ドリーム小説
―――ワレが茂田と仲良ぅするんはいけ好かん!
千堂くんのあの発言はどういう意味だったのだろう
がき大将にありがちな、「自分の舎弟が自分の気に入らない人間と仲良くするのは面白くない」ということだろうか
でも千堂くんはそこまで器の小さい人でもないし
ぐるぐると考えても答えは出ない
「どうして茂田さんのことをそんなに目の敵にするんですか?」
そう一言訊ければいいのだけれど
あれ以来千堂くんの前で茂田さんの名前を出すことは自然とジムのみんなが控えていた
加えて私の場合、もう少しショックなことがあった
「おー、。ワイ手ぇ放せんさかい、千堂のロードの付き添い代わりに行ってくれへんか」
「うん、いいよ」
忙しい兄にそう頼まれたときのことだ
私は千堂くんの手伝いができると喜んで引き受けた
けれど・・・
「柳岡はん。ワイ今日は一人で行きたい気分やねん。付き添いはいらへん」
(・・・え、・・・)
「そか?ほなら気ぃつけてな」
「おぉ。・・・」
「・・・」
私はそれをやんわりと断わられてしまった
私が茂田さんのスパーに行って帰ってきたあの日から、千堂くんが私のことを避けているのは明白だった
挨拶や必要最低限のやり取りはしてくれるけれど、それ以上の接触は意図的に避けている
千堂くんが笑顔で声かけてくれることも、悪戯っぽい顔でちょっかい出してきてくれることもない
私はそれが正直すごく寂しかった
突然距離をとられ、なんだかよくわからない不機嫌を露わにされ、私は憤りよりも寂しさと悲しさの方を強く感じていた
「千堂くん、あの・・・これ」
「・・・」
ロードに行こうとする千堂くんの背中に私はおずおずと声をかける
返事もなく黙って振り返った彼は、やっぱり私と目を合わせてはくれなかった
「明日の計量には影響出ない程度の量にしてあるから、走りに行く前に飲んでください・・・」
「・・・」
ペットボトルに作ったドリンクを彼に差し出す
千堂くんは少し間をおいてから、無愛想な感じで「・・・おぉきに」と礼を言って受け取って走りに出かけた
ガラガラピシャンと閉められる扉
私は俯き気味で小さくため息をつく
と、後ろからポンと頭に手を置かれて、私は隣にやってきた兄を見上げた
「お兄ちゃん・・・」
「お先真っ暗みたいな顔しとるで、」
「・・・そ、かな」
「お前が元気あらへんさかい、周りの奴らも気にしとるわ」
お前はこのジムのアイドルなんやからな、と
私を元気づけようとそんなことを言ってくれる
私は落ち込んだ顔で無理やり笑ってみせた
けれど下がり眉の笑顔はかえって悲しそうに見えてしまい、余計に兄に気を遣わせてしまうのだった
「そないに気にせんでも、虎の機嫌なんぞそのうち勝手に治りおるよって」
「・・・うん。ありがと」
「元気出しぃ」と、ぐしゃぐしゃとちょっと乱暴に頭を撫でて慰めてくれる兄に私は感謝した
兄が声をかけてくれて、頭を撫でてくれてよかった
そうじゃなければ私はぐすぐすと鼻をすすっていたかもしれない
―――付き添いはいらへん
千堂くんに突き放されることが、拒絶されることが、寂しくて悲しくて、少し怖い
じんわりと瞼の奥が熱くなって、胸の奥につきつきと痛みを感じる
彼の言葉や態度、表情の一つ一つが私を左右する
私の中で彼という存在は、それほどまでに大きくなってしまっていた
*
そして翌日
決戦前日、千堂くんと茂田さんの計量の日がやってきた
計量会場は試合会場となる大阪府立体育会館の中に設置されている
会場には千堂くんと兄、会長さんの3人で出かけた
私は車に同乗させてはもらったけれど、館内までは行かず駐車場で待たせてもらった
「。お前行かへんのか」
「うん。あんまりたくさんで行っても邪魔になっちゃうし、・・・それに今は。ね」
停めた車の前で兄と小さな声でそんなやり取りをした
私が言わんとすることを兄は理解してくれて、またくしゃくしゃと私の頭を撫でていってくれた
車のドアに寄りかかって、晴れた空を見上げながら私はみんなのことを待った
「千堂くん・・・計量大丈夫かな」
今朝ジムで量った限りでは問題ないだろう
心配なのはむしろ、会場で千堂くんが茂田さんと顔を合わせることの方だった
(千堂くん・・・、茂田さんにメンチ切ったりしてトラブルになってなければいいけど)
私は両手を後ろに組んでドアに背を預け、空を仰いだままゆっくりと目を閉じた
瞼の裏。浮かんできたのは千堂くんの顔
それから・・・茂田さんの顔だった
(茂田さんのことも避けちゃった・・・。でも仕方ないよね)
会場に行くのを断ったのには茂田さんのこともあった
また彼と会ってこの間のように声をかけられたら、きっと私はうまく彼をかわせない
どんどん茂田さんの方に引き寄せられる私の姿は、きっとこの間以上に千堂くんを苛々させてしまうだろう
だから自ら予防線を張って茂田さんに近づかないようにした
それなのに、神様は意地悪だ
じゃり・・・、とアスファルトを噛む音がとても近くで聞こえて、それから聞き覚えのある声が降ってきた
「やっぱりね。勘、当たった」
「・・・え、・・・?・・・――っ」
34:ライバルはサウスポー?2
「こないだはどうも。ちゃん」
「・・・ぁ、・・・茂田さん」
そこにいたのはまぎれもなく茂田晃その人だった
どうしてこんなところに、と私は目を丸くして驚く
そんな私を見つめながら、茂田さんはコツコツと足音を立てて近づいてきた
「あ、の・・・計量は」
「もう終わった。アンタは?なんで会場来ないでこんなとこで待ってんの」
「それは・・・、・・・お邪魔になるかと思って」
「邪魔って、選手の?」
「・・・はい」
「ふーん」
本当はあなたに会うのを避けたんですとは言えない
建前で言いつくろうとする私は視線が泳ぎがちになる
そんな私を茂田さんはじっと見つめて、それからニッと唇の端を上げて笑った
「千堂さんがどうかは知らねぇけど、俺にとっては邪魔になんてならないけどな」
「・・・でも・・・」
「俺は会いたかったんだけどね。アンタに」
「・・・、・・・」
私の目をじっと見つめて、薄く笑って茂田さんはそう言う
その一言で私の中で再びシグナルが点滅を始めるのだった
あぁダメだ、このまま一緒にいたらまた彼のペースに飲み込まれる
けれどもはや手遅れで、茂田さんはぐいぐいと私のテリトリーへと侵入してくるのだった
「なぁ。そろそろさ、電話番号くらい教えてくれる気になった?」
また同じ質問をされる
私は車を背に俯きがちになり、目の前に立たれた茂田さんをちらりと上目に見上げた
「・・・どうしてそんなに、私のことお訊きになるんですか?」
「どうしてって・・・。それをわざわざ訊くかな。アンタ、ド天然だね」
「・・・?」
「他人の情報こんだけ知りたいと思うのって、相手のこと気に入ったとき以外になくないか?」
それは・・・確かにそうだ
私だって気に入った、というか気になる相手のことなら何でも知りたいと思ってしまう
けれどそれってつまり・・・
半信半疑でまさかと思っていたことの確実性がどんどん上がっていく
「回りくどい言い方じゃ伝わんないなら、こう言おうか」
見上げる先には笑う茂田さん
私の胸はドキドキと緊張と不安に鼓動を速めていく
「俺は、アンタと付き合いたい」
「・・・、・・・――」
面と向かってはっきりと言われてしまった
半信半疑でまさかと思っていたことの確実性が100%に達してしまう
じっと見降ろされ、私は動くことどころか目をそらすこともできない
返事を要求している茂田さんの目を見つめたまま、私はどんどん困った顔になっていった
そんな私を見下ろす茂田さんは、どこか楽しげに眼を細めて笑う
「ちゃん。アンタの答えは?」
「・・・ぁ・・・の・・・っ」
戸惑う私をからかい面白がるかのように、茂田さんがどんどん私の方に近づいてくる
私は車を背にして身動きが取れない
茂田さんの両手が伸びてきて、私の体の両側にトンと手をついて逃げ場を失くす
彼の顔がどんどん私の方に近づいてくる
鈍い私でも、彼が何をしようとしているのかぐらいわかった
私は慌てて顔を横に背けた
けれど茂田さんの右手が私の顎をつかんでグイッと持ち上げられてしまい、強制的に目を合わせられた
強引な彼の行動に私の中で「怖い」という二文字が暴れまわる
「なぁ・・・」
「・・・・・・、・・・ぁ・・・――っ」
私は身をすくませ、眉をひそめ、怯えた目をぎゅっと閉じることしかできなかった
弱い自分が情けない・・・泣きたくなる
誰か助けて
心の奥底で無意識に呼んだのは、彼の名前だった
ふと、じゃり・・・とアスファルトを噛む音がとても近くで聞こえた
「・・・に何しとんねん・・・、貴様」
それから、低く低くどすの利いた声が私の耳を打った
聞き覚えのある声・・・、なのに含んだ空気は覚えのないとても怖い声
その声に反応して私の顎をつかんでいた茂田さんの手がスッと離れていった
茂田さんが声がした方に視線を向ける
私も目を開け、同じ方向に顔を向けた
そこに彼の姿を見つける
今一番来てほしいと望んでいた彼がいた
けれど私は、茂田さんにからまれていた先ほどよりも強い恐怖を彼に感じた
「・・・千堂、くん・・・、・・・っ」
そこにはリング上で対戦相手と睨み合うときと同じ・・・それ以上の鋭い眼をした千堂武士がいた
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