ドリーム小説
PM7:30
長い週の終わり、金曜日。部活動もとうに終わっている時間帯。生徒がいない校舎内は暗くて静か
廊下の電気も消えた真っ暗な校舎内で明かりがついているのは社会科教員室ぐらい
スタンドライトだけが点いた薄暗い部屋に残っているのは一人の世界史教師と一人の女子生徒
マルコが動かすペンの音だけが響く静かな部屋に不意にこぼれ落ちたのは
「帰るの・・・めんどい」
彼女、の力の抜けた呟き。続いて「うー・・・」と唸り声まで発し始めた彼女にマルコはチラッと時計を見て時間を確認
作業の手を止めずに書類と向き合ったまま後ろの彼女に声をかける
「バスの時間は大丈夫かよい」
「それは・・・大丈夫。けど・・・私がだめ」
「何がだい」
「動くの・・・めんどくさい」
背後からバフッと音がした。たぶんソファーにうつ伏せで寝転がった彼女が顔をソファーにダイブさせた音だ
マルコは椅子の背もたれに腕を乗せてキィと椅子を回して後ろを振り返った
そして案の定予想通りの恰好の彼女に・・・いや、予想以上の彼女の痴態にマルコはため息をついた
「おい」
「んな?」
ソファーに顔を埋めたままおかしな猫のような鳴き声を発する彼女
ソファーにごろりと寝転がったはパタパタと両足をばたつかせていた
短いスカートでそんなことをするから裾がめくりあがって下着が見えるか見えないかの際どい姿になっている
「パンツ見えるよい」
「んー・・・大丈夫。今日はセール品のじゃなくてちょっとお高いパンツだから」
「何が大丈夫なのかよくわからねぇよい」
つっこむマルコには顔を沈めたまま片手をパタパタと振って「気にしない気にしない」とジェスチャーする
そこでようやく彼女はソファーから顔を上げた。まるでアザラシだ。眠そうな目でどこかをぼぉっと見つめている
「このソファーは危険だ・・・。横になったら最後、やる気スイッチをオフにする力が働きますね」
「お前のやる気スイッチは万年オフだろうがよい」
「失礼な。そんなことないですよ」
「いつスイッチ入ってんだい」
「んー・・・少なくとも世界史と家庭科の授業のときは入ってますって」
「そーかい・・・」
それはマルコの授業との担任のサッチの授業だ。確かにオール2に近い彼女の成績はその2つだけ5だ
それはともかく、今やる気スイッチを切られてこんなところでぐだぐだされても困る
「おら、ナマケモノ。動けよい。もう帰るぞ」
「あれ?先生、お仕事終わったんですか」
「いや。まだまだあるよい」
「え。いいの?帰っちゃって」
は両足の膝を90度に曲げて宙に浮かせてぷらぷら。両手で頬杖ついてマルコを見上げた
マルコは椅子を回してに背を向けると鞄にパソコンをしまって帰り支度を始めた
「明日から三連休だろい。試験前で部活もないしねぃ。家でやるよい」
「あー・・・。・・・そ、ですか」
マルコの言葉に返ってきた彼女の声のトーンはいつもより幾分か低かった。頬杖ついた顔もどこか元気がない
帰り支度を終えたマルコはスーツのジャケットを羽織りながら「もう起きろよい」とに声をかけた
いつもはそれでもそもそと動き出すだったが、今日はどういうわけか頬杖ついたまま動きもしない
「・・・」
「どうしたよい」
「・・・んー・・・」
「・・・何かあったのかい」
「・・・いやぁ、・・・別に何も」
「・・・」
「・・・ただ」
「ただ?」
「・・・」
「・・・?」
「・・・動くの・・・めんどくさくて」
「あぁ・・・?」
マルコの眉がぴくりと上がり、眉間に皺が寄る。なんだそりゃ。ただの物ぐさの我が儘だろい
彼女の自由奔放な性格はよくわかっているし嫌いじゃないけれど、こんな我が儘を言うような奴だったか
何を愚図っているのか知らないが、これではにっちもさっちもいかない
「若ぇもんが何言ってんだよい」
「いやぁ・・・最近膝と腰が痛くて。バンテ○ンの効きも悪いし」
「おい」
「これはそろそろコン○ロイチンのお世話になるべきか」
「起きろって」
「・・・じゃ、あと5分」
「いい加減にしろよい」
冗談を言っていた彼女の口が閉じる。マルコの声のトーンが変わった。これはちょっと本気の声だ
しーんと静まりかえる室内。それから、ハァとマルコの疲れたため息が聞こえた
「付き合いきれねぇよい」
「・・・」
声のトーンがどんどん低くなっていく。呆れられてしまった。自分でやった我が儘だけれど胸が痛い
それでも動こうとしないにもうマルコは構わず、鞄を持ち上げるとスタンドライトのスイッチをパチリと消した
一瞬で真っ暗になる部屋。窓のすぐ外に街灯があって、その光源だけでわずかに部屋の様子が浮き出る
「動くのがめんどくせぇなら、このままここに泊まってけよい」
「・・・」
じゃぁな、と言い残してマルコはが伏せるソファーの横を通り過ぎていく
は起きあがりもせず、そのまま彼が立てる物音だけを聞いていた
ガラガラとドアをスライドさせる音が聞こえて、またガラガラと閉まる音が聞こえて
ピシャリと閉じられた音に彼の怒りと呆れが少し混じっているような気がしてまた胸が痛んだ
「・・・・・・」
一人になってしまった真っ暗な部屋。まさか本当に置いていかれるとは。ちょっとびっくり
だが自分の我が儘が悪いのだ。つまらない意地を張った自分が悪いのだ。しょうがない
あれだけ言われても動かさなかった体をもそもそと起こすと、はソファーの上にぺたりと座り込んだ
「本当に帰っちゃったよ・・・」
ふぅとため息をついて自分の馬鹿さ加減に自分で呆れ、それから冷たい彼に眉を落とした
ばか。バカ。馬鹿。本当に置いていっちゃうなんて信じられない。冷たすぎる
愚かな自分を棚に上げ、彼を非難してしまうのは自分が子どもだから。そんなのよくわかっている
「先生のばか・・・」
蚊の鳴くような声で呟かれた小さなSOS。置いてけぼりにされて今頃になって寂しい気持ちが沸いてくるなんて
なんて自分はバカなんだろう。伝えたいことはちゃんとあったのに・・・
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