合ってられるかい、これは喧嘩や!!」
「・・・――っ!」
アイツの頭目掛けてのハイキックや
ゴツッ!!と鈍い音が聞こえて、流石にこれはやばいかと思った
けど、思い知らされた。アイツ、ホンマにガード完璧や。柳岡はんの妹なだけある
「こいつ・・・・・っ、ほんまにむかつく奴やわ」
「・・・」
パンチどころかキックですらアイツの腕を壊すことはできんかった
アイツには隙が無い。誰がどう見てもアイツが優勢や
不良どももそろそろ諦めへんやろうか、そう思ってた矢先のことやった
「や・・・――っ!!?」
「ボクシングは得意みたいやけどな。けど、これならどうや?」
「あ?・・・んな・・・っ!?」
ここまでずっと静かな戦いを貫き通していたアイツの口から小さな悲鳴があがった
何があったのかは一目瞭然やった
いつの間にか不良どもの一人がアイツの背後に回っとって、そいつに羽交い締めにされとった
どんなに華麗なステップを踏めようと捕まってしまえば終わりや
さすがに傍観きめこんでたワイもこれにはカッとなった
「はっ。どや?プロレスやったらこっちの得意分野やで」
「う・・・っ、・・・――!!」
「はは、ナイスや。これでもう逃げられへんわな」
両腕もまとめて抱きかかえられてしまい、今のアイツが自由に動かせるのは両足と指先だけ
いきなりの形勢逆転
さっきまで苦々しげなだった不良どもの顔には今や薄い笑みが浮かんどる
「は、放して・・・――っ」
「あ?そうはいかへんやろ。まだ喧嘩の勝負はついてへんで」
「そうやで。・・・おぉ?なんやなんや、姉ちゃんワレ」
突然アイツを羽交い締めにしとる男がにやにや笑いを浮かべた
嫌な予感がすると思うとれば、案の定そいつは下品も下品な顔で笑いやがった
「ワレ、細っこい割りに意外とえぇ胸しとるやないか」
「・・・――っ」
「・・・・・・・・・」
上品さの欠片もない下品な物言いにアイツがカッと顔を赤くしたのがわかった
そして、それを耳にしたワイも・・・なんや勝手に額に青筋が立つのを感じたわ
それは不良どもがアイツに何か言うたびに、ひとつふたつと増えてった
(なんや・・・・・、腹立つなぁ・・・)
女1人に男3人がかりで喧嘩なんかしよって
そもそも女相手に手なんぞ出しよって
「のぉ、姉ちゃん。ワレが今ここで素っ裸になるっちゅーんなら、この喧嘩負けてやってもえぇで」
「ぇ・・・――っ!?」
「おぉ、そりゃえぇわ」
「悩む必要ないやろ。さっさと脱いで、終わりにしようや」
なに好き勝手に言うとるんや、あいつら
勝手に喧嘩吹っ掛けてきて、勝手にそいつとやって、勝手にそいつにさわって
「燗に障るわ・・・」
ブチッ・・・
何かが切れる音が確かに聞こえた
それは堪忍袋の緒の音か、はたまた虎と呼ばれたワイを繋いどった鎖の音か
そんなん知らん
「・・・・・・下衆どもが・・・・・・―――っ」
ごきりごきりと十指の関節が音を立てる
自ら檻を突き破った浪速の虎はもう誰の手にも止められなかった
千堂さんのかっこいい場面がない・・・
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