ドリーム小説
この空も海も、どこまでも青く、広く、美しい
ここは世界の海の平和を守る中心、海軍本部を置く島マリンフォード。今日も海を荒らす海賊どもを取り締まるため、管理室の電伝虫たちは必死な形相で報告を続けていた
『本部、応答願います、本部!こちらグランドライン第13支部。現在遊騎士ドーマの一団と交戦中。本部に援軍を要請します!!』
ずらりと並んだ電伝虫の一匹が唾を飛ばしながら報告する。通信兵はヘッドホンを外し、くるりと後ろを向いて上官の指示を仰ぐ
「クザン大将。13支部より援軍要請が来ていますがいかが致しましょう」
「あー・・・援軍要請ね。書類書くのが面倒なんだよねぇ。んで、場所はどこよ」
「レスタ島です。ここから1時間ほどかかります」
「レスタか・・・、なんか前も援軍送った覚えがあるようなないような」
いつだったかねぇ・・・、と呟きながらもクザンにはしっかり思い出そうとするつもりはなさそうだった。相変わらずのだらけきったオーラ全開で椅子にぐでぇっと寄りかかり後頭部で両手を組んで寛いでいる
「遊騎士ドーマね。あららら・・・めんどくせぇことに白ひげの傘下の奴らじゃないのよ」
「はい。それとこれは新たな報告ですが、黒電伝虫がキャッチした情報によると白ひげの方からも援軍が向かっているそうです」
「あーららら。そりゃまずい。んじゃ、さっさとこっちからも援軍送ってやらないとね」
「どの部隊を行かせましょうか」
指示を待つ通信兵にクザンは「そうねぇ」と呟いてしばらく唸りながら考えていた。ふと「あぁ」と何かを思い立ったらしく、椅子に寄りかからせていた背を起こすと通信兵をビシッと指さしてクザンは指示を出した
「おつるさんとこの新人の大佐君に連絡」
そして「後はよろしく!」と告げるとクザンは再び椅子に寄りかかりアイマスクを装着してしまった。毎度のことなのでもはや慣れっこの通信兵は気にした様子もなく「了解」とヘッドホンを再び装着するのだった
*
マリンフォードの港に停泊する海軍所有の無数の軍艦。その中の一隻だけ何人もの海兵が乗り降りして出航準備を進めていた。観光客たちが軍艦や緊迫した海兵たちの姿を物珍しげにカメラにおさめている。それもまたマリンフォードの名物。そんなせわしなく走り回る海兵たちの姿を眺めながら、一人の少女はたどたどしい口調で歌を口ずさんでいた
「ヨホホホ〜、ヨーホホーホ〜」
少女の歌を気に留める者は誰もいない。海兵たちは忙しく動き回っている。ただ一人、白いコートを羽織った軍人を除いては。少女が歌う海賊の歌に足を止め、男は何とはなしに帽子の下の視線を幼い少女に向けた
「・・・」
「ビンクスの酒を届けに行くよ〜、うみかぜ、」
「こら、やめなさい!なんて歌を歌うの」
「えー、どぉして?楽しいのに」
「もう、場所を考えなさい!」
少女の母親らしい女性が叱り口調で少女に歌をやめさせる。海軍本部のある島で海賊が好む歌を歌うなんて。母親は近くで眺めていた男の軍人に気付いたらしく、娘の頭に手を置いて親子でぺこりと頭を下げて去っていった
(気にしなくてもいいのに)
足早に去っていく親子の背中を男は見つめる。すると娘の方がちらりとこちらを振り向いたので男は軽く手を振ってやった。遠ざかる少女はにっこりと笑って手を振り返してくる。男は帽子で影ができた表情をふっと緩めた
「大佐、出航準備整いました」
「あぁ。すぐ行く」
部下に呼ばれ、大佐と呼ばれた男は白い正義のコートをばさりとひるがえし桟橋を渡った
この空も海も、どこまでも青く、広く、美しい
大海原をいく一隻の海賊船。黒い鯨を模した船首をもつ船は白ひげの海賊旗を掲げて波を割って進んでいた。向かう先はレスタ島。船に乗るのはマルコを筆頭とした白ひげ海賊団一番隊のメンツだ。白ひげからマルコたちに託された指令は、レスタ島で海軍相手に苦戦しているドーマの一団の援護だった
空は快晴。気持ちのよい風が海賊旗をバサバサと煽る。はためく黒い旗の近くの見張り台に両腕を乗せて前屈みによりかかり、は果てしなく続く海を眺めながら小さな声で歌を口ずさんでいた
「ビンクスの酒を届けにゆくよ、海風気まかせ波まかせ」
その歌声は小さく、吹き荒れる風がすぐにかき消してしまっていた。けれど彼女の声は彼にだけは届いていた
「ご機嫌だねぃ」
「・・・!マルコさん」
突然後ろから声をかけられて振り向けば、両腕を蒼い翼に変えたマルコがバサリと羽根を一扇ぎして見張り台の中に降りてきた。変身を解き人間の姿に戻るとマルコはの横を陣取り、彼女とは反対に手すりに背をつけてもたれかかった
「海賊の歌を口ずさむようになるなんて、随分とらしくなったもんだよい」
「へへ」
そうですかねぇ、とは照れ笑いを浮かべる。が白ひげ海賊団の一員になってからもう随分と経つ。もはや黒いスーツを着て敬礼をしていたあの頃の彼女はここにはいなかった。軍服を脱いで海賊らしい身軽な服装に変わった彼女の姿ももうすっかり見慣れてしまった。マルコは手すりを背に寄りかかり、煙草をくわえて火をつけた
「そういやぁ、ちょうど今日がそうだな。お前がうちに来た日だったか」
「はい。朝サッチさんにも言われました」
「なに・・・?サッチがんな細けぇこと覚えてるなんて意外だねぃ」
「ケーキ焼いて待ってるから早く帰ってこいって」
「はは。その辺はあいつらしいよい」
マルコは肩を揺らして空に向かって紫煙を吐き出した。それから隣で海を眺める彼女の横顔と短い白髪をふっと眼を細めて見つめ、マルコは静かに問いかけた
「後悔はしてねぇかい」
海軍を抜けて海賊になったことを。半生を過ごした海軍に本当に未練はないのか。マルコの問いかけにはゆっくりと彼に顔を向けて、そしてにっこりと笑って答えた。「何を今更」と
「感謝しています、マルコさんあなたに」
私を連れ出してくれたことを。自由に羽ばたける場所に連れてきてくれたことを。そしてもう一つ、モビーで彼と過ごしの中で育っていった彼への想いは、感謝以上のものになっていったことも伝えておきたい
「あなたに出逢えてよかったです」
風に白い髪をなびかせて、はマルコを見上げて笑う。出逢った頃とは少し違う、窮屈な籠から解放された彼女は驚くほど柔らかに笑えるようになっていた。愛しい彼女の笑顔にマルコの顔も自然とほぐれる
「俺もだよい」
マルコは咥えていた煙草を外し、自分を見上げてくるの唇に重ねるだけのキスを落とした。小さな音を立てて顔を放し、近い距離で二人ふっと笑いあう。生と死を賭けた戦いの中に生きる人生のそれは僅かな安らぎと幸せの一時。海賊に生きる二人には平和な未来は保証されない。だからマルコはせめてもと思い、に渡しておきたいものがあった。ズボンのポケットに忍ばせた小さな箱。それを取り出そうとしたときだった
「マルコ隊長!見えました、ドーマの一団と海軍の奴らです!!」
何ともタイミング悪く目標発見の声があがってしまった。クルーたちが戦闘準備にバタバタと走り始める。騒がしいこんな中ではとても渡せねぇな、とマルコは取り出そうとした箱をポケットの奥にしまい込んだ。煙草を落として靴の裏でもみ消し、「」と隣の彼女に一声をかければそれですべて済んだ
「行くかい」
「はい!」
ボボォと蒼い炎に包まれ一瞬で不死鳥に姿を変えたマルコは見張り台を飛び出して海賊旗の周りを一周旋回した。再び見張り台の横を通り過ぎる瞬間、はタイミングを見計らって跳び彼の背中に着地した。いつからだろう、こうして二人で組んで戦うようになったのは。わからない、知らぬ間に息は合っていた。きっとその始まりは、彼が彼女を攫いにマリンフォードに行ったあの時なのだろう
「ドーマ、助けに来たよい!」
「マルコ、!面目ねぇ、助かるぜっ」
肩に小さな猿を乗せた遊騎士は額から血を流しながら空を飛ぶ不死鳥と彼女の姿に少しだけ表情を緩めた。どうやらだいぶ圧されていたようだ
「タイミングばっちりだぜ、今来てくれてよかった!海軍側もたった今援軍が来たとこだったんだっ」
「そうかい。んじゃ、俺らはそっちを相手するとすっかねぃ。!」
「OKです」
掛け声ひとつでは思いきりジャンプ。マルコの背を離れ、目の前の海軍の船に向かって嵐脚を放った。真空の鎌鼬が敵船のマストを真っ二つにしたのとマルコがを空中でキャッチしたのは同時で。ドーマは口笛を吹いて「相変わらず息ぴったりだな」と二人の戦いを称した
この空も海も、どこまでも青く、広く、美しい
懐かしい声が聞こえた気がした。戦いの最中、マルコの背の上では「え?」と小さな声で呟いた
「?どうかしたかい」
「え・・・あ、いや。マルコさん、私のこと呼びました?」
問うとマルコは「いぃや。呼んでねぇよい」と答えた。は空耳だろうかと首をひねる。けれど確かに呼ばれた気がしたのだ。ドーマだろうか。いやしかしドーマの船から離れすぎている
「まぁいいか」
はっきりしないことに気をとられて怪我などしていられない。は太腿のホルスターから短刀を抜き右手いっぱいにそれをセットした。マルコが敵海軍の船をぐるりと旋回する。は投げるタイミングと場所を見定めていた。そのときだった
「大佐!」
「・・・!?」
それは空耳などではなく、はっきりと聞き取れる声で名前を呼ばれた。は目を何度も瞬きさせる。なんて・・・なんて懐かしい名で自分を呼ぶのだろう。あぁ、かつてそんなふうに呼ばれていた頃があった。あの頃の私を知っている人がいる。一体だれ・・・
「、船首を見ろよい」
「え?・・・・・・・・・あ・・・・・・―――!!」
マルコに言われるがままは軍艦の船首に視線をやった。そこには一人の男が立っていた。帽子を目深に被って、黒いスーツに白い正義のコートを羽織る男。その白いコートはところどころに焼け焦げた痕が見られたが、男は気にすることなく堂々とそれを着込んでいた。遠目にもわかる、男はを見上げてニッと笑っていた。知っている、彼をよく知っている。の目が驚きに真ん丸になる
「レイダーさん!」
「お久しぶりです。お元気そうで」
何よりです。かつてのの部下、レイダーは今や敵である彼女に向かって朗らかに笑い敬礼してみせた。「うわぁ・・・」と驚きを隠せないの耳に海兵たちの声が届く
「レイダー大佐!砲撃準備できました!」
「すぐ配置に付くよう全兵に指示しろ」
「はっ!」
「レイダーさん・・・、大佐になられたんですね」
「えぇ。ようやくあなたと肩を並べられるところまで来ましたよ、大佐。・・・いや、今はこうお呼びするべきですかね」
レイダーは眉を上げて海軍らしい顔つきで笑って彼女を呼んだ。「白ひげ海賊団1番隊副隊長。『黒頭巾[シャペロンノワール]』、と」今や懸賞金すらつく彼女は悪名轟く海賊だ。かつての上官と部下は、今では海賊と海軍、追われる者と追う者の関係だ。この海で出会ってしまったら、彼に課せられた使命はひとつ
「大佐。あの時の自分の言葉を覚えておいでですか」
「はい。もちろんです」
二人の脳裏に蘇る、懐かしい同じ記憶
―――もし大佐がご自分の意志で海賊になる道を選ばれたときには、・・・そのときは自分が全力をもってあなたを捕まえに行きますから
「手加減しませんよ。さん」
「ふふ。それはこちらの台詞ですよ、レイダー大佐」
呼び慣れない名前を呼んではふっと笑みを浮かべる。そしてマルコの背をトントンと叩いて、「砲台を狙います。右旋回で」と指示を出した。マルコは軌道修正しながらちらりと首を後ろに向けて「いいのかよい」と問いかけた。かつての部下、かつての仲間を相手に思いきり戦うことができるのか。ここは生と死を分かつ戦場。一瞬の迷いは死に繋がる。けれどマルコの心配は杞憂に終わる。彼の背に乗る彼女の顔には力強い笑みが浮かんでいた
「大丈夫です。私を信じてください」
彼女の瞳に揺らぎはない。強い光を放つ両の瞳が言っていた。私の生き場所はここにある。望む場所、守りたい場所はここなのだと。だから、大丈夫
「私はもう迷わない」
愛するあなたの隣が私の生きたい場所だから。私はもう迷うことなくこの海で生きていける
この空も海も、どこまでも青く、広く、美しい
あなたが生きるこの世界を、この空を、この海を
私はいつまでも愛し守っていく
act 43 : それは海を愛する彼女の物語
− fin −
これにてマルコと彼女の物語は終幕です
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!
正直こんなに長い話になるとは思っていませんでした
途中「書ききれるかな・・・」と不安にもなりましたが
最後までこれたのはすべて皆様の支えがあったからです
拍手、コメントに背中を支えていただきました
この場をお借りしてもう一度御礼を言わせてください
最後までお付き合いくださり本当にありがとうございました!
それでは皆様、また新たな夢で♪
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