ドリーム小説
波乱に満ちたタイトルマッチが幕を閉じた
千堂くんはその勝利に100%満足いっていないようだったが、周りのみんなは大はしゃぎだ
「こりゃ盛大に祝勝会せなあかんなぁ!」
会長さんはあの日から顔がにやけっぱなしでそればかり言っている
もちろん祝勝会はする方向でジムでも動いていた
あとは主役の千堂くんが精密検査の結果を持って帰ってくればいつでも準備OKという状態だった
「ちーす」
「おぉ、千堂!来よったか!」
千堂くんがジムを訪れたのは試合から3日後のことだった
片手をポケットにつっこみ、片手に精密検査の結果表をヒラヒラさせて現れた
顔中絆創膏だらけでまだ痛々しい
会長さんと兄はすぐに検査の結果を訊いた
「で。どやった、検査の結果は?」
「なんも問題なしや。あれだけ殴られてよぉ生きとるって医者の方が驚いとったで」
「はは、そやろなぁ。けど、どこも悪ぅせんと良かったわ」
「頑丈に生んでくれはった両親に感謝するんやな」
「・・・おぅ」
千堂くんは照れくさそうに眉をしかめて笑う
少し離れた場所でモップ掛けをしながら見ていた私も、元気そうな千堂くんの姿にホッとした
と、不意に千堂くんと目があってドキッとした
というよりも、千堂くんが目を合わせてきてくれた
それから、彼お得意の唇の片端をあげたやんちゃな笑い方でこう言っているのが聞こえた
(どや。獲ったで、ベルト!)
得意げで自慢げな笑い方が実に彼らしい
それよりも私にアイコンタクトをくれたことが嬉しくて、私も自然と笑顔になれた
モップを片手に、空いた方の手を小さく振って応える
「ほなら、千堂。場所はどこにしよか」
「うぇ!?な・・・なんやねんいきなしっ?」
「なに変な声出しとんねん」
私とのアイコンタクトに意識を集中させていたせいだろう
不意に兄に声をかけられ、千堂くんはびくっと肩を揺らして驚いていた
兄は「変なやっちゃな」と怪しみながら本題に入った
「で、どこにする?ワレの好きなとこで構へんで」
「・・・?何の話しとんねん、柳岡はん」
「何って、貴様の祝勝会に決まっとるやんけ」
「へ?」
「天下の千堂武士のベルト獲得記念や。今なら急の予約やろうとどこでも場所空けてくれるでぇ」
会長さんも嬉しい気持ちを隠せないようで始終にこにこ顔だ
突然の問いかけに、千堂くんははじめ迷っているようだった
けれどすぐにピンと来たらしく、目をぱっちり開けると再び私の方に視線を投げてきた
「・・・?」
「どこでもえぇんやな?ほらな、・・・一次会はどこでもえぇわ。全部任す」
離れた場所にいる私と目を合わせながら、千堂くんは兄にそう伝えた
私は首を傾げ、千堂くんのアイコンタクトを受け続けた
すると彼はニッと笑って、まるで私に向かって言うかのように答えた
「そん代わり、二次会は道頓堀にしてや。会長さんが贔屓にしとる、道頓堀のあの店がえぇわ!」
26:約束のあの場所へ1
というわけで、千堂くんの希望通り二次会は会長さんご贔屓のお店で行われることになった
お店が道頓堀にあると聞いて、私はすぐにピンときた
千堂くんは、以前私と交わした約束を忘れずにいてくれたのだ
それが何よりも嬉しかった
何はともあれ、私柳岡の夜の道頓堀デビューの日がついにやってきたのだった
カランと音を立てて私たちはスナック『エイドリアン』の扉を押し開けた
「いらっしゃーい」
「なにわ拳闘会ご一行様ご到着〜」
「お待ちしてましたよぉ」
出迎えてくれたのはとっても綺麗なおネェさんたちだった
みんなまだ20代と思われる若さで、中には私と年が変わらなさそうな子もいた
けれどみんな綺麗に着飾り、化粧もばっちり、香水もばっちり、色気は私の何倍もある
それから、キラキラ輝くおネェさんたちの後ろから一人明らかに別格の空気を纏った美人さんが現れた
「まぁまぁ。ご無沙汰しとります、会長さん。本日はうちを使うてくださっておおきに」
「やぁ、ママさん。すんまへんなぁ、急なお願いで貸し切りにしてもろうて」
「構いまへん。今日は一晩ゆっくり過ごしておくんなはれ。あら、かずひろはん。お久しぶりやねぇ」
「どーもー。ご無沙汰しとります、ママさん」
会長さんも兄も顔見知りらしく、慣れた様子で挨拶をする(あ、ちなみに「かずひろ」とは私の兄の名前である)
この人がこのお店のママさんかぁ・・・
兄が敬語を使っているから、ママさんは兄より年上だ
ということは30代後半!?全然見えない・・・
私はなかば呆然として兄の後ろからママさんを見上げた
「それで?噂のフェザー級チャンピオンはどこにおられますの?」
「・・・――ぅおい!どこに目ぇつけとんねんワレ。さっきから目の前にいるやんけっ!」
「あら、武士はん。いつの間にそないなところに?全然気ぃつきまへんかったわ」
「なんでやねん!普通店入ってきた時点で真っ先にチャンピオンのワイに声かけるやろ!?」
「あらぁ。前から生意気な小猿やったけど、ベルト獲ってますます猿山に登りはりましたなぁ」
「誰が猿や、誰がっ!」
いきなり目の前で始まった千堂くんとママさんの舌戦
私は呆気にとられてしまった
話を聞くと、どうやら以前に千堂くんもここを訪れたことがあるらしい
ママさんだけでなく、おネェさんたちも千堂くんと顔見知りのようだった
「あー、武士くんだ!久しぶり〜。観たわよ、この間の試合。すっごくかっこよかったわ」
「はん。当たり前やないか。ワイの試合はどれもかっこえぇっちゅー話や」
「ついにチャンピオンになったのねぇ。おめでとう、武士くん。あ、サインもらっちゃおっかな〜」
「おぅ、えぇで。なんぼでも書いたるわ」
綺麗なおネェさんたちにべたぼめされ、千堂くんが上機嫌になっていくのがよくわかった
あと今頃気付いたけれど、ママさん以外のおネェさんはみんな標準語だ。関東の人だろうか
なんてことを考えていたら、私は兄に背を押されてママさんの前に押し出された
「ママさん。これ、ワイの妹」
「え?まぁ、かずひろはんの妹さん?・・・にしては随分お若いお嬢さんやわぁ」
「19離れてますねん。いいます」
「あの・・・っ、はじめまして、柳岡です。今日はお世話になります」
私は少し緊張気味に挨拶をして会釈をした
ママさんは私を見下ろして、「まぁ」と口元に手を添えた
「可愛らしい子やないの。行儀もえぇし。うち気に入ったわぁ」
「え、・・・あ、ありがとうございますっ」
「なぁちゃん、うちで働かへん?」
「へ?」
「ちょぉ、ママさん。いきなり過ぎるやろ、それは・・・」
ただ挨拶しただけなのに、どういうわけか私はママさんにすこぶる気に入られてしまった
二次会は道頓堀のスナック『エイドリアン』にて
こうして私は初めての夜の道頓堀を満喫したのだった
お店の名前『エイドリアン』は映画ロッキーから拝借いたしました。ロッキーつながりということで
あと、柳岡さんの下の名前「かずひろ」はウィキで調べました〜
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