ドリーム小説
どれだけ時間が経とうと変わらないものがある
決して色褪せることのない想いがある
あなたに告げる勇気はないけれど
私の心はあの頃と同じように
ずっとあなたを想い続ける
Youthful Days 1
「先生!」
そう呼ばれて振り返ると、そこにはグリフィンドールの3人組の姿があった。
赤と黄のネクタイを振り乱して先頭を走ってくるのはロンだ。
「やったー!俺一番!」
「ずるいわ、ロン。全然歩幅が違うじゃない!」
「そうだよ。ハンデハンデ!」
背が高く歩幅も大きいロンに、ハリーとハーマイオニーは抗議する。
いつもは弱気なロンだが今日は頑として譲らなかった。
「だ〜めだめ!今日は僕、本気で行くから。だってさ」
そう言ってロンは自分よりもやや背の高い女性を見上げた。
「早く着いた順にいい物がもらえるって先生言ってたもんね!」
見つめられた女性教諭は、ロンに向かってにっこりと微笑んだ。
今日は生徒たちが待ちに待ったハロウィンパーティー。
実は数日前、生徒たちから大人気のこの女性教諭は、授業の合間にこう言っていた。
『ハロウィンの日、早く私を見つけた人から順番に良い物をあげます』
赤毛を揺らして無邪気に笑うロンに、は含み笑いを漏らす。
「そうね。確かにそう言ったわね。それじゃぁ例の言葉をどうぞ?」
の言葉に3人の声が見事に重なった。
「「「先生、Trick or Treat!!」」」
ハリーとハーマイオニーはロンに負けまいと身を乗り出して叫ぶ。
無邪気な3人には優しい笑みを向けた。
「悪戯は遠慮したいわね。それじゃぁ予告通り、先着順にお菓子をどうぞ」
そう言っては杖を一振りする。
ロン、ハーマイオニー、ハリーの順に量が少しずつ違うお菓子の束が手渡された。
それぞれの包みには小さな青いバラが飾られていた。
ハリーとロンはお菓子に夢中だったが、ハーマイオニーは飾られたバラの花を見て驚きの表情を浮かべた。
「すごい、青いバラだわ。完璧な青バラって育てるの難しいんですよね!?」
「へぇ。そうなの?」
「そうよ。青いバラはね、普通蕾がついた時点で魔力に耐え切れなくて枯れちゃうの。
先生、これ先生が育てられたんですか?」
博識なハーマイオニーに押されてロンは引っ込んでしまう。
そんなロンの頭をよしよしと撫でながらは彼女に笑顔を向けた。
「うん。この日のためにちょっと品種改良してみたの。それに青バラは薬草としても価値が高いから」
3人の中で青バラの価値がわかるのはきっとハーマイオニーだけだろう。
残された2人を他所にハーマイオニーは尊敬の眼差しをに向けた。
「すごい、流石薬草学の先生っ」
「買いかぶりすぎよ、ハーマイオニー。このくらい私でなくてもできるわ」
照れ笑いを浮かべるの姿はどう見ても30を過ぎているとは思えない。
ハリーは、の服装を指摘した。
「それにしても先生の仮装、可愛いですね」
「そぉ?」
「それ、魔女じゃないですよね。もしかして夢魔ですか?」
「ハリー正解。よくわかったわね」
今日のは、スリットが大きく入った黒のタイトスカートにハイネックのノースリーブという異常に
露出度の高い服を着ていた。
だが背もそれほど高くなく、ほっそりとしたにはその服がいやに似合っている。
背中には小さなこうもりの羽がちょこんと付けられていて、傍目には可愛らしい子悪魔のようだった。
「30過ぎのおばさんがこんな格好して、本当は恥ずかしいんだけどね」
苦笑して頬を赤くするは30過ぎどころかまだ20代といってもいいほどだった。
「そんなことないですよ。先生、すごく似合ってますっ。なっ?ロン」
「そうだよっ!おばさんだなんて。そりゃマクゴナガル先生が着てたら俊足で逃げるけど」
「ロン、後でちくるわよ。先生、すっごくスタイルいいからむしろぴったりって感じですよ」
一気にまくし立てる3人に押されては両手を挙げて笑った。
「ありがとう、皆。その言葉はむしろ選んでくれた人に聞かせたいわ」
「え?その衣装、誰が選んだんですか?」
普段割りと落ち着いた服装をしているが自分でこんな過激な服を選ぶとは誰も予想していなかったが、
選んでくれた人がいることに皆の興味は更に高まった。
服の選別者の名を言おうとした瞬間、の背後に影が落ちた。
「僕だよ。ね?」
「きゃあっ!リ、リーマスっ」
突然後ろから抱きすくめられ、は肩を強張らせた。
だが背の高いリーマスを振りほどくこともできず、暴れようとするをリーマスは更に押さえ込む。
「、いつも実験だ観察だでローブか白衣だろ。でも絶対こういう格好似合うと思ったんだ」
「もうわかったから。放してよ、リーマス」
じゃれ合う2人は傍から見たら恋人同士そのもの。
数年前にホグワーツに入ってきたと今年防衛術教師として入ってきたリーマス。
ホグワーツの同期ということもあり、いつも仲の良いとリーマスを恋人同士だと思っている生徒も少なくない。
着任早々がいることを知ったリーマスは顔馴染みということもあってか、しょっちゅうに纏わりついていた。
はで懐かしい友人とあってかリーマスを極端に拒みはしなかった。
だが2人のやり取りを気にする者も一人いた。
「何を騒いでいる、、ルーピン」
いつの間に現れたのか、某魔法薬学教授が渋い顔で2人の背後に立っていた。
天敵の出現に怯えるグリフィンドールの3人組。
だがリーマスはセブルスのきつい視線も難なく交わす。
「やぁ、セブルス。どう?、可愛いでしょ?」
そう言ってリーマスはを抱きしめる腕に力を入れる。
同時には顔を真っ赤にし、セブルスの眉間には皴が凝縮した。
「もう少し節度を持ったらどうだ、ルーピン。仮にも生徒の前で」
「だって、何十年経っても可愛いんだもん。僕らは年をとる一方だって言うのに」
「そんな。私だってしっかり年を取ってます」
「え〜嘘だぁ。何、この細い腰」
そう言ってリーマスはの腰をぎゅっと掴んだ。
「きゃぁ!!」
くびれた腰をダイレクトにつかまれ、は恥ずかしさからこれ以上ないほど顔を真っ赤にした。
突然のリーマスの行動にセブルスも吼えた。
「ルーピン、貴様っ」
「ちょっ、リーマス、もう放して!」
「なに2人一緒に怒ってるのさ。まぁいいけど。それじゃ、。僕もTrick or treat」
そう言うが早いか、リーマスは油断していたの頬に軽く唇を押し付けた。
ボンッという音と共にの顔から火が出る。
セブルスの目が1.5倍に見開かれた。
「お菓子も欲しいけど僕は悪戯を選ぶよ」
意地悪そうに微笑むと、リーマスは呆然としていた3人の背を押してとセブルスの前から離れていった。
「ちょっと、リーマス!?」
「さぁ、行こうか皆。ダンブルドア校長先生の頭がカボチャになってたぞ〜」
遠ざかっていく呑気なリーマスの声。
4人の姿が消えるや、セブルスは一つ咳払いをした。
はキスされた方の頬をさすりさすりと撫でている。
「全くもう。昔と全然変わっていないわね、リーマス」
まだ微かに赤い頬に手をあてるその姿が本当に少女のようで可愛らしい。
「・・・」
「ぁ・・・なぁに?セブルス」
返事をしてセブルスの方を振り向くも、は目を合わせられないでいた。
それはセブルスも同様で、どうにもかちあわない視線をフラフラさせる。
2人っきりになるとどちらもどことなく余所余所しくなってしまうのは学生時代から変わらない。
「あぁ、その・・・珍しい格好をしているな」
一瞬のセブルスの視線を感じ、はおさまったはずの頬の赤みがぶり返すのを感じた。
「・・・うん。リーマスに無理矢理着せられたというか。年甲斐もなく恥ずかしいんだけれどね」
変でしょう?、と照れ隠しに苦笑いを浮かべるところも昔と変わっていないと思いながら、
セブルスはまた咳払いをした。
「いや・・・似合っている。似合ってはいるのだが・・・」
「セブルス?」
途中で言葉を濁すところが変わっていないなぁと思いながら、はセブルスの顔を覗きこんだ。
だがバチッと目が合ってしまった瞬間、2人はどちらからともなく思い切り顔をそらした。
2人のこの行動も昔から変わっていない。
が再び火照り出した頬に手を添えていると、後ろから暖かなものを被せられた。
「セブルス?」
「似合ってはいるが、この季節にそんな格好をしていたら風邪をひく。着ていろ」
肩から足元まで被せられたローブからはほんのりと薬草の匂いがした。
学生時代から変わらぬ薫りにの心にほんのりと灯りがともる。
「ありがとう、セブルス。実は少し寒かったのよね」
「そんなことだろうと思った。お前は昔から人の厚意を第一にして自分を犠牲にするからな」
「私、そこまで善い人じゃないわよ?」
「わかっておるわ、この偽善者め」
「あ、ひどい」
皮肉気な顔で笑われては頬を膨らます。
だがすぐに少女のような笑みをセブルスに向けた。
「ありがとう、セブルス。後で研究室に届けるわね」
そう言うとはローブを汚さないように裾を持ち上げた。
だが歩き出そうとしたを不意にセブルスは止める。
「」
「ん?」
振り返ると、セブルスは目をどこかに泳がせていた。
言いにくいことを喉に詰まらせているときの彼の癖だとは悟る。
数秒経ってセブルスはやっと口を開いた。
「・・・Trick or・・treat」
いつも威厳たっぷりのスネイプ教授らしからぬ小さな声に、もし生徒が聞いていたら迷わず振り返ったことだろう。
お祭り騒ぎなどに参加したりしないセブルスの突然の言葉に思わずの頬は緩む。
はにっこりと笑うと、杖を取り出してお菓子を出そうとした。
だがセブルスはそのの手を取って制した。
「セブルス?」
「我輩も菓子は結構だ」
それだけを単調に告げるとの細い手を持ち上げ、手の甲に軽く唇を落とした。
セブルスの突然の行動におさまっていた顔の熱が一気にぶり返す。
「セ、セブルスっ」
「我輩も風邪は引きたくないのでな。できるだけ早いうちにローブは返してくれたまえ」
の顔も見ずにそう言うとセブルスはスタスタと去っていってしまった。
残されたは顔から湯気を出し、その場に立ち尽くしていた。
去っていくセブルスの背中にチラリと視線を向ける。
姿勢のいい真っ直ぐな背中と自分の肩にかかったローブの暖かさ。
そして今しがた受けた手の甲への印に、は昔と変わらぬ胸の痛みを感じていた。
*
その日の夜。
ハロウィンパーティーが終わってすぐ、部屋で着替えたは、綺麗に畳んだ黒いローブを胸に、
暗い地下室へと足を進めた。
薬学研究室の扉を叩くと、すぐにセブルスが顔を出してきた。
「ローブ、本当にありがとう。おかげで風邪をひかずにすんだわ」
ニッコリと微笑んでセブルスの顔を見上げるも、目が合うとすぐにそらしてしまう。
「いや。礼を言われるほどのことはしておらん」
それはセブルスも同様で、視線だけをあちこちに散らしてやっとのことでそれだけを告げた。
「・・・・・」
「・・・・・」
どちらも何も言わないまま部屋の前に立ち尽くし、ただ時間だけが流れていく。
ここでセブルスがをお茶にでも誘えば、少しは2人の仲が発展したかもしれない。
ここでがセブルスに「本を貸してほしい」と嘘でもいいから言えば、もう少し親密になれたかもしれない。
「・・・それじゃ。おやすみなさい」
「・・・あぁ。またな」
乾いた笑みを浮かべて手を振るに、セブルスが名残惜しそうに扉を閉める。
夢に描いたようなロマンスは、そう簡単には生まれない。
2人とも、後一歩、互いに踏み出す勇気は持っていなかった。
*
はセブルスやリーマスとは同期だった。
スリザリン生にもかかわらず、その素直な性格と愛くるしい笑顔で、寮を問わずたくさんの友人がいた。
グリフィンドールの悪戯4人組とも仲が良かったし、薬草学が得意なこともあって、関連性の高い魔法薬学を
得意とするセブルスとも親しかった。
そしては男子生徒からの告白も多かったが、結局誰とも交際することなくホグワーツを卒業。
しばらくの間どこぞの研究室で勉強をして、今に至る。
ただ、彼女の胸の内に秘めた想いは、学生時代から褪せることはなかった。
コンコンと軽いノックオンと共に扉が開いた。
「ー。遊びに来たよー」
晴れやかな笑顔を浮かべて入ってきたのはリーマスだった。
「あら、いらっしゃいリーマス。何か用?」
薬品棚を整理していたは、一度作業を中断するとリーマスに笑顔を向けた。
「いや、用はないんだけど。授業の準備も終わって暇だったから遊びに来たんだよ」
鳶色の髪を揺らし、少年のようにリーマスは微笑む。
学生時代から変わらない穏やかな笑顔。
「待ってね。もう少しでここ片付くから、そうしたらお茶にしない?」
「いいね。ココアはあるかい?」
「もちろん。最近あなたがよく来るから、ちゃんと用意してあるわ」
その言葉にリーマスは笑顔を濃くする。
再び片づけを始めたに、リーマスは声をかけた。
「じゃぁ、僕がお茶を淹れて置こう。キッチン借りるよ」
「んー、それじゃあお言葉に甘えて。キッチンにあるもの自由に使っていいから」
その言葉にリーマスはウキウキとキッチンに入っていく。
就任してからしょっちゅう来ているの部屋である。
もう勝手知ったるとばかりに手際よくお茶を淹れ始めた。
だが、ココアとコーヒーの粉末が置かれた棚に手を伸ばしたとき、ふとあるものに気付いた。
「あれ?、コーヒー派だったよね。紅茶に嵌り出したのかい?」
棚の奥に陳列したたくさんの瓶。
各瓶には、アールグレイ、アフタヌーンティー、ジャスミン等々のラベルが貼られている。
片づけをしていたがひょっこり顔を出した。
その顔はどこなく赤く、かつ嬉しそう。
「あ、それはセブルスのよ。薬草とかのことでたまに来てお茶したりするから。知らない間に増えたんだわ」
「・・・ふーん」
リーマスもまた何とも言えない返事をして、二つのカップを取り出した。
だが何かを思いついたようににょっきりと頭に黒い触角を生やすと、再びに声をかけた。
「ねぇ、ー」
「なぁにー?」
少し離れたところから、片付けをしているガサゴソという音が聞こえてくる。
「セブルスに好きって言ったのかい?」
ガタガタンッ
リーマスの声に応えるように盛大に何かが崩れた音が聞こえてきた。
それと同時に奥から聞こえてくる彼女の慌てた声。
「な、な、何を言うの、リーマス!」
「わぁ。わっかりやすいなぁ、」
キッチンからひょっこり顔を出すと、は本の山に埋もれてほんのり頬を紅くさせていた。
あらら、とリーマスはゆっくり歩み寄り、を助け起こしてやる。
「ありがとう・・」
赤い顔でパタパタとローブに付いた埃を払うを見て、リーマスは苦笑する。
「まったく。隠さなくてもいいよ。もうとっくにばればれなんだから」
「ば、ばればれ・・・!?」
の顔がカァッと赤くなったのを見て、リーマスは楽しそうに笑う。
「だってわかりやすいし。セブルスとだけは眼をそらして話すし、よくセブルスの方見ているし。
昔だって魔法薬学のことでわからないことがあると、先生より先にセブルスに聞きに行っていたし」
「やだやだ、やめて!」
真っ赤になったの頭からは、シューシューと湯気が出ている。
学生時代の自分の行動を全て見られていたことが恥ずかしかった。
「顔から火が出そう・・・」
両手で小さな顔を覆うも、露わになっている耳はこれ以上ないほど真っ赤だ。
そんなも可愛い。
30歳を過ぎているとはいえ、の心は学生時代から全然変わっていない。
「セブルスが好きなんだろ?」
リーマスの優しげな問いかけに少し安心したのだろう。
の小さな頭がこっくりと縦に動く。
「どうして告白しないんだい?」
幼子を宥めるように言葉をかけると、は塞いでいた両手の指の力を緩めてリーマスを見上げてきた。
細い指の隙間から見える両の瞳は、僅かに潤んでいた。
「だって・・・振られてしまうのが怖くて」
微かに震える声で帰ってきた答えに、「わーそれは絶対ないなー」と思うリーマスだがあえて口には出さないで
おこうと思った。
「セブルスは、興味がなくなったものには絶対目を向けなくなるから。だから、もし告白して振られてしまって、
もう二度と話もしてくれなくなったらと思うと・・・」
「それなら、このまま友人として付き合っていった方がいい、って?」
ピンポイントを付くリーマスの言葉に、は再度頷く。
「じゃぁもし、セブルスが結婚することになったとしたら?それ以前に、既に奥さんがいるとしたら?」
リーマスのやや意地悪な発言に、の瞳の色はどんどん暗くなっていく。
形のいい眉が、悲しみ下がっていく。
「尚更・・・気持ちなんて伝えられない」
自分で言った言葉にの瞳が再び潤みだす。
そのときだった。
部屋の扉がノックされ、静かな音を立てて開いた。
ドアの隙間からまず現れた真っ黒のローブに、の目は見開かれ、リーマスの目は細められた。
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