ドリーム小説
※9巻/83夜『それぞれの日々』 あたり。アリババ視点でとの雑談
俺はアリババ・サルージャ
これでも一応バルバッド王国の――いや、もうすぐ共和国になる予定なんだ――その国の第三王子だ
今は訳あってシンドリア王国でお世話になっている
この平和な南海の島で生活するようになってだいぶ経つけれど、今ちょっと気になることがある
それは・・・
「あの・・・師匠。シンドバッドさんとさんって、付き合ってるんすか?」
「は?」
俺の剣術の師であるシャルルカンさんに訊ねてみた
酒の席。師匠はテーブルに頬杖ついて「うーん・・・」と唸り声を発する
「説明しにくい関係・・・かな」
肴にと注文した串焼きにかぶりつきながら師匠は曖昧な答えをくれた
俺は「はぁ・・・」と消化不良な相槌をうつ
そしたら師匠はニカッと笑って言った
「気になるんなら自分で訊いてみな」
「えっ!自分でですか」
「あぁ」
「んな超プライベートなこと訊いて答えてくれますかね」
「大丈夫だって。王サマだとうまくはぐらかされちまうかもしれないけど、さんなら隠さず教えてくれると思うぜ」
「はぁ・・・」
俺は半信半疑でまた同じような相槌をうった
そんなこと直接訊いて本当に教えてくれるもんなのか?あるわけないよな
けど考えれば考えるほどもやもやして余計に知りたい衝動に駆られるわけで
で、翌日。俺は朝食を運びにやってきたさんに思い切って訊いてみた
「さん・・・っ」
「はい?どうされました、アリババ君」
「あ、あのっすね・・・」
声をかけたはいいが、いざというところで踏ん切りがつかないのが俺の情けないところだ
けどさんは笑顔で俺を見つめて続きを待っていてくれている
えぇい、ままよ!俺は思いきって問いかけた
「あの・・・さんとシンドバッドさんって、恋人同士だったりします?」
自然な様子を装ってへらへらと笑って訊いてみた
俺の質問にさんは一度両眼を丸くして、けれどそれからゆっくりと笑顔に戻して口を開いた
「アリババ君にはどう見えているんですか?」
「え・・・っ」
そんなふうに訊き返されるとは思ってもみなかったから俺はちょっと慌てた
けどさんの柔らかい表情が俺に思うがままに答えていいと言ってくれて、俺は素直に答えられた
「えっと・・・そうっすね。すごく仲が良いというか、お互いをよく分かっているっていうか。ガキの俺からすれば
大人な恋をする二人に見える・・・って・・・あれ・・・?それってつまりは恋人に見えるってことだよな・・・」
「そうですね。そういうことになりますね。なるほど、アリババ君にはそういうふうに見えているわけですか」
「う・・・まぁ。つか、もしかしていずれはご結婚されるご予定とかあるんじゃないか・・・なんて思ってたりもします」
「まぁ」
だってそのぐらい二人は仲睦まじく、二人並んで立つと自然な絵になるのだ
理想の恋人同士っつーか。思ったまま言えば、さんは上品にくすくすと笑って首を横に振った
「シン王は訳あって生涯妻を娶ることはないと決めておいでです。ですから、それはありえませんね」
「え・・・、そうなんですか。じゃぁ、お二人はただの友人?」
意外だった。二人は絶対恋人同士だと思っていたから
確信できることだってあった。それはあの謝肉宴のときのこと
シンドバッドさんが俺たちにくれたさんの秘密は、恋人同士じゃなきゃわからないようなことだったから
納得しきれない俺に、さんは俺の予想の上を行く大人の答えをくれた
「そうですね。シン王と私は良き友人です」
「・・・」
「と言いたいところですが」
「へ?」
「私たちはあなたのご想像通り、ただの友人以上の関係をもちあわせております」
「あ・・・、えっと・・・。やっぱそう、なんすか」
俺は思わず何て返したらいいかわからず言葉に詰まってしまった
まさかさんの方から持ち出してくれるとは思わなかった
友人以上の関係って・・・つまりはそういうことだよな
やべ・・・顔あちぃ。たぶんちょっと耳とか赤くなってるかも。だせぇな俺・・・
「はい。ゆえに私と王は恋人ではなく、けれどただの友人とも言えない関係。それが適切な答えでございますね」
「む、難しいっすね」
「えぇ。我々は一言で説明するのには難しい関係なのです」
師匠が言っていたとおりだった
一言では言い表せない関係。・・・でも、それってどんな関係なんだ
俺は興味を抱いてしまった
「あの・・・・・お二人のこと聞きたいって言ったら、話してくれますか?」
こんなこと訊くのは失礼かもしれない
わかってはいたけど、知りたい気持ちの方が大きくて止められなかった
さんは嫌な顔することなく俺を見つめたまま小さく笑った
「ご興味がおありですか?私の話などシン王の物語に比べたら、面白くもなくただ長いだけの退屈なものでございますよ」
それでも聞きたいですか?とさんは言う
俺の答えは迷うことなく一つだった
「聞いてみたいです」
曖昧さのないはっきりとした俺の返答に、さんは俺を見つめたまま困った顔で笑った
やれやれ、この少年は・・・と呆れているのかもしれない
俺はドキドキしながらさんの答えを待った
さんは静かに目を閉じて笑った
「アリババ君」
「はい」
「申し訳ありませんが、今はすべてをお話しする時間がありません。もう数日後には、煌帝国より皇子様方がおいでに
なられますからね」
「え?あ・・・それってシンドバッドさんが言ってた」
「はい。今、王宮内は他国からのお客様をお受け入れする準備で皆忙しくしております。お客様がいらっしゃれば更に
忙しくなりましょう。勿論、私も例外でなく」
突然話が切り替えられて俺は戸惑ったが、さんが何を言わんとしているのかはわかった
さんたち大人は仕事がある。皆忙しいのだ。暇な俺たち子どもとは違う
彼女への興味はまだ強くあったが、迷惑をかけるわけにはいかない。ちょっと残念だが俺は諦めようと思った
「そうっすよね・・・。さん、政務官代行ですもんね。なのに俺こんな長話に付き合わせたりして・・・すみません。
無遠慮に個人的なこと聞いてみたいとか言って」
「いぃえ。私などのことに興味をもっていただけて光栄です。こちらこそ、すぐにお話しして差し上げられず申し訳
ありません」
「や、そんな。・・・え・・・?すぐにはできない、って」
「はい」
諦めようと思っていた俺に向かってさんは静かに笑った
その表情がとても柔らかで、彼女を包むオーラもそのすべてが緩やかで、俺は思わずドキドキした
「あと数日はお見逃しを。その代わり、お客様方を全員お迎え入れ終わりましたら時間をとりますね」
「ほ、本当ですか・・・!ありがとうございます、楽しみにしてますっ」
「いえ。・・・ただですね、アリババ君」
「・・・?」
さんは去り際、最後にこう付け加えて俺に釘を刺した
「私のする話は、シン王の冒険譚のような楽しい話とは程遠いものです。そして物語に出てくる私は、アリババ君が
思ってくださっているような良い人間ではありません」
「え・・・、さん?・・・あの」
「私の話であなたをがっかりさせてしまうかもしれない。そう思うと、とても残念です」
「・・・――」
最後にそう言ったときのさんの笑顔がすごく哀しそうだった
俺に小さく会釈をして背を向けて去っていく、彼女の後ろ姿を俺は黙って見つめていた
彼女と話をする約束をしてからというものずっと、そのときのさんの笑顔が俺の瞼の裏に焼き付いて離れないでいる
彼女について
※少しずつ彼女の過去に触れていきたいです
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