※連載act42の続きです。の歓迎会準備中の小話
「ちゃん。ちょっとこっち来てみな」
宴会の準備でばたばたと騒がしい船の上。
不意に声をかけられ振り返れば、そこには金髪リーゼントが特徴の4番隊隊長サッチの姿があった。
彼は笑顔でおいでおいでと手招きをしてを呼ぶ。
なんだろうと思いながらもはとりあえず呼ばれるがまま彼のもとへと向かった。
「なんでしょう?」
「ほらよ」
「……?」
首を傾げるの前にサッチが笑顔でバサリと広げて見せたのは散髪用のハサミと大きな布だった。
sequel 1 : とりあえず髪を整えようか
シャキシャキシャキ。
小気味よい音が甲板の隅っこに鳴り響く。
は布を首回りに巻いたてるてる坊主姿でサッチに髪を切ってもらっていた。
彼のハサミ使いはとても巧みでまるで本職の美容師のようだ。
「これから歓迎会の主役になるってお姫様が散切り頭じゃ恰好がつかねぇだろう」
そう言われては苦笑する。
確かに短刀でばっさりといった白髪は左右の長さも不揃いで格好悪いことこの上ない。
正直サッチに声をかけてもらえてとても助かった。
「ちゃん、綺麗な髪してんな。サラッサラだ」
「本当ですか? 嬉しい。そんなこと言われたの初めてです」
「もったいねぇなぁ。ばっさり切っちまって、よかったのかよ」
「はい。この船に乗せていただくんですから、それぐらいの決意を見せないと」
「はは! おっとこらしいな。さすが、マルコが惚れるだけのことはあるわ」
器用に手を動かしながらサッチは笑う。
彼の明るい笑い声にはホッとしていた。
(不思議な人だなぁ、サッチさん)
まだ知り合って間もない相手なのに、人懐っこくて世話焼きの彼にの心は自然とほぐれていく。
「ところでお二人は仲良しさんなんですか?」
「ぶはっ。仲良しっつーのかね」
「親友?」
「はは。んな綺麗な関係じゃねぇって。どっちかっつーと悪友だな」
シャキンと快音を響かせて散髪は終了。
サッチはハサミを甲板に置くと手櫛での後ろ髪を簡単に整えてやった。
丸い手鏡をひょいっと彼女の顔の前に出してできあがった様を見せてやる。
左右の長さが不揃いだったの髪は肩につかない高さで綺麗に整えられていた。
「ほいよ。どうだ、可愛くできただろ?」
「わ……綺麗に揃ってる。すごい。上手です、サッチさん」
「ありがとうございます」とは後ろを向いてサッチに礼を言う。
ふと彼と目が合った。
彼は穏やかな笑顔でを見つめたまま、スッと手を伸ばすと頬についた髪を指で払ってくれた。
「ちゃん。マルコのこと、よろしく頼むな」
思いがけない言葉をかけられは両目をパチパチと大きく瞬かせる。
サッチは照れたみたいな困り顔で笑って言う。
「あいつさ、親父の右腕みてぇな存在なんだよ。親父のこと気にかけながら船全体のことも影で取り仕切ったりしててさ。そんなわけで当然あいつを頼りにする下っ端も多くてな、そいつらの面倒も見てやったりするからなんだかんだですげぇ働いてるわけ。ぶっ倒れるんじゃねぇかって見てるこっちが心配になるくらいに」
彼が言いたいことはつまりこういうことだ。
にはそういう時のマルコの癒しになってやってもらいたい、と。
「わりぃんだけどさ」と頬を掻きながら困り顔で笑って彼は言う。
そこには悪友だと言うマルコに対する彼の想いがたくさん詰まっていて、は心がほんのりあったかくなった。
「というわけで。堅物のあいつを癒せる役は君にしかできないんだな。よろしくな、ちゃん」
「サッチさん……」
「何がよろしくなんだよい」
「……!?」
「うぉっ、マルコ!」
その声は突然後ろから降ってきた。
2人が慌てて振り返れば、そこには仏頂面のマルコの姿が。
サッチにを独り占めされておもしろくないという心情がありありと顔に出ていた。
「こんな隅っこにこいつ連れ込んで。感心しねぇよい、サッチ」
「おいおい。待てって、マルコ。俺ぁちゃんの髪切りそろえてやってただけだって」
「髪?」
「おぅ。どうよ、これ! 可愛くねぇ?」
自分に向けられる敵意をそらそうとサッチは必死だ。
自分の後ろにいるの両肩を掴んでマルコの前にずずいと押しだす。
生贄のようにマルコの前に差し出されたは若干戸惑いながらも彼を見上げて「どうですか?」と自分からも感想を求めた。
「……」
「マルコさん?」
「」
「……? はい……って、えっ?」
髪型の感想を求めただけなのに、どういうわけか無表情のマルコに突然手首を掴まれ引っ張りあげられてしまった。
そして彼に半ば強引に手を引かれる形でその後を追いかけることに。
あぁ、どんどんサッチが遠ざかっていく。
「サ、サッチさんっ」と背後の彼に声をかけるもすべてを察した彼に笑顔で手を振られ見送られてしまう。
わけが分からないまま引っ張られていき、やっと足が止まったと思えばそこは広い船の裏手の閑寂な場所。
船の表側では宴会の準備が進んでいるらしくがやがやと賑わう声が聞こえてくる。
「マルコさん……?」
再び声をかけると今度は壁に背を押しつけられ顔の両脇に両手をついて拘束されてしまった。
マルコの顔がじりじりと近づいてくる。
その目は特別な色を含んでいて、彼が何を望んでいるのか、は雰囲気だけでそれを感じ取った。
「」
「……っ」
息のかかる距離で名前を呼ばれて胸がとくんと脈打つ。
待っていればゆっくりと重ねられる彼の唇。
両足の間に彼の右膝が割り込んできては完全に逃げ場を失ってしまう。
彼がくれる口付けは優しく柔らかく暖かい。
の顔を、体を、じんわりとあたためていく。
しばらくして小さな音を立てて唇は離れていった。
互いに熱い息を吐き、至近距離で視線を絡め合わせる。
すると彼はふっと笑ってさっきの答えをくれた。
「髪、似合ってるよい」
無骨と繊細の両方を兼ね備えた彼の指がさらりと彼女の髪を揺らす。
「可愛くしてもらったねぃ」と笑顔の彼に褒められ、嬉しさと気恥ずかしさにの耳はじわじわと赤くなっていく。
「あ、りがとうございます……」
「可愛い、のはいいんだがな」
「はい?」
「あんまり他の男と2人きりでいるなよい」
彼は隠すことなく正直に告げる。
自分でも情けないとは思うがが他の男といるのを見るだけで嫉妬してしまうのだ、と。
彼女の耳元で囁くその声は熱く、傲慢に、強欲に、「お前を所有したい」と欲望のままに訴えてくる。
そして彼のその言葉にの体の芯は容易にじわじわと熱くさせられる。
あぁもう、この人は。
(なんて傲慢で我が儘で、そして可愛らしいことを言うのだろう)
そんなこと言葉にして伝えたらきっとこの人は不機嫌になってしまうから絶対に声に出しては言わないけれど。
彼に見つめられ触れられ熱を上げられながら、はさっきサッチに言われたことを思い出していた。
悪友を気遣う彼の言葉が脳裏で再生される。
果たして自分はマルコを癒せるような存在になれるのだろうか。
今はまだわからない。
(けど、もしそうなれたなら……私は)
名前のわからない、けれどじんわりとあたたかい想いがの胸の内に確かに灯っていた。
□
→
サッチは器用人だと勝手に思っています。他にも料理とか裁縫とか得意そう。
マルコは嫉妬深くあってほしいです。夢主が他の男としゃべっていたら機嫌悪くなってほしい(すんごい願望)。
2018/07/04 加筆修正
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