―序―
力ある者が世を統べる。
その力とは、武力であったり、政治力であったり、経済力であったり、ときに人の予想もつかぬ力であったりする。
その力が何にせよ、力ある者が世を治める。
それが三千世界の理(ことわり)。
では、問う。
その力は、誰が与えるのか。
「天にありゃ」
男は言う。
子供のような体つきで絢爛な椅子にゆったりと腰掛け、まるで皇帝のような雰囲気を醸し出す。
皇帝を思わせる男は、自分の目の前に座る青年を見下ろす。
青年は、陰陽師のような井出達で床に胡坐をかいている。
「天、で御座いますか?」
青年は皇帝を見上げる。
「そうじゃ。天が、選ばれし者に力を与え賜る」
皇帝を思わせる小さな男は、にぃと唇を上げて笑む。
何人たりとも有無を言わさぬ、絶対的支配者の微笑。
青年はその笑みに応えるように笑みを浮かべ、なるほどと頷く。
「天の命により選ばれし賢者。つまり、それが貴方様に御座いますか」
青年は皇帝を見上げ、ゆっくりとその名を紡ぐ。
「天主様」
と。
天主と呼ばれた男は、そうだと目を細めて応える。
都の主・天主、商の世界の絶対的支配者。
それを前に鎮座する青年は、名をセイメイといった。
代々、天主を裏で支え続けた預言師である。
セイメイは問う。
「ですが、天主様。力を与えられた者全てが天主になれるわけではありませぬな」
その問いに、天主はゆったりと頷く。
「天の力を得られるは微々たる者。その中でも、その才を我が物とできうる者は一人、よくて二人でありゃ」
「では、天主様はその一人か二人を、ずっと待ち続けておられると」
セイメイの言葉に、天主はまた大気を揺さぶらない静かな動きで頷く。
天主はセイメイから視線を外し、遠く虚空を見つめた。
その先にいる、天主の才を受け継ぐ者を見つけるように。
「荒野に放たれた数多の御複製。さて・・・果たして何番目の御方が後を継がれるのでしょうな」
セイメイは、下唇を親指で撫でた。
それは、セイメイが興味を引いたときに行う癖。
セイメイの嬉々とした声に、天主はゆっくりと目を細めた。
小さな唇が、静かに告げる。
「四十六番、と・・・・四十九番」
不意に紡がれた二つの番号。
それまでの会話から考えれば、それは天主が待ち侘びる者を意味する。
セイメイは唇を撫でる指を止めた。
「天主様は、その御二人のどちらかだとお考えで?」
問いかければ、天主はちらりと一度セイメイに目を向け、また逸らした。
「さて、のぅ。余には、わからぬこと。だが」
茶化し、天主は再び、遠くのどこかを眺めやる。
「四十六に、四十九。同じ女御の腹より産まれしこの御二人、誠、高秀な遺伝子を宿してあらしゃった」
より高い世継ぎを作るため、数多の御複製が野に放たれた。
だが、未だかつて天主が特定の御複製に目を配ったことなどなかった。
セイメイは一段と興味を示す。
「四十六は女児、四十九は男児であらしゃったが、今はいずこにおられるやら」
天主の言葉を聞いていたセイメイは、やおら懐に手を差し入れた。
かさりと乾いた呪符の音が響く。
天主は紅葉のような手を軽く挙げ、セイメイの行動を制した。
「セイメイ殿。詮索は無用ぞ」
「御気になられているのでは?」
「よい。これは、試練。御二人に真の力あらしゃれば、いずれ余と会いまみえよう」
天主は静かに目を閉じた。
眠るように座る主君を見つめ、セイメイもまた目を閉じた。
胡坐の中で、ゆっくりと印を結ぶ。
天主
御複製
四十六
四十九
何度も胸中で繰り返し、長く細い指で無数に印を作る。
ふと、ぼんやりと脳髄の奥に浮かび上がる文字があった。
セイメイはゆっくりと目を開ける。
いまだ瞑想を続ける天主を見上げた。
子供のような体に、あらゆる世の理を詰め込んだ脳を持つ、人を超える存在。
都、そして商いの主。
彼の待ち侘びる者は、果たしてここに辿り着くのか。
それは、セイメイにもわかりえなかった。
浮かび上がった唯一つの言葉が更なる謎をセイメイに残し、消えていく。
『こうがきょう』
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<補足>
■天主(あまぬし)■
アニメ登場時のチューブ責めにされる前の、生身の頃の天主様です
■セイメイ■
代々、天主に遣える最高位の陰陽師。天主様の話し相手
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