ドリーム小説
左腕の半分を失ったは調査兵団に戻りはしたが、もう戦うことはなかった
戦えないわけではなかった
真実、は隻腕ながら対人格闘術や一刀流の剣術ならば並の兵士よりも上
血を吐くほどのリハビリに耐え抜いた成果だ
更には立体機動装置の技巧に関する知識も高く持ち合わせている
戦おうと思えばいつでも戦闘員として復帰することはできた
けれどは戦うことを辞めた
は戦闘兵としてではなく給仕兵としてリヴァイ班に残ることを選んだ
エルヴィンとリヴァイがその道を薦めてくれたのもあった
他の班よりも過酷な訓練と作戦を強いられる特別作戦班だからこそ陰のサポート役が必要だという主張が理解されたのだ
給仕兵としてのの働きは素晴らしいものだった
エルヴィンやリヴァイ、ハンジにミケといった上官やリヴァイ班のメンバーは皆の働きを称賛し、信頼を寄せた
けれど、やはり中にはを「戦わない兵士」と良く思わない者もいた
「卑怯者」
廊下ですれ違い様に投げかけられる心無い言葉
振り返るともうそこには誰もいなくて、犯人の逃げ足の速さには呆れたため息をつく
こんなことは日常茶飯事だった
給仕兵となって3年目。その間に言われた悪口陰口は数知れず
はもうそんなものには慣れてしまい気にもしなくなっていた
「面と向かって言いに来ればいいのに・・・」
「そういう度胸がないから、あぁいうことするんだろ」
「・・・!エルドさん。見てらしたんですか」
「たまたまな」
廊下の角から姿を現したエルドは状況を読んで苦笑している
エルドはがリヴァイ班に所属したときからの先輩兵士だ
が左腕を失う瞬間も見ているし、戦うことを辞めた彼女のことも変わらず信頼してくれている
「それ、兵長のお茶か」
「はい。そろそろ会議が終わる頃なのでお部屋で用意してお待ちしようかと。エルドさんはどちらへ?」
「俺も兵長の会議終了待ち。これにサインもらわないと」
エルドは束ねた書類をひらひらと振って見せた
たぶん先日の壁外調査の報告書だ
は「ご苦労様です」と労いの言葉をかける
するとはエルドにその書類でぺしりと頭をはたかれた
なんだろうと思うを尻目に、エルドは彼女の右腕から茶器の載ったトレイをひょいっと取り上げた
「エルドさん?」
「交換。こっち運んで」
「・・・?・・・あっ。すみません」
エルドの親切心に気づき、は頭に載せられた書類の束を右腕に抱えた
「ありがとうございます」と笑顔でお礼を告げれば、エルドの口元が緩まる
にとっては、エルドのように自分を信頼してくれる者の存在が何よりもありがたかった
自身が強い心の持ち主でもあったが、彼らのような存在があるから強くあれるというのも事実だった
2人は兵士長の執務室でリヴァイが戻ってくるのを待った
どうやら会議が長引いているようで、時間になってもリヴァイは部屋に戻ってこなかった
「珍しいですね、長引くなんて」
いつもならエルヴィンがきっちり時間で終わらせるのに
は今日の議事内容を聞かされていなかった
エルドはどうやら内容を知っているらしい
「あぁ・・・多分今度班に入ってくる新兵のことだろうな」
「新兵?新兵がリヴァイ班に配属になったんですか」
「・・・まぁな」
それは珍しい
訓練兵を卒業してすぐにリヴァイ班所属になるなんてよほど優秀なのだろう
は俄然興味がわく
けれどエルドはなんだか落ち着かない面持ちでいた
それには様々な理由があったのだが、そのときのは詳しく問うことはしなかった
時間ばかりが過ぎていくも、リヴァイは戻ってこない
お茶用のお湯が冷めてしまうなとは長い髪の毛先をくるくるといじりながらため息をついた
エルドの視線と関心がふとの髪に向いた
「。随分髪伸びたな」
「え?あ、はい。無精にしていたらこんなに長くなってしまいました」
「もしかして3年間切ってないのか」
「はい。伸ばす理由もないんですが、切る理由も特になくて」
少し癖のある柔らかい髪を持ち上げては苦笑いする
エルドはの髪を一房持ち上げて手触りを確かめた
「伸ばしっぱなしのわりには枝毛一つない綺麗な髪だな」
「そう、ですか?ありがとうございます」
「けど、長いと邪魔になったりするときないか。作業とかで」
「あります。でも片腕だと上手くまとめられないから。頼めるとき人がいるときはお願いするんですが」
そのの言葉に、エルドは「なんだ」と表情を明るくさせた
「結ってやろうか。今」
「え。エルドさん髪結いなんてできる・・・、あ、そっか」
そこまで口にしてからは「何を言ってるんだ自分は」と思った
エルドは毎日自分で自分の髪を結っているのだから当たり前だ
隊服のポケットから予備の髪ゴムを取り出して見せるエルドに、は喜んでお願いした
「じゃ、お言葉に甘えて」
□act04:髪を結う
カツカツと廊下に硬質な足音が響き渡る
予定時間より長引いた会議のせいで、部屋に向かうリヴァイの足音にはだいぶ苛立ちが入り混じっていた
会議が長引いたのは、今度彼の班に引き取ることになった新兵のことでハンジが興奮して議論を大きくしたせいだ
リヴァイは眉間に思い切り苛々を露わにし、心の中でクソメガネクソメガネと呪いの言葉のように連呼した
そのうちに執務室にたどり着き、リヴァイは荒っぽい動作でドアを開けた
室内には、いつものように会議を終えたリヴァイのためにお茶を準備し終えたがいた
はお行儀よくソファーに座っており、なぜかその後ろにはエルドがいた
ポニーテールという見慣れない髪型のがいて、エルドがその髪を櫛で梳かしているという光景にリヴァイの顔は怪訝なものに変わる
「・・・お前ら、何してる」と低い声で問われ、エルドは手にしていた櫛を慌てて置き敬礼の姿勢をとった
「失礼しました、報告書にサインをいただきたくお待ちしておりましたっ」
「おかえりなさい、兵長。会議お疲れ様でした」
「・・・」
エルドより遅れて立ち上がりは敬礼をとった
そして仏頂面のリヴァイには「片腕では髪が結いづらいのでエルドさんにお願いしていました」と状況を説明した
リヴァイはそれを黙って聞き、に、エルドに、順に視線を投げた
三白眼の鋭い視線を向けられ、エルドもリヴァイ班所属年数は短くないとはいえさすがに緊張した
エルドはリヴァイの性格を理解している
独占欲の強いリヴァイは、が自分以外の男と仲良くするのをあまり快く思っていない
エルドにとっては妹のような存在だが、リヴァイから見れば部下のエルドも一人の男と判別される
これは早々に退散した方がいいと判断したエルドは、執務机にどっかりと座ったリヴァイに報告書を提出し、脱兎のごとく部屋を後にしていった
静まり返る室内に取り残された
普通の女子ならリヴァイが放つ重苦しいオーラに息をのみ、逃げ出したいと思うことだろう
けれどリヴァイの相手に慣れたは、不機嫌な顔のリヴァイにも臆することはなかった
穏やかな笑顔を向け、僅かに首をかしげ、結ってもらった髪を揺らす
「お湯」
「・・・」
「冷めてしまったので温めなおしてきますね」
「」
「はい」
「来い」
「・・・。はい」
自分から離れていくことを許さない
リヴァイの声は低く、重く、そしてを引き寄せる強い力を持っていた
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