それは忘れもしない高校3年の秋のこと
肌寒くなってきたとはいえ、クリスマスにはまだちょっと早い時期だった
何を思ったか道頓堀の食い倒れ太郎が早々とサンタの衣装に着替えさせられていたのを思い出す
ちょうどその頃だった
サンタではなく『浪速の虎』くんがうちのボクシングジムにやってきたのは
01:ゴンタがうちにやってきた1
その日、私はいつものように学校が終わるとすぐにアルバイト先へと向かった
私のバイト先は『なにわ拳闘会』というボクシングジム
兄がトレーナーを務めるそこで雑用のバイトをしている
その日も努めて明るく「こんにちは」と挨拶をして扉をくぐった・・・のだが
「おぅ、。ナイスなタイミングで来おったな!」
「は、はい?」
「ちょぉ、こっち来て手伝え」
「て、手伝えって何を・・・?」
ジムに着くなり兄の柳岡に腕を引っ張られ、奥にある休憩室へと連れて行かれた
「な、なになに・・・?ちょ、お兄ちゃん・・・っ?」
そこで何をさせられるのかと思いきや、待っていたのは思わずビクッとしてしまう光景だった
休憩室の床に横たわっていたのは3体のマグロ・・・?
いえいえ、それは顔面血まみれ体中打撲だらけにした練習生3人だった
そんな3人の傍らには、「手当てしてくれ」といわんばかりに救急箱がどっしりと置かれていた
「か、・・・駆けつけ三杯(消毒用アルコール)?」
「うまいこと言っとる場合かい。はよこいつら手当てしたってや」
兄から包帯の束を投げて渡され、両手でそれをキャッチ
来て早々何ということだ・・・
もたもたしていた私は「はよ!」と急かされ、慌ててブレザーの上着を脱ぐと彼らの手当てを始めた
十数分後、3人の治療を終えた私は兄と会長さんがいる練習場へと戻った
練習生は誰もいない、静かなリングだけがたたずんでいる
そんな中で一人、兄の柳岡だけがなんだかやたらと熱く語っていた
「狂犬みたいな男なんやけど、飢えてますねん。強さに飢えてますねん。アレは強うなりまっせ!」
一体誰のことを話しているのだろう
静かな足取りで2人に近づいた
「お兄ちゃん、会長さん。手当て終わりましたよ」
「あぁ、おおきにな。ちゃん」
「いぃえ。ところで、今誰のこと話してたんですか?狂犬みたいな男って」
「あ?あー・・・、それはなぁ」
会話の内容を問いかけると、途端に会長さんの歯切れが悪くなった
何を言いにくそうにしているのかと思えば、会長さんに代わって兄がやたらと嬉しそうに話して聞かせてくれた
「あいつらの喧嘩の相手のことや」
「・・・はい?」
どういうこと?と目で訴えると、兄柳岡は目を輝かせて語るのだった
この時代にあんなハングリーな男滅多にいないだとか熱弁している
「探します。探して必ず連れてきますさかい、入門手続きの方よろしく頼みますわ!」
「せやけどなぁ、柳岡」
さすがに温厚な会長さんも少し渋っていた
何せその相手は今さっきジムの練習生3人をフルボッコにしてくれた不良くんだ
ジムになど連れてきて、またもめ事でも起こされたら・・・と懸念しているのだろう
だが兄の熱はなかなかおさまらない様子
「お兄ちゃん、まぁちょっと落ち着いて」
妹の私が兄を落ち着かせようと声をかけただった
3人しかいない練習場に、カツンと靴音が割って入ってきた
「なんやワレ、王者(チャンピオン)やなかったのか?」
聞いたことのない、少年のような青年のような声に3人は同時に後ろを振り返る
見ると、そこにはヤンキーよろしく校則違反の長さの学ランを着た高校生の少年が立っていた
会長さんはそれが誰だかわからず眉をひそめる
だが兄は驚いた顔で彼を見据えていた
「ワレが1位かい。・・・なら、王者(チャンピオン)いうのはえらい強いんやろな」
突然やってきた彼はまさにヤンキーという喋り方で兄に向かって話しかけてくるのだった
ピンと直感が働く。会長さんも私も理解した。この人が練習生をボコボコにした喧嘩相手だ
「会わせてもらおやないけ、日本一強い男に」
大口を叩く彼に、兄は頬に汗しながらも顔は笑っていた
不良くんの舌はとまらない
「早く会わせぇ。その時、必ずワイが日本一やと証明したるわ」
「こりゃなんとも・・・、自信たっぷりな子やなぁ」
「えぇやないですか、会長。これぐらいの度胸やないと。のぉ、坊主。このジムで鍛えに鍛えてやるさかいな」
「日本一とる言うんなら覚悟せぇや」と笑う兄に、
「はっ。のぞむところや」
彼は啖呵を切り、不良らしく中指を突き立ててみせる
その強気すぎる態度に、兄と会長さんは顔を見合わせて笑うのだった
ヤンキーらしい校則違反な長さの学ラン
炎のようになびく癖のある髪
猫科の獰猛な獣のような鋭い目つき
変わらない・・・昔と一緒だ
3人の中でただ一人、私だけが彼を前にしてさっきから一言も発せずにいた
だがそれは目の前の彼に怖じ気づいているわけではなく・・・
物怖じすることなくじっと彼を見つめる、そのときの私の顔には驚きが広がっていた
(千堂くん・・・だ)
それはほんの数年前の記憶
けれど私の記憶の中に棲む彼と何ら変わらない・・・昔と一緒の彼がそこにいた
スローペースで話が進みます。のろくてすみません・・・
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