ドリーム小説
彼はいつだって強かった
彼はいつだって弱い者を守ってくれていた
彼はいつだってみんなのヒーローだった
04:ボクサーの御法度1
千堂くんがなにわ拳闘会にやってきて2ヶ月が過ぎた頃のことだ
会長さんをはじめ、兄も私もジムの誰もが僅かながら心配していたことが現実となってしまった
その日、千堂くんはいつもの練習開始時間を過ぎてもジムに来なかった
連絡もなく、いつまで経っても来ない彼を心配して私はひとり彼を捜して街を走り回った
ジムから彼の家までを逆走し、道頓堀川の通りに並ぶビル街まで来たときだった
薄暗い路地裏に目を向けた瞬間、千堂くんと・・・彼と対峙する不良少年たちの姿を見つけてしまったのだ
近づいて会話を聞いてみる。それは明らかに彼ひとりが囲まれている構図だった
「久しぶりやなぁ、千堂。しかしな、最近見かけんと思ったら」
「なんやワレ。ボクシングなんぞ始めおったそうやないか」
「あ?だからなんやねん。貴様らには関係あらへんやろ」
彼と真っ向切って仁王立ちする3人の不良少年たち
聞こえる会話から、どうやら喧嘩をふっかけてきたのは3人組のようだが
(まずい・・・、まずいですよ千堂くん・・・っ)
物陰から様子をうかがっていた私は、走ってきたのとは別種の動悸に胸元をおさえた
これはまずい展開だ・・・
何がまずいかといえば、彼はプロボクサーライセンス取得の試験を控えているのだ
それでなくともプロを目指す以上、喧嘩に拳を使うことは御法度とされている
―――えぇか、千堂。ボクシングで日本一になりたいんやったらな、絶対に喧嘩で拳使ったらあかん
兄が、彼が入門してすぐに言って聞かせていた言葉が脳裏に蘇る
それはジムの練習生も全員耳にタコができるほど釘刺されていることだった
「気にいらんのぉ。なにがボクシングや。かっこつけよって」
不良3人組は彼に向かって舌打ちやらメンチ切りやら唾吐きやら、ひたすら喧嘩を売り続けていた
しかし千堂くんは大して気にもしていないらしく、それを耳の穴をほじくりながら適当に聞き流している
「何言うてんねん。そんなんちゃうわ、ボケ。ワイは強い奴と戦ってみたいだけや」
そう言いながら千堂くんは耳をほじっていた指先をフッと吹いた
それから相手の方をじろりと睨みながら、不敵に笑った
「なんせこの街にはもうワイに敵う相手はおらんからなぁ」
「・・・あ?・・・なんやと、貴様」
不良たちのこめかみにぴきりと青筋が立つのが私にもわかった
「貴様らのような雑魚の相手するんはもう飽きたんや。自分より弱いもんと戦っても、全然おもしろうないわ」
「おぇ・・・、貴様もう一遍言ってみぃやっ!!」
何を考えているのか、彼は相手を挑発するようなことを言う
物陰から冷や冷やしながら見守っていると、不良少年たちはすごい形相で拳を作っていた
一方の千堂くんも目をギラギラと輝かせている
それは彼が初めてなにわ拳闘会に来たときに見せたのと同じ、飢えた獣のような眼だった
「調子んのんなやっ!喧嘩売っとんのかい、ワレぇっ!?」
「あ?喧嘩売ってきたんは貴様らやろうが」
ニィッと笑った彼の口元から犬歯がのぞく
右の拳を眼前に構え、千堂くんはごきごきと指の関節を鳴らしてみせる
そして次に彼がとったポーズに・・・私はギクリとした
それはこの2ヶ月間、兄が一生懸命彼に教え込んだ構え・・・ファイティングポーズだった
まずい・・・、このままでは彼が手を出してしまう!喧嘩にボクシングを使ってしまう!
彼のいかにもボクサーな構えに不良少年たちが少しだけ怯むのがわかった
そして彼がシャドーをするときのように両足で軽くステップを踏み出したのを見た瞬間
私の体は反射的に動き、気づけば彼の前に躍り出ていた
「千堂くん・・・っ!!」
「あ?・・・あぁ・・・!?ワレ・・・、こんなとこで何してんねん?」
突然すぎる私の登場に、さすがの千堂くんも驚きを隠せないようだった
それは向かい合った不良少年たちも同じで、いきなり現れ出た私に訝しげな顔をしている
「なんやワレ。千堂、貴様のコレかい」
不良少年たちは皮肉った笑みを浮かべながら千堂くんに小指を立ててみせる
それを見て彼はなぜか不機嫌そうに片眉をはね上げた
「アホか、そんなんちゃうわ。・・・おぉ、ワレ。邪魔すんなや。どっかどいとけ」
「だ、だめです・・・っ」
「あ?なんや。ワレ、ワイに指図すんのか」
「そ、そうじゃないです・・・、・・・あの・・・」
初めて聞く凄みのある彼の声に気圧されながらも、私はなんとか耐えてみせた
「喧嘩に拳使っちゃダメです・・・!」
「あぁ?」
「お、お兄ちゃんや会長さんにも言われてるはずですよ!ボクサーは喧嘩に拳使ったら絶対にだめだって・・・っ」
私の発言に千堂くんは苦虫を噛み潰したような顔をする
そして私の後ろでは不良少年たちが「へぇ・・・そうなんかいな」と興味深げに言っていた
まずい・・・かえって有益な情報を与えてしまったかもしれない
「千堂くんだってわかっているはず」
「んなことは百も承知やがな。けどな、この状況でこいつら相手にそんなんが通用するか?」
「こ、この状況でこの人たち相手でも同じものは同じです!ダメなものはダメです・・・、千堂くんはとりあえず早くっ」
「あ?」
「逃げてください・・・!」
「あ゛ぁ・・・!?アホ言えや!!喧嘩売られて逃げるなんつー情けない真似できるかいな!!」
「で、でも・・・っ」
犬歯を剥き出しにして敵前逃亡の意思を真っ向から否定する千堂くん
そんな彼に圧されながらも、だが私もまた引き下がるつもりはなかった
彼に拳を使わせるわけにはいかない・・・彼にはこれから大事な試験が、大事な舞台が待っているのだ
それに何より・・・私には千堂くんに知っておいて欲しい、ボクサーとしてもっと大切な想いがあった
「な、なら・・・!」
その想いが引っ込み思案な私を突き動かしたのかもしれない
気付いたときには私の口から自分でもびっくりするような一言が飛び出していた
「ならその喧嘩、私が買います・・・っ!」
「「「・・・はぁ・・・!?」」」
何がどうなってこんなことを言ってしまったのやら・・・
これにはさすがに千堂くんも不良少年たちも素っ頓狂な声を出していた
こんな殺伐とした話じゃなくてドリームらしくもっとラブラブな話にしたいのに・・・
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