ドリーム小説
※8巻/77夜『シンドリア王国』 のちょっと前。アラジンたちを連れてバルバッドから戻ってきたときのお話
南海に浮かぶ平和な島国、シンドリア王国
国王は部下二人を連れてバルバッドに赴き長く不在であったが、その日しばらくぶりの君主の帰還に王宮は沸いた
「シンドバッド国王陛下、ご帰還!」
「王よ!」
「我らが王よ」
ずらりと並んだ文官や武官の喜びの声にシンドバッドは手を挙げて応える
そんな彼が後ろに従えるのは有能な二人の部下。八人将のジャーファルとマスルール
それからバルバッドでともに戦った三人の子どもたちだった
「おかえりなさい、シン王。ご無事で何より」
鮮やかな緑色の縁取りの官服に身を包み、両手を体の正面で合わせて挨拶する女がいた
彼女の後ろには八人将残りの六人が同じように両拳を合わせて控えている
シンドバッドも久しぶりに見た彼女と仲間たちに安堵の笑みを浮かべた
「長く留守にした。国の方は何も問題なかったか、」
「はい、何事もなく。変わらず平和でございましたよ」
「そうか。なら良かった」
「王こそ。お勤めご苦労様でございました。それにしても・・・あらあら、今回も随分と激しい旅だったご様子で」
「はは。なに、迷宮攻略に比べればそうでもないさ」
衣服はぼろぼろ、体は傷だらけの我が君の様子に、と呼ばれた女は柔らかに笑った
出迎えの挨拶も早々に、まずは帰還した全員の入浴と着替え、怪我の治療がなされた
食客として招かれたアラジン、アリババ、モルジアナの三人も身なりを綺麗に整えた
本来ならその後すぐにでも八人将や、先程出迎えたを三人に紹介したいシンドバッドだったが
バルバッドでの戦いで傷ついた体と心を気遣い、今は三人に休養を与えることにした
「三人ともぐっすりと眠っております。余程疲れていたのでしょうね」
客室にアラジンたちを寝かせつけ、が戻ってきた
シンドバッドとジャーファルはテーブルについて茶をすすり、マスルールは椅子には座らず後ろで手を組んで直立していた
が席につくと、すぐにジャーファルが彼女の分のお茶をいれてくれた
「さんも緑茶でいいですか?」
「あらあら、ジャーファル君。ごめんなさいね、疲れている君に給仕なんてさせて」
「いえ。お疲れなのはさんも同じでしょう。留守中、国事を任せっきりですみませんでした」
「全然。四六時中シン王のお守りをさせられていた君たちに比べれば、国事なんて楽なものだわ」
「はは。さすがはさん」
「おい、・・・お前らな。一応その王が目の前にいるんだぞ」
主人たる王が横にいながら喜々として当の本人を皮肉るとは何事か
シンドバッドは両腕を組んで椅子に背を預け、不満そうな態度を露わにした
「お守りされるようなことはしていないだろう。俺が何か問題を起こしたか?」
「はい・・・?何を言っておいでで、シン」
「・・・・・」
穏やかだったジャーファルの表情が、シンドバッドの一言で引きつり笑いに変わった
マスルールも無表情ではあるがさっきよりも少しだけ目が細まっている
「なんだ」
「なんだじゃありませんよ・・・・・・、シンッ!もうお忘れですか。あなたのせいで私たちがどれだけ苦労させられたことか!」
「あらあら。やっぱり何かあったのね」
「心外だな。何かあったか?なぁ、マスルール」
「はぁ・・・」
「何とぼけてるんですか!忘れたとは言わせませんよ、あなたときたら・・・っ。さん、聞いてくださいよ。
この人ね、バルバッドに入国するなり、」
「ふふ。はいはい聞きますよ、いくらでもね。でも、話すよりこっちの方が早いわ」
怒り立つジャーファルの様子をにこにこしながら聞いていたは片手を挙げて彼の言葉を一度とめさせた
そしてゆっくりと椅子から腰をあげると、彼女は隣に座るジャーファルの頬に両手を伸ばした
白く滑らかな両手に顔を包まれる。優しい笑顔で見下ろされてカッカしていたジャーファルも自然と大人しくなった
「ちょっと失礼」
「あ・・・はい。――どうぞ」
ゆっくりと彼女の顔が近づいてきてジャーファルは何をされるかわかっているとはいえ少し緊張した
ぎゅっと目を瞑る彼の様子にはクスリと笑うと、そっと彼の額に自分の額を押し当てて目を閉じた
母親が我が子の体温を測る仕草と同じだ
けれど、がするその行為はまるで神聖な祈りの儀式のようにも見えた
その姿勢のまま数秒が経過
はゆっくりと額を放すと「はい、おしまい」と言ってジャーファルの前髪を直してやった
「なるほどねぇ。これはまた・・・」
ジャーファルの顔から両手を放したは困ったような顔で笑った
まるで今の謎の行為で何もかもわかったというように
そして彼女はシンドバッドの方を向くと、呆れ笑いでため息をついた
それだけでシンドバッドは彼女から視線をそらし、居心地悪げにする
「シン王。出立の際、お酒はお控えくださいと申しましたよね?」
「・・・ん?あぁ・・・そうだったかな」
「治安の悪化した国で泥酔するまで飲んで、道ばたで眠りこけ、大切な金属器をすべて盗まれたそうですね」
「そう、だったかな・・・」
「その通りです。ねぇ、シン。そうでしたよね?」
「んー・・・あー・・・そんなこともあったかもしれないなぁ」
の不思議な力によって、バルバッドであったことのほとんどをばらされてしまった
酒癖の悪さでまた迷惑をかけたことを知られ、シンドバッドはまた禁酒を言い渡されるのではないかと内心穏やかではない
その傍らではジャーファルから受けとった記憶を脳内で再生し、そして驚いていた
「あらあら。そんな状態のときに黒いマギ君やら煌帝国のお姫様やらに襲われたのですか。まぁ、・・・挙げ句の果てには
アル・サーメンにまで?」
「えぇ。本当に・・・大変な旅でした」
「そうみたいねぇ。・・・でも今回の件、シン王が金属器を盗まれずにいれば、もう少し楽に終わらせられたのではないかしら」
「(・・・ッ!!)」
「そう・・・・・・そう、ですよね。やっぱり振り返ればそういうことになりますよね」
「・・・・・・」
「ねぇ・・・シン」
「・・・。余計なことを」
せっかく落ち着いていたジャーファルの感情をわざわざぶり返さなくてもいいだろう
真面目な部下は、主の悪癖をどうにかしようとこれからまた一層厳しい生活チェックをするに決まっている
シンドバッドは苦虫を噛み潰したような顔で彼女を見やる
は官服の袖で口元を隠して肩を揺らしていた
「(少しは懲りた方がよろしいのでは?ねぇ、シン王)」
「(まったく・・・。お前が一番厳しいよ)」
声には出さず、二人は視線で会話をし合った
そしての横では、彼女によって熱い感情を取り戻したジャーファルが「よし」と何か決意を固めていた
「やはり今回の件、シンにはしっかりと反省していただいた方がよろしいですね」
「なんだ。どうしたいきなり」
「シン。今一度『禁酒』で酒断ちに取り組みましょう」
「な、・・・なに・・・?」
「さぁ、そうと決まれば料理人や侍女たちに伝えなければ」
「ちょ・・・ちょっと待て、ジャーファル。お前、まさか本気で」
「あぁ、ジャーファル君。シャルにも伝えておいた方がいいんじゃないかしら」
「そうですね、それは大事です。忘れていました。さすがですね、さん」
「・・・、お前まで。って・・・おい、ジャーファル。本気で伝えに行くつもりか?」
「えぇ。私はいつだって本気ですよ」
すべては国王たるあなたのためですから
笑顔でそう言うジャーファルの額にはうっすらと青筋が浮いていた
そして席を立つジャーファルの様子に、これはいよいよ本気だと悟ったシンドバッドも慌てて立ち上がった
早足で侍女部屋へ行こうとするジャーファルの背をシンドバッドも早足で追いかけてとめようとする
一国の王たる男が必死な笑顔で「まぁ待てジャーファル、話せばわかるっ」とか言っているのが聞こえる
とマスルールは扉から廊下へとひょっこりと顔を出して、遠ざかっていく二人の背中を見送った
廊下を歩く文官や侍女たちが何事かと二人を振り返る
そんな様子を眺めていたの肩が小さく揺れているのにマスルールは気付いた
「・・・」
「ふふ」
「・・・?」
「ねぇ。マスルール君」
「なんすか」
「やっと。いつものシンドリアに戻った気がするわ」
「そうすね」
王と、彼を諫める部下のいない城は静かで落ち着いていて。それはそれで良かったけれど
見慣れたこの光景があってこその王宮だとはまた肩を揺すった
おかえりなさいおかえりなさい、ずっと待っていたのよ
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