ドリーム小説
少しだけ昔話をしよう
□act03:昔話
3年ほど前のこと。俺が兵士長になりたての頃の話だ
エルヴィンの案で、俺は自分が直接指揮を執る特別作戦班を任されることになった(のちにリヴァイ班と呼ばれるようになるものの前身だ)
その班には2人の新兵がいた
一人は訓練兵団を3位で卒業した、当時17歳のだった
もう一人は訓練兵団を2位で卒業したロットナーという、当時19歳の青年兵士だった
2人とも立体機動装置の扱いに長けていて、また冷静で知識も高く、新兵ながら十分な戦力になった
またこの2人、訓練兵時代からよくペアを組んで練習をおこなっていたらしく、気も合い互いの実力を引き出し合う最高のユニットだった
それは私生活にも波及し、いつしか2人は恋人同士となっていた
はロットナーを愛し、ロットナーもまたを愛していた
それは誰の目にも明らかだった。2人の愛を邪魔しようとする者などいなかった
ロットナーを愛するは幸せそうで、兵士だった彼女は時折女の顔をするようになっていった
彼女をいつも見ていた俺は、それがたまらなく嫌だった
はロットナーの前では色香のある女の顔をし、俺の前では毅然とした戦士の顔をしていた
その差異が我慢ならず、俺は不機嫌であることが多くなった
エルヴィンには「そんな状態で次の壁外調査は大丈夫なのか」と注意を受けたが、俺は冷静になることができなかった
彼女を想う気持ちが―――を奪いたいという欲望が強すぎて苛立つ日々が続いた
そんな中、特別作戦班が組まれてから何度目かの壁外調査がおこなわれた
それは俺が兵士になってから初めて「地獄」だと感じた調査になった
精神的に万全ではない俺は半ば自暴自棄に巨人どもを駆逐した
周りで見ていた兵士たちが「鬼だ・・・」と震えるほどだ
狂気をまとい宙を飛び回り、がむしゃらに刃を振り血の雨を降らせた
俺が平常ではないことを察したエルヴィンが止めようとしたが、俺は構わず巨人を討伐し続けた
いつもならしないような無茶もした
俺は完全に冷静さを失っていた
視野が狭くなっていることに気付いた時には遅く、死角にいた奇行種に襲い掛かられた俺は刃を持つ片腕が完全に巨人の口にロックオンされていた
自分はこんなところで喰われて死ぬのかと絶望が体中を雷のように駆け抜けた
けれど次の瞬間だれかに体当たりでぶつかられ、俺の体は空中に吹っ飛んだ
何が起こったのかと空中で体を反転させた瞬間、俺の目に映ったのは俺の代わりに巨人の口の中におさまっていくロットナーの姿だった
その後のことも今でも鮮明に思い出される
巨人の口が閉ざされようとした瞬間、が叫び声を上げながら左腕をロットナーに伸ばしたのだ
巨人の口の中からロットナーも手を伸ばし、の手を掴んだ
けれど次の瞬間、巨人は重たい鉄の扉を閉ざすようにガチンと口を閉ざした
ボキリ・・・と骨の折れる音がして、グチャリ・・・と肉が断ち切られる音がしたのを覚えている
の左肘から先がなくなって、断面から噴水のように血しぶきが飛び散って、立体機動を操れない彼女が地上に落ちていくのを俺は見ていた
ぷつりと自分の脳内で何かが切れたのがわかった
気付いた時には体が勝手に動いていて、その巨人のうなじを削いで、そして原型がわからないほどぐちゃぐちゃに削ぎまくっていた
どうせ蒸気となって消えていくのだからそんなことしても意味がないのに
落下したは別の兵士が受け止めてくれたらしく無事だった
壁外調査はそこで中止となり、気絶したを荷馬車に寝かせ俺たちは壁の中へと帰還した
ロットナーの死も、の左腕の損失も、すべて俺のせいだ
俺は自分自身を激しく責めた
唇の皮が切れて血が滲み出るくらい噛みしめ、爪が手のひらに食い込んで皮膚を傷つけるくらい拳を強く握りしめ、涙を流せない代わりに自分を傷つけた
エルヴィンとともに上に出頭し、すべて報告し、罵詈雑言を浴び、厳罰をくらいもしたが、エルヴィンのおかげで兵士長の任を解かれることはなかった
壁外から戻ってから、俺は毎日の病室に通った
はすぐに手術を受け、なんとか一命を取り留めた
意識も数日で戻ったが、壁外での事故を思い出した彼女は目が覚めてすぐに大声で泣き叫んだ
泣きながらロットナーの名を何度も呼ぶ姿に、俺は胸が抉られるような痛みを覚えた
彼女が眠っていた間に葬儀は終わっていた。遺体すらない恋人の葬儀。墓標に刻まれるのは名前だけ
もう二度と会えない恋人の名をは毎日呼び続け、俺はそれを隣で受け止めるという罰を受け続けた
けれど俺が受けた罰はそれだけじゃなかった
憔悴したは食事も点滴も拒み、まったく受け付けなくなった
栄養摂取を拒んだ彼女の体は精神的な衰弱もあり、どんどん痩せていった
筋肉も脂肪も落ち、頬はこけ、頬は青白く、唇は渇き、日に日に痩せていく姿はリヴァイの胸を抉った
訓練兵団で3位を掴んだ逞しく美しい女性兵士の姿はそこにはなかった
は死のうとしている、そう思った
生きることを放棄し、自分もロットナーのところへ行こうとしている
そして彼女がそんな状態になってしまったのは俺のせいだと思った
彼女をここまで追い込んだ自分自身への憎しみで精神がどうにかなりそうだった
彼女をこんなことにしておいて、何をのうのうと生きているのだろうとさえ思った
けれど・・・それでも・・・情けないかな・・・、・・・それでも俺はどうしようもなく彼女の存在が愛しかった
ロットナーを殺し、の精神を殺しても、それでも俺はを愛していた
「・・・」
「・・・」
「・・・生きてくれ」
「・・・」
「俺への憎しみと恨みを糧にしてでもいい・・・、・・・生きてくれ」
「・・・」
の病室に通うようになって1か月が過ぎたその日、俺は1か月ぶりにに話しかけた
ロットナーを殺した自分にはに声をかけることもその身に触れることも許されないと思っていた
その戒めを自ら破って彼女に声をかけた
はけっして俺の方を見てはくれなかった。憎しみに満ちた目で睨んでくることもなく、ただ茫洋と真正面を見つめていた
それでも俺は繰り返し彼女に話しかけた
しばらくするとの乾いた唇がゆっくりと開いた
恨み辛みを言われることも覚悟の上で彼女の言葉を待った
は掠れた声で2人の男の名を口にした
「リヴァ、イ・・・兵、長・・・・・・」
1か月ぶりに彼女の口から自分の名が呼ばれるのを聞いた
俺の体を忘れていた感情が襲う
目頭が熱いなど、もうとっくの昔に地下街に置いてきたはずの感覚だった
それからは震える声でもう一人の男の名を呼んだ
「・・・エ・・・、・・・エレ、ン・・・・・・っ」
死んでしまった恋人の名を呼んだ瞬間、彼女の両眼から大粒の涙が静かに零れ落ちた
ぽたぽたと零れ落ちる涙
鳥のように細くなった右手がブランケットをぎゅっと握りしめるのを見て我慢ができなかった
俺はに駆け寄ってその細いからだをきつく抱きしめた
そんな資格は自分にはないとわかっている
それでも今はこうしてやらずにはいられなかった
自分の隊服の胸に彼女の顔を押し付けさせ、強く頭を抱きしめてやった
彼女は声もあげずに泣いた
そして俺は彼女の髪に頬を押し当て静かに泣いた
許してほしいなんて思っていない
俺を恨んでもいい、憎んでもいい
だからどうか生きてくれ・・・・・・死なないでくれ
そう願い、俺はを抱きしめ彼女と一緒に泣いた
エレン・ロットナー 享年19歳
俺の命を救い死んでいった、の永遠の恋人
※エレンという名前を使ったのには訳があって今後の物語にちょっと関わってきます。イェーガー君とかぶっていてややこしいかと思いますが読み進めていただけたら嬉しいです
BACK
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送