ドリーム小説
そして翌日
私は駅の改札を出て、待ち合わせ場所の遊園地入り口目指して走った
手首を裏返して時計を見ると、待ち合わせ時間を数分過ぎている
(急がなきゃ・・・っ)
見えてきた遊園地入り口には、すでに千堂くんの姿があった
「千堂くん・・・!」
「んぉ?おー、やっと来おったわ」
「お、遅れてすみません・・・っ」
千堂くんは「待ちくたびれたで」と両腕を組んで仁王立ちして待っていた
私は胸に手を置いて弾む息を整える
待ち合わせに遅れてしまうなんて最悪だ
「すみません・・・」とぺこりと頭を下げ、私はしょんぼりした顔で落ちてきた髪を耳にかけた
「お?」
「・・・?」
顔を上げると、千堂くんが顎に手を置いてしげしげと私を観察していた
なんだろう・・・、どこかおかしいところがあるのだろうか
じろじろ見られて緊張して待っていると
「なんや自分。今日は珍しいカッコしとるな」
「え?・・・あ。これですか?」
私は千堂くんの視線を追って、自分のスカートの裾を摘んで軽く広げてみた
確かに、珍しいかもしれない
とはいえ、いつも彼とはジムでしか会っていないので、千堂くんは私の私服姿をあまり知らないだけで
普段は割りとスカートもよく履くのだけれど
「学校行くときはいつもこんな格好なんですけど」
「ふーん・・・。お、今日はしっぽもないんやな」
「しっぽ?あぁ、髪の毛ですか」
いつも高いところで結っているポニーテールも、今日はばさりと下ろしてみた
首の周りがあったかくてマフラー代わりに調度良い
「似合いませんかね」
デートだなんて言われたから戸惑ったけれど、できるだけ普段通りにしたつもりだが
気合い入れすぎの女の子のように見られてしまっただろうか・・・と思っていれば
「んなことないで。えぇんとちゃう」
「あ・・・、ぅ・・・ありがとう、ございます・・・っ」
まさかのまさかだ
千堂くんにそんなふうに言ってもらえるなんて思ってもみなかった
ちょっと嬉しい。というか、少し照れくさい
「よっしゃ。ほな行くで」
「はい!」
千堂くんの後について遊園地のゲートをくぐる
こうして私と彼の長いようで短い一日が始ったのだった
19:ドッキドキの初デート2
天気も2人に味方してくれたのか、今日は見事な冬晴れ
とは言っても2月の後半はまだまだ寒い
千堂くんは両手をスタジャンのポケットに、私は丈の短いコートの袖に両手をしまう
ジェットコースターの順番待ちの間も、私たちはおしゃべりしながら寒さを紛らわした
「ところでなんで遊園地なん?」
もっともな千堂くんの質問に、私は苦笑いで答えた
「初めて連れていってもらったのが小学生のときだったんですけど。そのときは身長が足りなくて乗れないものが多くて一日泣いて終わってしまったという悲しい思い出がありまして。今回はそのリベンジに」
「ぶはっ!よくある話やなぁ。かわえぇやんけ」
「そのときは早く身長伸びろーって必死でしたよ。けど、結局大きくなってから連れていってもらう機会がなくて」
今に至る、と
私はちょっとずつ進んでいく列を詰めながら話を続けた
「そのときは後楽園遊園地に連れて行ってもらったんです。ご存じですか?」
「おー、あそこやろ。東京もんのボクサーの試合会場になっとる」
「はい。さすがはボクサー。やっぱり気になりますか」
「せやなぁ。有名所やさかい、まぁ一回ぐらいはやっとかんとなぁ」
ずっと西をホームに試合をしてきた千堂くんにとっては東京は完全なアウェーだ
敵地でやることに、しかし浪速の虎は少しも臆した様子はなかった
「地元が一番えぇけど、毎回っちゅーわけにもいかんやろ」
「ま、ワイはどこでも構わんけどな」と千堂くんは飄々としている
そんな彼の態度に、そのときは私も完全に安心していた
この試合会場のことが、後々の彼のタイトルマッチに大きく響くことになるのだけれど、このときはそんなこと誰にもわからなかった
さて、ジェットコースターも間もなく自分たちの番だ
二人一組で乗るため、係員さんがお客さんに人数を確認している
私は改めて周りを見渡してみた
小さい子を連れた家族連れが多く、次にカップル、それから女の子のグループが目立つ
私の目は自然と男女のカップルに向いた
仲良く手を繋いでいたり、彼氏が彼女の肩を抱いていたり・・・、他人のラブラブっぷりを見ているとなんだか胸がむず痒くなった
(私たちも傍から見たらそういうふうに見られてるのかな・・・)
並んで立つ私たちは、他の人にどう見られているのだろう
男女の友達? 兄妹? それとも・・・彼氏と彼女?
「しかしワレも物好きやなぁ」
「は、はい・・・っ!え?」
そんなことを考えていたら、不意に彼に話しかけられた
驚いて変な声で返事をしてしまい、少々耳が赤くなる
今日は髪を下ろしていて正解だ
千堂くんの方を向くと彼は私の方を見ておらず、どこか違うところを見ていた
「たまの休みがワイの休養のお目付役で嫌やないんか」
「え?どうしてですか」
嫌だなんて、思ったことも感じたこともないのに
私は千堂くんの横顔を見つめた
「自分なら他に付き合うてくれる男仰山おるやろ?」
「・・・は、ぁ」
かりかりと鼻先をかきながら、彼はそんなことを言う
千堂くんが私をどう見ているのかはわからないけれど、なんだか誤解されているようなので釈明しておこう
「いませんよ、・・・そんな人」
苦笑しながらそう答えると、千堂くんはチラッとだけ私の方を見てまた前を向いてしまった
今日の千堂くんは珍しく大人しい
いつもならもっとずずいっと私の顔を見て話をしてくるのに
「なんや自分・・・、ツレおらんのか」
「はい。あ・・・、もしかしているように見えました?」
「あー・・・。まぁ、いてもおかしゅうないとは思うとったけど」
「あは。嬉しいですけど、残念ながら。それに彼氏がいたら週に6日もバイトなんてしてませんよ」
「・・・そりゃそうやな。けど意外やわ」
「そうですか?」
「おぅ。自分料理うまいし、面倒見もえぇし、もてそうやさかい、いると思うとったけど」
そこでようやく私たちがジェットコースターに乗る順番が回ってきた
係員さんに「お二人様ですね」とにこやかに声をかけられ、雑談は中断せざるをえなくなった
千堂くんの言葉が少し気になったけれど、係員さんに急かされて狭い座席に乗り込んだ
真上から安全バーをギギギギッと下ろされ、隣の千堂くんの姿は完全に見えなくなる
『それでは皆さん、いってらっしゃい!』という明るいアナウンスが流れて、ガタンとコースターが動き出した
「ホッとしたわ」
「え?」
コースターが上り坂に入る一瞬手前、ぼそりと小さな呟き声が隣から聞こえてきた
「なんですか?」と聞き返そうとしたけれど、タイミング悪くコースターは上昇を始めてしまい、私はそのチャンスを失ってしまった
聞き違いだろうか?
体を固定する安全バーのせいで彼の顔はまったく見えない
視界いっぱいに、冬晴れの青い空が広がっていた
コースターの上昇に比例して大きくなっていく胸のドキドキ
けれど私の頭の中は、ほんの数秒前かすかに聞こえた彼の呟きで埋め尽くされていた
どんどん大きくなっていく胸のドキドキ
このドキドキはもうすぐ始まる急降下のせい? それとも・・・
千堂さんが服とか髪型とかに気付いてくれたら嬉しい
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