ドリーム小説
戎橋(えびすばし)での約束から2週間後
ついにやってきた全日本新人王決定戦
まばゆいばかりに輝くリングの下で繰り広げられる、千堂くんと一歩くんの戦い
私はそれを観覧席から静かに見守っていた
15:私を道頓堀に連れてって1
カンカンカンカンカン
観客たちの声援を割ってゴングの音が5回鳴り響いた
それがその場の全員に知らせる・・・すべてが終わったことを
「うそ・・・」
リング上では関係者たちがせわしなく動き回り、一見して誰が勝者なのかわからない状態だった
会場内は水を打ったようにしんと静まりかえっている
すぐにタンカが運ばれてきて、青コーナーに向かう
青コーナーは・・・西軍の陣地だ
『あっ、と!千堂が運ばれていきます。まだ意識は戻っていません!』
実況のアナウンサーの声が聞こえた瞬間、私は思わず立ち上がっていた
「千堂くん・・・・・っ」
すべてが信じられなかった
まさか千堂くんが負けるなんて、あんな姿でリングを降りる日が来るなんて
会場を後にするなにわ拳闘会陣に、会場中から「ロッキー!」の悲痛なコールが降り注ぐ
私はその声を背に、恐怖と不安で早まる鼓動を抑えながら彼の控え室へと走っていった
*
なんや、目の前が真っ暗やった
耳の奥でいつまでもキンキンと鋭い金属音が鳴り響いとった
体が重い、腕が重い、頭が重い、瞼が重い
「・・・ぁ・・・、・・・?」
時間かけてようやっと瞼を押し上げた
目が覚めたとき、最初に視界に入ったんは柳岡はんとドクターの顔やった
「おぉ!気ぃつきよったか千堂!」
「しゃべれるかね、千堂くん」
「・・・・・・」
ワイを見下ろす柳岡はんの顔はごっつホッとしとった
途切れとった記憶が少しずつ少しずつ戻ってくる
まばゆいライト、汗が飛び散ったリング、ワイと殴り合っとった奴の顔、それから・・・それから・・・
「思い出せん・・・」
肝心な部分が真っ暗闇で覆われとって何もわからんかった
ボクシングの試合で、こないな気持ちに襲われたんは初めてやった
「ワイは負けたんやな・・・それはわかる。けど・・・」
「なんや・・・?言うてみぃ」
「柳岡はん・・・ワイは・・・ワイはどないな負け方したんや。どないなってしもたんや」
そんときのワイは無様にも震えとった
ワイの問いに、柳岡はんは「今日の勝敗にはこだわらんでえぇ」と言う
「立派なファイトやった」と
けど、そここだわらんでどうする!?己の知らんとこで試合が終わったんや!
このまま何も知らんままにしとったらワイは・・・もう前に進めん・・・!!
「教えろや!どないな負け方したか聞いとるんや!!」
「千堂!!」
カッとなって起きあがったワイを柳岡はんと会長はんが支えてくれようとする
そのやりとりの傍ら、ワイを看てくれたドクターが扉のノブに手をかけた
「じゃあ私はこれで。頭部に激しい衝撃を受けていますから精密検査を忘れずに」
「えらいお世話になりましたわ」
ドクターがドアを向こう側に押して開いた
ゆっくりと開いたドアの向こうには、神妙な面持ちのがおった
柳岡はんが自分の妹に声をかける
「おぅ、。なんや、入ってくればえぇのに」
「お兄ちゃん・・・、あのね。・・・千堂くんに」
「・・・」
ワイの名が出て、アイツの方に顔を向けた
そんで、目があった
とやない。アイツの後ろに並ぶ、よく知ったガキどもとや
「あのね・・・、この子たち待ってたんです。千堂くんの意識が戻るの、ドアの外でずっと」
はしゃがんで、いつも奴らの先頭に立つ野球帽のガキの肩に手を置いた
ガキどもが何か言いたそうな目でワイを見とる
あいつらの言いたいことは、・・・痛いほどわかったわ
「・・・」
「ち・・・」
ワイは軽く舌打ちすると鞄の中から財布を出して、あるだけの札をガキどもに差し出してやった
「手持ちコレしかあらへんのや。スーパーファミコン一台こっきりしか買えへんけど勘弁せぇ」
これで勘弁してくれるとは思うとらんかった
案の定野球帽のガキはワイの手から奪うように札を取っていった
「とりあえずもろとくわ。せやけど・・・約束は5台や。いつ買うてくれんのや?」
同情も慰めもない、ガキがなかなか痛烈なことを言うてくれるわ
ワイは情けなくも何も言い返せんかった
けど仕方あらへん・・・ワイは・・・負けたんや
奥歯を噛みしめて耐えるワイに、けどガキどもは言うてくれた
「チャンピオンになれば大丈夫やな」
「・・・・・」
「え・・・」
ワイは俯きがちやった顔を上げた
ガキどもの後ろで控えてくれたも意表をつかれた顔をしとる
呆然とするワイに、ガキどもは言うてくれた
「待ったるわ・・・約束は延期や。チャンピオンとるまでワイら待つさかい・・・」
「・・・ぅ・・っ、・・・・ぐす・・・っ」
「次は・・・次は勝ってやっ。・・・ロッキー!!」
「ぅ・・・、ロッキー・・・っ!!」
「・・・・・」
がつんとした一言をワイに浴びせると、ガキどもみんなして鼻水垂らしながら泣き始めおった
控え室がガキどもの嗚咽声と、柳岡はんらセコンド陣の安堵のため息に満たされる
は優しい顔で笑ってガキどもの頭を撫でてくれとった
ワイは壁に寄りかかって、ひとつ拳を合わせた
『ロッキー』
まだそう呼んでくれる・・・ワイはそういうファイトをしたんやな・・・
それだけで、前に進める気がしたわ
千堂くん初黒星(・・・ですよね?)
このとき、ガキんちょ君たちが「ロッキー、よぉ頑張ったわ!」と言わないところがいいなぁと思いました
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