ドリーム小説
キュウゾウにおぶられて城に帰ってきたは、まずは湯を浴びて身を清めるよう命じられた。
身体を洗い、服を取り替え、部屋に戻ってきたを、キュウゾウは自分の前に座らせた。
「」
「うん?」
「後ろを向け」
「うん」
「服を脱げ」
「うん。・・・・うん!?」
なんだかすごい命令をされたような気がする。
慌てて後ろを振り向けば、キュウゾウは何食わぬ顔で薬箱を手に「どうした?」と真顔で問うてきた。
猫 の 棲 む 部 屋 4
「キュウゾウ・・?」
「背中。怪我をしているな」
「・・・うん。わかった?」
は苦笑いして、観念してキュウゾウに背を向けた。
キュウゾウは何でもお見通しらしい。
キュウゾウが自分をおぶってここまで運んでくれたのにも合点がいく。
命じられたとおり、はそっと浴衣をはだけさせた。
真っ白で細い肩があらわになり、ゆっくりと下に落とされていく浴衣の向こうに傷だらけの小さな背中が現れた。
青痣や小さな擦り傷だらけの背中を見て、キュウゾウは眉根を寄せる。
「だれにやられた」
「・・・・」
「」
「ひみつ、だよ」
だって言ったら、キュウゾウ仕返しに行っちゃうでしょ?
首を後ろに向けて聞いてくるに、キュウゾウは視線を明後日の方に向ける。
図星らしい。
「だから、ひみつ」
「いいのか?」
「うん。いいよ」
「誠だな」
「うん。・・・・だってここにかえって、これたから」
それだけで十分だ、とは笑う。
が言うのなら仕方がない。
キュウゾウはやや不満げなため息を吐いて、の背中の傷に薬を塗ってやった。
一つ、擦り傷に塗りこむたびに、はぴくりと肩を揺らす。
「痛いか?」
「・・ちょっと」
「少し我慢できるな」
「うん、できるよ」
いい子だ、と。
キュウゾウは開いている手での頭を撫でてやる。
背中を見せていてキュウゾウには見せられないが。
の目には、うっすらと涙が浮いていた。
あぁ、ここに帰ってこれたのだと実感する。
薬を塗ってもらい、ははだけていた浴衣をもう一度羽織った。
薬が沁みて、背中がすぅすぅする。
「キュウゾウ、ありがと」
「・・・・」
「キュウゾウ?」
お礼を言ったのに、キュウゾウからの返事がない。
どうしたのだろうと振り向こうとして。
「」
後ろから、浴衣越しに抱きしめられた。
浴衣の生地が薄いせいか、キュウゾウの低い体温がよく伝わってくる。
折角塗ってくれた薬がとれてしまうのではないかと心配するも、それ以上にキュウゾウに触れられる幸せに心が満たされた。
「・・キュウ、ゾウ?」
「・・・・」
「・・どしたの、キュウゾウ」
「お前に聞きたいことがあった」
「うん?」
「お前・・・なぜ奴に、俺のところに帰ってきたくないなどと言った」
それはずっとキュウゾウの中で引っかかっていた疑問であり、不安であった。
が、自分のもとへ戻ってくるのを拒んだ。
その理由が聞きたい。
抱きしめるの身体から、諦めのように力が抜けたのがわかった。
「なぜだ」
「だって・・・わたし、めいわくになるよ」
「なにを・・」
「わたし、なんのやくにもたたないよ?キュウゾウのそばにいるだけ。キュウゾウにめいわくかけるだけ」
こんな私がキュウゾウのそばにいても、何の得にもならない。
邪魔なだけの自分を拾って置いてくれるキュウゾウに、自分は何もできない。
「だから、わたし」
「いつ誰が迷惑だなどと言った」
「・・・・」
「俺が言ったか」
「・・・・言って、ない」
言ってないけど、とは言葉を濁す。
を抱きしめるキュウゾウの腕に、優しい力がこもった。
の肩にあごを乗せて、より二人の距離を縮めた。
「迷惑だなどと思っていない」
「・・・・」
「迷惑なら、はじめから拾ってなど来ない」
「・・・うん」
「。これだけは良く覚えておけ」
「・・・なに?」
忘れるな。
一度しか言わぬ。
自分の耳のすぐそばで、キュウゾウが意を決したように小さく息を吸うのがわかった。
「俺は、お前に居てほしくて拾ってきた」
「・・・・・」
「ここは、お前が居ていい場所だ」
「・・・・・」
「わかったか」
「・・・・・」
からの返事はない。
聞いているのか、この猫は。
まさか寝てしまったわけではあるまいな。
いや、ならありえる。
ふぅと一つため息を吐きながら、キュウゾウは「」と名を呼んだ。
細くなってしまった肩口から顔を出してを覗き込む。
「わかったか」
「・・・・うん」
綺麗な赤い目から、はたはたと大粒の涙がこぼれていた。
キュウゾウはふっと笑み、横からその目尻に口付けてやった。
「キュウゾウ・・」
「なんだ」
「・・・・ありがと」
「・・あぁ」
ごめんねは、言わないでおいた。
言う必要はないと、キュウゾウの心が言っていたから。
「」
「うん?」
「もう寝ろ」
「うん。・・・・・キュウゾウ」
その日、猫ははじめて一つだけわがままを言った。
キュウゾウに迷惑をかけることを承知でついたわがまま。
「いっしょにねてもいい?」
何事にも動じず、大人しいがはにかみながら告げたわがままに。
キュウゾウは頬に口付け、二つ返事で承知したのは言うまでもないこと。
その日、は愛しい主人に抱かれ、一晩中手をつないで夢におちた。
帰る場所のある幸せを噛みしめながら。
つ ぶ や き
最後まで読んでくださってありがとうございました!
感無量でございます。
まだまだ書き足りない猫の秘密もありますので、それは後日に。
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