ドリーム小説
楽しい時間ほど過ぎるのは早い
スナック『エイドリアン』での2次会はあっという間に夜の11時をまわり、祝勝会はお開きとなった
けれど兄や会長さん、他の男性陣はこれでもまだ飲み足りないらしく、これから3次会に行くらしい
「柳岡くん、次はどこ行こか〜」
「あ〜・・・、なんばはどうでっか?駅前にえぇ店ありますねん」
「よっしゃ、そこに決まりや!ほな行こか〜」
「おっさんら、よぉ飲むなぁ・・・」
傷に障るからと、千堂くんは2次会で終了
顔を真っ赤にさせて肩組み合って騒ぐおじさんたちに、私たちは呆れ混じりのため息をついた
27:約束のあの場所へ2
「〜。お前どないする〜・・・、一緒に行くかぁ?」
「お兄ちゃん、・・・飲み過ぎだって」
「あらあら、かずひろはん。しっかりしぃやぁ」
見送りに店の外まで出てきてくれたママさんにまで呆れられる始末だ
教え子の千堂くんがベルトを獲ったのだ、兄は相当嬉しいのだろう
1次会も2次会も終始上機嫌だった
機嫌が良いのはいいのだけれど・・・、でも会長さんと肩を組んでふらふら歩いているのを見ると心配で仕方がない
お目付役として一緒に行った方がいいだろうか
でも申し訳ないけれど、慣れない飲み会で私もだいぶ疲れていた
帰りたい・・・でもどうしよう・・・。迷っていたら、不意に千堂くんが救いの手を差し伸べてくれた
「柳岡はん、コイツ疲れとるみたいやで。あがらしてやった方がえぇんとちゃう?」
「・・・!」
「なに・・・、ホンマかぁ?」
「ぅ、・・・うん」
「そかぁ・・・ほなら、しゃぁないなぁ」
兄はちょっと残念そうに「・・・しゃぁないなぁ」を何度か繰り返していた
私はジムの練習生たちに2人のことを任せることにした
「すみません、兄のことよろしくお願いします」
「おー、任しときぃ。あんま遅ぅならんようにするさかい」
「ちゃんもお疲れさん。気ぃつけて帰るんやで」
気遣ってくれるみんなに頭を下げ、私は彼らの背を見送った
後に残されたのは私と千堂くん、それから『エイドリアン』のおネェさんたちのみ
従業員のおネェさんたちは「武士くん、ちゃん。またねぇ」と声をかけてくれて、みんな店の中に戻っていった
私も笑顔で手を振ってお別れする
「さぁてな。ほな、若いお二人さんも気ぃつけて帰りぃな」
「はい。ママさん、今日はお世話になりました」
「そんな、こちらこそおおきになぁ。そや、武士はん。帰り、ちゃんのこと送っていってやりぃな」
「言われんでもはなからそうするつもりやったで、ワイは」
「え・・・、そんなっ。大丈夫ですよ。第一、千堂くん遠回りに・・・」
「えぇんやって。女の子はそないなこと気にせんと、男にしっかり守ってもらいぃ」
「・・・ん、・・・でも」
ちらっと見ると千堂くんは大きな欠伸をしていた
それから眠そうに細めた横目を私の方に向けて言った
「新人王んときの借りがあるさかいな」
「・・・?・・・あっ」
借りと言われて思い出す
なんとも懐かしい、随分昔のことのように感じる
そういえばあのときは私が千堂くんを家まで送っていったんだった
そのお返しということか
深い意味は・・・特にないのかな
それはそれで残念だななんて、私はちょっとだけがっかりもするのだった
「じゃ、お言葉に甘えて。お願いします」
「おぅ。ほなママ、また」
「はいはい。帰りの道中気ぃつけてな。・・・あ、そうやちゃん、さっきの話やけど」
「はい?」
「あれ、ホンマに考えといてなぁ」
「え?・・・あ・・・、あー・・・、・・・はい」
「・・・」
最後に私はママさんと微妙なやり取りをして『エイドリアン』を後にした
夜の道頓堀川に沿って千堂くんと並んで歩き家に向かった
時刻は真夜中の12時に近づいていた
春の陽気のせいか、はたまたこの街の活気のせいか、こんな時間でもまだ幾分か賑やかだ
歩きながら、会話は自然と私の夜の道頓堀デビューの話になった
「どやった、おネェちゃんのいる店は。想像してたんと違うたやろ?」
「はい、全然違いました。正直もっと・・・」
「すけべぇな店やと思うとった?」
「ぅ・・・、はい。近寄りがたいお店だと思ってました。けど、今日はすごく楽しかったです」
「そやろ。えぇ社会勉強になったやろ」
「はい、とっても」
私が笑って答えると、千堂くんはますます得意げな顔をした
こうして話をしていると自然と思い出す、いつかの戎橋での約束
それから、新人王決定戦の帰りの夜のこと
あれから随分と月日が流れた
だいぶ待ったけれど、千堂くんはこうしてちゃんと約束を守ってくれた
「千堂くん」
「んぁ?」
「約束守ってくれて・・・ありがとうございました」
私は彼の数歩前を行き、くるりと振り向いて彼に笑顔を向けた
千堂くんは白い犬歯を見せながらニッと笑った
「男が約束守るんは当然やろ」
彼の自分に自信たっぷりなその笑い方がかっこいいと思った
強くて、自信に満ちていて、真っ直ぐで、目の前に立ちはだかるものから逃げずに立ち向かっていく
そんな彼に私は強く惹かれるのだろう
そんなことを考えながら歩いていたら、不意に千堂くんに声をかけられた
「ちょぉ寄り道してこか」
「え?あ、はい」
思わず二つ返事でOKしてしまった
急にどうしたのだろう
てっきり真っ直ぐ家に帰るものだと思っていたから意表をつかれた
ちらりと腕時計で時間を確認する
もうすぐ真夜中の0時を迎える
こんな時間に一体どこへ行くつもりなのかと思えば、千堂くんはニッと笑って親指で近くの場所を指さしていた
私は彼が指し示す方に視線を向ける
そこにあったのは、誰もいない静かな児童公園だった
酔っぱらいのおじさん方は退散。やっと2人きりになれそうです
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