「もぅ・・・本当に申し訳ありません。突然おしかけたばかりか練習の邪魔までしてしまって・・・」
私は自由すぎる千堂くんの行動を、彼に代わって頭を下げて謝罪した
彼の面倒を見るようになって、なんだか母親のような行動が増えた気がする
「失礼な言動の数々、本当にすみませんでした・・・」
「や、気にすんなって。ちゃんが謝ることじゃないしな」
「そうそう。ボクサーがチンピラあがりが多いのなんてわかってっからよ」
「うぅ・・・。お心遣い痛み入ります」
千堂くんの大変さを目の当たりにした木村さんと青木さんが優しく同情してくれる
あぁ・・・恥ずかしい。俯く私の頭をポンポンと優しく叩いてくれたのは木村さんだった
「しかしな。ちゃんも大変だな」
「いえ、そんな」
「彼氏があれじゃ、気苦労も絶えないだろ?」
「いえいえ、そんな。・・・・・・はい?」
ん・・・?今何気なく返事をしてしまったが、ちょっと気になるワードだったような・・・
もう一度木村さんの言葉を反芻してみる
そして理解するや、私の顔はボフッと湯気を立てて赤くなった
「そ、そんな・・・っ!私、・・・か・・・彼女なんかじゃないですからっ」
「へ?あれ、そうなの?」
「そ、そうです!私はただのジムのバイトで・・・、お目付役で来させられただけでっ」
私は真っ赤な顔で目をぐるぐると回し、右手をパタパタと振って必死に否定した
*
おやおや、さっきまでの落ち着いた態度はどこへやら
なんともわかりやすい彼女の態度に、俺も青木も彼女が千堂のことをどう思っているのか容易に察することができた
けれど、その感情はちゃん自身がまだ気づけずにいるようだ
((あー・・・すげ青春って感じがするわ〜))
「あ、あの・・・木村さん?・・・青木さん?」
ちゃんって、ホント清楚で純情うぶな子なんだなぁ
彼女の可愛さに、思わず青木と2人で彼女の頭をポンポンと叩いて応援してやった
10:どっきりシャワー室の怪
そんなこんなで木村さんと青木さんの練習を見学している間に、千堂くんと幕之内選手がロードワークから帰ってきた
どうやら彼を説得しきれなかったようで、千堂くんは唇を尖らせながら「シャワー借りますわ」と言って奥へと歩いていってしまった
千堂くんがシャワーを浴びている間、私はリング傍のベンチで待たせてもらうことに
けれどその間も、頭の中ではさっきの木村さんの言葉がぐるぐるぐるぐると渦巻いて落ち着かなかった
『彼氏があれじゃ、気苦労も絶えないだろ?』
(か・・・彼氏って・・・、そんなんじゃ・・・っ)
自分が千堂くんの彼女で、千堂くんが自分の彼氏?
そんなことあるはずない
そう思ってはいても、ほっぺたや耳は自然と熱をもって赤くなっていく
(胸の奥が・・・ざわざわする。・・・なんだこれ・・・)
そんなんじゃない・・・そんなんじゃないのに・・・
そう頭の中で呟いてはみるものの、一瞬でも千堂武士の彼女と誤解されたことが嫌ではないと浮き足立つ自分がいた
心が落ち着かない。自分はどうしてしまったのだろう
熱い頬をぺちぺちと叩いて、私ははぁとため息をついた
*
(おーおー、悩ましげなため息ついちゃって)
彼女の様子を遠目に眺めていた俺は思わず苦笑しちまう
ありゃ完全に病にかかってるな
けれど本人が自覚するまでどれくらい時間がかかるやら
(ちゃんも大変な奴に惚れちまったねぇ)
そんなことを考えていたときだ
「オレのパンチはダイナマイト〜♪」という摩訶不思議な歌声がジムに近づいてくるのが聞こえた
思わずギクリとしちまう・・・
案の定、勢いよく扉を開けて「うぉっす!!」と入ってきたのはこのジムの看板ボクサー鷹村守その人だった
「こんちはー!」
「ちわっす!」
「おぅ!元気にやってるかね、小者くんたち。・・・ん?」
練習生といつも通りの挨拶を終えた鷹村さんは、ジム内に見慣れた後輩が一人いないことに気付いたようだ
「青木はどうした?」
鷹村さんの一番の悪戯道具、青木がいない
キョロキョロと辺りを窺う鷹村さんに一歩が「青木さんならトイレに」と声をかけるが
シャァァァァ
「むっ・・・・・、そこか!!」
何を勘違いしたのか、一歩をスルーしシャワーの音に反応していきなりマッパで自分も入っていってしまった
自由すぎるチャンピオンを止められるはずもなく、俺と一歩は鷹村さんの背中を見送るのみ
「・・・行っちゃいましたね」
「・・・行っちまったな」
「ど・・・どうしましょう」
「どうしましょうって・・・、どうにもなんねぇだろ」
不安ばかりがつのる中、どうか何も起こりませんようにと祈りながら待つこと数分
「のわぁぁぁっ!?」
「・・・!?」
「・・・!!」
案の定何かが起こってしまったらしい
シャワー室から聞こえてきたのは先に入って使っていた千堂の悲鳴だった
ジムで練習していた奴らも、ベンチに座ってボォッとしていたちゃんもみな振り返る
「あー・・・」
「やっぱりな・・・」
「お、おい。なんだぁ今の悲鳴は・・・っ?」
「あの・・・っ、今千堂くんの叫び声みたいなのが・・・っ」
トイレに行っていた青木も、座っていたちゃんも悲鳴を聞きつけてやってきた
何が起こったのだろうか。そうこうしているうちにまたシャワー室から大声が聞こえてきた
「何見比べてんだコラァ!!色ならオレ様の方が破壊力あるだろうが!!」
「な、なにすんねんっ!?」
今度は2人分の声。しかも喧嘩しているようだ
これはまずい。俺たちは慌てて、青木を筆頭にシャワー室の扉をガラリと開けて入っていった
「どうしたんすか鷹村さん!?何かありましたか!?」
まさかボクサー同士で喧嘩などしているのではあるまいか
青木は鷹村さんの心配を、ちゃんは千堂の心配を胸にシャワールームに足を踏み入れた
ん・・・?ちゃんもいるって、おかしくないか・・・?
あ・・・やべ。ちゃん、慌てすぎててここが男性用シャワールームだってこと忘れてるわ・・・
けど状況はそれどころじゃなかった
「鷹村さん・・・!?」
「千堂くん・・・っ!?」
そして立ちこめる湯気の中現れた光景に、俺たち男3人は絶句した
そこにはマッパで互いの急所を攻撃し合っている2人の姿があった
「・・・」(青)
「・・・」(一)
「あ、あんたらフリチンで一体何してんすか・・・?」
何が起こったのか、パッと見わからない状況だった
だが結局その後すぐに、鷹村さんの勘違いが原因だったと判明
2人とも怪我もなく済んだのでみなホッと胸を撫で下ろした
「ったく人騒がせな」
「まったくっすよ。かけつけた自分が情けねぇや」
「・・・――っ。うるせぇっ!てめぇのせいであんなエゲツねぇもん握っちまったんだぞ!責任とりやがれ!!」
と、結局は青木が一番被害を受けたわけだが
他ジム選手である千堂にも何もなかったので一安心だ
で、ホッとしたところで俺は思い出した・・・・・ちゃんほっときっぱなしだ
ぐるっと振り向くと、優しい一歩が彼女に声をかけるところだった
「はぁ・・・相変わらずだなぁ。まぁでも千堂さんも何もなくて良かったですね、さん」
声をかけながら一歩は後ろを振り返る
そして、「あ!!」と声をあげた
その理由は俺にもよくわかる・・・
「木村さん!あの・・・、さんがっ」
「あちゃぁ・・・、やっぱりなぁ」
「どした一歩?・・・って、・・・あー・・・あーらら」
一歩の声に気付いて振り返った青木も後ろで起こっていた状況を理解した
予想通り、ちゃんは顔を真っ赤にしてボフッと頭から湯気を出して目を回していた
ボクシングゴリラ2人の真っ裸+お宝は、うぶで純真な彼女には刺激が強かったのだろう
ご愁傷様だ
で、結局その日、大阪まで帰る電車賃がないのに加えて、ちゃんが目を回したまま意識が戻らないため
2人は仲良く鴨川ジムに泊まっていくことになったのだった
千堂さんと鷹村さんのシャワー室事件はずっと書きたい一作でした
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