ドリーム小説
それから私たちはありとあらゆるアトラクションに乗りまくった
午前中のわずかな時間でよくこれだけ乗れるものだというくらいたくさんに
それもそのはず、千堂くんは移動に要するわずかな時間すら惜しいらしく、移動手段はすべてダッシュ
「よっしゃ!次はアレいこか!」
「ちょ・・・、待ってくださいよ千堂くん!」
遊園地を提案した自分以上に彼はウキウキワクワクしているようだった
おかげで12時を回る頃には2人のお腹はぺこぺこになっていた
20:ドッキドキの初デート3
「なんや、もう12時過ぎたんか。どうりで腹減っとるわけや」
「ずーっと乗りっぱなしでしたからね。ちょっと休憩しませんか?」
「せやなぁ。どっか座ろか」
園内の地図を片手にキョロキョロと辺りを見回す
近くにカフェレストランを見つけ、そこで昼食をとることにした
注文したものをトレイに載せて、テラス席に腰掛ける
私のトレイにはパスタが、千堂くんのトレイにはピラフが載っていた
「いただきます」
私は両手を合わせてぺこりとお辞儀をしてスプーンとフォークを取った
小さい頃からの習慣で、今でも自然とやってしまう
フォークに巻いたパスタを一口食べる
少し塩気が強い気がしたが、まぁまぁの味だった
ふと正面を見ると、千堂くんがしかめっ面でピラフを食べていた
おいしくないのだろうか
「どうかしました?」
「んぁ?」
「すごい顔で食べてますけど。おいしくないんですか?」
見た目、焦げもない綺麗なピラフだけれど
すると千堂くんは口の中のピラフをもぐもぐごっくんして水を一口飲んでから感想を述べた
「や・・・不味くはないねんけど。ただ」
「ただ?」
「めっちゃ油使っとるさかい、カロリー高そうやと思ってな」
「油・・・。あー、まぁ確かに。そうですねぇ」
千堂くんが食べているピラフのてかり具合を見て、確かに市販のものより油っこいかもと思った
料理のカロリーを気にするなんて、なんともプロボクサーらしい言動だ
私は驚きつつも、嬉しく思った
けれどそれよりも嬉しかったのは
「ワレの料理の方がずっと美味いわ」
がつがつピラフを食べながら何気なく彼が言ったその言葉だった
思いがけない賛辞に、パスタを巻いていた私の手が止まる
「え、・・・と」
「なんやねん」
「ぁ、・・・ありがとうございます。嬉しい、です」
「おぅ」
素っ気ない返事をして、千堂くんはがつがつとピラフをかきこみ続ける
私は巻き途中のパスタを見下ろしながら、胸の中は嬉しさでいっぱいになっていた
ほっぺたが緩んで笑ってしまいそうになるのを我慢して、なんとかパスタをたいらげた
しばらくして先に食べ終えた千堂くんが水のお代わりをしに席を立っていった
私のプレートにはまだパスタが4分の1ほど残っている
(千堂くん、食べるの早いなぁ・・・っ)
私は焦り気味にフォークにパスタを巻き付けた
別に早く食べろと言われたわけではないが、なんだか急いでしまう
水で流し込みながらせっせと残りを食べていた、そのときだった
「なぁなぁ、アンタ。もしかしてひとり?」
「え?」
「ここ空いとる?」
テーブルに2人組の見知らぬ男の人が近づいてきた
一人は茶髪で、一人は金髪。見るからに遊んでいる感じの風貌だ
二人は私が許可する間もなく空いている椅子をひいて私の両隣に腰掛けてきた
「アンタ年なんぼ?大学生?」
「え、と・・・」
「今日ひとりなん?かわえぇのに、彼氏とかおらんの?」
「あの・・・」
2人はテーブルに頬杖ついたり肘をのせたりして私の方に体を向け、矢継ぎ早に質問してきた
突然のことに私はどうしていいかわからずおどおどするばかり
男の人に声をかけられるのは初めてではないが、正直言ってこういうのが大の苦手だ
2人のにやにや笑いが余計にプレッシャーに感じられた
「ひとりでおってもおもろないやろ」
「なぁなぁ、俺らと遊ばへん?」
「あ、の・・・・・・け、結構ですっ」
「えー、そう言わんと」
「別に長い時間拘束せぇへんから」
「いぇ・・・、あの・・・本当に・・・―っ」
こういう人たちのナンパがしつこいことは知っている
もっときっぱりすっぱり断らないと立ち去ってくれないこともわかっている
友達と遊びに行って声をかけられると、いつも友達が臆病な自分に代わってナンパ男を追い払ってくれていた
「うるっさいわ!に近づくんやない!」と男の人に立ち向かえる友人の強さが、今は羨ましくて仕方ない
(どうしよう・・・、・・・っ)
両隣からプレッシャーをかけられてはバッグを持って逃げるに逃げられない
ジムで鍛えたジャブもストレートも、立ち向かえる勇気がなければ何の意味もない
自分はなんて弱いんだろう・・・
俯いて体を縮こませて、ただただじっと耐えていたときだった
「のぉ、お前ら。ワイのツレになんか用か」
よく知った声が・・・、けれど今はいつもよりだいぶ低く重い声が聞こえてきた
私は僅かに顔を上げて上目遣いに声の主を見上げた
そこには、三白眼を細めて男の人たちを睨み付ける千堂くんの姿があった
「」
「・・・――っ」
ドスの利いた野太い声で名を呼ばれ、私は思わずびくっとしてしてしまった
聞いたことのない千堂くんの声、口調
もしかして、と私は感じ取る
これがボクシングを始める前・・・、荒くれ者のゴンタクレだった頃の千堂くんに違いない
「ワレの知り合いか?こいつら」
「え、と・・・。・・・いぇ」
違う、と私は首を横に振った
その瞬間、2人を見下ろす千堂くんの眼光がより鋭くなるのがわかった
ぎらりと肉食獣のような眼差しで2人を順番に睨み付ける
「なら・・・、何の用や?」
「・・・――っ」
「・・・――っ」
血走った眼光に加えて、ついでとばかりに彼はごきりと拳の関節を鳴らしてみせた
これ以上ない有効な脅しだった
2人はさっきまで余裕だった顔を真っ青にして、がたんと慌てて席を立った
「いやぁ・・・な、なんでもあらへんわ〜・・・」
「ほなまたなぁ・・・っ」
男の人たちは青い顔に愛想笑いを浮かべて、すたこらさっさと逃げていった
私はこっちをちらちら見ながら走り去っていく2人をただ呆然と見送るのみ
千堂くんが「ふん!」と鼻息荒く、どっかりと椅子に座ったので私はようやく緊張の糸が解けた
「何が『ほなまたぁ』や。またなんぞあるかい」
「・・・」
「なんやねん、あいつら。男二人で遊園地来てナンパって、どんだけ暇やねん」
「あ、・・・あの。ありがとうございました・・・」
「んぁ?あー・・・別にえぇねんけど」
「・・・?」
私はナンパから助けてもらったお礼を伝えた
でもそうしたら千堂くんはちょっと言葉を濁して、それから私から顔をそらしてこう言った
「自分も、嫌なら嫌ってはっきり口で言わなあかんで」
「・・・」
彼の言葉に、私は黙り込む
傷付いたわけではない。彼の言うことはごもっともだと思った
どんなにしつこくナンパされようと、私がきちんと断れるようでなければ何にもならない
いつも千堂くんや友達がいてくれるわけではないのだから
「・・・ごめんなさい」
自分の不甲斐なさが情けなくて、私は俯いて小さな声で彼に謝った
千堂くんに謝ったからといってどうなるわけでもないのに
謝られた彼だって困るだろうに
案の定、千堂くんはがしがしと頭をかいて困り果ててしまっていた
あぁ申し訳ない・・・。さっきまで楽しかった空気が台無しになっている
と、頭をかいていた千堂くんが「だぁ!!」と声をあげた
「やめぇや!辛気くさいんは好きやない!」
「・・・」
「今日まだ半日も残っとるんや。とっとと行くで!!」
「・・・え?・・・――っ!」
そう言い終えるや、彼はむんずと私の腕を掴んで椅子から立ち上がらせた
彼の行動はいつもいきなりで私は「え?・・・え・・・?」と慌てふためく
そのまま引っ張って行かれるのを察し、私は慌ててハンドバッグを掴んだ
思った通り、千堂くんは私の腕を掴んだままずんずんと歩き始める
「あ、あの・・・っ!千堂くん・・・?」
「よっしゃ!気持ち切り替えて、次はアレ行くで、アレ!」
「アレ・・・って?・・・――!?」
千堂くんが指さす先を私は見つける
その瞬間、私の顔はさっきのナンパ男2人組以上に真っ青に変わった
彼が指さす先にあるのは、私が大の大の苦手とする・・・・・・お化け屋敷だった
ヒーローは遅れてやってくる、を再現してみたかったのです
次はお化け屋敷です。一歩くんと久美ちゃんが羨ましかったのでぜひ千堂さんでもと思いまして(笑)
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