ドリーム小説
全長10メートル、時間にすればわずか5分弱
すぐそばで聞こえるお化けたちの呻き声が怖くてしかたなかったけれど
私の左手を握る彼の手があったかくて、私は安心してその手に身を委ねた
22:ドッキドキの初デート5
入ったときと同じ黒いカーテンをくぐって私たちはお化け屋敷を脱出した
私は5分ぶりの外の光の眩しさに眉をしかめて、パチパチと何度か瞬きをした
ゴールすると千堂くんは何も言わずに私の手を放した
あったかい彼の手が離れていって、なんだか隙間風が吹いたような肌寒さを感じた
放された手を緩く握って、もう一方の手で包み込む
「あの・・・ぁ、ありがとうございました」
「おー。・・・ん?なんや、一つ目小僧が待っとるで」
「え?」
千堂くんが顎で指す方を向くと、お化け屋敷の出口から少し進んだところに一つ目小僧が立っていた
坊主頭の一休さんみたいな格好の一つ目小僧は、あめ玉がたくさん入った籠を両手で持っていた
どうやら出てきたお客さんを待っているようだった
私たちが近づくと、一つ目小僧はあめ玉の入った籠をこちらに差し出してきた
「・・・?」
「飴ちゃんくれるみたいやで」
「え、・・・と」
ぼけっと突っ立ったままの私に、千堂くんは「もらっときぃ」と声をかける
私はおずおずと籠に手を伸ばした
昔懐かしのべっこう飴をひとつ籠からつまみあげる
「ありがとうございます・・・」
私は一つ目小僧に向かってぺこりとお辞儀をした
すると、一つ目小僧も私に向かってぺこりとお辞儀を返してきた
明るいところで見るお化けはあんまり怖くない
けれど、お化けと向き合ってお辞儀をし合うなんてなんか変な感じだなぁ
と思っていたら・・・
「ぶははははっ!!」
千堂くんに盛大に笑われた
私は彼の方を向いてじとっと眼を細める
「・・・なんで笑うんですか?」
「うはははは・・・っ、ワレ!なにお化けとお辞儀しあっとんねん。腹痛いわ〜」
「そ、そんなに笑わなくても・・・」
「はー・・・、めっちゃおもろいわ自分。お、そうや。ツーショット写真撮ったろか?」
「・・・―結構ですっ」
完全に馬鹿にされている
私はほっぺたを膨らませて彼に背を向けると、半ばやけ気味に口の中にべっこう飴を放り込んだ
それから私たちは残りのアトラクションを制覇するべく園内を走り回った
3時間ぐらいかけて粗方乗りつくすと、最後にゲームコーナーで100円玉をわんさか使った
「格闘ゲームは好きやない。景品獲れるやつやらんと元がとれへんやろ」
なんとも大阪人らしい発想で、千堂くんはひたすらUFOキャッチャーに興じた
私も何回か挑戦したが何もゲットできなかった
最後の一回が空振りに終わって苦笑いしていると、不意に目の前に猫のぬいぐるみが現れた
「え?」
「どや!」
獲ったで、と千堂くんがどや顔で猫を鷲掴みしていた
片手にすっぽり収まる小さいサイズの、なんとも可愛らしい虎猫のぬいぐるみだった
頭の天辺に紐がついていて、バッグなどにぶら下げられるようになっている
私は思わず拍手していた
「すごい!よく獲れましたね」
「おぅ。1,000円つこたさかい」
「粘りましたね」
「一度目ぇつけた獲物逃がすかい」
「さすが千堂くん」
「ちゅーわけで、やる」
「え?・・・わっ」
1,000円も使って獲った猫を、千堂くんはあっさりと私に投げて寄越した
私は両手でしっかりと受けとめて、ぬいぐるみの猫を見下ろす
ふわふわの毛は虎模様で、大きな目がちょっと釣り上がっていて、なんだか獲った本人に似ていた
「いいんですか?せっかく獲ったのに」
「おー、えぇで。そないな景品で逆にすまんけどな」
そう言って千堂くんは苦笑いした
なんのことだろうと首を傾げる私に、千堂くんはびっくりすることを言った
「誕生日のプレゼント」
「へ・・・?」
「自分、来週やろ」
「え・・・っ!千堂くん・・・よくご存じで」
「おぅ」
私は目を丸くして驚いた
まさか千堂くんが私の誕生日を覚えていてくれたなんて
確か彼の前で言ったのは、鴨川ジムさんに行ったとき鷹さんに教えた一回きりだ
その一回をちゃんと覚えていてくれたことが嬉しくてたまらなかった
「・・・嬉しい、です。ありがとうございます」
嬉しさに笑顔が自然と顔に浮かんだ
「千堂くんの誕生日にお返ししますね」と言ったら、「三倍返しで頼むで」と返されて2人で笑った
そうして2人の初デートはあっという間に終わりに近づいていった
陽が沈むのと同じく遊園地を後にして、私たちは電車に揺られて家路を急いだ
千堂くんのペースで走り回っていた私は楽しかったけれどもうくたくたで、席に座ると同時に船を漕ぎ出し、気付けば浅い眠りについていた
だから、最寄り駅に着いて千堂くんに起こされるまでの記憶がない
ただ覚えているのは、うつらうつらする私の手の中に彼からもらった虎猫くんが収まっていたことだけ
*
隣をチラッと見たら、のやつがうとうとし始めとった
一日走り回させたさかい、疲れたんやろな
起こさんとほっといたらと思うとったら、不意にワイの肩にコツンとぶつかる感触があった
なんやろと思ったら、それはの頭やった
「・・・」
「・・・」(ぐぅ)
ワイの肩に寄りかかって、すぅすぅ寝息立てて寝とった
小さな頭が自分の顔のすぐそばにある
ワイが少し顔を傾ければ、ほっぺたにの髪が触れてまうくらいの近さやった
こないに近く接するんは、あの夜以来やわ
けど今日はあんときとはちょっとばかし違うとった
ワイのごわごわの毛とは違うて、ふわふわの髪はなんや甘いえぇ匂いがする
それから間近で見ると今日のは薄く化粧しとる
あぁ、やっぱりかいな
実は朝会うたときになんやいつもと違うのに気付いとったんやけど、言う機会もなくてそのままにしとったんや
言うてやった方がよかったやろか
(なんて言うねん。・・・綺麗やで、とかかいな)
そんな台詞を言う自分を想像してみる
ワイは苦虫噛み潰したような顔で腕組みをした
(アホか!キザったらしゅうて寒気するわ)
女褒めるような軟派な台詞、ワイのキャラやない
そうしたら、不意に昼間のナンパ男どものことが蘇ってきよった
ワイが少ぉし席たっとる間にこいつのことナンパなんぞしくさりよって、アレ見たときは正直むかっ腹が立ったわ
けど同時に思うたわ。こいつ、ツレおらんって言うとったけど、ただこいつが作らんだけで、やっぱもてるんやなってこと
ずっと前、柳岡はんが「そこそこ可愛ぇ」とか言うてはったけど、なにがそこそこやねん
(ナンパされとる時点でそこそこやあらへんやろ)
柳岡はん、ホンマに女見る目ないんやろか
それとも妹やから謙遜しとっただけやろか
まぁどっちでもえぇわ
「・・・ん」
「・・・」
なんてことをぐだぐだ考えとったら、不意にが身じろぎした
起きたんやろかと思うたら、のやつワイの肩にすりっと頭をすり寄せてまた寝息を立て始めた
なんや、猫みたいなことしよるの
(頭ちっさい・・・。ホンマに女なんやなぁ)
男の自分とは何もかもが違う
頭はちっさくて、けど目はくりっと大きくて、睫が長くてほっぺたが白い
それから今日知ったこともある
握った手は思った以上に小さくて、けど指は長くて、柔らかい髪は甘い匂いがする
それから・・・
(・・・やわっこかったわ)
体が勝手に思い出す
お化け屋敷で抱きつかれたときのこいつの感触
柳岡はんが言っとったこいつの胸のサイズが勝手に頭ん中駆けめぐる
(あかん・・・・・・)
昼間の感触と、今すぐそばにある甘い匂いと、頭ん中埋め尽くす4番目のアルファベットが一気に襲いかかってきよる
一日走り回って疲れとるはずなんに、なんでこないに体がうずうずしとんねん
休養のためのデートのはずやろ、これ逆効果や
「・・・ぅ、ん・・・」
「・・・・・・」
ワイがそないなことで悶々としとるとも知らんで、のやつワイの肩に寄りかかってすぅすぅ安眠し続けとる
スカートの膝の上で組んだ両手ん中に、ワイがやった猫大事に包み込んで
ふと、悶々としとった頭ん中に、猫やったときのの笑顔が浮かんだ
嬉しそうに笑ったときのこいつはホンマに可愛かったわ
その笑顔で充分やさかい、余計な一言は言わんとこと思う
ホンマはあの猫、最初っからこいつにくれたるために獲ったっちゅーことはな
デート編予想以上に長くなってしまいました
少しずつ近づき始めた2人です
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