※オリジナルキャラ(白ひげ海賊団クルー。名前あり)が登場します。
ギラギラと照りつける太陽。
ぽたぽたととめどなく頬を流れ落ちる汗。
「ふぅ……」
手の甲で額の汗を拭って一息つくと、は再び甲板に這いつくばってガシガシとブラシがけを再開させた。
海軍本部では大佐の地位にいた彼女もこの船では現状一番下っ端の海賊見習いだ。
覚えなければいけない海賊の掟やルール、雑務はたくさんある。
今取り掛かっているこの甲板掃除もそのひとつだ。
「あつぅ……」
「どうだ、。モビーはでかいだろう。掃除するにも一苦労だ。そろそろ疲れてきたんじゃねぇか?」
「イゾウさん。いえいえ、まだいけますよ。あとちょっとなので一気に片付けちゃいますね」
「いいねぇ、そのやる気と若さ。羨ましいぜ。終わったら休憩してかまわねぇからな」
「はい」
「で、少し休んだら次は倉庫で大砲の掃除と点検だ」
「アイサー。了解です」
指示を出され、はピッと額の横に右手を当てて敬礼する。
だがすぐに「あっ」と気付き、慌ててその手を引っ込めた。
ここは海賊船だ、海軍の敬礼なんて不似合いかつ不吉なものでしかない。
幸いイゾウは既に背を向けてその場を離れていて彼女の失態には気付いていない。
(危ない危ない……気を付けないと)
ホッと胸を撫で下ろし、暑さからではなくかいてしまった冷や汗を拭い再びブラシがけを始める。
そうしてがせっせと掃除をしていると通りかかるクルーたちが皆彼女に声をかけていった。
「よー、ちゃん。甲板掃除か。精が出るねぇ」
「って、え!? ここ全部ひとりでやったのかよ!? マジか……、細っちぃ腕のくせになかなかやるじゃねぇか」
「、夏島が近いって航海士が言ってたぜ。これからまだ暑くなるから倒れねぇようにな」
「はい、気を付けます。ありがとうございます」
船に乗ってまだ何日にも満たない彼女のことを船員たちはすでに妹か娘のように扱い可愛がっていた。
呼び名もいろいろで呼び捨てだったり、ちゃん付けだったり、中には親しみを込めて「嬢ちゃん」「お嬢」と呼ぶクルーもいる。
「ー! 仕上げの水流すぞ!」
「はい! 私もすぐに行きます!」
と同じく最近入った海賊見習いの青年ベンノが彼女に声をかけ、桶に汲んだ水を甲板に撒き始めた。
彼女もそれを手伝いに行くべく床から膝をあげて立ち上がる。
ずっと這いつくばっていたのですっかり肩が凝ってしまった。
両腕をグンッと空に向けて伸ばし背伸びをする。
(雑用、大変だけど……なんかちょっと懐かしいな)
将校になる前、下積みの一兵卒だった頃は彼女も今と同じように雑務に従事していた。
海軍の軍艦の船体をブラシで磨いていた頃のことを思い出し懐かしさに浸るも、すぐに首を振ってそれを払う。
ついさっき軽率に敬礼などして反省したばかりだというのに、もうこれだ。
いつまでも海兵の気分でいたらダメだとは自分に言い聞かせる。
(私は、……今は白ひげ海賊団、海賊見習い、地位も称号もない、ただのだ)
大佐の地位も福招きの二つ名もすべて捨ててきた。
そこに未練はない、ないはずだ。
よく晴れた空を仰ぎ、目を閉じて眩しい太陽の光を瞼の裏に浴びせ気持ちをリセットさせる。
「よしっ」と気合いの声をあげ汗だくの頬を両手でパチンと叩くと今度こそ仲間の手伝いに行くためは甲板を蹴り駆け出した。
*
彼女のそんな姿を少し高いデッキの上から見守る存在が2つあった。
ひとりは手すりに片肘をのせて頬杖をつき、にこにこと楽しげに笑うサッチ。
それからもうひとりは彼の隣で腕組みをして立ち、やや硬い表情で彼女を見つめるマルコ。
渋い顔のマルコをサッチは横目で笑い「マールコ隊長、顔が怖いぜぇ?」とからかう。
返ってきたのは「ほっとけよい」という不機嫌そうな返事。
サッチはやれやれと肩を竦めて苦笑する。
マルコの険しい表情は今日突然に始まったことではない。
サッチの記憶が正しければ、数日前に立ち寄ったドーバック諸島、その翌日からだ。
何がそんなに彼の顔を渋らせるのか、その理由が容易に見当つくサッチはもうおかしくてにやにや笑いが堪えきれないのだった。
「いいじゃねぇかよ、別に。今日の服だって可愛いじゃねぇか。そう思わねぇ?」
「可愛い……、とは思ってるよい」
「だろ? ならさ、もういい加減その顔やめろって」
「したくてしてるんじゃねぇ。勝手に皺が寄るんだよい」
「ぷっ! ……くくっ、マルコお前……重症」
「……」
肩を揺らして笑う悪友をマルコはじろりと横目で睨みつける。
自慢のリーゼントをへし折ってやろうかと腕組みを解こうとしたところで目下の甲板から彼女の声が聞こえて彼の意識はそちらへとそれた。
「水撒きまーす! 皆さん、気をつけてくださいね」
桶に汲んだ水を甲板に勢いよく撒いて汚れを流す作業をするに男2人は視線を注ぐ。
マルコの顔を険しくさせるその要因は彼女の今の服装にあった。
数日前に島で調達した新衣装、一体どんなものを選んだのかとマルコは興味津々でいたのだが。
「ほとんど裸じゃねぇかよいっ」
「はい、その発言イエローカードな。あ〜あ、マルコ隊長ってばエッチ〜。セクハラで訴えられても知らねぇぜ」
どこかから取り出したイエローカードを提示しながらサッチは「ちゃんと服着てるだろーが」と至極真っ当なツッコみを入れる。
だがマルコがほとんど裸と表現するのも多少は頷ける。
今のの服装はビキニの水着にフードの付いた黒いパーカーを軽く羽織っただけの軽装で、下は丈の短いショートパンツという露出度の高いもの。
少し風が吹けば上着はめくれあがり白い腹が露わになり、風など吹かずとも白く長い両脚は常に剥き出しの状態。
シンプルなスタイルは髪を短くした彼女によく似合っているが、目のやり場に困るというのがマルコの主張だった。
「クルーの間じゃ評判いいんだぜ。若くて可愛いくって肌にも張りがあって眼福だってよ」
「それが問題なんだよい……」
海兵の頃はシャツとネクタイ、スラックスという防御力の高い格好をしていたため、突然曝け出された彼女の肌は眩しいほどに真っ白なのだ。
若さ溢れる体をほぼ半裸の状態にまで晒して、それを汗だくにして働く彼女の姿は男たちに潤いとともに要らない刺激を与えてしまう。
「可愛いのはいいけどねぃ。ちっとばかし肌出し過ぎじゃねぇかい、あれ」
「マルコ、お前ねぇ……ホント過保護すぎ」
「過干渉なのも程々にしとけって」とサッチが呆れ笑いしてマルコの肩を叩いたときだった。
バシャッ、と甲板に水が撒かれたときとは違う水飛沫の音が聞こえてきた。
次いで「わっ!」との驚きの声があがり、2人の目は彼女の姿を探して目下を彷徨う。
「あっ!! わ、悪ぃ! 、大丈夫かっ?」
と一緒に掃除をしていたベンノが慌てた様子で彼女に謝罪する。
桶を両手で抱えたは全身びしょ濡れになって立ち尽くしていた。
どうやら彼が誤って桶の水をに浴びせてしまったらしい。
「平気かっ、!?」
「うは……、びしょびしょです」
「あぁぁ……、ごめんな! 俺、全然周り見てなくてっ」
「あはは。大丈夫です、お気になさらず。どうせもう汗でびしょ濡れでしたから」
笑いながらは両手をぷるぷると振って雫を落とす。
彼女の体はまるで服を着たままシャワーを浴びたかのように全身びしょ濡れだった。
短い白髪の毛先からはぽたぽたと雫が落ち、水を吸った服は肌にぺたりと貼り付いてしまっている。
「ホントごめんなっ。気持ち悪ぃだろ、そのままじゃ。着替えてくるか?」
「んー……、そうですね。正直少し」
「行ってきていいぜ。残りは俺がやっとくから」
「いえいえ、それは申し訳ないです。うーん……あっ、じゃあこうします」
何をひらめいたのか、「ちょっと待ってくださいね」と告げるとは抱えていた桶を床に置いた。
水を吸って重たくなったパーカーの袖をぎゅうっと絞る彼女の様子を眺めながらマルコはため息をつき、その隣でサッチは笑う。
「あーあー、びしょびしょ。まったく、なんつーのかねぇ。見てて飽きねぇよな、お前のハニーは」
「何がハニーだ。間違っても手ぇ出すんじゃねぇよい」
「出さねぇって。ちゃんは俺らのアイドル。可愛い妹だからなぁ」
「聖域だよ、聖域」と鼻歌混じりに、サッチはのことを家族愛に満ちた優しい目で見つめる。
サッチが面倒見のいい男であることはマルコもよくわかっている。
エースがここに来たばかりの頃、やさぐれて誰も手出しできない彼に頻繁に声をかけて信頼関係を築きに行ったのもサッチだった。
悪友だと口では言いながらもマルコは腐れ縁の彼のことをとても信頼している。
「ちょっ……お、おい、っ!?」
(あ?)
マルコが彼女から意識をそらしていたのは本の一瞬のことだというのに、その間に今度は一体何があったというのか。
再びベンノの焦る声が聞こえてきてマルコとサッチは渦中の甲板に視線を戻す。
そして思いも寄らぬ彼女の姿を目にした2人は揃って目を丸くした。
「な、何やってんだよっ、!」
「……? 何って服脱いでるんですけど」
「それは見りゃわかるけど……っ、お前な……なんて格好してんだっ」
ベンノは頬を真っ赤にさせて慌てていた。
それもそのはず、びしょ濡れのが突然目の前で上着をバサリと脱ぎ捨てビキニのトップを露わにしたのだから彼の動揺も理解できる。
上は青と白のボーダー柄の水着一枚、下は濡れたままのショートパンツ。
そして足元の靴は中が濡れていて気持ちが悪いからとこれも脱ぎ捨ててしまい、今の彼女はまるで夏島の浜辺で海水浴を満喫するうら若い娘のような姿になっていた。
自ら防御力を更に下げ、周囲の男たちの目を集めておきながら、本人は「何かまずいですか?」ときょとんとしているのだからタチが悪い。
「そんな、別に裸になったわけじゃないですし。上着脱いだだけですよ。それにこれ下着じゃないです、水着です」
「訊いてねぇよ、んなこと! あのなぁ、……っ、お前はそれでいいかもしんねぇけど、こんなとこもし見つかったら俺がっ」
(マルコ隊長になんて言われるか……っ)
辺りをキョロキョロと見回す彼の顔は照れた赤色から焦りの青色へと変化していた。
よりも少し前にクルーとなった彼はマルコのことを心から尊敬しているのだ。
そしてそんなマルコがにぞっこんで「誰も手ぇ出すなよい」とオーラで牽制していることもよく理解している。
尊敬する1番隊隊長が大事にしている女だから、ベンノもまた年の近いのことを妹のように想い見守っていた。
そんな男たちの想いをわかっているのか、いやわかっていないからこういうことをするのだろう。
ときたら彼らの気持ちも知らずに大胆なまでに肌を曝け出し、その格好のまま雑用を再開し始める始末だ。
「なに平気な顔で仕事続けようとしてんだよっ、早く部屋行って上着取ってこいって!」
「いいですよ。着替えてもどうせまた濡れるんですから、水着でやった方が洗濯物が少なく済んで楽です」
「そういう問題じゃなくてだなっ」
「……? ベンノさんはさっきから何をそんなに慌てているんですか?」
「……お前なぁ……いい加減にしろよ、このド天然っ」
「はぁ?」
わけがわからないと首を傾げるにベンノはお手上げだというように頭を抱えてしまう。
守ってやりたいと思う妹があまりにも自身の魅力に鈍感で周りの男たちは振り回されっぱなしなのだった。
「さ、あとちょっとです。ちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」
ベンノの心配をよそにはにっこりと笑って水撒きを再開させる。
汗と水で濡れた白い肌を太陽の光に輝かせ、水を吸って胸に貼りついた水着から何とも言えぬ色気を醸し出しながらせっせと雑務に励む。
そんな彼女の姿を「若いっていいねぇ」と見守るのは年配のクルーたちばかり。
ベンノが辺りを見渡せば、言わんこっちゃない、年若い血気盛んな男どもは皆ニヤニヤと厭らしいハイエナのような目で彼女を見つめているではないか。
(あぁぁ、もう知らねぇ……! 頼むっ、どうかこの状況をマルコ隊長が見ていませんよ、う…………にぃ!?)
どうにかそれだけはと願ったそばから彼の切なる望みは打ち砕かれた。
キョロキョロと辺りを見渡していた彼は自分へと向けられる強い覇気を感じ取り、ふと視線をそちらへ向けてしまった。
ここより少し高いデッキの上、そこに並んで立つのは4番隊隊長のサッチと彼が尊敬する1番隊隊長の姿。
覇気を放っているのは明らかにマルコの方で、しかもその気にはあからさまなまでに嫉妬心が練りこめられている。
「お、俺のせいじゃないんですよぉ……っ」
届かない悲痛な声をマルコに向けて呟くと、ベンノは彼に向かって泣きそうな顔でこれでもかというほど何度も頭を下げた。
sequel 9 : 不死鳥隊長は心配症
「マルコさんよ」
「……なんだよい」
「そのさ、ベンノには何の非もねぇと思うわけよ、俺は」
「……わかってるよい」
「だったらさ、その怖すぎる顔……ぶっ! くくっ……可哀想だからあいつに向けてやるなよ」
目下の彼を見下ろすマルコの顔はこれ以上ないほど不機嫌で放つオーラは嫉妬心丸出し。
入りたての新人の彼があまりにも可哀想だと同情しながら、けれどわかりやすすぎるマルコの愛情表現にサッチはおかしくてたまらないと肩を揺らして笑いを噛み殺す。
そんな悪友にマルコは「いつまで笑ってんだよい!」と尻に蹴りを入れると、溜飲も下がらぬままぶすっとした顔でを見下ろした。
マルコの気持ちも知らずに呑気に肌を晒して働く彼女に盛大なため息が吐き出される。
つい先日ジークとの件でお仕置きしてやったばかりだというのに、見下ろす先の彼女にはまったく危機感が感じられない。
(これは今夜またじっくり説教してやらねぇとダメだな)
それが説教となるか、はたまた調教となるかは夜の帳だけが知るところ。
そしてマルコがそんなことを真剣に考えていることなど、鼻歌混じりに雑務に励む彼女は知る由もないのだった。
×
□
→
もちろん説教という名の調教はベッドの上でおこなわれます(言わんでよろしい)。
作中にも書きましたが、この回から夢主の服装が新衣装に替わります。
上はビキニとパーカー、下はショートパンツ。生足魅惑のマーメイドです。
オリジナルキャラ多くてすみません。
「ベンノ」はドイツ語で「右腕の息子」という意味があるそうです。
白ひげの右腕であるマルコの息子(というか弟分)になりたい、みたいな感じで名付けました。
次回、この続編のキーパーソンとなる赤髪のお頭登場です。
2018/07/19 加筆修正
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