ドリーム小説
東京から大阪に戻ってきてしばらく経つ
一歩くんと試合できないことがよほど心残りらしく、千堂くんはいまいち練習に集中しきれていなかった
けれど、それが劇的に変わる日がやってきた
「千堂さん、宅配便が届きましたよ。東京からっす」
まるで天からの贈り物かのように、なにわ拳闘会に一つの荷物が届いたのだ
千堂くんは荷物を受けとると、伝票の送り主の名に声を弾ませた
「送り主は幕之内か。忘れもん届けてくれたんやな。律儀やのぅ」
それは千堂くんが東京駅のホームに置き忘れていった土産一式だった
何から何まで本当に鴨川さんたちにはお世話になりっぱなしだ
後で鴨川ジムに電話しておこうと思ったときだった
段ボールのふたを開けた千堂くんが、その姿勢のまま固まっていた
どうやら彼の視線は中の土産物よりも、箱の一番上にちょこんとのったメモに釘付けになっているようだ
『大阪に行けそうです 幕之内』
メッセージは一歩くんからのものだった
たった一行の短いメモに、だが千堂くんの周りの空気は徐々に熱くなっていく
「千堂?どないした」
「どうもこうもあるかい・・・、こうしちゃおれんわ・・・――っ!!」
千堂くんは勢いよく立ち上がると、今さっき降りてきたリングに戻った
ミットを外そうとしていた兄に向かって、気合いの入った一発を入れる
「な、なんや?今日は終いやないんか!?」
「冗談やない!一秒でも無駄にできんわ!!」
さっきまでの鬱々とした表情はどこへやら
一歩くんからのメモを見るや、彼は嬉々とした顔でミット打ちを再開した
「あー、はよぅ幕之内とやりたいわ!!」
得意のスマッシュをミット目掛けてぶつけにいく
ワクワクがおさまらない子供のような顔をしている
私は送ってもらったお土産一式を片付けながら、やれやれと苦笑した
13:道頓堀ヤキモキセレナーデ2
さてな、それからまたしばらく経ったある日のことや
トレーナーの柳岡はんが仕事で出かけることになり、代わって妹のがワイのロードワークに付き合うことになった
東京から帰ってきてしばらくはあからさまにワイのことシカトしとったが、それも今はおさまっとる
「5q経過。いいペースですよ、千堂くん」
「はっはっ・・・、おぅ!」
は自転車でワイの後ろを走りながら、タイムやペースの調節をしてくる
ワイは振り向く代わりにヒョイッと片手を挙げて応えた
川沿いを走っとると、ときどきワイの応援団のおっちゃんが声をかけてきてくれる
「ロッキー、頑張っとるか!次も応援行くさかい、絶対勝ちぃや!」
「必ず新人王獲りぃ!!」
「おぅ!あったりまえやっ!」
街の人がかけてくれる声援ひとつひとつがワイの活力や
ほんの少し前まで荒くれ者だったワイが、今では大阪の期待の星やで
ホンマ世の中信じられんわ
「戎橋(えびすばし)で休憩です。頑張って!」
「ぅおっしゃ・・・っ!」
休憩という言葉に後押しされ、ワイは残り1qラストスパートにかかった
戎橋手前に着くとワイは足を止め、後ろでも自転車を降りて手押しに変えた
両手を腰に置いて空を仰いで荒い息を整える
するとが「あ!」と声をあげた
「千堂くん、いきなり止まらないで、ゆっくりゆっくりですよ」
「・・・。・・・ぶっ、・・・くくっ・・・わかっとるがな」
「・・・?」
何てことない普通のアドバイスをされただけなんやけど
ワイはおかしくって笑ってしもうた
は何かおかしいことを言っただろうかと首を傾げとる
「あの・・・?」
「くく・・・っ。アンタら、ホンマに兄妹やなぁ。ワレ、柳岡はんと同じこと言うとるわ」
「えっ!」
さっきの「ゆっくりゆっくり」はワイがロードワークを始めた頃、よく柳岡はんに言われたことやった
まさか妹にまで同じことを言われるとはなぁ
おかしくて肩が揺れてまう
「お節介の世話好きは兄貴譲りかいな」
「だ・・・だめですかね、お節介の世話好きは」
「あー・・・?別にえぇんとちゃう。えぇ嫁はんになるやろ」
何気なく言った一言やったんやけど、ふと見たらの耳がほんのり朱くなっとった
ワイ、何か変なこと言うたか?
それから橋の中腹の欄干に両腕乗せて、2人して川眺めて休憩した
川の両側にはずらーっと店が並んどって、その通りを地元民やら観光客やらがわんさか歩いとる
学生、サラリーマン、親子連れ、その他諸々
ワイにとっては見慣れた光景や
けど、にとってはそうでもないらしかった
「この街はいつも賑やかですね」
まるで最近越してきた奴みたいなことを言いよる
「昔からこんなに賑やかなんですか?」
「せやなぁ。一年365日、季節関係なくこんなもんや」
「へぇ」
「なんぼ珍しいもんでもあらへんやろ。ワレも大阪生まれなんやさかい」
「え?」
当然だと思っていたことを言うたら、はキョトンとした目でワイを見つめてきた
逆にキョトンとしたんはワイの方や
「え?って、なんやねん」
「あれ、言ってませんでしたっけ?私、生まれは大阪ですけど育ちは東京ですよ。こっちに来たのは4年前です」
「なに!?・・・そうやったんか」
「はい。だから私全然大阪弁喋らないでしょう?まぁ喋れないんですけど」
「そ・・・そういえばそうやな」
なんで今まで気付かんかったんやろ・・・。ワイ、ホンマもんのアホやな
欄干に乗せた両腕の上に顎を乗せて、ワイは道頓堀川に向かってため息をついた
道頓堀には一度も行ったことがありません(そもそも大阪にも・・・)
勝手な想像で書いております。地元の方すみません・・・
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