ドリーム小説
ピキッ
「・・・」
自室の机に向かい航海日誌をつけていたマルコは机上で起きた小さな出来事に無言で視線を送った。書いていた手を止めて机の隅っこに転がった胡桃の殻をじっと見つめる。それは突然だった。乾いた音がしたかと思えば無造作に置かれたままだった胡桃の殻にひびが入ったのだ。マルコは胡桃の殻を指でつまみ上げ目線と同じ高さでしげしげと見つめた。まぁ古くなって劣化したならしかたがないが。どうしてだろう・・・、ただ木の実の殻にひびが入っただけのことなのに胸に小さな不安を感じるのは。マルコは顎をさすりながら胡桃の殻を眺める
「縁起悪いねぃ」
この胡桃の殻、半分はマルコが、もう半分は遠い海の向こうにいる彼女が持っている。彼女の身に何か起こっているのだろうか。まるでそれが彼女の身代わりか分身であるかのように感じた。この殻のひびが彼女の身の危険でも知らせてくれているのだろうか。確かめる術もない、ただのマルコの勘でしかない。けれどマルコは行動したくてうずうずした。その小さな変化が彼女が出す無意識のシグナルだと信じたかった。書きかけの日誌をそのままに椅子を立ちマルコは部屋を飛び出した。扉を開けると今まさにノックをしようとしていた彼の部下が驚いた顔で声をかけてきた
「あ、マルコ隊長。ちょうどよかったっす。さっき物資調達班から連絡があって買い出し船の応援寄越してほしいって、」
「悪ぃな。ちょいと野暮用で離れるから、ジョズに頼んでくれるかい」
「え、あ、はい。って早!」
そう言うが早いかボボォッと蒼い炎に身を包み、マルコは不死鳥に姿を変え大空へと飛び立っていった。部下が見上げる先、眩しい太陽の中に蒼い炎は吸い込まれていった
*
謹慎期間残り2日。今日と明日の二日を過ごせばそれで終わり。さぁどうしようと悩みながらも体が鈍らないように鍛錬場に足を運んだはそこでガープとの久々の再会を果たした
「わ・・・、ガープお爺ちゃん!」
「おぅ、。久しぶりじゃの。待ちくたびれたぞ」
「どうして・・・。今日私が来るって知っていらしたんですか?」
「いーや。勘じゃ」
ぶわっはっはと豪快に笑う、変わらないガープの態度にはホッとする。元気にしとったか、と頭を乱暴に撫でられ、は首をすくめながらも笑顔で「はい」と答えた
「よっしゃ、久々に相手してやろうか」
「はい。お願いします」
「体鈍っとりゃせんか?」
「んー・・・、一応二日に一回はここで練習はしていたんですが」
「おぉう。えぇ心がけじゃ」
さてやるぞい、とガープは背中に正義と書かれたコートを脱ぎスーツの袖を捲り上げる。徐々に覇気を上げていく彼と向い合い、は構えを取りながらも久々の感覚に体を昂ぶらせた。頬に汗しながらも口元には笑みが浮かぶ。本気で相手をしてくれる人がいる、が鍛錬し続けることを理解し褒めてくれる人がいる。それがを奮い立たせた。この2週間の間にあった、市民の冷たい視線が思い出される。がここで鍛錬していてるのを見かけて酷い陰口をたたいて去っていく人もいた
『何を今頃そんなに鍛えて。どうせ誰も救いもしないくせに』
特にあの夜のバーでのことがあって以来はひどかった。小さな裏街に噂が回るのは早く、のアパートメントのポストに時折中傷文が入り交じったりもした
「ほれほれ、何考えとるんじゃ!集中せんと死ぬぞー?」
「わっわっ、・・・と!鉄塊っ!!」
「ぬっ?」
ガープの拳をが両手を合わせて受け止めた瞬間、ガキンッと金属を殴りつけたような重厚な音が道場に響き渡った。ガープは驚き、それからにやりと笑う。がこの2週間たゆまぬ努力をし続けていたのがよくわかる。鈍っているどころか逆に技の精度が上がっていた。一生懸命真剣な顔で向かってくる孫娘の技をガープは全力で受け止めながら思うのだった
(この健気でひたむきな姿勢をもっと大勢が認めてやりゃいいんじゃがのぉ・・・)
が欲しているのはきっとそれなのだ。地位も名誉にも興味を示さない。ただ自分を認め、存在価値を見出してくれる場所が欲しいのだろう。生まれながらの孤児で抱きしめてくれる両親もいない(つるはあくまで育ての親だ)。本人は気付いていないのかもしれないけれど、時折ふっと哀しそうになる瞳は愛と自由を追い求めている。自分が生きられる道を、場所を探している。不憫な子だと思いながらも、けれどガープも同情はしない。つるもわかっている。自分の道は自分で決めなければならないのだから
「はっ!!」
「おぅりゃぁっ!!」
ドゴンッ!!と重厚な音を立てて二人の右拳同士がぶつかり合う。拳骨ガープの正拳をは歯を食いしばって右手の拳で受け止めた。まさか止められるとは思っていなかったガープは「なにっ?」と珍しく表情を変える。その瞬間稽古時間終了を告げるタイマーが音を立てて鳴り響いた。はガープから数歩下がり両手を合わせて一礼した
「お手合わせありがとうございました」
「・・・」
「お爺ちゃん?」
「・・・ん?お、・・・おぉう」
何とも歯切れの悪いガープの返事には手を合わせたまま首を傾げる。何かまずかったのだろうか。けれどガープはに背を向け、「少し休憩じゃ」と言う。はもう一度頭を下げ、外の空気を吸うべく鍛錬場の引き戸を開けに行った。その一方でガープは自分の右拳をまじまじと見つめていた。の正拳を受けた拳はまだビリビリと痺れが残っていて小刻みに震えていた。さっきの一発で右手の指先から肩までの神経が麻痺させられたらしい
(こりゃ骨までイッとるな・・・)
今は痛覚まで麻痺しているが、おそらくは指の骨も何本か折れている。正拳を絶対的な武器として鍛え上げたガープですらこれなのだから、もし他の人間がさっきのの一発を受けたら・・・。扉の前で海風を受けているの後ろ姿を見ながらガープは引きつった笑みを浮かべた。まったくあの可愛い孫娘はどこまで強くなるつもりなのか。弱っていく精神とは反比例に伸びていくその強さに、迷走する彼女の心を見た気がした
*
どこまでも続く青い空、そこに浮かぶ白い雲。今日もマリンフォードは欠伸が出るくらい平和で穏やかだった。午後の日差しがポカポカと気持ちよく、それは港で見張りの一等兵たちの気もついつい緩んでしまうくらい
「ふぁ・・・、・・・ねみぃ」
「おい、気を抜くなよ」
「いやぁだってよぉ・・・・・・暇で暇で」
「そんなこと言って突然奇襲でも来たらどうするんだ」
「お前真面目だなぁ。大丈夫だって。ここは要塞都市で有名な街なんだぞ。どこから奇襲が来るってんだよ」
「そんなのわからないだろう。海中から島の底に穴開けてくる可能性だってないとは言えないんだし」
油断するなよ、と髪型から坊主で真面目そうな青年海兵は眉を釣りあげる。一方でぼさぼさ頭の青年はぼりぼりと頭を掻いてぼぉっとどこかを眺めていた
「まぁ可能性だけ言ったらきりねぇけどな。海から来るか、地底から来るか、・・・はたまた空から来るか」
「わかってるが、だが油断は禁物だ」
シャキッとしろよと諫められ、ぼさぼさ頭の青年は「はいはい」と適当に返事して空を見上げた。昼を過ぎたとはいえ太陽高度はまだまだ高い。眩しさに眼を細め青年は帽子の鍔を指で摘んで下げた。ふと狭い視界の隅に珍しい青い鳥を見た気がしたが、青年は気にも留めずもう一度大きな欠伸をして隣の仲間にため息をつかれるのだった
act 36 : 空襲警報発動せず
「ママ。青い鳥さんが飛んでるよ」
「あら、そう。なんて名前の鳥さんかしらねぇ」
「わかんない。けどキラキラ光っててキレイだった!」
母親に手を繋がれた小さな少女がキャッキャと飛び跳ねて笑う。午後の穏やかな陽がレンガ造りの裏通りをあたためる。は仲の良い母娘の後ろ姿に眼を細めて笑い、そして背を向けた。ガープと別れて鍛錬場を後にして、とりあえず手近のカフェで昼食をとって、さてどうしようとあてどなく散歩などしていた。のんびりとした生活を送っているが、あと二日で決意を固めなければいけないのだ。けれど家で一人でいても鬱々としてしまう。とりあえず陽の下を歩いて気分を晴らそう。そう思い散歩などしていたのだけれど、はレンガ通りの遥か前方に見覚えのある人物の姿をとらえてしまい、瞬間的に胃がキュッとしまるのを感じた
(あ・・・)
どうしようどうしよう、今は会いたくない人物だった。前方から歩いてくるのは、先日夜のバーでに水をかけた女性―――リザードの母親だった。さんざんを罵倒し泣き崩れて店を出ていった彼女は、今は同年代の男性と並んで歩いている。男はリザードと顔がよく似ていた、きっと父親だろう。眉をつり上げて鬼のような形相でをなじっていた彼女も今は穏やかに薄く笑っており、その顔は美しい。その笑顔が、きっとと鉢合わせたら一瞬で消えてしまうのだろう。は思う。自分と会わなければ・・・自分がいなければ、彼女は平穏な心のままでいられるのだ
―――俺が証明してみせよう。君が海軍には要らぬ人間であることを
―――覚悟もなく正義も背負えん奴など軍にはいらん
―――あなたなんて海軍にいる必要なんてない、いらない存在じゃない!!
「・・、・・・――」
白昼に耳の奥で木霊する幻聴はの意識をぐらりと傾かせる。はズキリと痛むこめかみを手で押さえ、リザードの両親を避けるように建物と建物の間の狭い路地に身を隠した。頭に手を押し当てたまま壁に背を預けずるずると座り込む。しばらくして談笑しながらリザードの両親がの横を通り過ぎていった
あぁ息ができない
苦しくてしかたがない
ここには自由はない
もう疲れた、もうゆっくり眠りたい
もうゆっくり休んでいいんだと・・・・・・誰か言ってくれないかな
お願い・・・誰か・・・・・・
光の当たる世界から逃げるように身を隠した狭い路地裏。膝の中に顔をうずめて丸まっていた私の腕を掴む者がいた。びっくりして顔を上げれば太陽の逆光で影になってはいるけれど、でも笑って自分を見下ろす人がいた
「見つけたよい」
「・・・ぇ・・・?」
聞き覚えのある声に彼女の心が跳ねる。それは海軍本部になんているはずのない人で。なんで・・・・・・どうしてこんなところに・・・・・・。驚きと戸惑いで口を開けて眼をパチクリさせる彼女の顔を見て彼は「なんて顔してんだよい」と笑って白い頭をクシャクシャと撫でてくれた
あぁ、どうしよう
あなたと私は敵同士なのに、私はあなたを捕まえなければいけないのに
あぁ、どうしよう
見つけてくれて嬉しいと思ってしまうなんて
※ようやく再会です。こんなに簡単に海賊に忍び込まれていいのでしょうか、海軍本部・・・
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